720 :
辻っ子のお豆さん:
その日の夜、お腹を空かせた私と真里を待っていたのは、ニコニコ笑顔の愛ちゃんだった。
「ただいまー。」
「おかえり」
「おかえり」
「エヘヘ〜次の日曜にデートの約束しちゃった」
真里なつみ突撃。
「よーしコノヤロー!」
「いっぱーつ!にはーつ!さんぱーつ!」
「ギブギブギブッ!!」
真里に首を絞められた状態で尻叩き。さらに私はくすぐりの刑に移り、とどめは真里の
電気アンマ。愛ちゃんは昇天した。とてもあんな言葉を洩らした優しいお姉ちゃんには見
えなかった。バカだった。本当にバカで平和な夜だった。
私も真里も愛も、誰もまだ知らない。これが最後の夜になること。
夢を見た
「マキ」と名乗る娘の夢
どこかいつもと様子が違う
何かを言っている
『あの……で……いる』
よく聞き取れない
貴方は私に何かを伝えようとしているの?
それはもしかしてすごく大切なこと?
お願い、聞かせて、教えて、あなたは一体何を…
『あの場所で待っている』
そこで夢は消えた
翌日、私は柴田あゆみを尋ねる為にもう一度夕凪女子校へ向かうつもりでいた。ところ
が急な仕事が舞い込んで来て、中々その時間ができなかった。仕事を終えた頃にはもう日
が沈もうとしていた。
「あー今日はもう無理かなぁ」
「おいらが美貴っちの携帯掛けて、確認したげるよ。」
机上に顎を乗せてため息をついていると、真里が助け船を出してくれた。それにしても
携帯番号まで交換していたとは、さすが真里だ。
「ヤッホーおいらおいら、まだいる。うん、今から行くから、よろしくねー」
「ポカーン」
「まだ美貴っちも柴田も残ってるって。行こっか。」
賞賛すべき手際の良さで、瞬く間に約束をとってしまった。鈍臭い私と違って、ホント
たいしたもんだよあんたは。一人で行くつもりだったんだけど、どうやら話し振りからす
ると真里も行くみたい。持つべき物は相棒だねぇ。そうだ、どうせならあの人にも協力し
てもらおうか。
時計は午後8時に指しかかろうとしていた。日の入りが遅い夏場と言えど、流石に辺り
が暗闇に満ちる時刻である。私と真里と圭ちゃんの三人は、静寂が包む夕凪女子校の前へ
と到着した。
「なんで私まで付き合う羽目になる訳?」
「まあいいじゃん、かわいい後輩を助けると思って協力してよ、圭ちゃん。」
「どうせ暇なんでしょー」
「コラ、おチビ!この目の下のクマが目に入らぬか!」
怒った振りをしながらも、ちゃんと一緒に来てくれるのが圭ちゃんの優しい所だ。鑑識
課の彼女がいれば、また新しい情報が手に入るかもと思い、同行を頼んだ。もっとも死体
発見現場の理科準備室付近はあらかた調べ尽くされているが。その時、先頭を歩いていた
真里が誰かを見つけたみたいだ。
「おろ、あれ亜弥じゃん。」
生徒玄関の周辺で亜弥ちゃんが一人ウロウロしていた。どうしたのだろうと思い、私達
は声を掛け様としたが、こちらの存在に気が付くと、向こうから駆け寄ってきた。
「真里さん。なつみさん。どうしてここにいるんですかー?」
「あんたこそどうしたのさ。夏休みだろ?」
「チア部の練習で来たんです。」
「もう8時だよ。こんな遅くまでやってるの?」
「いえ、練習は7時に終ったんですけど、愛が見当たらないんです。」
「見当たらない?」
「一緒に帰る約束してたのに、練習の後どこかに行っちゃって…」
「それで探してたって訳か。まさか先に帰ったりとか。」
「それはないですよ、下駄箱に靴もありますし。まだ学校にいるはずです。」
「しょーがねー奴だな。わかったよ、おいらも探すの手伝うよ。」
1. 私も手伝う
2. 真里に任せて、柴田あゆみに会いに行く
3. 藤本美貴をマークしに行く