★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★

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【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 真矢の操る黒のフェラーリF40は屋敷に続く山道の途中で停車する。
物凄く狭い後部座席でギュウギュウの状態だった平家が身を乗り出す。
「あやっぺ 着いたの?」
「いや、まだだ・・・」
助手席でグッタリしている石黒の代わりに真矢が答える。
「・・・どういう事?」
「うむ、すまんが此処から歩いて行ってくれないか」
「えっ!!」
「これ以上進むと俺達は奴の影響下に入る・・・」
「・・・歩くって・・・」
「うむ、普通に歩けば2時間ぐらい掛かるが、アンタの足なら10分あれば着くだろう」
「・・・・・・・」
平家は絶句して言葉にならなかった。

車を降りて薄暗くなった山道を見る。
この道を走って登るのかと思うとドッと疲れてきた。
恨めしげに真矢を見ると「すまん」と頭を下げるばかりだった。
「この道は一本道だ・・・迷う事は無い・・・」
「あ〜も〜!!分かったわよ!!」
平家はノースリーブのワンピースとヒールの高いサンダルを履いてきたことを後悔した。
見送る真矢を振り返る事なく、黙々と山道を歩く平家は走る事はやめた。
確かに走れば10分そこそこで着く。
だが、ちょっとでも時間を延ばしてやろうと真矢夫妻に意地悪したくなったのだ。

「なんで私が歩かなならんの・・・」
ぶつぶつと呟きながら一時間も歩いた頃、平家はハッと気付く。
「私がフェラーリで来れば良かったやん!」
ハンカチで汗を拭いながら、今来た道を恨めしげに見る・・・
せっかく来たのに、道半場で戻るのは嫌だった。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 『飯田二輪店』の前に一台の高級リムジンが止まった。
江頭が降りてきて後部ドアを開けて一礼する。
リムジンから優雅に出てきた藤本は店の看板を見上げた。

「ごめんください」
店の中には一人の少女がチョコンと座り、店番をしていた。
「いらっしゃいませなのです」
「あら、可愛いお嬢さんねぇ、店番?」
「そうなのです」
「紺野あさ美さんのお宅は此処でいいのかしら?」
微笑む藤本に辻はウンと頷く。
「でも、今はいないのです」
「・・・どうして?」
「アルバイトに行ってるのです」
「アルバイト?貴女に店番をさせて?」
「飯田さんと一緒に警察なのです」
「警察・・・?」
よく要領を得ない返答に藤本は困惑する。
「あさ美ちゃんは元警察官なのです」
「元警察官?15歳で?」
「多分そうなのです」
う〜んと首を捻る藤本は、ますます解からなくなる。
「あ、私は紺野さんの倶楽部の部長をしてます藤本と言います」
一礼する藤本にペコリと返す辻。
「ののはののと言いますです」
「・・・ののちゃんですか?」
辻は立ち上がり外に向かって走り出す。
「あっ、待って、何処に行くの?」
「友達のアイボンを連れて来るのです」
「あいぼん・・・?・・・なんですの?」
出て行く辻を見送る藤本は店に取り残された。
「へんな子ね・・・まあ、戻ってくるまで待ちましょう」

しかし、何時まで経っても辻は戻ってこなかった。
丁度、夕食時で夕飯を『レストランプチモーニング』で取っていた加護を見て
なんで自分を誘わないのかと怒りだして、なだめる安倍に加護と同じ物を作って貰い、
藤本の事を忘れて一緒に夕ご飯を食べたからだった。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 まさか藤本が家に来ているとは知らない高橋は鼻唄を歌い、ノロノロとジンジャーに乗って
帰り道の海岸線を走っていた。
「今日は大変だったなぁ・・・あさ美ちゃんに何て話そう・・・」
そこに後ろから声が掛かった。

「よう、高橋!今帰りか?」
飯田のバイクと紺野のジンジャーが追いかけてきた。
「飯田さん、あさ美ちゃん、今アルバイト終わったんですか?」
「おおよ、お腹ペコペコだぜ、帰ろ帰ろう」
「愛ちゃん、随分遅い帰りですね・・・まさか、合唱部に戻ったんじゃ?」
ギクリとする高橋。
「あっ、やっぱり・・・駄目ですよ、あそこは・・・」
「ち、違うよ、戻った訳じゃないよ・・・ただ・・・」
「ただ、なんです?」
高橋は首をすくめ、隠しきれないと思い、今日の出来事を話し始めた。


「へ〜、そんな事があったんだ・・・」
飯田は腕を組み目を閉じて頷く。
「でも偉いぞ、高橋!悪い奴をやっつけたんだからな」
高橋は飯田に褒められて満更でもなさそうだ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
紺野は腑に落ちない所があった。
「部長がヴァンパイアの長だとしても・・・その部長は今何処にいるんです」
「う〜ん、聞かなかったけど・・・」

飯田が不思議そうに聞く。
「帰ったんじゃないのか?・・・紺野、それがどうかしたのか?」
「石井先生は愛ちゃんを狙ったんですよね・・・」
高橋と飯田は顔を見合わせる。
「だったら、部長は私を狙うんじゃないでしょうか・・・」
飯田と高橋の顔色が変わる・・・
「や、やばいな・・・紺野、高橋!ちょっと先に帰るわ!辻が心配だ・・・」
そう言うと飯田はアクセルをふかし『サイクロソ』を飛ばす。
「愛ちゃん、私達も急ぎましょう」
「う、うん」
高橋と紺野も改造ジンジャーのアクセルをふかした。

【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 平家みちよ は立派な城門のある、古城にも見える洋館の前に立っていた。
見上げるソレは如何にもな雰囲気が有り、確かに石黒夫妻が欲しがるのも判る。

「やっと着いたわ・・・」
溜め息混じりに独り言を言いつつ、ためらいも無く玄関からどうどうと中に入る。
中はちゃんと明かりが点いていた。
「誰もおらへんのかな・・・?」
館内をグルリと見回す。

「おらへんのなら、色々と物色しちゃうかな〜?」
平家が手を真っ直ぐに天井に向ける。
その手は人差し指を伸ばす。
「なんちゃって〜」
ドンと指先から光の弾『念弾』が放たれた。
真っ直ぐ天井に向かう念弾は軌道を変え二階の柱の影に当たる。
バンと柱に当たる音と共に人影が飛び出し窓ガラスを割って外に逃げた。
「ちっ、外したか・・・」

走って外に出ると、洋館の屋根に女が立っていた。
「オマエか?あやっぺを吸血鬼にした奴は?」
月明かりが女の顔を照らす。
「そうです・・・貴女はあの人の仲間ですか?」
里田まい の目は赤く光っている。

「・・・友達だよ」
平家の指から念弾が放たれる。
屋根の上を素早く移動する里田は念弾をかわす。
「当たるまで何発でも撃つよ」
ドンドンドン・・・
放たれる念弾は避ける里田の立つ屋根を次々と破壊する。
「やべ・・・これじゃ屋敷が壊れちゃうな・・・」
ペロリと舌を出す平家。

「しゃあない・・・あんまり得意じゃないけど、肉弾戦といくか・・・」
得意じゃないと言いながら数メートルもジャンプする平家は屋根に着地し、
里田に走り突っかかる。
「いくら、目を赤くしても邪眼は効かへんねん!」
クルリと回転しながら繰り出す回し蹴りを里田は身を捻って避ける。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 月明かりを背にして、闘う2つの影・・・

「はあ!!!」
平家渾身の念パンチが里田の顔面を捉えた。
「ぐあっ!」
ゴロゴロと屋根を転げ落ちる里田は屋敷の庭に体を打ちつけた。
ぐう、と呻いたきり動かない里田に余裕で近付く平家みちよ。
「念のパンチを打ち込んだ・・・もう、終わりやで」
「・・・・」
指先を里田の額に向けようとした瞬間・・・

倒れた体勢のままガバリと里田が立ち上がった。
「なっ!!!」
里田の真っ赤な口が開き、咄嗟に顔をブロックした平家の腕に噛み付いた。

「うおぉぉおお!!」
腕を振り、里田の牙を引き剥がす。

「お前、念が効かないんか?」
首をコキリと鳴らしてニヤリと笑う里田まい。
「貴女のお友達と戦った時、耐性が付きました」

「なんやて・・・」
愕然とする平家・・・有り得ない事だった。
しかしそれは、里田には可能だった。

石黒との闘いで腕を失っても、直ぐに繋げた
超絶の生命力が念への耐性を造ったのだ。

「それよりも・・・血を吸いましたよ・・・」
平家は自分の右腕に付いている吸血痕を見た。
「そのようやね・・・」
クルリと踵を返す平家みちよ。
「どうしたんです?」
今度は逆転した立場の里田が聞く。
「アンタの影響を受ける前に退散するわ・・・」
その平家の後姿に向かって里田が声をかける。
「もう、二度と来ないで下さい・・・次は自殺させます」
「へいへい・・・」
平家は背を向けたまま手を振って答えた。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 フェラーリの中で石黒夫妻はお互いの血を求め合っていた。
・・・コンコン・・・
窓ガラスをノックされて真矢がビックリして頭を天井に打ちつけた。
「お、おお・・・終わったのか?」
車外に出た真矢と石黒は自分の傷跡に手を当てる。
痕は消えてなかった。

「私が酷い目に合ってたのに、抱き合ってたの?」
バツが悪そうな夫妻。
平家はやれやれと少し呆れ顔で右腕の牙の痕を見せた。
「み、みっちゃん・・・あんたも・・・」
呆然とした表情の石黒に対してニヤリと笑う平家。
「馬鹿な奴だよ、私の血を吸うなんて・・・」
平家は館のある方角に向かって右手を突き出す。
「何すんの?」

石黒彩は知らない・・・平家みちよの『サイコガン』の秘密を・・・

「これで、どんなに離れていても奴の居場所が判る・・・まあ、今死んで貰うけどね」
・・・ドンドンドンドン・・・・・・・
平家は10発以上の念弾を空に向かって打ち込む。
「私のサイコガンを甘く見ちゃあかんよ・・・」
ふうと、指先に息を吹きかける真似をする平家は、石黒にウィンクをして見せた。


玄関の前で静かに藤本の帰りを待つ里田まいはチラリと腕時計を見る。
「遅いですね・・・もう、帰ってきてもいい時間なのに・・・」
その頭上めがけて平家の念弾の雨が降り注いだ。
「なっ!?」
敵の気配が無いので油断していたのだ。
次々に襲い来る念弾を全身に浴びて、言葉も無く里田まいは絶命した。
玄関前に転がる屍は、もはや人の形さえしていなかった・・・


街を走る漆黒のフェラーリF40・・・
キャハハハと笑う平家は助手席の石黒の頭をペンペンと叩いた。
「これで貸しが一個できたね・・・」
「へいへい、分かりましたよ・・・みっちゃんには敵わんよ」
平家につられて大笑いする真矢。
3人の傷跡は完全に消滅していた・・・




【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ジンジャーで飯田を追いかける2人は不安に苛まれた。
飯田は猛スピードで消えたのだが、
藤本の妖視線を飯田は知らない。
追いかける途中で高橋が、嫌な感じのする視線を感じたのを思い出し、
市井紗耶香の邪眼と同じじゃないかとの結論に達したのだ。

「飯田さん!!」
飯田二輪店に跳び込むと、藤本に抱かれる飯田がいた。
その藤本の唇からは血で染まった犬歯が見えた。
愕然とする2人。

「あら、遅かったわね・・・」
ニッと笑う藤本の足元にドサリと飯田が崩れ落ちた。
「高橋さん、石井先生を倒したんですって?・・・今、この女の人が話してくれましたよ」

「飯田さんをどうしたんです!」
高橋が睨み返す。
「フフフ、私の奴隷にしただけです・・・」

「もう一人女の子がいた筈です!」
紺野も睨み返す。
「店番の子供ですか?・・・あの子は出て行ったきり帰って来てません・・・」

藤本の目がスッと細くなる。
「それより・・・やはり貴女達は只者ではないようですね・・・」
高橋を指差す藤本。
「高橋さん・・・貴女がどうやって石井先生を倒したのか興味があります」
ドキリとする高橋。
「石井先生を倒した技・・・私に試しても構いませんのよ・・・」


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ニヤリと犬歯を見せて一歩踏み出そうとする藤本の足が止まる。
「だ・・・誰が奴隷だって・・・?」
飯田が藤本の足首を掴んだのだ。
「ふうん、しぶといんですね・・・」
足で飯田の手を振り払いヨロヨロと立ち上がる飯田を見据える。
「ですが、貴女はもう、私の影響からは逃げられませんよ」

藤本は改めて高橋と紺野を指差す。
「命令です、あの2人を捕らえて私に差し出すのです」

フーフーと肩で息をする飯田は2人に向かってヨタヨタと歩き出す。
「い、飯田さん!」
「飯田さん!しっかりして下さい!」
目を見張る高橋と紺野に飯田の両手が伸びる。
その両腕はドンと2人を突き飛ばし店の外に出した。
「・・・お、おまえ等・・・危ないから・・・さがってな・・・」

飯田のダラリと下ろした両腕の間には何時の間にか仮面が赤く光っていた。

「・・・へ・・・変身・・・」

仮面の内部から蒼い稲妻が迸る・・・

「な、なんですの?」
藤本は目を見開き驚きを隠せないでいる。

「うおおぉぉぉおおおおお!!!!」
バチバチと音を立てて蒼い電気を放電する赤い戦士は雄叫びと共に
藤本を持ち上げボディスラムのように藤本を外に向かって投げ捨てる。

十数メートルも飛んだ藤本の体はクルリと回転して着地する。
しかし、着地した場所はリムジンが止めてある道路だった。
「あ、有り得ませんわ!貴女達、人間ですの?」

ズカズカと店から出てきた飯田は、また雄叫びを上げる。
ライダースーツの中の首筋の吸血痕から藤本のヴァンパイアの血がビュッと抜けた。
・・・飯田の固有念能力の賜物だ・・・
「そりゃあ、こっちの台詞だ!」
突っ込む飯田のショルダータックルは藤本を道路向こうの崖下の海岸まで吹き飛ばした。

「飯田さん!大丈夫なの?」
高橋と紺野に親指を突き立ててハハハと笑ってみせる。
隣りのレストランからも全員何事かと跳び出して来た。
「大丈夫、大丈夫ぅ!みんな心配すんな!」
飯田は道路を飛び越えて崖下の海岸の砂浜に着地する。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 呆然と立ち尽くす高橋と紺野。
「おいおい、大丈夫って言って大丈夫だった事って余りないだろう」
後ろから矢口の声が聞こえてきた。
顔を見合わせる高橋と紺野。
「行きましょう愛ちゃん!」
「うん!」
2人は走り出した。

「ま、待てお前等!」
安倍と顔を見合わせる矢口。
「行こう!矢口!」
安倍と矢口も2人を追う。

辻と加護も顔を見合わせる。
「飯田さんが大丈夫って言ったのです・・・」
「そやな、確かに言ったね大丈夫やって・・・」
そう言う2人の子供の手には、ご飯茶碗が握られていた。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 立ち尽くした藤本は月光を見上げていた。
「貴女・・・人間ではなかったんですね」
「はん、お前と一緒にすんな」
「まあ、いいでしょう・・・」
藤本は飯田に向き直る。
その目は赤く光っていた。
そして、その赤は金色に変化していく・・・

藤本の口が裂け、ザワザワと金色の体毛が生えてくる・・・
爪が鈎状に曲がり鈍く銀色に光る。

その口からはグルルルル・・・と野獣の声が漏れる。

「お前・・・可哀想に・・・成仏させてやるよ・・・」
ーーーキーーーンーーー
構える飯田のベルトが光り始める・・・

「飯田さーん!」
その時海岸に降りる道を紺野と高橋が走ってきた。

飯田は見た、紺野を見た藤本の顔に浮かんだ歪んだ笑みを・・・

「ば、馬鹿!来るなって言ったろうが!!」
間髪入れずに紺野が答える。
「そんな事言ってませんよ!大丈夫だって言っただけです!」
「また、減らず口を・・・」
気付いたら目の前の藤本が居なかった。

上を見上げるとブワリと飛んだ藤本が紺野に襲いかかろうと体勢をとっていた。
「逃げ・・・」
言いかける飯田を雄叫びが遮った。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 「こんのぉぉおおおぉぉおおおおお!!!!」
雄叫びの主は崖上から飛び降りた江頭2:50だった。
「え、江頭さん!!」
ザーと紺野の前に降り立った江頭は両手を広げて紺野を庇う。
「ぐああぁぁぁああああ!!!」
藤本の振り下ろす銀の爪は江頭の喉から腹にかけて見事に切り裂いた。

「な、何故オマエが・・・?」
血みどろになって倒れる江頭に藤本は驚く。
その藤本の肩にポンと置く手・・・
振り向く藤本の顔面に飯田のパンチが待っていた。
「ぎゃっ!」
ドーと波打ち際まで転がるヴァンパイア。


「え、江頭さん・・・生きていたんですか?」
紺野の膝枕の上でニヤリと笑う江頭はゲフッと血を吹いた。
「また・・・死ぬけどな・・・」
「そんな・・・」
「紺野ぉ・・・お前は生きろ・・・」
「死なないで下さい」
「さ、最後に頼みがある・・・」
「何です?」
「キ、キスしてくれ・・・」
「えっ!!」
「た、頼む・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ぃゃ・・・です・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

何とも言えない笑みを残し江頭は紺野の膝の上で息を引き取った・・・

「え、江頭さーーーーーーん!!!!」

紺野の声が波に消えた・・・


駆けつけた矢口と安倍、高橋が泣き崩れる・・・・・・振りをした様に見えた・・・・・・




【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ヨロヨロと立ち上がる藤本・・・

「お前、卑怯だな・・・」
飯田のベルトが光り輝く・・・
「おおぉぉおおお!! かおりんマーッハパーンチィ!!!」
波打ち際まで一瞬で跳んだ飯田のパンチが藤本の腹を貫く。
「ぐがぁぁあああ!!」
腹を抉り内臓を潰し、背中に抜ける筈の飯田のパンチは手首で止まった・・・
「な、なに!」
藤本の腹筋が飯田の手首を締めたのだ。

藤本の驚異的な回復力は獣に変化した事により更に強化された。
しかし、その獣性の為に人間性は無くなる・・・

「ヒャハハハハ・・・卑怯でも何でも勝てばいいのよ!!」
締め付ける腹筋は飯田の手を抜けなくさせる。

飯田のザクリと背中に鋭い痛みが走った。
「ぐっ・・・」
藤本が背中に鋭い爪を突き立てたのだ。

「ハハハハ、切り刻んでやるよ!」
爪を振り上げる藤本。
「おい・・・ヴァンパイアが太陽に弱いって本当か?」
不意に飯田が聞いた。
「ハハハ、何言ってんだ!嘘に決まってるだろう!」
「・・・そうか・・・」
「それに、この夜空でどうやって太陽を出すんだ?」
「・・・試していいか・・・?」
「何をだ?」
「・・・太陽・・・」

藤本の口が侮蔑の笑みで歪む。
「はっ?馬鹿かお前! もう喋るな、黙って私に殺されるんだ!!」
しかし、振り上げた藤本の爪は動かない。

ーーー!!ーーー

「お・・・お前・・・何をした・・・?」
藤本の口から血が滴る・・・
「・・・太陽・・・」
飯田は静かに答える・・・



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 
飯田圭織の念能力・・・

それは、光りのオーラ・・・『太陽のオーバードライブ』・・・

藤本の腹に食い込んだままの拳は太陽の輝きに燃えた・・・


ピシリと藤本の額が割れる・・・

「うががぁぁがぁああ!」
ビシビシと藤本の全身が、ひび割れる・・・

割れた内部から光りが漏れる・・・

それは眩い太陽の輝きを放っていた・・・

バラバラと崩れ落ちる藤本の肉片は波にさらわれる・・・

標本のように残った骨柱は、やがて砂のようにサラサラと崩れ、風に舞い、夜空に溶けた・・・


ドサリと膝を突く飯田に高橋と安倍、矢口が駆け寄る。
「大丈夫ですか?飯田さん!」
「ああ、だから言っただろ・・・」
矢口と安倍が飯田に肩を貸す。
「大丈夫のようには見えないけどな」
「ハハハ・・・」
「もう、意地っ張りなんだから、かおりは・・・」
飯田は江頭を膝に抱く紺野を見た・・・


紺野の頬には涙が止め処も無く伝わり落ちる・・・


その涙は・・・本当の涙・・・偽りなど有る筈も無かった・・・