おなじみのオープニングSEが鳴り響く中、拳を天に突き上げて
悠然とステージに歩み出す大和撫子7人!安倍の表情はグラサンで読み取れないが
ググッと秘めた闘志をうかがわせ、市井にいたってはカッと目を見開き
早くも「いくぞコラ!」光線全開である。
騒然とした雰囲気の中‘抱いてHOLD ON ME’で起動するが、
そのまま次の曲になだれ込む事は状況が許さない。曲が終わるやいなや
進行中のステージに主催者が立ち全体に一歩下がるよう必死で呼びかける。
仕切り直しに、宙をブン殴るように矢口がセクシービームを発射する
‘恋のダンスサイト’・・・一気に地面が震動するが、わずか1分足らずで
演奏はストップだ。ステージ前の混乱で倒れた者がいる。
事態に気付かず、制止に入ったスタッフを振り払う市井、
場内アナウンスを遮り第一声を発する安倍、
「俺達がニッポンのモーニング娘。です!」
遂には現場を諌める為に日高氏までもがステージに立つという事態に突入した。
結局、再度‘恋のダンスサイト’をカマした直後にも中断があったが、
最後まで場を持ちこたえさせるきっかけとなったのは
安倍のこの一言ではなかったか。
「わかるよ・・・モーニング娘。を好きな気持ちは良くわかる」
陳腐な言葉かもしれない。だが数々のライヴで
「くだらねえイベントに呼んでくれてありがとよ」だの「うるせーバカ」だの
罵詈雑言を撒き散らしてきた女の、もう死ぬまで言わないであろう一言は、
ポロッと口をついた素の呟きとして事態を収束させてしまったのだ。
らしくもない気づかいだった?それだけじゃないだろう。
未曾有の熱狂を前に、安倍はただただ猛烈に感動していたのだ。
じゃなきゃ絶対にキレてほんとの暴動くらい起こしかねない連中なんだから。
以後フェスには不可欠のヒット曲‘ふるさと’‘LOVEマシーン’を
要所に据えとことんソリッドに、泣きもアンサンブルもクソ食らえの
ダイナミズムを叩きつけたモー娘。はまさにつんくファミリー代表と呼ぶに
相応しい威厳を放っていた。
(雑誌「BUZZ」98年9月号より抜粋)