紺野のエロ小説書いて〜 第2章

このエントリーをはてなブックマークに追加
538『恋の行方は……』
 メニューを見る。選ぶ。
 何を食べよう。どうしよう…。
 状況に頭が追いつかない。

 冷静でいられたのは、瞬きをしたほんの少しの間。

「紺野ちゃんスープだけでいいの?」

 グラスの氷が溶ける経過を見つめる私に、隣に座った柴田さんが問い掛けてくる。
 すぐ目の前には石川さん。
 斜め向かいにまこっちゃん。

 まさに逃げ場はなしって感じ。

「ちょっと…お腹空き過ぎて食欲なくなっちゃったみたいです」
「ならいいけどさぁ」

 ほんとの原因はコレなんでしょ?と、目線でまこっちゃんを指され、曖昧に笑った。
 でも、さっきまこっちゃんにしたみたいに上手くは笑えない。

539『恋の行方は……』:02/11/14 04:41 ID:Aij1wfSE

「紺野が食欲ないなんて珍しいね」

 石川さんのとびっきりの甘い声でも私は自然に笑えない。
 ますます不自然に唇を上げて微笑む私を見兼ねたのか、柴田さんが突然立ち上がり、

「サラダ選びに行こっか♪」

 向かいに座るまこっちゃんに猫撫で声で言うと同時に、ランチサービスのサラダバーの方へと有無を言わさず引っ張っていってしまった。
 その様子に石川さんは、ノンキに手を振っちゃったりする。

 これで必然的に私と石川さんは二人きりになるわけで…。
 緊張しないわけがない。

「……混んでなくて良かったですね…」
「そうねー。まあ、いつも来る時よりは若干混んでるかなぁ。ランチどきだし」
「あの…柴田さんと…来るんですか?」
「うん。タンポポ一緒になってからは特にね」

540『恋の行方は……』:02/11/14 04:53 ID:Aij1wfSE
 店内には私たち以外には 数える程度にしかお客さんはいない。 それを見渡す石川さんの表情はリラックスしきっていて、必死に会話を探している自分とは違って余裕だ。

 ただの先輩・後輩の関係な石川さんと私。 特別な意識なんか抱かれるワケもなく…。

 無駄だと分かっているコトに挑む。
 それは無謀で、勇気があるとは言わない。

 でも、何もしないで簡単に諦めつく奴よりは…マシじゃない?

 私は、そんな奴にはなりたくないし、ならない。
 まだ、一歩だって石川さんに踏み出していないのだから尚更。

「石川さん」

映画の1シーンみたいに石川さんがゆっくりと私に視線を移す。 感情が洪水の如く胸におしよせる。

 あなたが好きです。 ずっと好きでした。

 今なら言えるのに……、声が出ない。

 柴田さんと迎えた朝みたいに何かが違うから。
 恋い焦がれていた石川さんでも何か欠けてる…から?

 
541『恋の行方は……』:02/11/14 05:07 ID:G+Jmfvu1

「小川ってイイよねー」

 一瞬の躊躇いが、命取り。
 なんの脈絡もなく出てきた名前は、私を戸惑わせるのに充分だった。
 石川さんの眼は、もう私を見はしない。  離れた所で柴田さんと笑っている まこっちゃんを確かに捉らえている。

「優しいしー、笑うとお子様過ぎるけど、黙ると大人っぽいし。好みかも」

 目線でまこっちゃんを追いながら、石川さんは うっとりした口調で言う。

「紺野はどう?小川のこと」
「どう?って言われても…」
「そっかぁ。じゃ、別にいいよね?」

 厭らしい微笑み方。 オカシイ。
こんなの石川さんじゃない。
 私の好きな石川さんは……。

「何がいいんですか?」
「やだ、紺野ってば。分かってるくせにー」

 過度の緊張で渇いた喉にグラスの水を流し込む。
 こうゆう時に当たる予感。
 最悪の予感。

 石川さんは、こちらに来る二人に私たちの会話がまだ届かないのを見遣ると、ぎりぎりまで私に顔を近付けて囁いた。

「小川を……しちゃってもいいよね?」