★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「とぅう!」
跳び込む飯田はハカイダーに変身した保田の無防備な顔面に念のパンチを打ち込む。
飯田は完全に捉えた感触に勝ったと思った。
「な、なに!」
愕然とする飯田。
保田は2、3歩後ろに下がっただけだった。
顎を擦りながら首をコキコキと鳴らす保田には念が通用しない。
「ふん、そんな物か…」
「じゃあ、こっちはどうだ!」
両手を前でクロスする飯田のライダーグローブが光り始める。
「くらえっ!」
飯田の念能力『太陽のオーバードライブ』は保田の胸を捉える。
飯田のパンチに保田の胸当てがバチンと火花を飛ばす。
保田の黒いボディの表面にバチバチと光の念がまとわりつく。
「う、嘘だぁ!!」
飯田驚愕の叫びは嘘ではなかった。
念の光はそのまま地面に吸い込まれるように流れたのだ。
不思議そうに自分にまとわり付いた光りを見ていた保田はようやく気付いた。
「そうか・・・今のが念法というのか…」
変身後の保田のボディには念を通さない特殊なコーティングが施されていた。
まるで水を弾く油のごとく念は保田の表面を流れるだけだった。
「効かないね…」
ギリギリと腕を振り上げる保田のパンチは両手でブロックする飯田の体ごと吹き飛ばす。
「ぐう…」
ビリビリと響く衝撃。
飯田は防御にまわっては負けると思った。
「おぉりゃぁあああ!!!」
保田の懐に飛び込みマッハの連撃を繰り出す。
拳が胸に入る、肘が顎を捉える、膝が腹を抉る…
闘いながら飯田は気付き始めた。
ーーコイツ…闘い慣れてないーー
徐々にではあるが、飯田の攻撃は保田の動きを鈍くする。
念法は効かないが、闘い方は間違っていないと確信した。
イケる! そう思った飯田は一気に後ろに飛び保田との距離をとる。
腰を落とす飯田のベルトが光り始める。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「これで、終わりだ!」
大ジャンプをし、カオリンキックの体勢に入った飯田の瞳に此方に腕を向ける保田が映った。
保田の左手首がカクンと落ちた。
落ちた手首には穴が開いていた。
ーーボシュン!ーー
腕から放たれたのは超小型ミサイル…
保田の左腕はバズーカになっていたのだ。
ドゴォォォーーン!!
空中で爆発して煙を上げながら落下する飯田は咄嗟の念防御によって辛うじて致命傷は免れた。
しかし、仮面の機能は著しく低下する。
「うぁぁああ!!」
プスプスと煙を上げながら呻く飯田に静かに近付く保田。
飯田は初めて「死」の言葉が脳裏を過ぎった。
その時、保田と飯田にバイクのヘッドライトが当たった。
眩しさに手をかざす保田は止めたバイクから降りる2人の影を認めた。
紺野の連絡で屋敷に向かった後藤と吉澤だ。
保田は後藤と吉澤の存在を確認した。
しかし、今の保田には2人がどんな存在だろうが関係なかった。
例え以前、自分を殺したのが吉澤でも…
それは過去の出来事だった…
「はぁぁああ!!」
1人の影が俊足のスピードで保田の顔面に膝を浴びせる。
飯田のピンチを救った後藤の膝の衝撃に一瞬たじろぐ保田。
ズズッと下がる保田に間髪いれずジャンピングソバットを決める。
そのソバットの足は赤く燃えていた。
「んあぁぁぁあああ!!」
後藤の念能力『炎のオーバードライブ』は保田の顔面を叩く。
ボンと炎に包まれる保田。
しかし、その炎は流れるように地面に落ちて消える。
「なっ…!」
目を見張る後藤。
「キ、キサマ何者だ?」
念が通用しない…
そして、渾身の一撃をもビクともしない黒き戦士に後藤は改めて構え直す。
しかし保田は後藤など居ないかのように無視して飯田に向かって言う。
「ふん…邪魔が入ったようだな…」
踵を返す保田は静かに闇に消える。
「だが…これは始まりに過ぎない…」
闇の中から爆音と共に出てきた保田のドゥカティ996Rは無灯のまま後藤達の
横をすり抜けていった。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「かおりん!」
「飯田さん!」
抱き起こされて胸を押さえる飯田はゴホゴホと咳き込む。
「だ…大丈夫だよ…」
「アイツ、何者なの?」
飯田は首を振る。
「…分からない…」
「分からない…?」
「ああ、突然現れて…私を殺すって…」
「かおりん を?」
コクンと頷く飯田。
「でも…人と闘った気はしなかったよ…腕からミサイル出すし…」
顔を見合わせる後藤と吉澤。
確かに後藤の念は通じなかったし、打たれ強さは人間の物では無い。
「奴もパンサークロー…?」
後藤の問いに吉澤は静かに頷く。
「たぶん…この道に居たって事はそうなんだろうね」
「兎に角、一旦引き上げようよ、かおりんがこの状態じゃ…」
「それもそうだね…」
後藤と吉澤に支えられてた飯田は2人の手を振り解く。
「駄目だ…私は行くよ」
よろめきながらサイクロソに跨る飯田。
「ちょっと、かおりん大丈夫なの?」
後藤は止めに入る。
「高橋の通う高校が奴等に知られた…」
「え…?」
「ほっとけば私達の事もばれる」
「……」
「私達はいいよ、でも なっち や矢口…辻、加護はヤバイだろう」
飯田はサイクロソのエンジンをかける。
後藤は気付いた…
紺野の電話の意味を。
「それで紺野は私に携帯をかけたんだ…」
「行こう、ごっちん!飯田さん一人じゃ無理だよ」
後藤と吉澤も飯田の後を追いハーレーを疾走させた。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「アナタ〜、誰かお客さんが来たみたいよ〜」
洋館の二階から前庭を覗く石黒は一階のソファーで日本酒を口に運ぶ真矢に声をかけた。
「ふむ、また招かれざる客か…」
ゆっくりと立ち上がり玄関に出向く。
真っ暗だった洋館は石黒の趣味で各所にライティングが施され洒落たレストランみたいになっていた。
庭に止まった3台の大型バイクとそれに跨る3人の女ライダーを見て真矢は目を細める。
「お前達…生きていたのか…」
バイクから降りる後藤が口を開く。
「私達が来た理由は分かるでしょ?」
後藤から立ち上るオーラは戦闘用のソレだった。
「…うむ、大体はな」
そこに飯田が口を挟む。
飯田の変身は疲労と傷によって解けていた。
「あんた達パンサークローの仲間に高橋の事はしゃべったのかい?」
「ほう、俺達の事を知ってるみたいだな…」
「あれだけテレビで暴れればね…それより、仲間には報告したのか?」
「…さあな、知りたければ腕ずくで聞くんだな…」
真矢は自信たっぷりに腕を組む。
「…OK 分かったよ…」
飯田がバイクから降りる。
その前に吉澤が静かに立つ。
「飯田さん…あんたは傷ついている…私がやるよ」
「まあ、誰でもいいがな…」
真矢は顎をしゃくって、 着いて来い と促がす。
少し離れた所に綺麗に芝が刈りそろえてある庭園が有った。
「おやおや、これはエライお客さんだねえ」
庭園には石黒が立っていた。
「後藤と吉澤か…生きてるとは思わなかったよ…で?目的は私達の死かしら?」
「ふむ、そのようだ…」
真矢は踏み出そうとする石黒を手で制止する。
「まずは俺が殺る…」
そして改めて向き直る顔は何時もの無表情だった。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「さあ、誰から来るんだ?」
「私だと言ったろう」
手ぶらの吉澤は腰を落とし居合い抜きの格好をする。
「おい、手ぶらじゃないか」
「よく見な…」
揺らめく妖気のように立ち上る吉澤のオーラ…
吉澤の手には忽然と現れた日本刀が握られていた。
「…ほう、一応は使えるようだな…」
真矢は2、3歩後ろに下がる。
「居合いの間合いが有るようだな…だが、入らなねえぜ」
ーーピンーー
空気が張り詰める…
「一つ聞きたい事がある…」
吉澤はそのままの体勢で静かに聴く。
「…なんだ…?」
「さっき、飯田さんを襲った黒い改造人間はオマエ等の仲間か?」
真矢は少し訝しげな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「…知らんな……いや、例え知ってても教えん」
「そうか…」
真矢の指がコキコキと鳴る。
「それはそうと…」
真矢は意味深に笑う。
「オマエは俺の間合いに入ってる事に気付いてたか?」
真矢の指は芝にめり込む。
ーーブンーー
ザワザワと芝生が震え、超振動の波が吉澤の足を捕らえた。
「ハハハ、一度捕らえたら俺の『ダイヤモンドクラッシュ』からは逃げられん!」
足に絡まる超振動に、吉澤は動く事が出来ない。
「そのまま肉塊になって死ね!」
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
ーーヒュンーー
吉澤の抜刀…
閃光が白く光った。
パチリと『太陽の剣』を鞘に収める吉澤。
しかし、真矢は何とも無かった。
「馬鹿め、何処を斬っている!芝を斬っても何ともならんぞ!」
ハハハと笑う真矢の顔が凍りつく。
吉澤の足に絡みつく超振動が消えていたのだ。
「斬ったのはアンタのダイヤモンドナントカ…」
吉澤の魔剣は真矢の超振動を芝生ごと斬ったのだ。
「ば、馬鹿な!!」
刹那のスピードで間合いを詰める吉澤。
一瞬送れた真矢はそれでも後ろに跳んだ。
だが、その一瞬は命取りになる。
瞬く閃光と共に抜かれた吉澤の魔剣は真矢最大の武器 手首 を斬り落とした。
落ちた手首を見る真矢の目が驚愕と共に見開く。
「うおぉぉおおお!! お、俺のダイヤモンドクラッシュがぁぁああ!!」
両手首を切り落とされ狼狽する真矢に無言で近付く吉澤はためらいも無く首を刎ね落とした。
ズズンと音を立てて崩れる真矢の後ろから妻の石黒が吉澤めがけて跳びかかる。
「おぉのぉれぇぇえええ!!」
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
その石黒を飯田のキックが横から迎撃する。
横腹を蹴られて体勢を崩す石黒はそれでも身を捻って着地する。
「かおり!邪魔するな!」
石黒がキッと見据える飯田は膝を付き肩で息をしている。
そして、吉澤も立っているのがやっと…膝が震えていた。
後一秒でも真矢の超振動を浴びていれば吉澤の足は破壊されていたのだ。
「アンタの相手は私がする」
後藤が石黒の前に立つ。
「…ほう…」
石黒の目が据わる。
「こっちも聞きたい事があるんだけど」
「何を?」
「何故、私達を狙う?」
後藤はチラリと飯田を見る。
「かおりん は私情かもしれないけど…」
石黒を見る顔は薄く笑っていた。
「私とよっすぃ は…こういう関係だよ」
後藤は懐から警察手帳を出して見せた。
「ハハ…お前が警察?…笑えない冗談だな」
石黒の両手の爪に念が集中する。
「と言うのは建て前でね…本当は大量に殺人を犯したオマエ達が許せないだけだよ!」
言い終わると同時に後藤が突っ込む。
迎え撃つ石黒の爪。
ーーやばい!ーー
下から振り上げられる石黒の念の爪を見た瞬間に、後藤はバクテンで踵を返す。
構え直す後藤の頬には赤い筋が3本…
親指で頬の血をすくいペロリと舐めると、そのままベッと吐き出す。
「ハハ、ブルースリーの真似かよ!」
今度は石黒が一気に間合いを詰めて念の爪を繰り出す。
「余裕と見て欲しいね!」
後藤は振り下ろす石黒の両手首を掴み、顔面に頭突きを叩き込む。
「ぐあ!」
鼻血を出しながら仰け反る石黒はそのままサマーソルトキックを後藤の顎にヒットさせる。
「んあ!」
潰れた鼻を指で摘み元に戻す石黒。
首を振りながら顎を擦る後藤。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「ふん、まあまあやるね…じゃあこれはどう?」
石黒は鈎状に曲げてた念の爪を揃え貫手の構えになる。
「しゃあぁぁああ!」
貫手の連撃は後藤を穴だらけにする筈だった。
後藤は受けに徹する。
連撃を全て手の平で横に受け流す。
少しでも集中を切れば、それは致命傷になる。
「くそぅ!」
当たらない…後藤が防御に徹していれば埒が明かないと思った。
「チッ」
石黒は一旦離れ、爪に集めていた念の集中を切る。
その瞬間を後藤は見逃さない。
「だあぁぁああ!」
後藤の剛拳が石黒を襲う。
顔面を襲う拳を首を捻ってかわす石黒の耳が衝撃で裂ける。
続いて襲う後藤の右ハイキックを左腕でガードする。
ビリビリと伝わる衝撃によろける石黒。
その石黒の瞳に後藤の背中が映った。
回転しての踵落しは石黒の顔面を襲う。
全ての念防御を腕に集中して腕をクロスさせる十字ブロックは必殺の踵落しを受け止めた。
「おりゃぁああ!」
石黒はそのまま後藤の踵を跳ね返した。
体勢を崩す後藤を見た石黒の目が光る。
「よっしゃぁああ!死ねぇぇええ!!」
体勢を崩したままの後藤の首めがけて念の貫手を放つ。
石黒の必殺の貫手…『キャッツクロー』…
その貫手は後藤の首を跳ばす筈だった。
それだけの念を込めて放った一撃だった。
しかし、その貫手は首を防御した後藤の左手の平を貫いただけだった。
手の平に突き刺さった指を抜こうとするが抜けない。
後藤が左手を握り石黒の手を離さなかったからだ。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話
「何故だ!今の一撃は止められない筈だ!」
「アンタの動きを止めるにはコレしかないと思ってね…」
後藤は一連の連撃の攻防で密かに左掌に防御の念を集めていたのだ。
後藤は大きく振りかぶる。
その右手の拳は燃えていた。
「んあぁぁああああ!!!」
後藤の念能力『炎のオーバードライブ』は防御する石黒の左掌を貫き顔面にめり込んだ。
ーーボン!ーー
音を立てて石黒は炎に包まれる。
後藤の念が体内に流れる…
その念は全てを炎に変える…
石黒はヨロヨロと真矢の骸に近付き、覆い被さるように倒れた。
「アナタ…ごめん…」
真矢の首を抱きしめながら石黒は絶命する。
静かに燃え始める二人の屍はやがて業火に包まれる…
メラメラと燃える二人の遺体…
それは人の形をした墨を残しただけになった…