44 :
辻っ子のお豆さん:
もう対等じゃない気がして寂しかった。気にしたくはないけどどうしても劣等感を感じてしまう。駄目な自分への情けなさと悔しさが込み上げてくる。だから正直な所、彼女の顔をあまり見たくはなかった。
「ひさしぶりだね、安倍。」
私のそんな気持ちを知ってか知らずか(いや、知るはずないだろう)朝礼が終り、皆がまたそれぞれの持ち場へと分かれた後、いの一番に彼女は私の元へとやってきた。
(ほんとだね〜圭織。)
「そう……ですね、飯田……さん。」
その劣等感が私にそんな言葉遣いをさせたのだろう、ほのかな笑みを浮かべていた圭織の表情がうっすら曇った。
「なぁに敬語なんか使ってんだよ。うちらタメっしょ。」
「だけど、もう階級が違います。」
違うよ、そんなこと言いたい訳じゃないの。本当はまた圭織と同じ目線に立っておしゃべりしたり笑ったりしたいんだよ。本当は…
「ふーん、まぁいいや。」
特に気にした様子もなく、圭織はプイッと別の人の所へ挨拶に行ってしまった。
(まぁいいや?まぁいいやって何?やっぱり私の事なんかその程度の物なの?)
圭織との再会は、私にとって重く辛いものとなってしまった。
「どうしたんだよーなっち、朝からおかしいぜ。」
俯いて廊下を歩いていると、ちっちゃな真里がピョコピョコ跳ねながら背中を突っつい
てきた。私は思わず前に二三歩つんのめった。
「あの飯田ってのにイジメられた?何ならおいらがぶっとばしてやろうか?」
「そんなんじゃないよ、もう真里はぁー。」
誰かに聞かれでもしたら譴責もんだよまったく。でも上の人にも全く臆する事ない真里
のその態度が、少し羨ましくなってきた。そうだよね、元気が一番だよね。
「大丈夫、なっちは元気だよぉ。そうだ、午後は一緒にパトロール行こうか。」
私の提案に真里も首を縦に振った。
「いいねぇひさしぶりに、ついでに商店街の珍丼屋でラーメン食ってこう。」
「いいねぇ。」
お腹が空いていたので、思わずヨダレがでそうになった。
「おっし決まりぃ。ラーメンラーメン。」
真里はスキップしながら廊下を駆けていった。彼女のお陰でもやもやしていた気持ちが
すっきりした。いつもありがとね真里、あんたは最高の友達だよ。
「安倍、矢口、ちょっと。」
課長に突然呼ばれたのは、いざ巡回に出ようとした正午過ぎであった。
「なんすかぁ課長、うちら今からラー…じゃないパトロールに行くとこなんですけど。」
真里の怖い物知らずは充分承知の課長は、特に顔色を変えることなく続けた。
「お前等のどっちか、今から飯田警部補にこの辺の地理を教えてやれ。」
「えーなんでおいら達なの?」
「お前等が課で一番暇そうだろが。」
「あーじゃあ三人で行くってのは?」
「駄目だ、もう一人は署に残って書類整理をしてもらう。」
やれやれと、私と真里は顔を見合わせた。雑用も面倒だが、圭織と二人きりになるとい
うのも少し気まずい部分がある。
「どうする?」
「おいらはどっちでもいいよ。なっち決めて。」
1. ここは私が圭織の道案内をするべきだろう。
2. 真里に任せて、私は圭ちゃんの所にでも身を隠そうかな。
3. 申し出を頑なに拒み、意地でも真里と二人でパトロールに行く。