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辻っ子のお豆さん:
里沙をおぶったよっすぃー、あさ美ちゃんを担いだ梨華さんと麻琴ちゃん。その場にい
た全員が、突然の爆発に身を震わせ逃げ出そうと駆け出したのです。だけど、私だけは火
の手があがった飛行機の方へと走り出していました。でも入り口付近で強引に腕を掴まれ
て、砂浜に蹴躓いてしまった。私の腕を掴んだのは真希さんでした。
「あんたバカ?死ぬ気?」
「中に!中にまだトモダチがいるかもしれないのっ!」
いくら真希さんでも、これだけは譲れない。
あいぼんを放っておいたまま逃げるなんてできない。
私は腕を振り解き再び走り出しました。あいぼんが生きているなんて確証はどこにもな
い。もう生き耐えている確率の方が圧倒的に高い。もし生きていたとしても、すでに自力
で脱出しているかもしれない。だけど……だけど、まだ中であいぼんは苦しんでいるかも
しれない。ののが助けに来るのを待っているかもしれない。そう思うと、それがたとえど
んなに小さな可能性でも、私は止まれなかったんです。
「希美!」
後ろで麻琴ちゃんの声が聞こえた気がしました。
(止まっちゃったなら、私じゃない!)
(私は辻希美だよ。だからあいぼんを助けるんだ!)
暑い。それが最初に思ったこと。何百という屍を焼き尽くす無情の炎、それは地獄絵図
と呼ぶに相応しかった。金属の機体がへしぐ音、火の燃え揺らぐ音が、まるで死者達の悲
鳴に聞こえ、私の心を恐怖という金網で縛り付けようとしていました。現実はそんなに甘
いものではありませんでした。さっきまでの勢いがウソみたいに掻き消されてゆく。体が
震えて動かなかった。死という名の釘を、ありのまま全身に打ち付けられみたいでした。
怖い…
無理だよ…
こんな中から誰かを探すなんて…
死ぬ…
逃げよう…
今ならまだ間に合う…
あきらめ…
(のの……)
聞こえた!
確かに今聞こえた。これだけの轟音のなかで聞こえるはずがないけれど聞こえた。
あいぼんが私の名前を呼んだ。あいぼんが私を待っている。あいぼんは生きている!
「あいぼーーーーーーーん!!!どこぉーーーーーー!!!」
私は声の限りを尽くして叫びました。機体の奥へと駆け出しました。もう一度大声で叫
びました。喉が潰れるまで叫ぶ気でいました。
ズドドドドン!!!
そのとき爆音と共に前方部が二度目の爆発を起こしたのです。風圧だけで私は廊下に張
り倒されました。そのせいで、べちゃっと生暖かい液体の中に顔から落ちてしまいました。
手や服が、どす黒い赤に変色していました。音のした方に振り返ると、私の入って来た隙
間にもう火の手があがっていました。脱出口が塞がれたのです。
もう何が何だかわからくなっていたのかもしれません。
「あいぼおおおおおおおおおおんん!!!」
それでも私はひたすらに彼女の名を叫び続けました。
行く手を遮る椅子を、荷物を投げ飛ばしながら、奥へと。
もう感覚も麻痺していました。
死体を怖いと思いもしなくなっていた。ただ邪魔なだけだと。
行く手を遮る屍の山を乗り越えて、あいぼんの名を叫び続けた。
もう逃げ出すこともできないのに。
見つけても死を待つしかできないのに。
いや、それでもいい。
あいぼんと一緒なら死んでもいい。
(死ぬなんて言うな!)
あの人の言葉が一瞬聞こえた気がしました。
全身に寒気が走った。
無造作に、見覚えのある靴が転がりおちていた。持ち主の足を含んだまま。
ただ踵から上が見えなかった。
私の身長程もあるガレキの山が積み上がっていた。そこから靴だけが出ていた。
あいぼんの靴だった。
「うわああああああああああああああ!!!!!」
私は悲鳴を上げながら、ガレキの山に走った。
気が狂った様に夢中でガレキを取り除こうともがいた。
もがいてもがいて、泣いて、またもがいた。
靴はピクリとも動こうとしなかった。
ガレキを払いのけながら、泣きながら、無意識で私は歌を口ずさんでいた。
もがきながら、泣きながら、口ずさんでいた。
1.Do It!Now
2.I wish
3.恋をしちゃいました!