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辻っ子のお豆さん:
〜第五話 赤の章 第二の殺人〜
夢を見ている
またいつものあの夢だ
一人の娘の影が、じっとこちらを見詰めている
あなたは誰…?
私が問い掛けると、彼女は決まってこう答える
「…マキ」
マキって誰よ
いつもと変わらぬ朝が来る。真里に叩き起こされて、愛が作った朝食を食べ、家を出る。
私立夕凪女子校殺人事件から一週間が過ぎた。犯人も確定し捜査は一先ずの終了を向かえ
た。だが、犯人とされる石川梨華の行方は未だ掴めずにいた。
「あれえ、今日は亜弥ちゃん来ないの?」
一緒に登校する為訪れる愛の親友の亜弥が、いつもならとっくに来ている時間だ。だが
今日は一向にその気配がないので、おかしいと思った真里が目玉焼きを咥えながら言った。
すると愛が嬉しそうに答えた。
「もーお姉ちゃんたら、うちら今日から夏休みだもん。」
大通り沿いに一際目立つ真っ白で大きな建物が立っている。この建物が夏休みを迎える
ことはない、常に誰かが動き回っている。門には朝日奈警察署の名。私と真里は、今朝も
この門を駆け足でくぐる。
「チーッス、お二人さん。」
玄関を抜けたばかりの廊下にて、声を掛けてきたのは一つ年上の保田圭巡査、対等に話
せて相談にも乗ってくれる先輩だ。私と真里は敬愛を込めて圭ちゃんと呼んでいる。圭ち
ゃんは廊下に置かれたベンチに座りスポーツ新聞を広げていた。どうやらまたベッカムの
記事をチェックしている様だ。先月のW杯以来彼女はイングランド代表のベッカムにすっ
かりはまっている。意外とミーハーな性格の様だ。
「圭ちゃ〜ん、若い女が足組んでスポーツ新聞なんか広げてないでよ〜。」
「なによぉ矢口、私の勝手でしょ。」
「なんか不機嫌だね、やな事でもあった?」
「女子校が解決したから、また例の厄介なバラバラ事件担当に逆戻り。やんなっちゃう。」
なるほど、道理でやさぐれているはずだ。そっとしておいてあげよう。
捜査第一課室に入ると、小さな人だかりができていた。数人の刑事が輪を作っている。
その中には圭織の姿もあり、その手には一枚の封筒が握られていた。
「特に仕掛け等はなさそうですね。」
圭織が茶色い封筒を軽く振りながら言った。私と真里は何があったのかと、近くにいた
中居巡査部長に尋ねた。中居巡査部長は茶髪で一見チャラチャラしてる様に見えるが、実
はなかなかの切れ者で、課長にも一目置かれている。頑固な人が多いこの課では、どちら
かというとまだ話し掛け易い方だ。
「なんかよー。届主も宛名もない封筒が届いたんだってよ。」
吐く息で前髪をふわりと上げながら、中居さんはぶっきらぼうにそう言った。私はもう
一度圭織の方に向き直った。ちょうど圭織が封筒を破ろうとしている所だった。
1. じっと見守る
2. 嫌な予感がするので、圭織を止める
3. 「それ私宛です!」強引に封筒を奪い取る。