私には恋人がいる。 すごく優しくて、すごく明るくて、ちょっと鈍感な彼女。
「あーさ美ちゃん♪帰ろう」
その声で名前を呼ばれることに、まだ少しときめいてしまう。
片想いだった頃の切なさに似たドキドキ。 胸がキュンとなるのは、それだけ彼女が好きってことなんだ。
「まこっちゃん」
「ん〜、なぁに?」
「大好きだよ」
パッと頬をピンクに染めて、ぶっきらぼうに目を逸らす。
「な…なにさ、突然」「ねえ、まこっちゃんは?」
「もう……ほらっ、早く行こ」
見た目によらず照れ屋な私の大切な恋人は、問い掛けには答えずに歩き出した。
いっつもそう。
まこっちゃんは、他に人がいると何も言ってくれないし、甘えてもくれない。
2人きりの時もそうだけど…。
でも、
「そうゆうとこも好きだよっ」
なーんて許しちゃう。 すらっと伸びた長い腕に自分の腕を絡めると、まこっちゃんは、歩きにくいよーと言ってはにかんだ笑顔を見せた。
私の家に向かう間、まこっちゃんは肩に凭れかかる私を咎めはしなかった。
ついこの前まで恥ずかしがってさせてくれなかったことも、近頃は喜んでくれる。
少しは進歩した私たちなのだけれど、でも、最近、不安になことがある。
付き合い始めてからもう1年経つのに、今だにキスどまりの関係だってこと。
家に着いて部屋に入るなり、まこっちゃんの首に両腕を回して上目がちに彼女を見つめる。
キスしてほしいっておねだりする。
まこっちゃんは照れながらも私の腰を抱き寄せて唇を重ねてくれた。
柔らかい羽根が舞い降りたような軽い口づけ。
熱い唇がもっとほしくて、両腕に力を入れて引き寄せるが、やんわりと解かれる。
瞳を開けると目の前には、困ったように微笑む まこっちゃんがいた。
私ってそんなに魅力ないのかなぁ…。
ベッドに倒れ込んでテレビを見始めた つれない恋人の姿に深い溜息。
今の関係でも十分に幸せだし、これ以上を求めるのは欲張りなのかとも思う。
でも、私はまこっちゃんともっと…その……仲良くなりたい。
『大胆に迫っちゃえばいいんだよ』
まこっちゃんの隣に寝転んだ時、ふと愛ちゃんの悪魔の囁きが耳を掠めた。
以前、おもいきってこの事を相談してみた私に、愛ちゃんはいとも簡単に言いのけた。『それはさぁ、まこっちゃんがムッツリなだけだよ』
『背中に胸でも押しつけたら、イヤでも向こうから襲ってくるって』
『…じゃ、まず、わたしを実験台にしてみようか。はい、胸押しつけてみて』
愛ちゃんに相談したのは間違えだったわ、と即思った。
そんなことで まこっちゃんが…ねえ…。
「ねえ、ねえ」
ん?と まこっちゃんが返事をする。
視線が一瞬下がり、私の瞳を覗き込むように戻したのを見逃さなかった。
なんだろう?
まこっちゃんの視線の跡を辿ると、意外な所に行き着いた。
シャツのボタンが2つも外れていて、ブラジャーが見えているではないか。
しかし、なかなか話し出さない私に、まこっちゃんはソレを教える様子もなく平然と問う。
「なーに、あさ美ちゃん?」
でも、目がニヤけてるよ。
なんだ…、
「う、ううん!なんでもない」
まこっちゃんも結構そうなんだ。
不思議そうに小首を傾げ、ムッツリスケベの恋人はテレビに向き直った。
ベッドに俯せになるまこっちゃんの背中にゆっくりと覆いかぶさる。
肩甲骨の下辺りに出来るだけ胸をギュッと押しつけた。
すると、まこっちゃんの体は可笑しいくらいに反応を示す。
テレビを見て笑っていた声がピタリと止み、全身が強張った。
「どうしたの、まこっちゃん?」
「えっ!?な、なんで、そんなこと聞くの?」
「急に黙っちゃうんだもん」
「そ、そうかなぁ…」 会話を交わす間も頑張ってみたけれど、特に まこっちゃんは行動を起こさない。
……強行手段だ。
背中から体を離してまこっちゃんを仰向けにさせた。
なんだなんだと私を見上げる彼女。
自分がリードしなくてはいつまでもステップアップ出来ない 2人の関係が悔しくて仕方がないのに、私は作戦をやめられない。
ここで退いてしまう方が悔しいもの。
「あさ美ちゃ…ん…っ…!?」
私は彼女にキスをした。
少し開いた唇に舌を入れ、触れるだけではない激しくて、優しいキスを…するはずだった。
「!!?」
まこっちゃんの舌が私の舌を素早く絡めとり、チュッと吸い上げてきたのだ。
絡めた舌を動かしながら少しづつ体勢を逆転されてゆく。
初めて交わす深い口づけに、堪らなく胸が熱くなる。
唇を離すと、熱の篭った吐息が洩れた。
「まこっちゃん…」
小さく呼びかけ、瞼を開ける。
彼女は眩しいものを見るような目で私を見下ろしていた。
「あさ美ちゃんが誘ってくるなんて…驚いたなぁ」
なんでそんなに態度が変わっちゃうわけ? ボタンの外れた胸元を指先でなぞる まこっちゃんの顔は、もうすっかり厭らしく微笑んでいた。
声も違う。
舌っ足らずな甘い声が、歌声と同じくらい色っぽさを含んで…。 危険を感じても既に遅く、まこっちゃんの指はシャツの残りのボタンを外しにかかっている。
全部外し終わると、ブラジャーの上から胸を突いた。
「あ……っ」
胸の先端を人差し指と中指が挟み込んでさすり上げる。
「やっ……やだ…ぁ」 今まで経験したことのない感覚に私は、抵抗の言葉を吐いて まこっちゃんのトレーナーを引っ張った。
「嫌じゃないでしょ?」
イジワルな囁き。
…でも、まこっちゃんの言うとおりだから何も言い返せない。
さらに弄ばれて、違う所が疼いてしまう。
「ここに坐って」
まこっちゃんは、私の背中に手を回して起き上がらせると、自分の目の前に私を坐らせ、シャツを脱がせた。 そして、これまた素早くブラジャーのホックも外してしまう。
「あさ美ちゃん…」
まこっちゃんの艶のある声色で名前を呼ばれた後に、濡れたモノが胸を這う感触が…。「あぁ…ん、だめぇ……ぁ」
舌で舐め上げられるだけでも、意識が遠退きそうなのに、まこっちゃんの暖かくて弾力のある唇は、その先端にチュッチュッとキスを落とす。
「…カワイイね、あさ美ちゃんのココ」
紅色に尖った乳首を人差し指で押し上げながら、まこっちゃんがニヤける。
積極的に自分を求めてくれるのが嬉しい反面、いいように感じさせられているのが悔しい。
まこっちゃんに触れられるまで知ることのなかった淫らな欲望が、体の中で沸き起こり出す。
潤んだ目で睨む私と視線を交わらせ、まこっちゃんは私の腰へと掌を這わせた。
「……あっ…ちょっ…」
「ダイジョブだから…ね?」
「ふぁ……あん……っ」
ショーツに指をかけて下ろし、ゆるゆると撫でまわす。
指先で割れ目を下から上になぞられると、腰が痺れるほどの快感が走る。
「ぁんっ…、まこ……っ…ちゃぁん」
もっと触ってほしいよ…。
私の中からは、熱い透明の液体が溢れ出ているのに、まこっちゃんは、それ以上は動かしてくれない。
少しだけ自分から腰を押しつけてみた。
「ぅん……んっ」
突起が指にあたって、気持ちいい。
「ん……っ、あ…っ、あぁ……」
さすがに恥ずかしくなってきて押しつけるのをやめようとすると、まこっちゃんの指が中に入ってきた。
「あ……っ」
2本の指がぬるりと挿しこまれ、私は まこっちゃんにすがりついた。
ゆっくり指の抜き挿しされる。
「あっ、はぁっ……やだぁ…」
ベッドが軋む音と、自分のそこから聞こえる濡れた音が部屋に響く。
耳にかかる まこっちゃんの唇から洩れる吐息にも感じる。
ずっと奥まで入ってこようとする指に、私は喘ぎ声を止められない。
「あさ美ちゃん…好きだよ。大好き」
強く抱き締められて、私も必死にしがみつく。
「やあぁ……ああん…っん!」
まこっちゃんの背中に爪を立てながら、私はあっけなく達してしまった。
全く力の入らない体を休ませようとベッドに俯せに沈もうとした私を まこっちゃんが押し止めた。
腰を掴んで離そうとしない。
ぐちょぐちょに濡れたそこに再び手を這わせてくる。
「…もぅ、いいよぉ」「やだ。あさ美ちゃんのカワイイところ…もう一回見せて」
お願いするように言うけれど、そんなにがっちり腰を掴まれてたら逃げられない。
返事をする前に、イッたばかりのそこをぬるぬるとかきまわされる。
「あっ、やだっ!」
そして、割れ目をなぞったと思ったら、その指がゆっくり入ってくるのが分かった。
「んん…っ…ぁぁ…んっ」
何本入ってくるのかは分からないけど、私のそこは裂けそうなくらい、まこっちゃんでイッパイになる。
「ホント…カワイイね」
「ふぅ、んっ…」
指が奥に触れた。
まこっちゃんは、そこを掴んで少し広げると更に奥まで指を挿し込んだ。
「…あぁ……まこっ…ちゃん…」
根元まで挿し込むと緩やかに抜き挿しを始めた。
その動きに合わせるように、私も腰を上下に動かして快感を求める。
「あん…あぁ…あん……はぁ…あん…」
こんなにされたら、さっきイッたばかりなのに、またすぐにイッてしまいそう…。
がっちりと腰を掴まれ突き上げられ、もう喘ぐことしかできないでいる。
「あっ、あん……もう…もう、だめだよぉ…」
「……あさ美ちゃん…イってもいいよ」
「ああぁ、も……、やだぁぁ……っ」
激しく突かれて、私は、また簡単に達してしまった。
痙攣して腰を震わせた後、まこっちゃんの胸に崩れ落ちる。
まこっちゃんは、私を仰向けにすると、息も絶え絶えな唇にキスを落とした。
後日談…。
ちょっと強引だったけど、その日、私は遂に まこっちゃんとの関係に新なる一歩を踏み出すことが出来た。 でも、それは更なる不安を増やした一歩でもある…。
「愛ちゃん…また相談にのってほしいんだけど…」
「なーに?また、まこっちゃんのことでしょう?」
「うん…、あのね…」 そこへ、まこっちゃんが割り込んできた。「あさ美ちゃん、早く帰ろーよ」
仕事が終わった後だと言うのな、なんでこんなに元気なんだ?
愛ちゃんに小声で尋ねられ、私は苦笑いを浮かべた。
その元気の理由は、私にあるから。
今日も2人の長い夜が始まる。