637 :
辻っ子のお豆さん:
(犯人は藤本美貴だ)
私の刑事としての直感がそう言っていた。いい人そうな面をして、きっと裏ではとんで
もない事を考えている様な女に違いない。油断してはいけない。
「何にも言わないってことは、やっぱり石川さんが犯人なんですね?」
「え?ああ、そうね。」(犯人はあんたでしょ、白々しいこと言っちゃって)
私は適当に相づちを打ってごまかした。まだ言えない。藤本美貴が犯人であるという決
定的な証拠を掴み取っていない。直感だけで指摘しても言い逃れされるだけだ。私は密か
に藤本をマークして、尻尾が出るのを待つことに決めた。
「石川さんのことなら、私より柴ちゃんに聞いた方がいいすよ。」
「え、柴ちゃん?」(何、突然、罠か?)
「そう、友達のいない石川さんが仲良くしてたの柴ちゃん、柴田あゆみだけだったから。」
しばたあゆみ……?どこかで聞いた様な名だ。どこだったか、思い出せない。
私が考え込んでいると体育館の扉が開き、そこから一人の女生徒が顔を覗かせた。落ち
着いていて利発そうに見える子だ。
「美貴、練習の後、生徒会室に来て。」
「学祭の打ち合わせ?うん、わかった。福ちゃん何してんの?」
「図書室で受験勉強。」
「うげ〜聞きゃなきゃ良かった。耳が痛い。」
美貴は耳に手を当ててうずくまった。福ちゃんと呼ばれた娘は、それだけ言うと表情も
変えずにまた扉を締め出ていった。私には目もくれなかった。
「誰?今の子?」
「福ちゃん。福田明日香。うちの生徒会長だよ。ちなみに副会長が私っす。」
(お前のことなんか聞いてねえよ、この人殺し!)
(ん、待てよ。あの子ならこの藤本の本性を知っているかもしれない)
(よし、次はあの福田って子に聞き込みしよう)
「じゃあ美貴ちゃん、私そろそろ行くね。」
「えー、伝説の続きを直に色々聞きたかったなー。また来て下さいね。」
「うん、絶対また会いにくるから。」(次は逮捕状を持ってね)
「ちょっと待ってー、福田さーん。」
体育館と校舎を挟む脇道で、私は黙々と歩く福田さんを大声で呼んだ。彼女はやはり、
表情一つ変えず振り向いた。
「なにか?」
「私、朝日奈署の安倍って言うんだけど、少しお話いいかな。」
「また村田先生の件ですか。あれはもう解決したんじゃないの?」
「違うの、ちょっと藤本さんについて聞きたいの。」
「美貴のこと?どうして?」
ようやく表情が変わった。どうにも不信そうに見られている。そりゃそうだ、質問がま
ずかった。なんとかごまかさないと。
「え、えーと、だ、第一発見者だから…」
「さっき美貴とお話してましたよね。本人に聞いた方が早くないです?」
難しい子だ。揚げ足を取られてばかりである。
「それもそうねアハハハ、じゃあ村田先生について聞いてもいいかな。」
笑ってごまかす。やっぱり不信そうな眼で見られている。犯人である藤本美貴の情報は
得れそうにない。これじゃ意味ないよ。福田さんは不信がりながらも、私が刑事であると
いうことで、仕方なさそうに話してくれた。
「村田先生はあまり生徒に人気はある方ではなかったですよ。男性教師には別ですけど。」
「美人だったから?嫉妬?」
「でしょうね、それで石川さんと揉めたりしたのが原因じゃないですか?」
「ふーん。」(それで藤本と揉めたのかも)
「生徒と授業以外で話してる所なんて、ほとんど見たことないですよ。あ、でも一人…」
「一人、いるの?」
「あゆみ。柴田あゆみと話してる所を何度か目撃しました。内容は知りませんけど。」
またその名前が出た。柴田あゆみ。どうやらこの娘が何かを握っているのは間違いない
様だ。石川梨華と柴田あゆみ。柴田あゆみと村田めぐみ。この間にどの様な関係があるの
かはまだ分からないけど、謎に一歩近づいた様な気がした。
「あゆみなら、今日はバイトで来れないけど明日は来れるって言ってました。」という
福田さんの話から、今日はもう夕女を出ることにした。署に戻り、決められた仕事をこな
す。朝の手紙騒動などもう皆忘れているみたいで、それぞれの仕事に追われている。
「なっちー、帰ろ。」
夕方、真里に誘いと共に定時であがる。署の門を出て、いつも通り大通りを歩いている
と、前方に見覚えのある後ろ姿が見えた。亜弥ちゃんだ。電信柱の裏に隠れて、何かを尾
行しているみたいだ。
「亜弥じゃん、何してんの?」
真里が声を掛けると、ビクッと肩を震わせた亜弥が口元に指を立てシーッと私達に合図
した。そしてどこかを指差している。私達は指差す方向を覗いてみた。マックの中で愛が、
見知らぬ男子と二人でおしゃべりしていた。
1. まさか彼氏!
2. ただの男友達だろう
3. 愛を誘拐しようと企む犯人だ!