197 :
辻っ子のお豆さん:
(機内から、薬や食料を探し出す方が先だ。)
そう思った私は再度飛行機の方へ向き直りました。けれど麻琴ちゃんはそのまま足跡の
方へ走り出して行ったのです。
「まこっちゃん!どこへ行くの?」
麻琴ちゃんは足跡を見つめたまま、振り返りもせず応えました。
「決まってるでしょ!追うのよ!」
「後にしよう!その前にお薬とか食べ物とか探そうよ!」
ようやく振り返った麻琴ちゃんは、少しじれったそうな顔をしていました。
「そんなことしてたら見失っちゃう!」
「でも、あさ美ちゃんを追いていけない…」
はっきりしない私に痺れを切らしたのか、麻琴ちゃんはまた走り出してしまいました。
「いいよ、私一人で追いかけて後で戻ってくるから、希美はそこで待ってて!」
「あ、まこっちゃ……!」
私が呼ぶ頃にはすでに麻琴ちゃんは森の中へと姿を消していました。また意識を失って
いるあさ美ちゃんと二人きりに戻ってしまったのです。
仕方ないのかもしれません。行動派の麻琴ちゃんがあんなものを見つけてじっとしてい
られるはずがないもの。麻琴ちゃんが戻ってくるまで私は私のできる事をしていようと思
いました。未だ意識の戻らないあさ美ちゃんを横目に見て、私は再びあの機体内へと足を
踏み入れたのです。
「うえ〜。」
腐臭がさっき以上になっていました。何百というマネキンが転がっているみたい。現実
を突きつけられ、また絶望が心と体を覆ってきました。私は鼻をつまみながら機内を見渡
しました。操縦席を含めた前方部は海水に浸っており、進めそうにありませんでした。と
りあえず私は自分の席へと戻る事にしました。お菓子やペットボトルを入れておいた小さ
なバックをシートの横に掛けておいたことを思い出したのです。
(暗くてよく見えない……)
今度は変な物を踏んだりしない様に気を付けながら、手探りで私はなんとか自分の席へ
と戻ってきました。途中の席で、食べかけのポテトチップスの袋を見つけたのでとりあえ
ず小脇に挟み確保しておきました。
(誰のか知らないけどいただきます。)
こんな事態なんだから、もう何も構ってなんかいられない。ある物は全部もらう。そん
な気でいました。
私のバックは元の場所にはなく、お姉ちゃんの膝下に転がっていました。きっと私の寝
てる間にこっそりお菓子をとろうとしたのだと思います。
(意地汚いなぁ、まったく誰に似たんだか。)
バックを掴み取った私の脳裏に、幼き日の映像がフラッシュバックしてきました。
3時のおやつ、お姉ちゃんが自分のケーキと私のケーキを見比べています。
「そっちの方がおっきい!換えて!」
「やだぁ!これのののらもん!」
「ふみのがおっきいんだから、おっきいほうなの!」
「やだ!やだ!やだぁ!うわ〜ん、ママー!お姉ちゃんがぶつぅ。」
昔からそういうことだけは私絶対に譲ろうとしなかったんだよねぇ。お姉ちゃんとはホ
ントによく些細な事でケンカしたっけ。ねえ、もうワガママ言わないから。私のお菓子だ
って、好きなだけ食べちゃっていいから。また怒ってよ、その声を私に聞かせてよ。また
一緒に遊んでよ。神様、お願いです。全部元に戻して下さい。
お母さんが確か簡単な救急箱を持っていた事を思い出しました。だけど目を背けながら
探し当てたそれは、事故のダメージでつぶれかけていました。
(やぶれちゃってほとんど使えない)
私は使えそうな物だけ見繕って持ち出すことにしました。絆創膏をズボンのポケットに、
赤チンを胸の内ポケットに、かゆみ止めと胃薬をバックの中に放り込んで、後はもう使え
そうにありませんでした。
「これじゃあんまり役に立ちそうにないなぁ。」
まだ他に何かないかと立ち上がった所で、あいぼんもいっぱいお菓子を持っていたこと
を思い出したのです。私は記憶を辿り、あいぼんの席を探し出しました。それ以上にあい
ぼんの生死を確かめたいという気持ちが強かったのです。
「あいぼん、お願い、あいぼん!」
その時です。飛行機の外から悲鳴の様なものが聞こえたのは。
麻琴ちゃんの声でした。
1. 考える暇はない、悲鳴の聞こえた方向へと急ぐ。
2. あいぼんの無事を確認する方が先だ。
3. おなかすいたのれす。さっきのポテトチップスでも食べて落ち着くのれす。
神様、お願いです。全部元に戻して下さい。