★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★
【 BATTLE AFTER 】第二十話
中沢ビルの『バーパンサークロー』でカウンターに座り
カクテルのグラスを傾ける中沢は、物思いに耽っていた。
「どうしたん?裕ちゃん」
グラスを拭きながら聞く平家。
「・・・いや、ちょっとね・・・」
メンソールのタバコに火を点けて煙を燻らす。
あの日以来、市井からの連絡は無い。
携帯しか連絡手段は無かったが、その携帯も繋がらない状態だった。
考えられるのは、裏切ったか 死んだか、だった。
もしも、死んだとしたなら 殺されたんだろう。
市井程の使い手を殺す事の出来る人間がいる。
気になるのは飯田圭織の存在だ。
あの時、すれ違った飯田からは微かに念のオーラを感じた。
今更ながら思うのは、飯田は紺野、槁橋と繋がりが有るんだろうという事だった。
飯田ならテレビに映ったアイマスクの軍団は自分達と解かるだろう。
そして、紺野と槁橋を救う為に市井の元に向かったのなら
何となく辻褄が合う気がする。
少なくても自分の知らない所で、矢口が、紺野と槁橋が、そして飯田圭織が生きていた。
この調子だと、他の娘。達も生きていると思った方がいいのだろう。
矢口・・・矢口は気付いたのだろうか・・・
飯田と繋がっているのなら間違いなく自分達の事を気付いただろう。
だとしたら自分はどうしたら良いのだろう。
中沢はもう、自分が何を考えているのか分らなくなってきた。
頭がパンクしそうだった。
自分が次にリーダーとして取る行動も分らない。
【 BATTLE AFTER 】第二十話
「なあ、みっちゃん、どう思う・・・?」
「どうって・・・かおりの事・・・?」
「・・・うん、まあ・・・」
中沢は曖昧に答えた。
「念は感じたよ、でも大した物では無かったけど・・・」
「そやねん・・・」
「裕ちゃん、紗耶香が かおりに殺されたと思ってんの?」
答える代わりに肩を竦める中沢。
「ハハハ、無理無理、かおりが念能力を持ってたって、あの程度じゃ
返り討ちに会うだけやん、私は紗耶香が裏切っただけだと思うよ、
紺野達と一緒にいた方が居心地が良くなっただけよ」
「そやったら、それでもええんやけど・・・」
「良くないよ・・・」
平家の目つきが鋭くなる。
「・・・裏切り者は殺す・・・それが掟でしょ」
「そやなぁ・・・」
ボンヤリと答える中沢。
「もう、しっかりしてや・・・まあ、も少し様子みよう」
溜め息をつく平家は、この頃少しやる気の無い中沢を心配する。
「裕ちゃん、タバコの灰!」
「・・・あ、ごめん・・・」
中沢の指に挟んでいたメンソールタバコの灰がポトリと落ちた。
【 BATTLE AFTER 】第二十一話
紺野と槁橋が通う高校の昼休み時間、
槁橋が放課後合唱部に見学に行こうと紺野に誘いをかけた。
「私、合唱部に入ろうと思うんだけど、あさ美ちゃんも一緒に入ろうよ」
「え〜、合唱部ぅ・・・どうしようかなぁ」
「楽しいよ」
「でも、お店とか、警察のアルバイトも有るし・・・」
「もう、そんなの本当は飯田さんがやる仕事だよ」
「ですが・・・」
「あさ美ちゃんが入んないなら私も入んない・・・」
ぷ〜と脹れる槁橋。
「・・・分かりました、でも、店とか用事が有る時は抜けますよ」
紺野は槁橋の勧めで一緒に合唱部に入部した。
部員の皆は中途入部の2人を歓迎したし、部長はとても美しく、とても優しかった。
感激した槁橋は一生懸命に合唱に打ち込み、とても楽しそうだ。
紺野も歌う事は嫌いじゃなかったし、
ハーモニーが揃う美しさに次第に引き込まれた。
その合唱部が使う放課後の音楽室は、いつも甘いラベンダーの香りがした。
「ありがとうございました」
部活が終わりペコリと頭を下げて音楽室を出ようとする2人を部長が呼び止めた。
「少し、お話ししましょう」
取り留めの無い話しは、何時しか部員全員が輪になって楽しい談笑になる。
その輪の中心にいる部長を見る部員達の目はキラキラと輝いている。
紺野は少し不思議に思う、こういう雰囲気が女子高なのかなと・・・
最初は単にそう思っただけだった。
【 BATTLE AFTER 】第二十一話
一週間も経つ頃、紺野は違和感を憶えだした。
槁橋はまだ気付いていない・・・
いや、槁橋は憧れているのか、その人物を見る目はキラキラと輝いていた。
藤本美貴・・・彼女は合唱部の部長だった。
冷たい中に優しさを湛える藤本の凛とした瞳に見据えられると
何故か背中がゾクゾクとする。
部員達全員の憧れは彼女を完全に崇拝する異様な空気を造りだしていた。
決定的になったのは紺野が忘れ物を取りに学校に戻った時だった。
音楽室に明かりが点いていた。
夜の7時を回った頃だが、まだ誰か残って居るのかと
音楽室のドアに手をかけようとした時に中から声が聞こえた。
「あ・・・あう!あぅぅうう!」
それは呻いてるような声だった。
音を立てないように少しドアを開けて隙間からそっと覗いて見ると、
そこにはキスをする3人の少女がいた。
「・・!!・・」
部長の藤本は恍惚の部員2人の首筋に舌を這わせ、指を使う。
「あ・・せ、先輩・・・」
部員の体は小刻みに震えていた。
【 BATTLE AFTER 】第二十一話
紺野は見ていられなかった。
ドアを離れると足早に音楽室を離れる。
靴箱がある玄関にくると急に動悸がして胸を押さえる。
ドキドキしていた。
鼓動を沈める為に深呼吸すると少し落ち着いた。
「やっぱり女子高なんですね・・・」
1人変な風に納得して、学校の正面口で待っている槁橋にジンジャーを走らす。
槁橋は紺野の顔を見てキョトンとする。
「どうしたのあさ美ちゃん?」
「な、何がです」
「顔、真っ赤だよ」
「・・・・・・」
紺野は今見た出来事を話すか迷った。
音楽室での光景を言葉にするのが恥ずかしかったし、
藤本とその恋人2人だったらまだしも、3人は異常だと思った。
「ねえ、愛ちゃん」
「何?」
「合唱部、辞めませんか?」
「えっ!!」
唐突に言い出す紺野に槁橋はビックリする。
「なんで?」
「・・・い、いや・・・か、帰ってから話します・・・やっぱり話しません」
「・・・????・・・」
混乱する紺野はチラリと2階にある音楽室を見る。
音楽室の明かりは消えていた。
「電気を消した・・・って事は」
好からぬ考えが頭をかすめ、更に顔を赤くする紺野。
「何言ってるの?あさ美ちゃん」
「ややや・・・、かかか帰りましょ、はやく、早く・・・」
ジンジャーに乗り込み加速する紺野。
「あっ、待ってよ!もう!」
追いかける槁橋は、帰ったら絶対に問い詰めると心に誓った。
【 BATTLE AFTER 】第二十一話
明かりを消した音楽室の窓から、ジンジャーに乗り出て行く
紺野と槁橋を見送る藤本美貴。
妖艶に笑う藤本の足元には、先程の部員が2人、呼吸も荒く寝そべっていた。
いや、倒れていたのは2人だけではない。
合唱部全員が恍惚の表情で失神、もしくは喘いでいる。
紺野は藤本の餌食になり倒れている部員達を見ていなかっただけだった。
藤本の唇は部員達の血で赤く染まっていた。
笑う唇の間から見えるのは鋭く尖る犬歯・・・
藤本美貴・・・
彼女は人間を奴隷にし、生血を吸う事によって生命を維持する・・・
吸血鬼・・・ヴァンパイアだった・・・