749 :
辻っ子のお豆さん:
私達は手分けして愛ちゃんを探すことにした。亜弥は校庭の方へ、真里は校舎内部へ、
私は玄関付近から探索を始めることにした。愛の顔を知らない圭ちゃんは仕方なく私と同
行することにした。
「あれは?」
すると圭ちゃんが生徒玄関を指差した。その指の先には一人の女子生徒がいた。見覚え
のある娘、そうだあの子は確か生徒会長の福田明日香さん。声を掛けると福田はペコリと
会釈をした。相変わらず無表情である。彼女も私達が訪れることを知っているので、特に
不信な眼で見られることはなかった。
「あゆみなら、まだ上の生徒会室にいますよ」
「ありがと、でもその前に高橋愛って子探しているんだけど、知らないかなぁ?」
福田は首を傾げてみせた。どうやら知らないみたいだ。校舎を仰ぎ見ると一つだけ明か
りの点いた部屋がある。あそこが生徒会室なんだろう。その他にの部屋は全て真っ暗であ
る。一体、愛はどこにいるんだろう?
「ここから事件現場の部屋って見えるの?」
何気ない感じで圭ちゃんが尋ねてきた。夕凪女子校は玄関側の南校舎と裏側の北校舎の
二つがあり、現場の理科準備室は南校舎2F右端にあるので、この位置からも見えるはず
である。ちなみに明かりの点いている生徒会室は南校舎2F左から3番目の部屋である。
北校舎と南校舎は中央の渡り廊下で繋がっており、上から見るとHを横に倒した様な形に
なっている。だからこの位置からは、裏側にある北校舎の様子は窺い見ることはできない。
「見えますよ。ほら、あそこ」
圭ちゃんの問いに福田が答えた。その指の先は2Fの左端を差している。その時二人の
顔に同時に変化が起きた。圭ちゃんはあれっと軽く眉をしかめただけであったが、福田は
それまでの無表情から一変、その顔が青ざめていた。そして叫んだ。
「石川さん!!」
私も思わず振り返る。消息を絶っていた殺人犯、石川梨華が暗闇に包まれた事件現場の
窓から、こちらを見下ろしていたのだ。
私達が気付いたことを知ると、すぐに石川は回れ右をして姿を消した。
「あの子が犯人の石川!?逃がすな!」
圭ちゃんが叫ぶ。と同時に私は玄関の方へと走り出していた。圭ちゃんと福田も後に続
く。本当に犯人であろうがなかろうが、彼女がこの事件の重要参考人であることに変わり
はない。ずっと姿を消していて、ようやく現れたんだ。絶対に逃す訳にはいかない。私達
は全速力で校舎内へと踏み込んだ。
「あ!校舎内は土足厳禁です。」
「そんな場合じゃない!!」
生真面目な生徒会長の福田が外靴のまま入館した私達を注意する。おいおい、靴を履き
替えている時間なんてないだろ。相手は殺人犯かもしれないんだぞ。私と圭ちゃんは注意
胃を無視して階段を駆け上がった。階段を上がるとT字路になっている。北校舎へと続く
渡り廊下と南校舎の左右へと伸びる廊下。私達は迷わず理科準備室のある右方向へと駆け
出した。
いない。私と圭ちゃん、そしてちゃんと上履きに履き替えた福田明日香の3人で理科準
備室付近を見て回るが、石川梨華どころか誰の姿も見当たらない。
「もう逃げたんじゃ?」
「他も探そう!」
私達はまたさっきのT字路へと戻って来た。すると騒ぎを聞きつけたのか、生徒会室か
ら一人の娘が顔を出してきた。福田が「あゆみ」と声を掛けた。見たことのある顔、そう
だ事件の翌日、聞き込みに石川梨華のクラスを訪れたとき、少し会話を交わしたあの美人。
彼女が柴田あゆみだったのか。福田が柴田に問い掛ける。
「ねえ、石川さんを見なかった?」
「梨華ちゃん!?ううん、だってあの子がここにいるはずないでしょ。」
「それがいたの。あの部屋に!」
「嘘!でも、そういえば、さっき誰かの足音がした様な…」
「その足音、どっちにいったかわかる?」
「多分、北校舎の方」
私と圭ちゃんと福田明日香、さらに柴田あゆみを加えた4人で、渡り廊下を越え北校舎
へとやってきた。人気の無い夜の学校、一体石川はどこへ逃げたんだ?再びT字路に差し
掛かる。さらに1Fと3Fへの階段もある。逃げるとすれば普通下へ行くはずだ。下には
真里と亜弥もいるはずだ。もしかすれば彼女たちが見つけて捕まえてくれるかもしれない。
その時、ジャーと水の流れる音が聞こえた。トイレだ。私達は一斉にトイレへと駆け込ん
だ。個室のドアが一つ閉まっていて、中に人の気配がする。
1.石川梨華がウンコをしている
2.藤本美貴がウンコをしている
3.高橋愛がウンコをしている
4.この三人がウンコをするはずがない