サウンドノベル5「赤と青」

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252辻っ子のお豆さん

〜第三話 赤の章 私立夕凪女子校殺人事件〜
253辻っ子のお豆さん:02/08/05 14:05 ID:S9AtFJHz
 夜の帳が静かな住宅街を包む。深夜遅くまで様々なネオンが彩る繁華街とは異なり、こ
の辺りは普段、こんな時間ともなると小さな外灯が所々に見えるくらいである。ところが
この日は違った。ネオン街ばりの眩しさが辺り一面を照らしている。しかしその光の元は
店の看板でも輝かしいオブジェでもなかった。
「直ちに現場急行せよ!鑑識と増援も頼む!」
 サイレンの音が閑静な住宅街を不穏な色に染める。何十台というパトカーがその場所を
囲むように並べられていた。いずれの車両もライトを全開に灯し、その空間だけまるで昼
間の様な明るさを浮かべている。
 誰もが必ず何かしらの思い出を抱える場所なんてそうはない。そういう意味で、そこは
ある種の特殊な空間と言えるだろう。闇の中に大きくて白い建物が映える。まだ建造され
てあまり年月が過ぎていない様だ。一人の警官が無線機に向けて大声でその名を発した。
「現場は朝日奈北3丁目、私立夕凪女子校!」

 一台のミニパトが学園脇の路上、他の車両と並ぶように停止した。左右の扉がほぼ同時
に開き、中から二人の女性が姿を見せる。運転席から降りた小柄な女性と目配せすると、
助手席から下りたその女性は、短く切った髪をさっとかき分け一斉に校内へと駆け出した。
彼女の名前は安倍なつみ。この事件が自分の運命を大きく左右することなど、今はまだ知
らない。
254辻っ子のお豆さん:02/08/05 14:07 ID:S9AtFJHz
「安倍、矢口、こっちだ。」
 先に到着していた先輩の後に続き、私と真里は校内へと足を踏み入れた。職員玄関から
内部へと入館する。何度も通った廊下や見覚えのある教室、それもそのはず、ここは私と
真里が少し前まで通っていた母校なのだから。階段を一つ上がり廊下を右に曲がると、突
き当たりの部屋の前廊下に大勢の警察が集まっているのが見えた。
(理科準備室……)
 扉の横の札にそう書かれていた。それがなければきっと何の部屋かわからなかったと思
う。在校時もあまり利用した覚えのない部屋だったからだ。私は開け放たれた扉から、室
内の様子を窺った。

ドクン……

 意識とは無関係に体が反応した。20代前半…私とさほど変わらないくらいの女性の死体
が部屋の中央に転がっていた。その周りには赤い染みによって小さな湖ができている。顔
は見れなかった。刃物で顔をめちゃめちゃに切り刻んだ跡があったからだ。あまりに惨た
らしい状況で、私はすぐに視界を室内から移した。全身に脂汗が浮かんでいた。
255辻っ子のお豆さん:02/08/05 14:08 ID:S9AtFJHz
 いくら刑事といっても、こんな小さな街だ。死体なんてそうそうお目にかかる物ではな
い。とはいえ経験がない訳でもなく、怖いとか仕事できないとまではいかない。確かに残
酷で凶悪な事件である。だけど正直な話、私にとってはこれ以外の他の事件と同じ、仕事
の中の一つでしかなかった。少なくとも今この死体をお目にかかるまでは。

トクン…

 あの死体を目にした瞬間、体が反応したんだ。今まで、他のどんな事件と関わってきた
時でも、こんなことはなかった。この鼓動の正体が自分でもさっぱり分からない。だけど
これと同じ感覚に覚えがある。まだたった数時間前のことだ。

「生きて…いたの…」
夕暮れの坂道で偶然であった美しい少女。
彼女は私を見て立ち止まり、そんな言葉を口にした。
あの時と同じ感覚を今も感じている。

トクン…トクン…
256辻っ子のお豆さん:02/08/05 14:12 ID:S9AtFJHz
「はい、どいてどいて。」
 人込みを掻き分けて、鑑識の一団が到着した。その中にはよくわたしの相談を聞いてく
れる圭ちゃんの姿もあった。鑑識とは、犯罪の発生した現場で犯人を特定できる証拠品を
探す仕事をいい、指紋や足跡、髪の毛1本も見のがさない。この現場鑑識が終るまでは例
え刑事といえど無意味に現場に侵入することはできないのである。
「やだねぇ、自分の高校でこんな事件があるなんて。」
 隣にいた真里が、泣きそうな顔で私の腕にしがみついてきた。彼女は私より一つ後輩な
分、あまりこの様な状況に慣れていない。特に少し前まで毎日通っていた場所での事件だ。
悲しい気持ちも人一倍つらいだろう。
「…うん。」
 被害者を病院へ運び、現場鑑識が終わる。この間、私には何もできなかった。私達の仕
事はここからである。そうして得た死亡推定時刻、現場状況を元に犯人を捜索することで
ある。やがて校長の寺田氏を筆頭に、呼び出された当校の教師陣がほぼ全員集まっていた。
その中には見覚えのある顔もいっぱいあった。私はその中の一人に声を掛けた。

1. 校長の寺田氏
2. 担任だった中澤先生
3. 全然知らない鈴木先生