166 :
小紺:
なんでこんなことになっちゃったんだろ?
断ろうと思えば断れたのに。
でも、どうしても断れなかった。
それは、アナタの為なんです。
「なに?」
視線に気付いた あさ美ちゃんが、大きな瞳を細めて あたしを見る。
日差しが眩しいらしい。
「いや……暑いね」
真夏の光線をもろにくらっているビル群を瞳に映し、Tシャツの襟元を指で引っ張ってパタパタと扇いだ。
あさ美ちゃんは不思議そうに小首を傾げ、あたしの視線に視線を重ねた。
お互いに特に何も喋らない。
気まずいわけじゃなかった。何も話さなくても居心地は悪くなかった。
街の雑音が沈黙を埋めてくれる。
167 :
小紺:02/08/19 01:14 ID:2d3X6q4K
真っ青な空には ヒコーキ雲によって一筋の線が描かれていて、青葉の香りがする風が頬を掠めてゆく。
こんな日は海でも行きたいな。
「…AH〜 青い空が微笑んでくれた〜ぁ♪」
突然 歌いだした あたしに あさ美ちゃんは始めは驚いた顔をしていたけれど、
「ドライブなんて グッドタイミング♪」
……微妙な歌声で一緒に歌ってくれた。
「「こんな日もある〜のね〜ぇ♪」」
顔を見合わせた時、あさ美ちゃんは 今日の快晴に負けないくらいの笑顔で あたしを照らした。
嬉しいな。こんなふうに笑い合えるなんて。二人して携帯をマイク代わりに握りしめちゃってるし。
168 :
小紺:02/08/19 01:24 ID:e4qyMwEO
ホント、こんな日もあるもんだね。
「AH〜 いいことが重なりすぎてるわ〜♪」
はにかみながら歌う あさ美ちゃんに 今なら素直な気持ち言えそう。
てか、今しかない。
曲がってしまったけれど、もう駄目かもしれないけれど。
世界を照らす太陽が、今だけは、汚れたこの身にも平等に降り注がれているのだから。
覚悟を決めて、一歩踏み込んだ。
「あれまぁ、まこっちゃんが 真夏の光線歌えてるわぁ」
……あの…タイミング狙ってますか?
169 :
小紺高:02/08/19 01:26 ID:TXKefw+H
「あっ、愛ちゃんだ」あさ美ちゃんは声の主を見つけた途端に あたしに凭れさせていた体をパッと離した。
その時 笑顔がさっきの三割増しになった気がするのは あたしの深読み?
「愛ちゃん遅い。先に来てたんでしょう?」「ほやほや。ほやけどぉ、色々あっての〜」相変わらずの訛りっぷりで、苦笑いをしながら髪を撫でる。
仕事の時のパイナップルみたいなヘアスタイルではなく、ただおろしている為か 今日は普段より大人っぽく見えた。
服装も上下ともに黒を基調としたモノ。
このクソ暑い中で 黒を着ていても涼しげに感じられるのは、スッキリと整った顔立ちだからだろう。
170 :
小紺高:02/08/19 01:27 ID:dl1rPVGy
やっぱ、美人って特だ。
「まこっちゃん遅れてごめんのぉ。怒っちゃいややよ〜」
「…あ〜違う違う。怒ってないよ」
観察していたら つい睨んでいてしまったらしい。
少なからず潜在的にそうゆう意味合いを込めてたのかもだけど。
至る所に落書きが施されている駅の柱から
背中を離すと 二人の傍に行った。
青い風がさあっと髪を宙に煽って、肩の上で踊らせた。
「どこ行こっか?」
「二人が歌ってるの聴いてたら カラオケ行きたくなってもた」
通りを彩る木々の隙間から零れた陽が アスファルトに小さな光のカケラを鏤める。
171 :
小紺高:02/08/19 01:33 ID:f8BBmV/B
「じゃあそうする?」「ほやの。カラオケに行こっせ」
爽やかな夏の一時のBGMは、愛しい人と恋敵の声。
それでも あたしの心の中では『真夏の光線』が引き続きかかっている。
悔しいから、ガンガンにかけまくってるのが実情。
「それでいいでしょう、まこっちゃん?」
あさ美ちゃんがあたしに笑いかけ、
「この夏は〜 あなたがい〜るぅ 淋しくな〜ぁい」
その隣で愛ちゃんが
楽しそうに口ずさんでいた。
何も知らない あさ美ちゃんと愛ちゃん。
知りすぎてるあたし。「……あぁ、うん。それでいいよ」
歌詞通りにはいかないもんだね。
あたしは違った。
アナタがいるのに淋しかった。
更新しました。
レス&保全ありがとうございます。
高橋さんやっと出せたので これからはあまり痛くもなくなると思います(たぶん。
訛りが不自然すが脳内変換で宜しくお願いします。
エロ待ちの方ホントマジで申し訳ないです。
テンポよく読めるし、すごく文章がうまくておもしろいです。
個人的にはエロに走らなくていいのでこのまま続けて欲しいです。
もしよかったら以前描いた小説とかも読みたいです。
174 :
小紺高:02/08/19 21:58 ID:f8BBmV/B
とりあえず まず先にカラ館に行くことになった。
愛ちゃんは 恐いくらいテンション高い。
人目も憚らずに ワケの分からない歌を、これまたワケの分からない言葉で歌っている。確かハンガリー語の合唱曲だったっけ?
そして、あさ美ちゃんは 愛ちゃんの挙動で周囲に自分たちのことがバレないか 大きな瞳を更に見開いて警戒している。
なのに、堂々と変な歌を唄っている愛ちゃんよりも、辺りを忙しなく伺っている あさ美ちゃんの方が不審過ぎて却って目立ってるのが笑える。
175 :
小紺高:02/08/19 21:59 ID:e4qyMwEO
そんなに気にすることもないでしょ。
あたしたち 世間にそれほど名前も顔も売れてないだろうし。
でも、愛ちゃんとあさ美ちゃんは結構 知られてるか。
…ちょっとネガティブになりながら 帽子を深めに被った。
「では、お二人さん行きましょうか」
なかなか駅から離れようとしない おかしな二人組の背中を、半ば呆れたような口調で押すと、
「待って。まだ石川さんが来てない」
あさ美ちゃんが 視線を周囲に怪しく泳がせながら引き留めた。
その声に、既に歩き始めていた あたしと愛ちゃんは振り返って
阿吽の呼吸で顔を向き合わせる。
176 :
小紺高:02/08/19 22:02 ID:2d3X6q4K
「石川さん?」
「……梨華さん?」
「そう、石川梨華さん」
さも当然と言わんばかりな あさ美ちゃんだけれど……石川さんが来るなんて聞いてないぞ。
「石川さん来るの?あたし知らないけど」
愛ちゃんは あたしと同じことを思っているのやら いないのやら掴みにくい表情で 何か言いたそうに唇を動かしてはいるが、言葉にはまとまってない感じだ。
「え〜!?まこっちゃん言ってたじゃない」「あたしが?知らないよ」
「言ったよぉ」
おいっ!そんな恐い目で見たって 知らないもんは知らないし、言った覚えもないよ。
愛ちゃんに助けを求めてみる……と、そこで思い出した。
177 :
小紺高:02/08/19 22:04 ID:dl1rPVGy
「もしかしてさ、愛ちゃんが石川さんに約束キャンセルされた話をなんか聞き間違えたんじゃない?」
そうそう。愛ちゃんは元々は石川さんと約束してて、今日いきなりキャンセルされた。
で、そのまま一人でぶらつくのもつまらないからウチらを召喚したと…。
でしょ?と、さっきから意味もなく人差し指を立てて宙をクルクルと掻き回している愛ちゃんを見た。
やや間を置いてから
「ほうなんやって。石川さん、いんよ」
ヒトゴトみたいにさらっと言って、愛ちゃんは止めていた歩を再開させた。
あまりの切り替えの早さに感心しつつ、苦笑いしつつ後を追う。
178 :
小紺高:02/08/19 22:06 ID:f8BBmV/B
あたしの後を あさ美ちゃんの足音が続く。「そっかぁ…石川さん来ないんだ」
「石川さんに会いたかった?」
何気なく耳が拾った
呟きに尋ねてみると、あさ美ちゃんは 聞かれているなんて思っていなかったみたいで、悪戯を見つかった子供みたいな様子で あたしの方に向いた。
「ほ、ほら、タンポポでこれからお世話になるわけだし、親睦を深めたいなぁ…なんて思ったりして」
あとは…あとはね…、とツラツラと言葉を並べる。
目まぐるしいローテーションにあたしはついていけないくて、ほとんど聞き逃した。
179 :
小紺高:02/08/19 22:08 ID:cvZBViZT
分かったのは、なんとなく焦っていることだけ。
「二人とも何してるんやよー」
「愛ちゃんには会えたんだからいいでしょ?呼んでるから行こう」そうだよ。
愛ちゃんがいれば充分なんでしょう?
「えっ、あっ、うん」百メートル近く先にいる愛ちゃんの呼ぶ声を逃げ道に、迷走する あさ美ちゃんの喋りをストップさせた。
強引に腕をとり 駆け出す。
あさ美ちゃんは まだ話し足りない感じで
走るスピードを緩めたけれど、そんなの無視した。
180 :
小紺高:02/08/19 22:11 ID:f8BBmV/B
掴まれた腕。
触れ合う素肌。
荒く吐き出される息。
重なる鼓動。
「ハァ…ハァ、愛ちゃん…止まって…ハァ…くれたって、いいじゃん…」
私の腕を掴む まこっちゃんの手が汗ばんできているのが分かる。横顔にも 一筋の汗が流れていた。
なんでこんなことになっちゃったのかな?
断ろうと思えば 断れたのに。
でも、どうしても断れなかった。
それは、アナタに会いたかったから。
『愛ちゃんから電話あったんだけど…』
『今から遊ばないか?だって』
『それがさぁ、愛ちゃんてば石川さんにね…』
181 :
小紺高:02/08/19 22:13 ID:dl1rPVGy
アナタの名前を聞いただけで私の胸は苦しくなるんです。
『行くでしょ?』
どこか気の進まなさそうに訊く まこっちゃんに私は、気持ちがバレないように ぎこちなく頷いた。
ほんの一時間前にしたやり取りを思い出し、じんわりと額に汗が滲む。
あぁ…なんで夏は暑いのでしょうか。
あまりにも暑くて、バカみたいな台詞が目の裏でチカチカと光っちゃっています…。
頭上で風に煽られている木の葉の間から 雲一つない空が見えた。青空のど真ん中で輝いている太陽も見えた。
182 :
小紺高:02/08/19 22:15 ID:cvZBViZT
誰にでも平等な太陽の光。
誰にでも優しいアナタの笑顔。
そんなアナタが好きだけれど、そんなアナタが嫌い。
「……会えないのかぁ」
でも、やっぱり好きなんです。
石川さん、アナタのことが。