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辻っ子のお豆さん:
〜第四話 青の章 恋をしちゃいました!〜
「あんなあ、のの。」
「なあに、あいぼん。」
「ののは恋したことってある?」
「う〜ん。」
「うちな、実は…」
「コイはまだ食べたことないかなぁ。」
ガクッ
「池の鯉やあらへん!あんたに聞いたうちがアホやった。」
「恋なんてわかんないよ。ののは食べたり歌ったり踊ったりする方が好き。」
あいぼんの悩みを聞いたのは去年の冬頃。年齢ちょっと上の人にデートに誘われちゃっ
た、どうしようって内容でした。いつもの五人組が、あいぼんの家に集まって緊急会議。
あーだこーだと大騒ぎです。
「もっとさあ、大人っぽい髪型にした方がいいんじゃない。」
あいぼんのお団子を捏ねながら、麻琴ちゃんはしきりにそう提案していました。
「やっぱりピンクだよねぇ。」
里沙ちゃんはコーディネート担当。着替えて鏡を見たあいぼんが一言。
「こーでねーとぉ。」
言うと思ったよ。
「原宿はね。宇宙のどこにもない約束の口付けをする場所なんだよ。」
あさ美ちゃんはまた、どこから得たのかわかんない雑学を語り出します。
「ねーねー、このクレープおいしそ〜。」
私はと言うと原宿の情報誌を見てヨダレを垂らしている始末。そんな風に皆でワイワイ
やって、楽しかったよね。結局何にもまとまんないままデートの日。
「緊張で、よう覚えてへん。」
照れ笑いしながら帰ってきたあいぼんを囲んでまた大騒ぎ。
「あかんわ、うちもまだ恋はようわからん。みんなと騒いでる方が好っきゃねん。」
(あいぼん、これが恋なのかなぁ?)
ふと私は親友の顔を思い出しました。あの人の後ろ姿を見ているだけで、胸がドキドキ
します。まだ手にあの人の温もりが残っています。
(美味しいもの食べた時とも、好きな曲歌っている時とも、違う)
(教えてよぉ、あいぼん。)
「どったの希美?変な顔して。」
「うわぁ!」
突然横から麻琴ちゃんが顔を出してきたので、すっかり妄想に浸っていた私は思わず驚
いて大声をあげてしまいました。
「どうしたの希美ちゃん?」
「あっ、大丈夫です。ごめんなさい。」
梨華さんが私の声に反応し、声を掛けてくれました。私はすぐに謝りました。
「フフ、変な希美ちゃん。」
口元に手を当てて微笑む梨華さん。そんなちょっと仕草だけで、ため息が出るくらい綺
麗です。というか実際ため息をついてしまいました。
「なにやってのよ、あんたはもう。」
麻琴ちゃんに軽く腕を小突かれちゃいました。
梨華さん、ひとみさん、真希さんの三人に助けられた私達はあの後、森で休んでいた里
沙ちゃんと合流。感動の再会もすぐに切り上げ、そのまま海岸で眠るあさ美ちゃんの所に
向かう為、森を下っている所です。道と呼べる場所はないので、先頭を行く真希さんが少
しずつ草を掻き分けながら縦一列で前進しています。その後に、まだ気分が優れず歩けな
いという里沙をオンブしたひとみさんが続き、次に梨華さん、最後尾に麻琴ちゃんと私と
いう順番です。
「ボーッとしてないで、ちゃんと付いてきなよ。」
言葉は悪いけど、私の事を心配してくれている麻琴ちゃんの優しさが十分伝わってきま
した。私はうんと頷いてまた歩き出しました。それでも気が付くと、目があの人の後ろ姿
を追っています。自分でも自分がどうしちゃったのかわかりません。胸の中に、あの人の
名前が何度も何度も浮かんでは消えます。
あの人の名前。
1. 梨華
2. ひとみ
3. 真希