サウンドノベル5「赤と青」

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476辻っ子のお豆さん
 里沙をおぶったよっすぃー、あさ美ちゃんを担いだ梨華さんと麻琴ちゃん。その場にい
た全員が、突然の爆発に身を震わせ逃げ出そうと駆け出したのです。だけど、私だけは火
の手があがった飛行機の方へと走り出していました。でも入り口付近で強引に腕を掴まれ
て、砂浜に蹴躓いてしまった。私の腕を掴んだのは真希さんでした。

「あんたバカ?死ぬ気?」
「中に!中にまだトモダチがいるかもしれないのっ!」

いくら真希さんでも、これだけは譲れない。
あいぼんを放っておいたまま逃げるなんてできない。

 私は腕を振り解き再び走り出しました。あいぼんが生きているなんて確証はどこにもな
い。もう生き耐えている確率の方が圧倒的に高い。もし生きていたとしても、すでに自力
で脱出しているかもしれない。だけど……だけど、まだ中であいぼんは苦しんでいるかも
しれない。ののが助けに来るのを待っているかもしれない。そう思うと、それがたとえど
んなに小さな可能性でも、私は止まれなかったんです。
「希美!」
後ろで麻琴ちゃんの声が聞こえた気がしました。
477辻っ子のお豆さん:02/08/22 16:04 ID:utebF0VP
(止まっちゃったなら、私じゃない!)
(私は辻希美だよ。だからあいぼんを助けるんだ!)

 暑い。それが最初に思ったこと。何百という屍を焼き尽くす無情の炎、それは地獄絵図
と呼ぶに相応しかった。金属の機体がへしぐ音、火の燃え揺らぐ音が、まるで死者達の悲
鳴に聞こえ、私の心を恐怖という金網で縛り付けようとしていました。現実はそんなに甘
いものではありませんでした。さっきまでの勢いがウソみたいに掻き消されてゆく。体が
震えて動かなかった。死という名の釘を、ありのまま全身に打ち付けられみたいでした。

怖い…
無理だよ…
こんな中から誰かを探すなんて…
死ぬ…
逃げよう…
今ならまだ間に合う…
あきらめ…

(のの……)
478辻っ子のお豆さん:02/08/22 16:05 ID:utebF0VP
聞こえた!
確かに今聞こえた。これだけの轟音のなかで聞こえるはずがないけれど聞こえた。
あいぼんが私の名前を呼んだ。あいぼんが私を待っている。あいぼんは生きている!

「あいぼーーーーーーーん!!!どこぉーーーーーー!!!」

 私は声の限りを尽くして叫びました。機体の奥へと駆け出しました。もう一度大声で叫
びました。喉が潰れるまで叫ぶ気でいました。

ズドドドドン!!!

 そのとき爆音と共に前方部が二度目の爆発を起こしたのです。風圧だけで私は廊下に張
り倒されました。そのせいで、べちゃっと生暖かい液体の中に顔から落ちてしまいました。
手や服が、どす黒い赤に変色していました。音のした方に振り返ると、私の入って来た隙
間にもう火の手があがっていました。脱出口が塞がれたのです。
479辻っ子のお豆さん:02/08/22 16:06 ID:utebF0VP
もう何が何だかわからくなっていたのかもしれません。

「あいぼおおおおおおおおおおんん!!!」

それでも私はひたすらに彼女の名を叫び続けました。
行く手を遮る椅子を、荷物を投げ飛ばしながら、奥へと。
もう感覚も麻痺していました。
死体を怖いと思いもしなくなっていた。ただ邪魔なだけだと。
行く手を遮る屍の山を乗り越えて、あいぼんの名を叫び続けた。
もう逃げ出すこともできないのに。
見つけても死を待つしかできないのに。
いや、それでもいい。
あいぼんと一緒なら死んでもいい。

(死ぬなんて言うな!)

あの人の言葉が一瞬聞こえた気がしました。
480辻っ子のお豆さん:02/08/22 16:11 ID:utebF0VP
全身に寒気が走った。
無造作に、見覚えのある靴が転がりおちていた。持ち主の足を含んだまま。
ただ踵から上が見えなかった。
私の身長程もあるガレキの山が積み上がっていた。そこから靴だけが出ていた。
あいぼんの靴だった。

「うわああああああああああああああ!!!!!」

私は悲鳴を上げながら、ガレキの山に走った。
気が狂った様に夢中でガレキを取り除こうともがいた。
もがいてもがいて、泣いて、またもがいた。
靴はピクリとも動こうとしなかった。
ガレキを払いのけながら、泣きながら、無意識で私は歌を口ずさんでいた。
もがきながら、泣きながら、口ずさんでいた。

1.Do It!Now
2.I wish
3.恋をしちゃいました!