柴田さんの白い肢体は、ベッドの上で艶めかしく静かに震えた。 よく見ると、その全身は淡い桜色に蒸気していて、その様は、春の夜に咲く桜と同じくらい儚い。
「やっぱり柴田さんの方が綺麗…」
「…っ……紺野ちゃん…」
私を見上げるその瞳に導かれ、くびれたウエストのラインに掌を這わす。
女性特有の滑らかな手触りが掌を介して、甘美な刺激を脳に送り込んでくる。
その手を下へと移動させ、イッたばかりでまだひくひくと蠢いているそこに指を滑り込ませた。
途端に腰が持ち上がる。
「ぁ……もう…っ、触らないで」
「本当に…キレイ」
「っ…ぁん…」
柴田さんの甘い鳴き声……ゾクゾクしてしまう。
「私も柴田さんのこと好き…かも」
人に抱かれる…人を抱く…、私は完全にハマっている。
愛ちゃんを受け入れたことがきっかけではなく、それは、まこっちゃんに犯された時から既に…。
「あん…ゃぁ…ホントに、いいから……ぁ」 膝の裏に手を差し入れて足を大きく開かせ持ち上げ、目の前の薄い茂みを開かせる。
蜜が溢れるそこに舌先をあてがい唇を押しつけ、温かい柔肉の中に舌を挿し込んだ。
柴田さんは苦しそうな、切なそうな顔で私を見つめて、声にならない声を吐きながら腰を揺らした。
それに合わせて私も舌の抜き挿しを激しくする。
私も柴田さんも、お互いをもっとほしがっている。
「…あぁ…ぁん……はぁ……ぁ…」
頭を動かして更に刺激すると、唾液と肉と蜜とが淫らに奏でる音が大きくなってゆく。 柴田さんが自分の動きに反応するのが愉しくて、太腿が自分の顔を挟み込むのが心地好くて意識が遠退いてしまいそう。
「んっ…あっ…ぁ…ああんっ…ゃああ!」
貧るように思いきりそこを吸い上げると、柴田さんの身体は大きく波を打って熱い大量の蜜を滴らせた。
それと同時に私の頭からは、溜まっていた熱が吐き出され、自分の下で小刻みに身体をのけ反らせる柴田さんを、不思議なくらい冷静に見下ろしていた。
艶っぽい色に濡れた瞳を自分に向けている彼女を、あたしは呆然と見下ろしていた。
微かに欲情が香る唇が離され、瞼を開けると目の前には石川さんの顔が…。
あたし……今、石川さんに…キスされた? 夢見心地で唇に触れ指先には、口紅がついていた。
石川さんの唇と同じピンク色。
「……小川…、私の悩みも聞いてくれる…?」
そう言って石川さんは、あたしにしがみついて砂糖菓子よりも甘ったるい声を出す。
何故こんなことになってるのだろうか。
石川さんの身体を支えながら、あたしは天井を仰いだ。
ピンクだらけの此処は石川さんのマンションの部屋。
仕事の帰り際、柴田さんと一緒に帰る あさ美ちゃんの背中を見つめていた あたしに、「ウチに遊びに来ない?」と石川さんが声をかけてくれたのだ。 そして、石川さんの優しさに促された あたしは、悩みをただ一言こう打ち明けた。
『最近、あさ美ちゃんとギクシャクしちゃうんです…』
事の一切を隠した自分は卑怯者。
嫌がるあさ美ちゃんを犯し、ずるずると関係を強要している……言えるわけがない。
そのことが、あさ美ちゃんとの間が上手くいかない一番の原因なのだから。
神様ですら救いようのない罪ビト。
「不安なの…。あと少しで、ごっちんは卒業しちゃうじゃない?本当はそんな現実…受け入れたくない」
「でも…その…、会おうと思えば会えるじゃないですか。石川さんと後藤さんは付き合っているんだし…」
「そうなんだけど、やっぱりイヤ」
あたしの首に両手を回して二度目のキスを掠めとる。
「いつでもキスができる距離にいたい…。いつでもお互いを抱きしめられる距離にいたいの」
これって我が儘だね、と石川さんは困ったように微笑んだけれど、隣にいるのが当たり前だった二人が、ある日 突然に離ればなれになるのは、かなり辛いことなのだと あたしにでも容易に察せられる。
みんなや後藤さんの前では明るく気丈に振る舞っていても、内心では寂しさに押し潰されそうなのを堪えているのだろう。
あたしの表情で思いを読み取ったのか、石川さんは再び顔を寄せて口を開いた。
「優しいね、小川は」 力のない言葉に、あたしは何故か彼女の肩を強く抱きしめた。
そして、三度目のキスは自分からした。
「っ……ん」
すぐに離して、暫く見つめあった後に、今度は互いに相手を引き寄せて唇を重ねる。
二人の舌はすぐに溶け合い、全身がとろけるような痺れを感じながら石川さんの背中に回した手を服の中へ侵入させ、直に肌に触れた。
服を完全に捲くり上げて撫で回すと、石川さんの身体は あたしの愛撫を欲して すっかり熱を帯びていた。 ……あさ美ちゃんより全然いいかもしれない…。
「ぅ…ん……おがわぁ…っ」
唇の端から顎にかけて流れている唾液を拭わずに 焦点の定まらない瞳であたしを捉らえる。
こんな無防備な顔をされたら……もう止められませんよ、石川さん?
「今だけ後藤さんのこと忘れさせてあげます」
囁きと共に太腿の内側を撫でた。
今だけ誰かを忘れたいのは、自分の方だったりするのは石川さんには内緒。
恥ずかしげに小さく頷いた彼女を抱きながら、あたしはベッドに倒れ込んだ。
鼻先が触れ合うくすぐったい距離。
石川さんは あたしの目を真っ直ぐ見てから、
「ねぇ…もう一度キスして」
そっと瞼を閉じた。
半ば開かれた美味しそうな唇に、あたしは啄むようなキスを繰り返す。
この時、彼女が密かに笑みを零したことに、あたしは気付かなかった。
誰よりも何も知らないのは、自分だった。