454 :
辻っ子のお豆さん:
後藤真希。それが私の胸を熱くさせる人の名前です。まだ名前しか知らない。どこから
来て、何が好きで、どんな人生を歩んできたのか。もっとあなたのことを知りたい。いっ
ぱいいっぱい知りたい。だけど直接聞くなんて恥ずかしくてできません。だから間接的に
それとなく真希さんの事を聞いてみようと思い、私は梨華さんの隣まで足を速めました。
「ねえねえ梨華さん。」
「なあに?希美ちゃん。」
私は他の人に聞こえない様に小声で梨華さんの耳元に囁きかけました。梨華さんもそれ
に応え小さい声で聞き返してくれました。
「梨華さん達はどういう関係なの?」
遠回しで芯に迫る質問。考えに考えた結果出た問いかけがそれでした。
「トモダチだよ。ちょっと特別な。今はバラバラの場所で暮らしてるんだけど。」
そう答えた梨華さんの横顔は、少し寂し気に見えました。
何かを思い出したのか、遠い目をした梨華さんはそれきり黙り込んでしまいました。先
頭の真希さんは、相変わらず黙々と草木を掻き分け道を作っています。私は里沙ちゃんを
おぶって歩くひとみさんに声を掛ける事にしました。
「ねえねえ、ひとみさん。」
「よせよ、ひとみさんなんて気持ち悪い。よっすぃーって呼んで。」
「よ…よっすぃー。」
「OK!何だいベイベー。」
こんな状況だというのに、なんて能天気な人なんだろうと思いました。でもそんな能天
気な明るさが、今の私達には一番必要な物なのかもとも思いました。よっすぃーの大きな
背中で気持ち良さそうに、里沙ちゃんは寝息を立てていました。
「よっすぃー達はどういう関係なの?」
「うちらはね、同じ孤児院で育った孤児なんだ。」
まるで他人事の様に、彼女はあっけらかんと答えました。しかも大きな声で。当然、そ
の内容は他の人達の耳にも入る事になりました。
麻琴ちゃんは素直に驚いていました。さっきまで遠くを見詰めていた梨華さんは、少し
困った顔でよっすぃーを睨んでいました。真希さんは変わらぬ様子で草木を掻き分けてい
ました。
「も〜よっすぃーは。わざわざ話すことないでしょ。」
「別に隠すことないだろ、ねーごっちん。」
「どっちでもいいんじゃん。」
「ほら〜、ごっちんもああ言ってる。」
「言ってないでしょ、も〜よっすぃーはこれだから…」
梨華さんはやれやれとため息をついて引き下がりました。それを見たよっすぃーはさら
に話を聞かせてくれました。
「うちら3人は孤児院でもいつも一緒でね。小さい頃からずっと仲良しだったんだ。」
「へー、のの達みたい。」
「だけど中学を卒業したら院を抜けなきゃいけなくってさ。それで今は離れ離れ。」
「そんなのかわいそー。」
「だから、こうしてたまに集まって一緒に遊んだり旅行したりしてたんだ。」
違う街で、違う高校で、はなればなれの生活。そんななか、ひさしぶりに三人揃っての
旅行。しかも行き先は初めてのハワイ。楽しい思い出をいっぱい作るはずだった。だけど
それは一瞬にして悲劇へと変化を遂げた。
それでもこれだけ明るく振る舞っているよっすぃーを、私は凄いと思いました。
「見えた。」
真希さんの声に全員が前方に向き直りました。青い海岸線と白い砂浜が眼光に広がって
いました。きっとそれはとんでもなく素敵な景色に違いなかったのでしょう。あの残骸さ
えなければ。数時間前まで私達を乗せていた物体が海岸線いっぱいに横たわっていました。
「あさ美ちゃん!」
さっきと同じ場所に、さっきと同じ姿であさ美ちゃんは横になっていました。私は駆け
出しました。後ろの皆も後に続いて来てるみたいです。私はあさ美ちゃんの手を取りまし
た。その時です。
ボンッ!
機体前方部が勢い良く音をたてて爆発したのです。火の手が上がり、それは徐々に機体
後部へと移っていってます。
1. あさ美ちゃんを担いで急いでその場を離れる。
2. あさ美ちゃんを放っておいてその場を離れる。
3. 誰か生き残りがいるかもしれない。機内へ入る。