次の日。その日は麻琴ちゃんが新潟に帰る予定になっていました。
六時にこっちを出るので、五時にはうちに帰ると言っていました。
昼過ぎから、ここで仲良くなった友達とお別れ会と称して
ちょっとしたパーティーが開かれました。
あまりに騒ぎすぎてよく覚えてないですが、大いに盛り上がったはずです。
どんな歌よりもせつなく聞こえるヒグラシの声が辺りの山に溢れる頃、会は終わりました。
これは後から聞いた話なんですが、
愛ちゃんが帰ってすぐに親から教えてもらったんだそうです。
とても見過ごすことの出来ない話を。
それを聞いた愛ちゃんは、とりあえず電話番号のわかる友達に連絡をとり、
それからまず麻琴ちゃんの家へ向かいました。
誰かに心臓をギュッと握られたような感覚を抱きながら、全速力で愛ちゃんは駆けました。
愛ちゃんは途中で左右違う靴を履いていることに気付きましたが、無視して走りつづけました。
体の中に火があるような苦しさが限界に近づいた頃、麻琴ちゃんの家に着きました
。愛ちゃんは、チャイムも押さずにいきなり扉を開けて叫びました。
「まことちゃーん!!」
しかし、出てきたのは麻琴ちゃんではなく、
初めて麻琴ちゃんと会った時一緒にいたおばさんでした。
「おばさん、麻琴ちゃんは!?」
「ああ、ごめんね。麻琴ちゃんはもう出ちゃったわ。」
「そんな……。家の電話番号わかりますか?」
「……麻琴ちゃんから何も聞いてないの?」
「え……。どういうことですか?」
「実はね……。」
それを聞いたときの衝撃は、愛ちゃんの小さな体をもの凄い勢いで駆け抜けたはずです。
「……え?」
おばさんの話に、愛ちゃんはそう呟くことしか出来ませんでした。