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辻っ子のお豆さん:
私は全然知らない先生に声を掛けた。私が通っていたときはこんな変な髪型の先生はい
なかった。金のモヒカンにホゲ〜ッとした顔、一度見たら絶対忘れなさそうだ。大きい体
をしているくせにかなりオロオロうろたえている。なんとなく頭に『ウドの大木』という
言葉が浮かんだ。
「すいません、少しお話を聞かせてもらっていいですか?」
「は、はい、私でしょうか。鈴木です。生徒からウド先生と慕われていましてですね…」
声を掛けたら聞いてもいないことをペラペラとしゃべりはじめた。
「死んだのは村田先生って本当ですか。いやーショックゥ!僕はですね、実を言うと前々
から村田先生のこといいなあなんて思ってたりなんかして。でも村田先生はすごい美人
なんでライバルたぁくさんいたんですよ。それで次の日曜に食事でもお誘いしてですね。
こう、出し抜いてやろうかと計画を練っていた所なんですよー。それなのに、もうー。」
(だから、聞いてないっつーの。誰かこいつに突っ込め!)
聞く相手を間違えたと私は心底後悔した。だがこれも仕事なので私は怒りを堪え、あく
まで冷静に職務質問を続けた。
「被害者の対人関係についてお聞きしたいのですが。」
「関係っすかー。やだなーまだ友達以上恋人未満って所ですよ。デヘヘヘ…」
(誰もお前との関係なんか聞いてねえよ!)
私は心の中で激しく突っ込んだ。
「アーア、でも村田先生がいないんじゃ、もう教師に未練もなくなったっすよー。」
どうやらこの男はまだ聞いてもないことをしゃべり続ける気らしい。
「僕本当は教師なんかじゃなくてバーのマスターになりたかったんですよ。」
「あーそーですか。」
私は適当に相づちを打って、場をやり過ごそうと思った。
「名づけてバーウッドストック!どうすかこれ。」
「いいんじゃないですか。」
本音はその前に『どうでも』という単語がつく。
「よーし決めた。教師やめよう。かわいいウエイトレスとバーを開くぞ!」
ウド先生は一人で盛り上っていた。
「よく見たら婦警さん。めっちゃかわいいですね。ウエイトレスしません?」
「はいはい。」
「ホントすかー!やったー!」
「え?」
うっかりつられて相づちを打ってしまった。すぐに訂正しようとしたがウド先生は浮か
れて全く聞こうとしない。
「ちょっと待ってー!!」
朝日奈町の片隅にミュージシャンがよく訪れるバーがあるという。
あれから半年が過ぎた。刑事を辞めた私はそのまま成り行きで仕方なくウエイトレスを
している。最初は渋々だったけれど今ではもう天職だと思っている。やっぱり私に刑事は
むいていなかったんだよね。私のかわいいウエイトレス姿に誘われて来店する常連さんも
増えてきていて、お店の経営もまずまず順調といった所。あとは、マスターがもちょっと
しっかりしてくれれば文句ないんだけどね。
あ、お客さんが来たみたい。常連の天野さんかな?さて、今夜もがんばりますか。
「いらっしゃいませー!」
END