★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★

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【 BATTLE AFTER 】第六七話

眠るような矢口の頬にそっと手を添える中沢の手は僅かに震えていた。

その中沢の首には、何時の間にか 細い鎖が巻き付いている…

「矢口…私がさっき言った事は嘘やないんやで」

中沢の胸にキラリと光る赤い宝石…

「矢口は これからも普通に生きるんや…」

矢口の死を持って発動するように仕掛けられた赤い宝石…

「これが最後の手段やねん」

飯田の念能力『シンクロなっちストーン』は音もなく その色を変える…

「私の命で矢口を救うんや」


限りなく透明なクリスタルホワイト…

その色は中沢の暗黒瘴気を全て浄化し、そして 聖なるオーラへ変換する。

奇跡の宝石が生み出す最終念技…『ホーリーウィンド』…

その聖なる念の風は全ての毒を浄化し、細胞を活性化させるのだ。

そして、毒の瘴気を中和する、中沢の体内に流れる聖血との融合によって
その念は『死』の概念さえも凌駕する。

「…あぁぁ…」

自分の両手を見詰める中沢は言葉もない。

肌は色を失い、肉体は透けてさえいそうだ。

体内に渦巻く、余りにも強力過ぎる 聖なる念は中沢の体を細胞ごと浄化するのだ。

「矢口とは最後まで本当のキスは出来へんかったなぁ」

万感の想いを込め、中沢はそっと顔を近づけて唇を重ねる…

「…矢口…アンタの胸で眠らせてや…」

柔らかな矢口の胸に身を沈め、中沢は静かに永遠の眠りについた…


やがて、中沢の体からは聖なる念が溢れ草原を埋め尽くす。


10月の枯れ果てた草花は奇跡の念によって青々と緑を取り戻し、色とりどりの花々を咲かせた…



「…此処は…? 天国なの…?」

ボンヤリと目を覚ます矢口は咲き乱れる花々の草原を天国だと思った。

「…うん?」

自分の胸に顔を埋める中沢を見て、自分が死んでいない事に気付く。

「ハハ…もう、裕ちゃん…何やってんのよ…エッチ」

矢口は中沢が寝ているものと思った。

「重いよ…」

「裕ちゃん…?」

ピクリとも動かない中沢…

「……裕…」

やっと…やっと、気付いた…

中沢は自分の為に死を選んだのだ…

中沢の髪を撫でる矢口の瞳からスーッと涙が落ちる…



ーーー いいよ…裕ちゃん…何時までも…そうしていて… ーーー

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【 BATTLE AFTER 】第六八話

「紺野…裕ちゃんは死んだよ…」

「…そう…ですか」

自分の右手に戻った奇跡の宝石を見詰める飯田と紺野は
花で覆い尽くされた草原を見下ろす高台に立ち尽くしていた。

飯田は自分の仕掛けた念を探って、紺野と2人で中沢と矢口を追い駆けてきたのだ。

あの日…飯田の念能力を見た中沢は自分に技をかける事を望んだ…

断る飯田を説得し、念を仕掛けさせたのは中沢の執念…

矢口の為なら命を差し出す、愛の悲劇だった…

「紺野…」

「…はい?」

「私は…間違っていたのかなぁ?」

飯田は空を悲しげに見詰め静かに問いかける。

「……」

紺野は答えることが出来ない…

仲間の為に死ぬことが本当に出来るのか…?

自問する紺野の心に、手を振る高橋の笑顔が浮かんだ。

ーーー 死ねるんだろうなぁ…私も… ーーー

そして、飯田も自分達の為に死ねるんだろうと思う。

「飯田さん…」

「…うん?」

「誰が間違っているなんて、私には解かりません…」

「…そうか」

「でも…」

「…」

「私にも、命を投げ出しても守りたい人はいます…」

「…」

「…今 答えられるのは…それだけです」

飯田は紺野の頭をポンと叩いて優しく微笑む。

「行こう、矢口を迎えに…」

「…はい!」


青い空と白い雲…涼やかな風と深い海… 


穏やかな風景は仲間たちを連想させた…


そんな自然な関係…


飯田さん…矢口さん…辻さんと加護さん…そして、愛ちゃん…


ーーー あなた達は私の掛け替えの無い家族なんです ーーー


矢口に駆け寄る紺野は涙が溢れるのを止める事が出来なかった…


【 BATTLE AFTER 】ーーーエピローグーーー


ーーー 5年後 ーーー


都心の女子大に通う加護は演劇の勉強をしていた。

加護の夢は女優になる事だった。

大学のテラスで便箋を広げる加護に大学でできた友達が声を掛ける。

「なに〜?ラブレターでも書いてんの?」

「違うよ!」

慌てて隠す加護。

「じゃあ、なんで隠すの?」

「へへへ〜、内緒!」

べ〜と舌を出す加護は外見は大人の女になっていた。


寮に戻り、姿見の鏡の前に立つ加護はチラリと書きかけの手紙に視線を送る。
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「のの…うちは こんなにボインボインになったでぇ」

便箋に書かれている宛先は『レストランプチモーニング』…辻宛の手紙だった。



のの、元気か? うちは相変わらず元気やで。

女優 目指してまっしぐらや!

その内、有名になって ののをビックリさせたるから、楽しみにしててや!

でも、有名になったのは のの の方が先やけどな…

うち、ビックリしたわ!

テレビに出るんなら連絡ぐらいしいや。

でもまあ、虎太郎と獅子丸も元気そうで良かったわ。

うちの大学でも のの の話しで持ちきりやでぇ…

「不思議少女」ってな。

しっかし、相変わらず ののは変わっておらへんなぁ…

少し安心、ちょっぴり不安や…

大丈夫かぁ?のの…



便箋は其処まで書いて、手が止まっていた。

「心配すること無いか…ののはののや…」

加護は次に帰郷する日を思って一人微笑んだ。



『レストランプチモーニング』は、あの日以来 連日大忙しの日々だ。

それはテレビで放送されたお笑いドキュメントだ。

【驚愕!猛獣のライオンと虎が店の中をウロつく、癒し系レストラン!】

こんな訳の解からないタイトルで放送された店は視聴者の度肝を抜いた。

レポーターが来店すると巨大なライオンと虎が出迎えた。

腰を抜かす女性レポーターは店内の不思議な癒し効果で2匹の猛獣に徐々になれて、
最後にはライオンに抱きついてキスまでする始末だった。

そこで紹介されたのがケヘケヘと笑う「不思議少女のの」だった。

店内に充満する癒し効果は勿論、辻自身も知らない辻の能力 聖眼『ハムスターアイ』の賜物だが
「不思議少女のの」の言うままに動く猛獣が辻の魅力を最大限に引き出したのだった。

「辻のお蔭で大繁盛だな」
矢口に頭を撫でられて辻も嬉しそうだ。
「のの の、お蔭なのです」

今は矢口と一緒に暮らしてる辻は『レストランプチモーニング』の看板娘だった。

そして、獅子丸と虎太郎も客席に料理を運ぶ看板ウエイターになっていた。

「辻ぃ!手紙が来てるよ」

「誰からなのです?」
夕飯を食べて風呂に入ろうと服を脱いでいた辻は矢口から手紙を受け取る。
「加護からだよ」

「お風呂に入りながら読むのです」

「おい、手紙が濡れるだろ」

「大丈夫なのです」

しかし、大丈夫ではなかった。
案の定 手紙はビショビショに濡れて、次第にインクが滲んで読めなくなる。
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「なんとか読めたのです、今度の日曜に あいぼん が帰ってくるのです」

ーーー 追伸−皆は元気にしてるか? ーーー

手紙の〆には、そんな事が書かれていた。

「みんなは元気なのです、愛ちゃんの店も繁盛しているのです」

辻は窓から見える高橋の店を覗き込んだ…


『フラワーショップ愛』

飯田二輪店を畳んで開店した高橋の経営する花屋は、県外からも足を運ぶ客がいる評判の店だ。

花が普通より何倍も長持ちするのが繁盛の秘訣なのだが
それは高橋の能力『フェアリーサキュバス』の水で花を活けるからだった。

店先の花壇には常時、色々な種類の花が可憐な花弁を広げている。

如雨露で水を与える高橋は、一際高く伸びる 7本の向日葵を眩しげに見上げる。

寄り添うように、しかし、一本一本独立して大きな花を咲かせる向日葵は
自分達の現在を表しているように思えて仕方なかった。

「のんちゃん のだけは一番背が低いね…ふふふ、でも花は一番でっかい」

花壇の向日葵の種は メンバー全員で、それぞれの想いを込めて植えたものだった。


「これ下さい」

高橋が振り向くと一人の女の子が小さな つぼみを付ける すずらんの鉢植えを抱いていた。

微笑む高橋は綺麗に包装しリボンを付けて女の子に手渡す。

「この花の花言葉 分かる?」

小首を傾げる女の子の頭を撫でながら同じ目線で話す。

「これはね、繊細な女の子の花なんだよ」

女の子の顔がパ〜と輝く。

ありがとう と手を振りながら駆け去る、女の子の後姿を見送る高橋も嬉しそうだった。
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ーーーリリリリーーー

『フラワーショップ愛』の2階から電話が鳴った。

留守を預かる高橋が、パタパタと2階に駆け上がり受話器をとる。

「はい、『紺野探偵事務所』です」

《あのう、紺野探偵の力を借りたいんですが…》

「すいません、今 紺野は別の事件で出かけていますので…後程 此方から掛け直しますので
お名前と連絡先の電話番号を教えてください…」

サラサラとメモを取る高橋は、事件解決の依頼しか受け付けない
『紺野探偵事務所』の忙しさに溜め息をつく。

「名探偵も大変だね…」

大きく伸びをすると階下から、花を求める客の声が聞こえた。

「はいは〜〜い!今行きま〜〜す!」

忙しさは『フラワーショップ愛』も一緒だった…


とあるマンションの一室で紺野はニコリと微笑んで周りの皆を見渡す。

迷宮入り確実な超密室殺人の解決の為に七曲署の依頼を受けた事件だった。

「この中に犯人はいます」

ゴクリと唾を飲む関係者達。

「それは…100%アナタです!」

「な、なにを馬鹿な…俺には完璧なアリバイが有るんだ!」
指差された男は僅かな動揺をみせる。

「完璧?…その言葉はアナタには似合いません」

「どういう事だ、説明してくれ紺野君」

ヤマさんに説明を求められニッと笑う紺野は100%完璧な推理で犯人を追い詰める。

頷く七曲署の署員達も納得の表情だ。


「…どうです、これで犯人は完璧にアナタという事が、お解かりになりましたか?」

完全に覆されたアリバイと見事な推理に男はガクリと膝をつく。

「ヤマさん、そいつを連行しろ」

葉巻を咥えるボスの命令で犯人は連れ出される。

「何時もながら見事な推理だ、さすがは名探偵 紺野あさ美、100%完璧だな」

渋みを増したボスはマンションのブラインドの隙間から外を眺めながら目を細めた。

「では、次の依頼がありますので私はこれで…」

ペコリと頭を下げて事件現場を去る『名探偵 紺野あさ美』…100%完璧な頭脳の持ち主だった…
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バサリと新聞を広げ、事件解決の記事を読む後藤は苦笑いをする。

「ハハハ、相変わらずだなぁ…でもな、紺野…事件というのは頭で解決するもんじゃないんだぜ」

ガッシリとした体格の大男が公園のベンチで新聞を読む後藤の前を通り過ぎる。

「国家権力の非合法捜査こそ最強!」

新聞を丸めて男の頭に投げつける。

「探したぜ、『ゲロツョッカー』の改造人間!」

立ち止まる男の肩が笑う。

「ほう、俺を知ってるキサマは何者だ?」

警察手帳を見せる後藤が左手を前に突き出す。

その手にはギラリと鈍く光る日本刀が何時の間にか握られていた。

「さっそくだが、死んでもらう」

両手で構える日本刀は紅蓮の炎に包まれた。

「んぁあああ!!」

距離も関係なく無造作に振り下ろされる日本刀の先にいる男の空間がズルリとずれる。

念技『炎獄次元刀』

次元を切り裂く紅蓮の炎は男の体を二つに裂き燃え上がらせた。

メラメラと燃える炎に照らされた後藤の左肩には唇型のタトゥが揺らめく…

その唇型は半分から微妙にずれていた…
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「よっすぃ…」

左手を見詰める後藤は寂しい笑みをふと漏らす…

こんな日は…また、あそこに行くに限る…



『飯田流念法』

達筆で書かれた看板…子供達の気合いが聞こえる…

飯田は一人 皆と離れて町外れの此処で小さな道場を開いていた。
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「はいはーい、今日はここまで!」

パンパンと手を叩いて練習の終わりを告げる。

手拭いで汗を拭いて一息ついていると女の子が飯田の前に立った。

「うん?どうたの?」

「押す!質問があります!」

「なに?」

「なんでラヴ&ピースって書いてるんですか?」

少女は道場に掛けてある、飯田が下手な字で書いた掛け軸を指差す。

「愛と平和なんて軟弱すぎます!押す!」

「うん…でも、其れを守るのが飯田流念法なんだよ」

飯田は右手を広げてみせる。

「わぁ!すご〜い!」

何時の間にか現れた赤い宝石に少女の目はキラキラと輝く。

「これはね、私を守って死んだ親友の形見…」

「ふ〜ん」

「もう、誰も死なせたくないの…だから皆に念法を教えるんだよ」

「……」

「あなたの家族が悪い奴に殺されそうになったらどうする?」

「押す!そいつをやっつけます!」

「うん、やっつけたら平和になるよね」

「押す!」

「だ か ら、ラヴ&ピース…ね♪」

飯田は少女にウィンクしてみせた。

そこに男の子がバタバタと駆けてきた。

「押す!師匠!また例の道場破りが来てます!」

新たな敵を殺す度に此処に来るのは…


「たのもう!!!」

後藤はニコニコと笑い、子供達に囲まれながら道場に上がってきた…



裕ちゃん…

今年もまた一つ貴女の歳に近付きました…

私は裕ちゃんの予言通り、何事もなく日々の忙しさに身を置く毎日です…

そして、今年もまた 高橋の店では向日葵が大きな花を咲かせ、皆を照らしています…

裕ちゃん…

でも、やっぱり寂しいです…

寂しさに気付かない振りをして歩いてきましたが…

私は今でも裕ちゃんと過ごした夢のなかに居るようです…

裕ちゃん…

貴女の夢は何だったんですか?

皆の幸せですか?…それとも、私の幸せ?

だとしたら、その夢は叶えられています…

私は貴女と一緒に、叶えられて行く永遠の風の中に居るみたいです…

叶えられないのは…ただ一つ…

それが一番寂しいんです…


「矢口さ〜ん!ナポリタン一丁なのです!」

ふと気付くと辻が厨房に顔を出して壁をバンバン叩いている。

「ボ〜としてちゃ駄目なのです」

「ハハハ…」

辻に ボ〜としてる と言われてしまった…

それが中沢に報告する最近のニュース中で、一番のショックな出来事だった…
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                  ーーーBATTLE AFTER ENDーーー