「ああー気持ち良いな〜。」
矢口はまた独り言をつぶやき、大の字になって草の上に寝転ぶ。
ゆっくりと雲が流れていくのを見ながら、このまったりとした空間を
楽しむ。
「毎日忙しいんだよなー。地方とかいっても全然遊べないし。
オイラは楽しいけど、やっぱ普通の子はやれないでしょ〜。」
「やっぱモーニング娘。ってのは忙しいのかね?」
「そりゃあ一年中コンサートやってるし、歌や踊りだって…ってあれ!?」
「どうかしたのかね?」
「いやいや、おじいちゃん誰?」
とても自然に会話に入ってきて、まるでコントでもしているようだ。
確かに先ほどまでは、人の気配は無かったのだが。
「わしか?わしの事は良い。それよりそなたは多分…」
名前を言うだけで5分かかりそうな口調に、矢口はすぐ様、
会話を速めるように答えた。
「矢口真理です。」
「おお、そうじゃそうじゃ。本当に小さいのぅ。」
な、なにさ、いきなりそんな事言わなくたって…
と頭の中でだけつっこみを入れていると、
先ほどの話し方やトーンとは全く違う声で、老人は
質問をしてきた。
「おまえは今、何のために生きているんだ?」
「え、あ、うーん…ええ?(笑)」
笑ってごまかしたのだが、老人の鋭い視線に、すぐ矢口は失笑した。
「え?今何のために生きているかって…?」
それは色々考えてはいるが、人に言えるようなものは…
と少し悩んだが、老人に真剣に話す必要もないという結論が、
矢口のコンピューターからくだされた。
「なんだ、そんな歳でそんな事も考えずに生きているのか?」
「いやね、おじいちゃん、私だって何も考えてないわけじゃないんだよー。」
「だろうな、見ればわかる。野心が見え隠れする強い心が…。」
以外な答えに、矢口は少し返答に困った。誉められたのかも、けなされたのかも
わからないからだ。ただ思ったのは、老人は凄く頭がきれるのではないかと
いう事。話し方や声のトーンで威圧感をコントロールしているのだ。
矢口が次に口を開く前に、老人は口を開いた。
「しかしじゃ、自分を貫くのも良いが、もうちょっと他人の評価を気にした
らどうじゃ。」
「…え?」
別に気にしてない事はないし、インターネットなどでも、
自分の人気を探ってみたりする。
それは良いとして、なんで老人がそんな事を言ってくるのか、訳がわからなかった。
「何、おじいちゃんは矢口の事嫌いなの〜?」
「自分を貫く時は、人にもっとやさしくしてやるもんじゃ。」
穏やかなふりをしていたが、まるで自分を物凄いわがままのように
いう老人に、矢口もいい加減腹がたってきた。
「おじいちゃん、あんまり人の事わがままみたいに言わないで。」
老人はふっと微笑し、また口を開く。
「だったら、少し見せてやる。」
景色が、ラジオの収録場所へと変わっていった。
先ほどまでいた場所…なのだが、矢口はびっくりしていた。
「あああー、浮いてる〜!(笑、泣)」
世間で言う、幽体離脱のようだ。
自分の体がその辺にあるのではないかと、天井に張りついたまま
探してみるが、それはこの部屋には存在しなかった。
矢口が慌てていると、下にいるラジオのスタッフたちが話しているのが
聞こえてくる。
「まったく、ホントあの女はアドリブきかないなぁ。」
「しょうがねえよ。アイドルなんて、顔だけの能無しばっかりだ。」
「え、でもあいつ可愛いか?ただのチビじゃん。おまえロリか?(笑)」
「馬鹿言うなよ、あんな整形してもブスなやつ好みじゃねえっつーの!」
「おまえはいい歳こいて加護ちゃんだもんな。十分ロリだ!(笑)」
「加護ちゃんはなんだ…赤ん坊が可愛いのと一緒なんだよ!」
「だったら胸でけえとか話してくるなよな(笑)」
「う…、まあ、あんなわがままでチビで能無しより全然良いの!」
「まあな。あんなうるさくてわがままで、頭悪いのよりは良いかな(笑)」
矢口は、腹の底から怒りが込み上げるのを感じていた。
「あんたら人がいないからって何を好き勝手に…!」
矢口が大声で叫ぼうとしたとき、なんと地面にむかって落下し始めた。
「!!!〜!?」