【小説】(　´�D｀) 〜のの、の夏休み〜(　´�D｀)

カランコロンカラン

辻の手で揺らされるアイスコーヒーのグラスが子気味いい音を鳴らす。
コップの底から水滴が２、３粒椅子に座っている辻の太ももの辺りに落ちる。
ストローから唇を離しグラスを机に置くとまた夏休みの宿題へとりかかった。

下の階から安倍が掃除機をかける音が響いてくる。
シャーペンを走らせながら頭の中では違うことを考えていた。

（こんこん、今日もあの森で遊んでるのかな・・・。）

・・・ィ・・・ピィ・・・ピィピィーピィー

後ろの方から鳴る携帯電話の音にハッとして
ベッドの上にほうっていたケータイを取る。
誰からだろう。

『今からののん家に遊びにいってええか〜？』

関西弁のメール、加護からだ。

『うん、いいよー。』

すぐに打ち返すと加護からもすぐ返事が返ってきた。

『じゃあ、いまから行くから〜。』

「ののちゃんあそぼーーーー！」

メールが着いてから１分もたたない内に玄関から加護の声が聞こえてきた。

えっ、もう？
そう思いながら部屋のドアを開けて廊下に出ると下から安倍と加護の話し声が聞こえる。
階段のところまで行くと下から加護が元気よく階段を一段飛ばしで上ってきた。

「もー、ビックリしたよ〜。」

「えへへ、家の前から打っててん。あれ足どないしたん？」

紺野に巻いてもらった包帯を外しばんそう膏に貼り変えた辻の足を見て加護が言った。

「うん、ちょっと転んじゃって・・・。」

そうだ、あいぼんとこんこんを会わせたら・・・
二人ともきっと仲良くなるはず、そうすれば3人でもっと楽しく遊べる。

ガチャ・・・

そんなことを考えている間に加護が先にドアノブを回した。
部屋に入るとすぐに加護がベッドに倒れこんだ。

「あぁ〜涼しぃ〜。やっぱ夏はクーラーやなぁー。」

「ちょっとあいぼんー遊びにって家に涼みにきたの〜？」

「ううぅ、だってウチん家クーラー無いねんもん。シクシク。」

そう言いながら枕に顔を伏せた加護の体を掴んで辻がユサユサと揺らす。

「ウソ泣きしてないでね〜外にいこうよ〜。」

「えー、こんな暑い日にぃ〜。」

まだ十分に冷気を楽しんでいない
ためか不満そうに口をとがらせる加護。

「会わせたい子がいるの。」

辻がそう言うと加護は唇を平らに戻した。


汗でティーシャツをべっとり背中にくっつかせながら
湖に着いた二人。しかしそこに紺野の姿は無かった。

「なんや誰もおらへんやーん。」

「うん・・・いつもここで遊んでるって言ってたんだけど。」

熱気のせいか不機嫌そうな加護と残念そうな辻。
それからしばらく待っていても紺野は現れなかった。

「なぁ〜ののん家に帰ってゲームでもしようやー。
暑ぅて倒れそうや〜。」

「そうだね、こんこん居ないみたいだし帰ろうか・・・。」

「よっし！ほな帰ろーう。」

低いトーンで答える辻と急に元気なった加護。
ここに来る前の部屋とはまってく反対のテンションになってしまっていた。

こんこん、今日はたまたま来なかっただけだろうか・・・。
もしかしてもう帰ってしまったんだろうか・・・。
加護に後ろから肩を押されながら歩いていた辻が突然立ち止まった。

「ん？どないしたん？」

肩から顔を覗かせて加護が尋ねてきた。その顔を見ると少し気持ちが落ち着いた。

「なんでもないよっ。」

そう言い返すと辻はそそくさと歩きだした。

（またこの感じだ・・・。）

目の前にはあのお化け屋敷がそびえたっている。
誰かに見られているようなこの感じ、歩きながら二階の窓を見上げてみたが
今度は人影らしきものは見えなかった。

（あの突き刺すような視線は一体なんなんだろう・・・。
1人でこの森を行き来した時は感じなかったのに・・・。）

「ふ〜極楽やー。」

やってきた時と同じにベッドに倒れこんで言う加護の横で 辻は浮かない顔をしている。

「どないしたんや、のの〜？ほれジュースでも飲み。」

ベッドから起き上がりお盆からジュース取って辻に差し出す加護。

「それなっちがいれてきてくれた家のジャースでしょ、も〜。」

そうつっこむとイタズラっぽく笑っていた加護が急に真剣な表情をした。

「よかった、元気やん。」

「え？」

とまどう辻。
そう言った時の加護の顔はなぜか辻よりも２才も３才も年上に感じた。

「湖から帰ってる間のの元気なかったから。」

「そうだったかな・・・。」

「・・・うち明日から裕ちゃんの実家に行くねん。」

「そう・・・なんだ。どれくらい？」

「二日程泊まるらしいから、戻るんは明々後日やな、
お土産買うてきたるさかいエエ子にしとるんやで。」

「うん・・・。」

加護の喋りはとても穏やかで、辻の返事はぎこちないものだった。

その夜、布団の中で辻はなかなか寝つけないでいた。

（明日からしばらく寂しくなっちゃうな・・・、こんこんも帰えっちゃったんだろうか・・・）

「ん、んん・・・。う・・・ん。」

あまりの寝苦しさにパチッと開いた辻の目は底の見えない真っ暗な闇を見上げていた。
いつの間にか眠ってしまっていたのだろうか汗をびっしょりかいている。

チッチッチッチッチ・・・

時計の音だけがやたら耳につく。
たんだんと暗闇に慣れてきた目で首を動かし時計を見ると針は4時すぎを指していた。
体を半分持ち上げるとベッドの足元側の斜め右上に月明かりにかすかに照らされた窓が見える。
窓は全部開けられていてそこから冷たい風がスーっと入ってきていた。

（たしか寝る前は網戸は閉めていたはずなのに、どうして？）

辻の問いに答えてくれる者はそこにはいない。
窓を閉め鍵をかけ早足でベッドに戻り布団を被る辻。
朝まで起きているつもりでいたが睡魔に負けて再び眠ってしまっていた・・・。

次の朝、ベッドから起き上がると窓はちゃんと閉まっている。
朝の７時、下の階へと下りると安倍が朝食の用意をしていた。

「おっ、おはよーだべのの！今日は早起きだべね。」

「おはよー・・・。」

カラっとした安倍とは逆に浮かない表情の辻、なんだかぐっすり寝た気分ではなかったのだ。
安倍は皿を並べていると大きなあくびをしながら石川が上の階から下りてきた。

「おはよーだべ、梨華ちゃん！」

「おはよー、梨華ちゃん・・・。」

「ふぁ〜〜。おはよ〜。」

何時も朝は機嫌が悪い石川だが今朝はいつにもまして不機嫌な様に見える。
椅子に着いて一息入れてから石川が辻の顔をじっと睨んできた。
その鋭い目にたじろぐ辻。

「ののー夜遅くまで電話するのやめなさいよねー。うるさくて寝れないじゃない。」

「えっ？！・・・わたし昨日の夜電話なんてしてないよ・・・。」

「うそ、ののの部屋から話し声が聞こえてたけど・・・。テレビの音か・・・寝言・・だったのかな。」

不可解そうな顔をする石川・・・がそれ以上に辻の顔は困惑していた。