紺野のエロ小説書いて〜 第2章

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 私は所詮 モーニング娘。の落ちこぼれの劣等生。
 2万5千人の中からたった1人選ばれた後藤真希とはレベルが違う。
 比べるのもおこがましい。
 後藤さんになれたら…なんて幻想を抱くのも空しい。
 憂いの漂う秋晴れの空を鳥の群れが舞うのが窓から見えた。
 その後から、群れから外れたらしい一羽がビルの上空をいったりきたり彷徨っている。 情けない鳴き声を上げる様は、今の自分を象徴しているように惨めで辛くなり、目を伏せた。
 いつもこうやって逃げてばかり。ささやかな抵抗を繰り返す。
 嫌なことから目を逸らし、成すがままに流れて行く。
 与えられた運命には強く抗えないから。
 石川さんを好きになったことも、まこっちゃんに犯されることも、全て。
 そう理由をつけて、私は自分の手で未来を切り開こうとはしなかった。
 諦めていた。
383柴紺:02/10/04 02:20 ID:g5n5Gh4n
「こーんのちゃんっ」 名前を呼ばれたのと同時にポンと肩を叩かれ、振り返るとメロン記念日の柴田さんが立っていた。
「‥‥おはようございます」
 『メロン記念日』のと言うより、『タンポポ』の柴田さんと言った方が妥当かも。
「どうしたの?ボーっとしちゃって。
あっ、紺野ちゃんはいつもボーっとしてるか」
 ハスキー犬みたいな鋭い端正な顔が優しく微笑む。
 私と大して身長が変わらないのに、腕を伸ばして穏やかな手つきで髪を撫でてきた。
 くすぐったいくて、でも、気持ちいい。
 柴田さんは、シャッフルユニットで一度だけ一緒に仕事をした時、人見知りな私にも気さくに話し掛けてくれた親切な先輩。
 石川さんもデビューしたての頃に柴田さんに声をかけてもらったらしい。
 今回のハロプロ大編成で同じユニットに所属することになった私と柴田さんの距離は、以前よりも縮まり始めていた。
384柴紺:02/10/04 02:22 ID:4xOhfh7O
「柴田さんヒドイですよー。私はいつも完璧ですっ」
「紺野ちゃんて、やっぱりなんか変だよね」 そう言って柴田さんは窓の外を見上げる。 倣うように私も。
 さっきまで飛んでいた鳥は何処かへ行ってしまっていた。
 水色の世界が広がっている。
「何か悩みでもある?」
 え……?
 この空みたいにカラッポな心に、柴田さんがポーンと声を投げ込んだ。
 呆気にとられて自分を見る私を、柴田さんは真剣な眼差しで見返す。
 突然すぎるストレートな言葉は柴田さんのさっぱりとした性格そのまんまを表していて、驚いたけれど嬉しかった。
385柴紺:02/10/04 02:26 ID:38W2AK62
「‥‥分かります?」「うん。雰囲気がいつもより落ち込んでるんだもん」
「そうかなぁ、自分では違うつもりないんですけど」
「なぜなら‥柴田あゆみは‥‥」
 グッと背のびして一呼吸置く。
「紺野ちゃんのことよーく見てるからね」
 あっ、深い意味はないよ、柴田さんは照れくさそうに髪をかきると、そう付け足した。 深い意味はない、と言われてホッとした反面、残念に思う自分がいる。
 柴田さんなら深い意味があってもいいな、とか期待しちゃって、これじゃまるで愛ちゃんのような見境ない女みたいだ。
386柴紺:02/10/04 02:28 ID:HZrXJi6R
「たいした悩み事じゃないですけどねー」
「あたしで良かったら相談にのるから。てゆーか、のりたいな」
 正直、柴田さんの気持ちは有り難かった。 でも、相談できるわけがない。
『石川さんを後藤さんから奪い取りたいんです』なんて。
 だから、そんな真っ直ぐな目で見ないでほしい。心の中まで読んでしまいそうな聡明な瞳で。
387柴紺:02/10/04 02:30 ID:nxaue+Rd
「あの‥‥じゃあ‥」 また今度に、そう言って とりあえずこの場は取り繕うとしたのだけれど、
「ねえ、もう収録始まるんじゃない?みんなあっちにいるよ」
柴田さんに遮られてしまった。
 しかも、最悪なことに、窓辺にいる私と柴田さんの姿に気付いたまこっちゃんがこっちに歩いてくるし。
 その顔がまた険しくて恐い。
「じゃ、後でメールすから。仕事がんばってね」
「え!?あ、ちょっと、柴田さ〜ん!」
 メールするって言ってくれたけど、柴田さんて私のアドレス知っているのだろか?
 そのことに気付いたのは、柴田さんの後ろ姿がもう随分と遠くに行ってしまってからだった。