>>302-
>>305の続き
静かな夜。
順調に進めば、夏休み最終日は遊べるかもしれない。
そんな事を考えながら、終わった英語のテキストを無造作に机のすみに置く。
「あー、つまんね〜。」
自分の部屋でのむなしい独り言。
宿題はやらなきゃいけないものだ。受験生だし。
でもアイドルとかはやらずに学校行っても、将来に問題
とかないよなぁ…。
またこれだ!
気がつくと、モーニング娘。の事を考えている。
気がつくと、モーニング娘。の曲が頭に流れてくる。
気がつくと、Do it! Now を歌ってる姿が目に浮かぶ。
気がつくと、潤んだ、奇麗な瞳でこちらを見る紺野の顔が浮かぶ。
(‘ああ一生忘れない’を歌う紺野)
やはり、そうなんだろうか。自分は今、モーニング娘。のファンへの
一歩を踏み出しているのではないのだろうか。
昼の出来事もあり、いい加減自覚を持たない方がおかしい。
可愛い女の子を見るのは、そりゃあ嫌いじゃない。
でも…自分がアイドルを好きになるなんて思わなかった。
それに何よりも、それが突然すぎて驚いていた。
きっと昨日、感傷的だったからだ。眠たかったしな。
…こんなふうに、自分に理由をつける自分がいた。
娘。たちの泊まるホテルの一室。
紺野と同じ部屋の高橋は、なかなか寝付けずにいた。
今日見た夢を、また見てしまうのではないかと。
そして気になっていた。同じ風景の夢を見た人は、
自分と同じような夢を見たのかと。
今日のテレビの収録は、矢口たちが大丈夫といってからすぐだった。
その後はあの夢の話はまったく出ず、いたって普通に仕事を終えた。
そんな訳で誰にも聞くタイミングはなかったし、内心、誰にも聞かれずに
いた事をほっとしていたのだった。
「ねぇあさみちゃん。」
「なあに?」
「やっぱまだ起きてたんだ。」
「うん。」
やはり紺野も寝付けずにいることを確認すると、
夢の事をどうしても聞きたくなった。
あさみちゃんを傷つけるかもしれない…。でも…
「あさみちゃんさあ…昨日の夢って具体的にどんなのだったの?」
高橋は先ほどまでむこうをむいていたが、急にこちらに向きを変え、
紺野をじっと見つめて言った。
紺野はずっと聞こうと思っていたことを、高橋に先に
聞かれてしまって驚いた。
実は、紺野は今日一日中困惑していたのだ。
今日バスで移動していた時は、高橋も小川もとても明るく、夢の話をしていた。
それには少し疑問だったのだ。
少なくとも自分にとっては、気分の悪い夢だったから。
しかし、テレビ収録の前の楽屋では
雰囲気は一変し、夢を見たと言っていた人たちは、皆信じられないくらい
暗い表情をしていた。ただ…、それにも紺野は違和感を覚えた。
気分は悪かったけど、
私でも、あのくらいじゃそんなに暗くならない。
紺野が考え込んでいると、しびれを切らした高橋が話し始めた。
「そうだよね。あんな夢、言えるわけないよね…。
じゃあ私から言うから、あさみちゃんも教えてね…良い?」
くりっと大きな瞳に吸い込まれそうになった紺野は、
とりあえず話しを聞こうと、ゆっくりうなずいた。