★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★
【 BATTLE AFTER 】第三十三話
中沢の訪問から3週間が過ぎた…
安倍は綺麗に林檎の皮を剥く。
辻はその作業を待ちきれない表情で見詰める。
「辻ぃ、ヨダレが出そうだよ」
ベットで横になってる飯田が呆れるように言う。
ここは飯田が入院している病院だ。
飯田は全身打撲と肋骨が数本折れ、ヒビにいたっては全身におよび入院している。
そして病室は七曲署のコネで個室になっていた。
安倍は仕事を早めに切り上げ 辻を連れて見舞いに来ていたのだ。
「まあ、あと2、3日で退院できるよ」
ハハハと笑う飯田…
全治二ヶ月と言われた怪我は念によって驚異的な回復をみせていた。
「もう、かおりは何回入院すれば気が済むんだか」
ねえ、と辻に振りながら切った林檎を辻にハイと渡す。
「わ〜」
辻の目がパ〜と輝く。
辻は林檎を頬ばりながら、もう一つを飯田の口に運ぶ。
「ハイ、あ〜んするのです」
「へいへい」
辻に林檎を食べさせてもらいながら飯田は頭を撫でてやる。
それを見る安倍はニコニコと微笑んでいた。
安倍はチラリと時計を見た。
夜の9時を回っている。
「あ、こんな時間か…」
帰り支度をしようとする安倍に飯田が提案する。
「…泊まっていけば?」
「わ〜、泊まるのです!」
辻は直ぐに反応した。
「いいの?かおり」
「いいって いいって、一人で寝るのも寂しいしなぁ」
個室には宿泊用の布団が付いていた。
「ちょっと矢口に電話してくるから辻は布団敷いてて」
ア〜イと頷く辻。
矢口に泊まると伝えて病室に戻ると、飯田が布団を敷いていた。
「かおり 大丈夫なの?」
「いや、敷き直してたんだ」
辻が敷いた布団は適当でバラバラだったので見かねた飯田が敷き直していたのだ。
「飯田さんが敷き直しているのです」
「……」
「もう、なっち がやるよ、かおり は寝てて」
安倍は飯田をベットに追いやって腕まくりをする。
「辻ぃ、そっち持って」
辻と二人でシーツを持って敷布団に被せる。
「いい?この角を三角折するんだよ」
優しく教える安倍に辻も素直に頷く。
「さっき矢口に電話したらね、後ろの方で加護がブーブー言ってたよ」
「え〜!」
ちょっとした意地悪に辻は口を尖らす。
「ハハハ、明日なっち も一緒に謝ってあげるよ」
そんな話をしながら布団を敷いた。
「よし、これでOK!」
パンパンと手を叩き腰に手を当ててエッヘンと威張る安倍。
「わ〜、ホテルの布団みたいなのです」
パチパチと手を叩いて辻も喜ぶ。
それを見る飯田は微笑んでいた。
テレビに石川と松浦のコンビ『モーニングペアー』が映っていた。
同じ布団に転がりながら辻を真ん中にして3人で見た。
「こいつ等 売れてきたなぁ」
飯田がしみじみと言う。
「はぁ〜、みんな知らないんだね…」
「梨華ちゃんと亜弥ちゃんは人殺しなのです」
「ハハハ…って 笑い事でないか…」
「ねえ なっち 裕ちゃんが持ってきた提案って信用できるの?」
「…うん、大丈夫だよ、なっちは信じるよ!」
「のの も信用するのです」
「はぁ?辻はその場所にいなかったろ…って辻ぃ お菓子 こぼしてる!」
ポテチをポリポリ食べながらテレビを見ていた辻は
枕にポロポロとお菓子のカスを零していた。
「もう!せっかく綺麗に敷いたのに」
安倍がパンパンとお菓子のカスを手で払う。
辻はケラケラと笑う。
ハハハと笑って自分のベットに戻ろうする飯田は少し考えてから辻に自分のベットを譲った。
「辻ぃ、こっちで寝な」
「いいの?かおり…」
「ハハハ、柔らかいベットの方がいいだろ…なあ 辻ぃ?」
「安倍さんと飯田さんは優しいのです…矢口さんとは違うのです」
顔を見合わせてプッと笑う安倍と飯田。
「まあ、そういう事にしておくか…さ、電気消すよ」
カチ カチと時計の音だけが聞こえる…
「ねえ、かおり 寝た?」
「うん…起きてるよ…」
「のの も起きてるのです」
「辻は寝ろよ…」
「まあ、いいじゃないの」
安倍は何を思い出したのかクスクス笑う。
「どうした なっち?」
「同じ病院で寝るなんて…」
「…ああ、初めてかな?」
「ふふ、初めてじゃ無いよ」
「うん…?…そうだっけ?」
「…生まれた時…」
「おお そうだったなぁ」
「なんの話しなのです?」
「はは、辻は知らないのか?私と なっち は同じ病院で生まれたんだよ」
「知らないのです」
「同じ保育器に入ってたんだよ」
安倍は辻に話して聞かせた。
憶えていない赤ちゃんの時の事…
モーニング娘。のオーディションの事…
同郷で同い年の飯田との出会いを…
「へ〜、のの と あいぼん と一緒なのです」
「違うだろ…まあ、似てなくもないか…」
「じゃあ のの は大人になったら飯田さんになるのです」
「え〜、辻は なっち より かおり の方がいいんだ?」
「うっ…そうで…違うのです」
「ハハハ辻は素直だね〜」
「ののは素直なのです」
「…はぁ〜〜…」
「……」
「…」
辻はスースーと寝息を立てる…
「ハハ、辻 寝ちゃったね…」
「だな…」
「…ねえ、かおり…」
「なに?」
「退院したらどっか遊びに行こっか?」
「え〜」
「たまには良いじゃん」
「ん〜…どこ行くの?」
「なっち はここんところ働き詰めで疲れたよ…」
「じゃあ 温泉だ」
「…いいねぇ」
「…のの も行くの でしゅ ムニャ 」
「辻ぃ 起きてたの?」
安倍はそっと起きてベットの辻を覗き込む。
辻は腹を出してポリポリ掻いて寝ていた。
「寝言だべさ…」
安倍は優しく布団を掛けてやり、また自分の布団に潜り込む。
「辻は何時になったら大人になるのかねぇ?」
「本当 心配になってくるよ」
「ハハ このまま変わらなかったりして…」
「…うむ、ありえるな…」
「かおり…」
「ん?」
「本当に行こうねぇ…」
「だな…」
何時の間にか寝息を立てる3人…
静かな病室に飯田のイビキだけが響いた…
【 BATTLE AFTER 】第三十四話
飯田は3日後に退院した。
病院玄関で待っていたのは安倍だった。
「なっち どしたん?その格好」
水色のノースリーブのワンピース…
その安倍の手には大きな旅行バックが握られていた。
「へへへ 涼しそうでしょ…かおり は暑そうだけど」
飯田は何時もの格好 黒のライダースーツだ。
「いや、このスーツは特殊だから…って違う!そのバックは何?」
「へへ〜、今から行くんだよ」
「…どこへ?」
「温泉」
「…」
駅に向かう道すがら飯田が安倍に聞く。
「店は?」
「休みにしたよ」
「矢口達は?」
「黙って来た」
「なんで?」
「お金かかるもん」
「…」
「へへ〜、あっちに着いたら矢口に電話して驚かそうと思ってねぇ」
「怒るぞ〜 矢口…」
「いいのよ」
安倍はプイと口を尖らす。
「…?…」
昨夜、安倍は矢口と久しぶりに大喧嘩をした。
ほんの些細な出来事…
飯田が退院したら皆で旅行しようと矢口と話し合っていた。
ホテルにするか旅館にするかで意見が別れた。
2人とも意地になっていた。
加護が泣きながら2人を止める。
安倍は自分の部屋に閉じこもって布団をかぶった。
「矢口のバカ…」
結果、安倍は朝早く家を飛び出したのだ。
「矢口さ〜ん、阿部さんが居ませんよ〜!」
朝食のトーストを作っている矢口に加護が慌てて報告する。
「ああ、知ってるよ」
「何処に行ったんです」
「たぶん、かおり と温泉だろ…」
「え〜!なんで〜? 昨日 安倍さんと大喧嘩したから?」
「なっち はそのつもりだろ…」
矢口はニコリと笑って見せた。
「私も行く!」
「駄目だよ」
「なんで〜?」
矢口は目を伏せて静かに笑う。
「今日は何の日か知ってるか?」
「今日?」
「そう」
加護はブンブンと首を振る。
「今日は かおり の誕生日…」
「…あっ…」
「そして、2日後は なっち の誕生日」
「2人っきりにしてやろうよ」
矢口はポンと加護の頭を叩いた。
「それで昨日 喧嘩したの?」
矢口はフライパンで目玉焼きを作りながら首を振る。
「それとこれは違うよ…ほら、冷蔵庫からジュース出して」
加護は冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップに注ぐ。
「まあ、昨日の事で なっち は少し気まずいだろう…」
矢口は歯を見せてニカッと笑う。
少し困らせてやりたい気持ちもあったのだ。
「どうするの?」
トーストにバターを塗りながら加護が聞く。
「ハハ‥朝ごはん食べたらメールでも送るよ」
安倍の携帯に矢口からメールが入った。
ーーー楽しんできなよーーー
浮かなかった安倍の顔はにわかに輝きだす。
矢口への返信は たった一言。
ーーーうんーーー
それで充分だった。
【 BATTLE AFTER 】第三十五話
暑い日ざしにセミも堪らず鳴く…
駅に着くとTシャツとジーンズの短パンの辻がいた。
辻の手には小さなバックが握られていた。
「ありゃ‥辻だ…」
「ちょっと辻、学校は?」
「夏休みなのです」
「あぁ、そっか…」
「よくここを分かったな?」
飯田は辻の頭を撫でる。
「のの も行くのです」
「行くって…加護は?」
「矢口さんのお守りなのです」
「……」
「あっ」
安倍は何かを思い出したように言う。
「前にもこんな事があったような…」
必死に思い出そうとする。
「安田さんの悪霊が取り付いた時なのです」
安倍はポンと手を叩く。
「あ〜そうそう、圭ちゃんの悪霊が…って悪霊じゃないでしょ」
「あれは悪霊なのです」
「違うよ!ちゃんとお墓にも……」
安倍は また何かを思いついたようだ。
「どした?なっち」
「ねえ、ついでにお墓参りに行こっか?」
「お墓参り?」
「そうそう、行こ行こう」
安倍は辻と飯田を追い立ててホームに入った。
ーーー願成寺ーーー
3人は保田の墓の前に立っていた。
「圭ちゃんのペンダントが無くなってる…」
安倍は立ち尽くしたままだ。
「まあ、盗まれたんだろうな…」
「……」
飯田は安倍の肩に手を置いて しゃあない と首を振って見せた。
「でも…」
安倍はやり切れない表情だ。
「また、悪霊が取り付くのです」
ゴツンと辻の頭が鳴った。
「縁起でもない事言うんじゃないよ」
飯田のゲンコツに辻は頭を押さえてしゃがみ込んだ。
3人で綺麗に墓を掃除して線香をあげる。
「辻、お菓子出しな」
「え〜!」
「お供え物なきゃ圭ちゃん可哀相だろ」
墓に供えたのはチョコレートだった。
「ん〜〜〜!でも気持ちいいね〜〜」
綺麗になった墓に手を合わせ拝み終わると、安倍は大きく背伸びをした。
「本当だな‥掃除がこんなに気持ち良いとは思わなかったよ」
つられて飯田も伸びをする。
「飯田さんの部屋はいつも汚いのです」
「そうなんだよなぁ いつもゴミだらけで…ってコラッ!」
飯田の乗り突っ込みに3人で爆笑した。
寺の二階から笑いながら出て行く3人を見る人影。
その瞳が細くなる。
「どうしたのじゃ?」
80歳を越えてると思われる風貌の寺の住職が聞く。
保田圭は膝をついて頭を下げた。
「今まで 有り難う御座いました」
「出て行くのか?」
保田は静かに頷く。
「…気になる事があります」
立ち上がるとそのまま寺を後にする。
「何か有ったらまた来なさい」
保田は振り返り少し微笑んだ。
行き場の無い保田は自分の墓があるこの寺に毎日のように来ていた。
ただただ 一日中ずうと居る 保田を見かねた住職が声をかけた。
なにか訳でもあると住職は思った。
しかし、聞かれても答え辛い事もあるのだろう。
ーーいつか話してくれるーー
住職は訳も聞かずに保田に部屋を提供した。
その保田が出て行く…訳も話さずに。
ーーそれもいいじゃろうーー
住職は保田の後姿に合掌した。
保田は安倍達を着ける事にした。
飯田の周りに僅かだが感じるものがある。
保田の胸に取り付けてある仮面への共鳴装置が反応したのだった。
【 BATTLE AFTER 】第三十六話
新幹線でM県に着く…
「あ〜ここで降りよう」
「なんで?」
「ほら、もう宿を探さないと」
「…えっ?」
「いいから いいからぁ」
駅の売店で観光の本を買い、レンタカーを借りた。
「何処に行くんだ?」
ハンドルを握る飯田が聞く。
「それが なっち も決めてないのよ」
助手席の安倍はペラペラと観光案内の本をめくった。
「え〜?決めてないの〜?」
安倍はキョトンとして聞く。
「なに今更慌ててるのよ?」
「いや、てっきり決めているものと…」
「のの もです」
安倍はハァと溜め息をつく。
「もう、気付くの遅すぎるわよ」
「……」
飯田は言葉も無い…
「兎に角なっちは疲れたよ…さあ、探しましょ」
「…そ、そうだな…」
呆然と答える飯田…
「探すのです」
何故か辻は楽しそうだった。
しかし、ガイドブックに載ってる旅館は全て満室だった。
秋保温泉という山添に有る温泉街で
泊まれる所を探しながら空を見上げると日が傾いてきている。
「おいおい、もう無いんじゃないか?」
山道は何時の間にか砂利道になっていた。
「ひ、引き返そうか?」
流石の安倍も弱気になる。
「あっ、あれはなんなのです?」
辻が指差す先…山影から煙が上っていた。
「お…温泉の煙だよ〜」
安倍の瞳は潤んでいた。
その温泉旅館の看板は緑風荘と書かれていた。
築百年は経っているだろうその温泉宿は秘湯の趣きがあった。
「ボロなのです」
慌てて安倍が辻の口を塞ぐ。
ハハハと笑って誤魔化す安倍に旅館の女将は微笑む。
「いいんじゃよ、本当の事じゃから」
女将と言っても腰の曲がったお婆さんだ。
「今日はあんた等を入れてお客さんは5組じゃよ」
部屋に通されて お茶を淹れる女将はニコリと笑った。
「え〜、下のホテルは何処も一杯でしたよ」
「ははは 此処はアタシと主人と息子の3人だけでやってるからねぇ
お客さんを抑えてるんじゃよ」
「じゃあ なんで私達を?」
「なんでじゃろうねぇ…この子の顔を見たらねぇ」
女将は辻の頭を撫でた。
辻の能力『ハムスターアイ』の賜物だった。
「夕食の時間になったら呼ぶから、下の庵に降りてくるんじゃよ」
「あーーい」
辻はニッコリと微笑んだ。
「探検してくるのです」
辻は部屋を飛び出した。
木造の古い廊下は歩く度にギシギシと音が鳴る。
「わぁ、本当にボロなのです」
一階に下りて庵の有る部屋に行くと老人が何かの準備をしていた。
その庵には鍋が掛けられていた。
「わぁ、これは何の鍋ですか?」
庵に岩魚の塩焼きを刺している老人に聞く。
「ははは 周りを見てみい」
宿の主人の老人に言われて見回すと、鹿と猪、熊の剥製が飾ってあった。
「今日は猪鍋じゃよ」
「わぁ!凄いのです」
辻は走って庵のある部屋を出る。
「これ 何処に行く?」
「飯田さんと安倍さんに教えてくるのです」
ドタドタと響かせて階段を上っていく足音が聞こえた。
「やれやれ 慌ただしい子供じゃのう」
笑みを浮かべて老人は一息ついた。
「大変なのです、もうご飯ができたのです」
辻が慌ただしく部屋に戻ってきて報告する。
「えー!まだ5時だよ」
「それに お婆ちゃんが出来たら呼ぶって言ってただろ」
安倍と飯田はお風呂に行く準備をしていたのだ。
「凄いのです、猪鍋なのです!」
辻に手を取られて2人はシブシブ着いて行く。
庵には食事の準備をしている老人がいた。
「ありゃ、夕飯はまだだぞい」
安倍と飯田は辻を睨みつける。
「つ〜じ〜、どゆこと!」
辻はポカーンとしていた。
「ははは よっぽどお腹が空いたのじゃな…もうちょっと待っとれ」
安倍と飯田は顔を見合わせ頷く。
「お爺ちゃん、手伝おっか?」
「ほう、そりゃ助かるわい」
「辻ぃ、アンタもだよ」
「分かったのです…」
手伝いながら話を聞くと この旅館は完全予約制で食事は予約した
お客の分しか用意をしていなかった。
女将と息子は予約分の食事の用意をしていて忙しいとの事だ。
安倍達の夕飯は言わば まかない食みたいな物だった。
「じゃあ、他のお客さんは部屋食なのに私達だけ この庵なんだ」
「なんだか悪いのう」
「いやいや、こっちの方が趣きが有って全然いいよ」
「それに猪鍋なのです」
鍋からは良い匂いが立ち込めてきた。
安倍が猪鍋から肉と豆腐とネギを取って辻の碗によそう。
「わぁぁ」
辻の顔がパ〜〜と輝く。
「初めてなのです」
「食べてみぃ」
「いただきますです」
辻は一口で猪肉を頬張る。
「どう?」
「美味いのです」
辻は満面の笑みだ。
「そう、良かったねぇ」
「じゃあ私等は…」
そう言いながら飯田は地酒の入った徳利を安倍のオチョコに注ぐ。
「はい かおり」
今度は安倍が飯田に酌をする。
「辻はジュースだな」
チョコンとオチョコで小さく乾杯し飯田は一気に飲み干す。
「プハー!旨めぇなぁ」
安倍はちょっと口をつけたが、直ぐにウエ〜と舌をだす。
「やっぱ なっち はジュースでいいよ」
自分のコップにジュースを注ごうとする手を飯田が止める。
「ぬぁにぃぃいい!」
「か かおり…」
「飲め!」
「…」
安倍にオチョコを差し出す飯田の目は据わっていた。
「美味い、美味いのです」
辻は至福の表情でモリモリ食べる。
「よっしゃ〜!今日は飲むぞ!」
飯田は徳利を一人で5本も開ける。
「なっち はもう無理、絶対無理だべさ」
安倍はオチョコ2杯で顔が真っ赤になり目がシパシパしていた。
「わぁぁああ!すごぉぉおおい!」
満天の星の下の露天風呂…
滝の流れる幻想的な風景に安倍達は歓声を上げた。
「なんだぁ?辻、その腹は」
飯田が辻のプニプニした腹の肉を摘まむ。
「やめて下さいなのです」
「キャハハハ、ほらほらほらぁ〜」
飯田は辻の腹をプニプニ摘まみながら湯船に追い立てる。
ーードッパ〜〜ン!ーー
「あぢゃ〜〜っ!!」
「あぢぃ〜のです!!」
お湯の熱さに飛び出す2人に腹を抱えて笑う安倍。
その熱さに慣れてきた頃…
縁石に腰掛けて湯船を足でジャバジャバする飯田に安倍が話しかける。
「ねぇ かおり…目 つぶって…」
「…なんで?」
「いいから いいから」
目をつぶる飯田の胸にヒヤリとした物が当たった。
「…これは?」
それは赤い宝石『サファイア』のペンダントだった。
「ふふ、誕生日おめでとう かおり」
「な なっち…」
ニコリと笑う安倍に飯田は泣きそうになる。
横に来てチョコンと座る辻に飯田は優しく語り掛ける。
「ハハ‥気にすんな…」
「でも…」
「あ、あのなぁ…言い辛いんだけどな…お前と加護には感謝してんだよ…」
「…?…」
「ほ、ほら いつも元気をいっぱい貰ってるからさ…」
ポリポリと鼻を掻きながら照れる飯田。
辻の顔がパ〜と明るくなる。
ニコニコ笑う安倍が そうっと辻の後ろに近付いた。
「そうそう、かおり の言う通り!」
言いながら辻の脇腹をコチョコチョとくすぐる。
「わっ!やめるのです!…わぁ!あじぃ〜のです!!」
ビックリして立ち上がった辻は、まだ熱さに慣れてない湯船に突っ込んだ。
キャハハハハと笑いあう声が満天の星空に溶けた…
「なあ なっち…」
「なに?」
「た 高かったんじゃないの…これ」
「ハハ…気にする事ないよ」
「あ〜 えっと あ ありがとう…」
ニコリと笑う安倍の笑顔が天使に見えた…
次の日も同じ宿に予約して観光に出る3人。
動物園で辻はちょっとした有名人になった。
全ての動物が辻に対して猫なで声をだしたのだ。
辻の言葉通りにクルリと回るライオンに飼育係も目を丸くする。
ケヘケヘと笑う辻の周りには何時の間にか子供達が集まる。
動物を操る辻は子供のヒーローになっていた。
午後は遊園地で遊ぶ事にする。
ジェットコースターで辻以上にギャーギャー騒ぐ飯田。
お化け屋敷で騒ぎまくる3人にお化け役の青年も満足の表情だ。
5重の団子のアイスクリームを片手に辻は満足の笑みを漏らす。
楽しい思い出作りの1日はあっと言う間に過ぎた…
【 BATTLE AFTER 】第三十七話
『レストランプチモーニング』では居残り組が奮闘していた。
矢口がリーダーになってレストランの模様替えをする。
「明日、あいつ等帰ってきたらビックリするぞ〜」
矢口はパーティの飾りつけを見てニッコリと頷く。
矢口、加護、紺野、高橋の4人は飯田と安倍の誕生パーティを計画したのだ。
「よっしゃ!歌の練習しようぜ!」
矢口を中心にパート割を決めて歌う曲は『真夏の誕生日』に決めた。
歌う4人のハーモニーは夜中まで続いた…
翌日…
安倍なつみ は22回目の誕生日を迎える…