【小説】(　´�D｀) 〜のの、の夏休み〜(　´�D｀)

まだ日が昇りきっていない朝の森を辻は歩いていた。
いつもはセミの声でうるさい森も今は辻の足音だけが響いている。
周りは明るいけれど静か過ぎることが少し薄気味悪かった。

「やっぱり誰もいないよね・・・。」

しゃがんで湖を覗き込む辻,水の鏡に自身の顔が映った。
なぜここに来たのだろうと自分でも思ってはいたが,
昨夜の夢のせいだろうか湖に行かないといけないような気がしていたのだ。

時々、鳥の鳴き声が遠くで聞こえるたびに辻は顔をあげる。
待っていても何も現れるわけでもない。

もう帰ろうか・・・、そう思って辻が立ち上がった瞬間だった。
さっきまでとは違うピンと張り詰めた様な空気、そして感じる人の気配。

（後ろに誰かいる・・・？）

それはあの屋敷で何度か感じた視線と同じもの。
そしてあの時よりずっと近くで感じる。
ぷつぷつと聞こえていた鳥の鳴き声もぷっつりと聞こえなくなった。
まだ肌寒いのに脇の下の辺りが汗ばんでくる。


ののちゃん・・・

たったの一声だった。
たったの一声で張り詰めていた空気が崩れる。それは紺野の声。

振り返った辻は穏やかな紺野の表情で少し安堵したがすぐ別の緊張が襲ってきた。

「なん・・・で？」

なんで待ち合わせもしてなにのにこんな時間にいるの？

なんで足音もたてずにすぐ後ろにいるの？

なんであのお化け屋敷で消えちゃったの？

なんであの時感じた視線がこんこんと同じなの？

辻は知らず知らずに後ずさりしていた、
畏怖する物を見る様な辻の目を見て紺野の表情が変わっていく。
紺野が何か言をうと口を開きかけた時、辻が背を向けて走り出した。

紺野の声は聞こえない、鳥の鳴く声も聞こえない、自分の足音だけが聞こえていた。


一度も振り返ることなく家に戻ってきた辻はバスルームに飛び込んだ。
頭上から振る湯に打たれながら辻は何度も繰り返していた。

なんで、なんで、なんで…

「ののーー！亜依ちゃんが来てるべよ〜！」

安倍の呼ぶ声でベットからのっそりと起き上がる辻。
あれから何をすることなくもう夕暮れ時になってしまっていた。

寝起きみたいに重い体を動かし階段を下りていくと玄関で加護が待っていた。

「元気やったかぁ？」

3日前と変わらない加護の顔を見て辻の顔がほころぶ。少しだけ涙目になった。

「うん!」

今の精一杯で声を張って応える。

「今帰ってきたところなんやー、これお土産やで。」

加護から差し出された袋から中身を取り出すと、
ブサイクな人形のキーホルダーとたこ焼き・・・まんじゅうが出てきた。

「ありがと・・・、ねぇ良かったら上がってかない？」

「ん〜、今日は疲れてるしまた明日でも遊びに来さしてわー。」

本当はもっと一緒に居て欲しかった、でも言えなかった。

「そっか、じゃあね・・・。ゆっくり休んでね。」

加護を見送った後いつもならすぐに手をつけるお土産のお菓子を安倍に預けて
辻は自分の部屋に戻った。

お土産の人形をぎゅっと握り締める、ピエロみたいな人形の顔を見ていると少し、元気が沸いてきた。