「おいらは第一発見者の藤本って子の所へ行くよ。なっちは?」
「石川さんの所。」
「誰それ?」
真里が知らないのも無理はない。今の所、事件とは何の関係もない名だからだ。
「まあまあいいでしょ、それじゃ昼休み終わりにまたここでね。」
「…うん。」
強引にごまかして私は真里と別れた。
あらかじめ職員の方に石川さんのクラスを聞いておいた。普段ならば制服の生徒ばかり
の所に、突然スーツ姿の大人が現れたらかなり注目を浴びるだろうが、この日は違った。
周りには私以外にも刑事や報道記者等があちこちにいたからだ。どうもここの校長は、そ
ういうマスコミ関係を拒まない人らしい。そのせいで生徒達の間にも騒然とした空気が流
れていた。3年C組の扉を開ける。中には十数人の生徒達が残っていたが、そこに目的の、
娘の姿はなかった。私は一番近くにいた三人組に尋ねてみた。
「すいません。石川さんって子いませんか?」
三人はちょっと面倒そうな顔でこちらを向いた。そしてニヤニヤと笑い出した。
「石川ぁ?そんな子いたっけー?」
「わかんなあい。」
「バッカねえ。ほら、あの転校生じゃん。」
「ああ、いたね。そんな子。」
「そういやいないね。今気付いた。」
「影薄いからな〜。」
「ていうか、興味ないし。」
「キャハハハハハハ。」
「それよりさ〜、あゆの新曲買った?」
三人組は好き勝手言って、もう話題を変えてしまった。聞く相手を間違えたと私は心底
後悔した。次はもう少しまともそうな子に聞いてみようと辺りを見渡した。その時、廊下
を出ようとしていた一人の娘とすれ違った。私はその娘を呼び止めた。
「何か?」
キレイな子だった。さっきの汚い面した三人組や他の子と比べても、どこか大人びた美
しさを持っている娘だった。手にしていたバックにSHIBATAというネームプレートが見
えた。その美しさに少し圧倒されかけたが、私は思い切って尋ねた。
「石川さんに話があるんだけど、知らない?」
「梨華ちゃんなら今日はお休みだって、先生言ってました。」
柴田は淡々と答えた。
「休み?」
「理由は知りません。家に架けても繋がらないそうです。」
それだけ言うと柴田はプイッと廊下の方へ向き直ってしまった。
「どこ行くんや、柴田。」
聞き覚えのある声だ。見ると廊下の向こう側に中澤先生がいた。
「アルバイトがあるんで早退します。」
また柴田は淡々と答えた。バックを片手に行ってしまった。
中澤先生はやれやれといった顔をしていた。
「なぁんだ、C組の担任て裕ちゃんだったの?」
教室を出た私は中澤先生と一緒に中庭に出た。彼女はコクリと頷いた。
「さっきのは柴田あゆみっていってね。ちょっと訳ありの子なの。成績はいいんだけど。」
早退してアルバイトだ。あまり良い訳ではないだろうと思った。
「それよりあんた、石川を探してるんやて?」
「うん。ちょっと聞きたいことがあるの。でもお休みだってね。」
「ちょうどええわ、あんたあの子の家行ってくれんへん?」
「え?」
築20年は建っていそうな木造の古いアパートの前に私は来ていた。無断欠席の上に電
話してもさっぱり繋がらない。普段ならともかくあんな事件の後だ。中澤先生も少し心配
になっていたらしい。様子を見に行って欲しいと頼まれた。私は喜んでその頼みを引き受
けた。真里には携帯で理由を述べ先に学校を出ると伝えた。
「OKOK、おいらの方もミキティと意気投合しちって一緒に遊びに行くことなったから。」
真里はすごいと思った。
住所を聞き辿り着いた場所がここだった。石川梨華は孤児で、一人暮らしをしていると
いう話を裕ちゃんに聞いた。だがとても女子高生が一人で暮らしている様なアパートには
見えなかった。
「すいませーん。朝日奈署の安倍と言います。」
私は擦り切れたドアをノックしながら声を掛けた。だが返事はなかった。試しにノブを
回してみると鍵が掛かっておらず、扉は開いた。トイレの芳香剤の匂いがした。
「いない。」
石川梨華はいなかった。
6畳一間に小さなトイレ、それだけの部屋だった。きちんと整頓されてはいたが、物が
ほとんどなく、まるで生活観がない部屋だった。仕方ないので私は勝手に室内にお邪魔す
ることにした。木の小さな机に写真立てが置いてある。なぜか気になり、私はそれを手に
取った。
「誰だろ?」
双子みたいに良く似たお団子頭の女の子が二人、肩を組んでピースサインをしていた。
1. 私はその写真を元の位置に戻した
2. 私はその写真を胸のポケットに締まった。
3. 私はその写真を真っ二つに破り捨てた。