【小説】(　´�D｀) 〜のの、の夏休み〜(　´�D｀)

「あさ美ちゃんか〜ありがとー。包帯巻くの、上手だね。」

「わたし、よく転んだりしてケガしちゃうから・・・慣れてるの・・・。」

頬を赤らめる紺野。
白いブラウスに薄紫色のスカート、
今風とはいえない服装がなんだか妙な気品を漂わせている。

「この辺の子じゃないよね？」

「うん。夏休みに・・・パパと遊びに来たの・・・。」

辻にはわざわざ夏休みにこんな田舎の町へ遊びにやってくるなんて
よくわからなかったが、都会で暮らし慣れた人達にはこの町の空気やら
自然やらが癒しとかいうものになるということは聞いたことがあった。

「そうなんだぁ〜。」

ピピピピピピピ・・・

突然辻の携帯電話から着信音が鳴った。

誰からだろう？

ケータイの画面にはリカちゃん。の文字
石川からだ！辻は慌てて電話にでた。

「もしもし？うん、わかった。
うん、うん。わかったってば、じゃあね。」

電話の用件は予想通り早く帰って来いと言うものだった。
すっかり忘れてしまっていたがもう７時前、
ケータイを切ると辻は紺野の方に向いた。

「わたしもう帰らないと・・・。あさ美ちゃんケータイの番号教えてもらえる？」

「ごめんなさい・・・わたし持ってないの・・・。」

さっきよりさらに小さな声で申し訳なさそうに答える。

「そっかぁ〜。・・・じゃあ明日の3時頃ここで会える？」

「うん・・・いつもこの辺りで遊んでるから・・・。」

にっこりと笑う紺野に辻も笑顔で返す。

「それじゃあまた明日ここでね、バイバ〜イ！」

だんだんと遠くなっていく辻の背中を紺野はじっっと眺めていた・・・。

「ただいま〜。」

再び自宅に戻ってきた辻、今度は石川の靴もちゃんとあった。
玄関に腰掛け靴を脱いでいると居間から石川が顔を出した。

「いつまで遊んでたのよ、もう晩ご飯できてるわよ。」

シャワーでも浴びていたのか髪は濡れていてバスタオルを肩にかけている。

奥からのおいしそうな匂いにつられて居間へ入ると、
食卓には晩ご飯が並んでいて安倍と石川は既に座っていた。
辻が席に着くと伏せていた安倍がゆっくりと顔を上げた。
その顔は怒りに満ちている・・・。

「遅い・・・遅すぎるべ！なっちの料理が冷めちまったらどうするべさ！？」

「ち、ちょっと忘れ物しちゃって、えへへ。
いただきま〜す、あっこのコロッケおいし〜〜。」

「そうだべか〜？まだまだあるからいっぱい食べるべよ。」

辻のあからさまなお世辞に安倍の表情が変わった。
どうやら怒りもどこかへいってしまったようだ。

「忘れ物って？保田さんが言ってたけど森に入ってったんでしょ？」

茶碗を持ったまま箸を止めて聞く石川に口の中のものを飲み込んでから
答える。

「北の森に遊びに行ってたの・・・それでケータイ忘れちゃって。
でもなんで保田さんがぁ〜？なんだか怖い・・・。」

「こらぁ〜、顔は怖いけどいい子だべー圭ちゃんは。」

安倍と保田は同級生で仲が良いのだ。
ケラケラ笑っていた石川が笑いを堪えながら言う。

「北の森ってお化け屋敷があるとこでしょー？
そおいえばＡ組の柴田さん達が肝試しに行って幽霊を見たとか言ってたわね。」


えっ？


コロッケをつかもうとしていた辻の箸がピタッと止まった。
泣く少女の夢や窓辺の人影のことを思い出しゾッときてしまった。

「それってどんなお化けだったの・・・？」

「うーん、子供の霊だとか大男の霊だとかみんな言ってることバラバラだったから・・・。
まぁどうせ思い込みで何かと見間違えただけでしょ。」

大男なんて見てないけど夢の少女は・・・箸を口につけて考え込む辻。

「はいはい、片付け遅くなるから早く食べるべよ。
それとも二人が片付けてくれるんだべか？」

横から割って入ってきた安倍の言葉を聞いて二人は急いでまた晩ご飯を食べ始めた。



「はぁ〜〜〜、気持ちいい〜。」

モクモクと白い湯気の立つバスルーム。
お風呂に浸かりながら自然と出てしまった声がなんだかババ臭くて笑う。
包帯が濡れないよう右膝だけ湯船から出す体勢が少しツライ。

そおいえば包帯の間に挟まれた葉っぱはなんだったんだろう。
明日紺野に聞いてみようか。

お昼だったら幽霊も出ないだろうから一人で行っても大丈夫だ、
そう自分に言い聞かせ顔を湯船に沈めた。