【小説】(　´�D｀) 〜のの、の夏休み〜(　´�D｀)

ジージージージー・・・


湖のほとりに立つ辻。
うるさ過ぎるセミの声と昨日より強い日差しに額から汗が一雫垂れ落ちる。
辺りを見渡す辻の頭がキョロキョロと動いていた。
どおやら紺野はまだ来ていないようだ。

ふいに強い風が音を鳴らながらやって来た。
熱気を帯びた生温い強風に片目をつぶる。


「希美ちゃん・・・。」


背後からの声にビクっとして振り返ると、後ろには紺野が立っていた。
昨日と同じ格好で、白い肌は汗ひとつかいていない。
初めて会った時と同じ様な出会い方をして不思議な感覚を頭の中で味わう。

「なんだぁ〜あさ美ちゃんか〜。ビックリした〜。」

胸を撫で下ろす辻にうつむきかげんの紺野。

「・・・驚かせちゃってごめんなさい。」

「そんな謝んなくてもいいよ、それとののでいいよ〜。
あさ美ちゃんはぁ〜・・・えっとー、紺野だからこんこん！」

「えっ・・・？」

キョトンとする紺野。

「こんこん！」

「のの・・・ちゃん。」

少し微笑んだ紺野に辻は顔いっぱいの笑顔で応えた。


「ふぅ、ここならまだ涼しいね〜。」

木で出来た陰へと移動した二人。
手で汗をぬぐう辻に対して紺野は相変わらず涼しそうな顔をしている。
幹に腰掛けると辻の膝の包帯に紺野が優しく触れてきた。

「・・・傷、大丈夫？」

手から伝わる温度が冷たくて心地良い。
紺野がなんだか優しいお医者さんみたいだ。

「うん、もう全然痛くないよ。
あっ、そういえば包帯の間に貼った葉っぱってなんだったの〜？」

「あれはね、ドクダミの葉なの・・・。」

「どくだみ？」

ぽかんとしている辻を見て紺野が立ち上がった。

「・・・ちょっとついてきて。」

森の中へと進んでいく紺野の背中について行く。
しばらく歩いてから紺野が立ち止まった所には、白い花びらに見える４枚の
ほう葉とその中心に黄色の小さな花を穂につけた植物が群がって生えていた。

その葉を一枚、紺野がひきちぎった。

「これがドクダミ、傷に効くの・・・。」

スンスンと鼻を鳴らしながら辻が臭いを嗅ぐと独特の強い臭いがした。

(食べられそうにないなぁ・・・。)

「へぇ〜こんこんって物知りなんだね。」

うつむいて照れている紺野の様が可愛らしい。

他にも紺野の案内でアブラナが一面に咲く場所やウサギの親子の巣穴、
クワガタがたくさん落ちてくる木など辻の知らない場所ばかり案内された。
この土地で暮らしている辻よりも紺野はこの森に詳しかった。


湖の側まで戻ってきた頃には、
茜色の空でカラスが能天気に鳴いていた。

「そろそろ帰らなきゃ・・・。こんこんはどこに泊まってるの〜？
途中まで一緒に帰ろうよ。」

辻の問いかけに困ったような、悲しいような複雑な表情をみせる紺野。

「わたしもう少しここにいる・・・。」

「そっかぁ〜。」

「・・・ごめんなさい。」

「あ〜またそうやって謝るー。なんにも悪いことしてないじゃん。」

「わたしよくドジして叱られちゃうから・・・。ごめ・・・」

「ほら、また！」

辻が大声を出して指差したので紺野は言葉につまってへんてこりんな顔になった。
それが可笑しくて辻は涙が出るくらい笑った。
笑いながら紺野を見てみると、紺野もつられてクスクスと笑っているようだ。

「んふふふ、じゃあわたし帰るね〜。
家の人が心配するからこんこんも暗くなる前に帰るんだよ。」

辻が背を向けようと振り返る途中、悲しそうな顔の紺野が見えたような気がした。

「待って・・・！」

背を向けきった時、ふいに紺野に腕を捕まれ呼び止められた。

振り返る辻

目の前にオレンジの色を浴びた紺野の顔

空から降ってくるカラスの歌


「なんで・・・ののちゃんはわたしに優しくしてくれるの？」

「えっ？」

突然の紺野からの質問に面食らった辻だったが、
少しの間を置いて答える。

「ん〜〜〜っと、こんこんが優しくしてくれた・・・からかな。」

二人が向かい合ったまま、数秒か、数分かの時が過ぎた。

だた夕焼けに照らされた紺野の大きな瞳が
湖の水面みたいにキラキラと輝いている。

「また・・・ここであえるかな・・・？」

先に口火を切ったのは紺野のほうだった。

「うん！きっと。・・・それじゃあね、バイバイ！」

大きく頷きながら、辻。

歩き出した辻の後ろから、聞き取れない程の小さな声で紺野がつぶやいた。

「ありがとう・・・。」