222 :
小紺高:
ドアを閉めた後、肺が破裂するくらい胸一杯に空気を吸い込んだ。清々しいとは言えないけれど、今の私にとっては これ以上にない澄み切った空気。
まこっちゃんと二人きりでいるより幾分マシだ。
あのまま二人でいたら、水槽に入れられた金魚が水面で必死に口をパクつかせているみたいな息苦しさを全身で感じていただろう。
ドアに背を凭れさせて暫く呼吸を整えた。
思い出したくもない出来事に頭の中がグチャグチャで、高ぶる鼓動を抑えるのが精一杯だった。
それでも、腿の内側に溢れ伝う自分の蜜が、嫌でも先程の現実を突きつけてくる。
223 :
小紺高:02/08/26 02:16 ID:KkRVGFdj
このままだとトイレに行く前に、ふくらはぎまで流れ落ちるのではないかと泣きそうになったが、それはスカート生地に吸い込まれて小さな水玉のようなシミとなった。
早くトイレに行かなきゃ。
遅くなったらまこっちゃん来そうだし…。
歩き出すと、内股で
肉と蜜が擦れるグチュグチュとしたなんとも不快な感触が伝わってきた。
不快感から逃れる為に濡れた下着の中を気にして歩くと、右手と右足を一緒に出すような不自然な歩き方になってしまい、気にするのをやめて仕方なく普通に歩を早めた。
224 :
小紺高:02/08/26 02:17 ID:wY80raaF
廊下に続くドアの隙間からは時折人の楽しそうに雑談する声や歌声が聞こえてくる。
本来ならば私とまこっちゃんと愛ちゃんの笑い声もその中に溶けている筈なのに……。
まこっちゃんの考えが分からない。
なんで突然あんなことをしたのか、なんであんなに冷たい目で私を見ていたのか。
頭に浮かんでは消えてゆくのは、まこっちゃんのことばかり。
225 :
小紺高:02/08/26 02:18 ID:kdZ+5qVK
「じゃあ今度、仕事の帰りに夕飯奢ってもらおうかなぁ……ええ?……あ〜、それでもいいですよぉ…」
毛足の短い赤い絨毯の敷かれた廊下を進む途中、照明の強いフロアで携帯で話しをしている愛ちゃんの後ろ姿を見つけた。
話が弾んでいるのか、大きな笑い声に合わせて華奢な肩が揺れ、サラサラのストレートヘアが肩を撫でて踊っている。
とても楽しそうだ。
あの様子だと当分 戻ってきそうもない。
困ったなぁ…、まこっちゃんと二人きりになるのは避けたいよ…。先に帰るわけにもいかないし。
226 :
小紺高:02/08/26 02:20 ID:R1XLZB1/
愛ちゃんの背中を見つめながら途方に暮れていると、肩に何かがぶつかってきて 体が壁に打ちつけられた。
突然のことに声は発せられず、あまりの痛みに眉間が歪む。
「こんなとこに立ってんじゃねえよ」
肩をさする手を止めて声をする方に目を向けると そこには私にぶつかったと思われる
二十歳位の男が威嚇するようにこちらを睨んでいた。
体格は成人男性にしては若干ひ弱なタイプだが、私に比べたらガッチリしている。
その後ろには 友達らしい2人の男がいて、何が面白いのかニヤニヤと私を見て 小声で話してる。
感じの悪い人たち…。
227 :
小紺高:02/08/26 02:21 ID:wY80raaF
「……すみません」
多少の胸のもやつきを抱きながらも、帽子を深く被り直し 頭を下げた。
今日はホント嫌なことが続く。
「やっぱそうだよ」
「マジで?どーせなら他の奴が良かったな」頭を下げた私の横を通り過ぎて、男たちは耳障りな声を残して近くのBOXに消えていった。
バタンと派手な音を立てて閉められたドアが鼓膜を震わせる。
あぁ、もうムカツク!なんで私が謝らないといけないのよ!
ぶつかったのは向こうじゃない!
男たちが入っていったドアを一瞥してから
傍目から見ても分かるくらい不機嫌な足どりでトイレへと再度進み出す。
228 :
小紺高:02/08/26 02:24 ID:BL4Z5o5C
と、そこへ
「あさ美ちゃ〜ん」
私と男のやり取りで私に気付いたらしい愛ちゃんが、携帯を耳にあてたままこっちに小さく手を振っているのが見えた。
満面の笑みで私の名前を呼ぶ愛ちゃんは 無邪気な子供みたいで可愛らしいんだけど ちょっと恥ずかしい。
微妙に訛ってるし。
怒りで引き攣り気味な顔をできるだけ笑わせて 私も胸の辺りで手を振り返した。
「…あ、すみません。今、あさ美ちゃんがいるんですよぉ……あと、まこっちゃんも…」愛ちゃんはまた携帯でのお喋りを始める。
私とまこっちゃんの名前が出てるってことは娘。の誰かかな?
会話の相手が気になったけど盗み聞きするわけにもいかないし。
かなり後ろ髪を引かれながら その場を離れた。