>>347-349の続き
高橋の見た夢。
私ね、エンジェルハーツの練習を、みんなで練習してる
夢を見てたのね。初めは前練習したところと同じ場所だったかな。
振り付けもこの前全部完成したし、あとはどれだけ
上手くやれるかってみんなで頑張って練習してた夢だったの…。
それでね、何回も練習して疲れてきて、みんな休憩を取ろうって
言って休み始めたの。私は思ったより疲れてなくて、鏡のある方へ
少し歩いていったの。足きちんと上がってるかなって。
そしたら、なんて言えば良いんだろう…。
誰かが鏡の中から見てる気がして…そしたらさ、その瞬間に
突風が吹いたの。びゅわーって!そして気づいたら…そう、
みんなが見た、見渡す限りの奇麗な草原だったの。
吹く風が冷たくて…なんだか奇麗だけどさみしいところじゃなかった?
私が驚いて立ち尽くしていたら、うしろから男の人の声が聞こえてきて…
「おお、モーニング娘。の…えーっと、誰じゃっけ。」
振り替かえると背の低いおじいさんがいて、無視するのもひどいなと思って、
ちゃんと答えたのね。
「高橋愛です。」
そっけなくだったけど。それを聞いておじいさんは驚いたみたいで、
小声で言ったの。
「まさかモーニング娘。が来るとはのう…。」
そんな独り言言われても、何て言えば良いの?って考えていたら、
さっきの人と同じ人だとは思えない、ドスの聞いた声で聞いてきたの。
「おまえは今、何のために生きてるんだ?」
「え?」
思わず聞き返しちゃった。まさか、そんな事聞かれるとは
思わなくて…。
「おまえは何のために生きてるのかって聞いたんじゃ。」
ドスの聞いた声には変わらなかったけど、もう一度言い直し時は、
なんだかちょっと丁寧だったかな。
…次にひどい事言ってきたけどね。
私が答えに戸惑っていたら、はっきり、こう言ってきたの。
…今から言う事はこれっぽっちも思ってないし、今から言う事はただの夢だから、
あさみちゃん、本気にしないでね…。
ホントだから、お願いね。
うん、ありがと。
こう言ってきたの。
「おまえは、まわりに優越感を得るために生きているんだろ?」
「それは違います!」
もちろんすぐ言い返したよ。でも…
「なんじゃ、もうこれは言っちゃまずいと考えたあとだったかのぅ。」
「違っ…。」
「ずいぶんと返事が早いじゃないか。」
「なっ…。」
「じゃなきゃ、あんまり自分の力を他人に見せ付けるのは良くないもんだぞ。」
おじいさんがそう言ったら、またみんなと練習しているところへ戻ったの。
さっきいた場所だったんだけど、雰囲気が全然違ってた。
っていうか、みんな白黒に見えたの。
しかもおじいさんもそこにいたし、私とおじいさん以外のみんなは、
まるで時間が止まっていたみたいだった。
しかも、よくみたら白黒のあたしもいて、足を上げて練習していた…。
「だったら、心の声を聞かせてやろうか。ほれ。」
おじいさんがそう言ったら、なんとなく
みんなの心の声みたいなのが聞こえてきたの。
「何?そんなに足が上がるところを私たちに自慢したいわけ?
バレエやってたからそりゃ上がるでしょう。
もう良いって!うざい!やめてくれない?頼むから」
「まこっちゃん…」
「何、今はカメラ回ってないんだから、そんなにやらなくて良いじゃない。
ちょっと5期で一番人気あるからって、目障りなのよ。はいはい、
一番年上ですし、エンジェルハーツの主人公ですもんね。わかりました。
私は何も言いませんよー。加護さん何か言ってやって下さいよー。」
「りさ…ちゃん…」
「なんやぁ、もう、ちょっとじっとしとってや愛ちゃん。
そりゃあ今の人気は凄いって、わかるから、静かにしてや。
うちだって疲れとんねん。」
「…あいぼん」
「あーあーそう!私にそんなに奇麗な足を見せたいの!?
どーせあたしはデブで頭悪いよ。細い人は良いですねー。
私なんて踊っても転がってるの?とかきっとからかわれる
だけなんだもん。嫌になる!もうやめろってば!」
「ののちゃん…」
「良いよね。愛ちゃんって。可愛くて、歌上手くて、バレエだって
できちゃうんだもん。私みたいに頭でっかちじゃないし、ぼーっと
してないし、人気だってもう凄いし。もう…やめてよ。
そんなに私とあなたは違うって見せ付けて、楽しいの?
私が苦しんでいるってわかってやってるんでしょ?
これ以上他人の気持ちひっかきまわさないでよ!!!」
あさみちゃん!違う、違うよ!みんな違うよ!…違う!本当!…違う!信じて…
次の日。私は朝起きてからずっと、
昨日の愛ちゃんの言っていた事が気になって仕方ありませんでした。
もしかしたらものすごく怖いものかも知れない。はたまたすごく嬉しいものかもしれない。
そんな、期待と不安が入り混じった不思議な気持ちで、
いつもの待ち合わせの時間よりだいぶ早く家を出ました。
波のない水面のような綺麗な青空。
もくもくと湧き上がる入道雲。
そして周りを囲む山々に、アブラゼミの声、トンボの大群。
北海道とは時間の種類が違うようにすら感じました。
そんなことを考えながらボーっとしていると、どんどんみんなが集まってきました。
そして、全員集まった所で、愛ちゃんが大きな声で宣言しました。
「出発、しんこー!」
私は、歩き始めるとすぐ、麻琴ちゃんの車椅子を押しながら、先頭を歩く愛ちゃんのところへ行きました。
「ねえ、昨日言ってたすごいものってなんなの?」
「へっへー、秘密。すっごいよ。きっとびっくりする。」
「何よー!気になる……。」
「後ちょっとで着くよ。」
「うん……。」
しばらく歩いた後、道と呼んでいいのか疑問なほど廃れた場所を通り、森の中へ入りました。
そしてさらに少し歩いて、ようやくその場所にたどり着きました。
ちょっとした斜面に穴が開いていて、中に漫画やら、ペットボトルやらが置いてありました。
そう、そこは彼女達の秘密基地だったんです。
「わあ、すごーい!」
私は、都会で育ったので秘密基地なんで見るのは初めてでした。
「すごいでしょ! でも、これだけじゃないんだよ!」
そう言って愛ちゃんは大声で叫びました。
「おおーーい、みーかづーきちゃーん!」
「……三日月ちゃん?」
「うん。呼んだらすぐ走ってくるの。すごく可愛いんだよ!」
愛ちゃんが言い終わってすぐ、それは姿を見せました。
「あ、来たー。」
「え……、愛ちゃん、あれ……。」
愛ちゃんに呼ばれて出てきたのは、こぐまでした。
大型犬ほどの大きさでしたが、紛れもなく熊。
胸元の白い三日月の模様は、何度かテレビで目にしたことのあるものでした。