528 :
辻っ子のお豆さん:
これはすべて現実だ。
真希さんが何かを叫んでいる。
みんな死んだ。お父さんもお母さんもお姉ちゃんもあいぼんも、みんな死んだ。
私は生きている。
何もかもすべてを失ったこんな状況でも、私は生きている。
火の手が徐々に近づいてきた。
機体後方部の入り口から、真希さんが私に向かって腕を伸ばす。
確かに聞こえたあいぼんの声。
(のの、生きろ)
あれもこれも全部、夢でも幻でもない、現実なんだ。
私は生きる。
あいぼん、私は生きるよ。
私は手を伸ばし、真希さんの手と私の手は重なった。
支えを失った飛行機は大きく傾き始めた。
それを合図に大爆発を起こし、機体は跡形もなく吹き飛んだ。
ザパーン。
波はまたいつものリズムを取り戻す。何十億年も繰り返し続けてきたそのリズムを。波
の隙間から小さな丸が二つ浮かび上がる。大きい方の丸が小さい方の丸を抱えながら、二
つはふらふらと浜へ動き出した。
爆発の刹那、私達は真希さんが入って来た後方部の出口から海へ飛び降りた。
(よく考えたら出口が一つの訳ないよね。勝手に閉じ込められたと勘違いしてたみたい)
直に爆発の衝撃を受けない様に海中に潜り込んだんだ。海中を上下左右に揺さ振られなが
らも、私は必死で真希さんの体にしがみ付いた。生きるんだ、ただそれだけを信じながら。
真希さんに抱えられながら、私達は海岸へと辿り着きました。力尽き、波打ち際でペタ
ンと腰を下ろしました。私は真希さんの胸の中で泣き続けていました。抑えていた気持ち
が一度に吐きでた様に泣き続けました。そんな私の頭を優しく撫でながら、真希さんは言
いました。
「私が、あんたの生きる支えになってやる。」
私はまた泣きました。
〜第四話 終〜