★★【小説】 ☆☆【 BATTLE AFTER 】 ★★

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1DEADorALIVE ◆ALIVE7Is
【小説】 ★★ 『ハロプロ』バトルロワイヤル★★
の続き、sage進行でお願いします。

前スレはコチラです。
http://cocoa.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1011018323/l50

登場人物紹介と今までの粗筋は>>2-20ぐらいに有ります。
2DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:07 ID:suLKcMxm
【 BATTLE AFTER 】

ーーー登場人物と背景ーーー

★『レストランプチモーニング』
関東のS市に有る海の見える丘の住宅街の一角に有る
小さいがお洒落な喫茶兼洋食屋。
営業時間はAM11時〜PM 9時オーダーストップは8時半。
定休日は日曜日、売り上げは1日平均約3万円。
客層は昼時は安倍、矢口、目当ての男性客が多いが夜はカップルが多数。
2階に安倍、矢口、加護が住んでいる。

☆安倍なつみ(21)
『レストランプチモーニング』のオーナー兼コックさん。
安倍特製のハンバーグ定食『なっちランチ』が好評。
夜はフランス料理の『なっちディナー』が評判を呼ぶ。
http://pandaemonium.cool.ne.jp/oekakilog/log135/035_048.png 

☆矢口真里(19)
『レストランプチモーニング』のオーナー兼カウンター係り。
軽快なトークで客の心を惹きつける。料理は出来ない。
日替わりのミックスジュース『矢口ジュース』は何が入っているか分からない。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000012.jpg

☆加護亜依(中学2年生)
『レストランプチモーニング』に住み込む。
気が向いた時にウエイトレスとしてバイトをする。
いつも辻と一緒に居る為『飯田二輪店』に月の半分は泊まりに行く。
必殺技はペットの虎をけしかける『虎太郎アタック』
http://pandaemonium.cool.ne.jp/oekakilog/log133/034_168.png
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000010.jpg
3DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:08 ID:suLKcMxm
★『飯田二輪店』
『レストランプチモーニング』の隣に有るオートバイと自転車のショップ。
『ツョッカー』壊滅の御褒美に政府に3階建てのビルに立て替えてもらうが
飯田の余りにもいい加減な経営の為、客は近所の小中学生の自転車のパンク修理だけ。
2階に紺野、高橋、辻が住んでいる。3階は飯田1人で独占。
屋上にライオンと虎を飼っている。
一日の平均売り上げ2千円ぐらい、極たまにバイクが売れる。
生活の為『七曲署』に紺野と一緒にアルバイトをする。
営業時間と休業日は適当、飯田は『レストランプチモーニング』に入り浸ってる。
 

☆飯田圭織(21)
『飯田二輪店』オーナー。
ピンクのライダースーツに着替える事により仮面ライダーに変身。
必殺技『かおりんマッハパンチ』『かおりんキック』『かおりん錐もみキック』
愛車はバイクの『サイクロソ』
渋川流念法師範代、渋川剛気に師事を仰ぎ念法を会得。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000013.jpg

☆紺野あさ美(15)
『飯田二輪店』の実質的なオーナー。
売り上げ計算から家計簿、税務申告まで全てこなす。
『ツョッカー』壊滅の御褒美に政府に3階建てのビルを立て替えさせるが
ソレを期に民間人に戻った為、政府からの援助は無くなる。
ナノマシーンにより脳改造手術を受けている為、IQは200以上。
日本で5本の指に入るハッカー。愛車は改造したジンジャー。 
今春から地元の女子高に高橋と一緒に通う。
http://pandaemonium.cool.ne.jp/oekakilog/log135/035_044.png 

☆高橋愛(15)
『飯田二輪店』に住み込む。
元『ツョッカー』の改造人間。紺野のツテで政府の再手術を受けて
老化現象を止める事に成功。
今春から地元の女子高に紺野と一緒に通う。
通学は紺野から貰ったジンジャーで紺野と一緒に通う。
必殺技は相手の精気を抜く事だが今は封印している。
4DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:09 ID:suLKcMxm
☆辻希美(中学2年生)
『飯田二輪店』に住み込む。
気が向いたら『レストランプチモーニング』にバイトに行く。
頭を撫でた動物と心を通わせる事の出来る動物使い。
必殺技はスカイフィッシュを使い相手を切り刻む『スカフィーアタック』と
ペットのライオンをけしかける『獅子丸アタック』
目のチャクラを開き相手の心をホンワリとさせる聖眼『ハムスターアイ』
http://pandaemonium.cool.ne.jp/oekakilog/log134/034_178.png


☆虎太郎☆獅子丸
『ツョッカー』の改造を受けた虎とライオン。
今は加護と辻のペット。
普通の虎とライオンより相当強い。
☆オロチ丸
『ツョッカー』の改造を受けた体長10Mを超えるアナコンダ。
飯田に蛇だけは勘弁して欲しいと頼まれて辻が山に放すが
今は古びた神社の守り神に祭り上げられている。


☆吉澤ひとみ(17)
改造人間。警察庁長官直属の特殊警察官。殺人許可証を持つ。
全国に散らばった『ツョッカー』の残党を殺す為、全国を旅する。剣の達人。
必殺技『円月殺法』『次元刀』、渋川の師事の元、念法を会得。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000007.jpg

☆後藤真希(17)
改造人間。警察庁長官直属の特殊警察官。殺人許可証を持つ。
全国に散らばった『ツョッカー』の残党を殺す為、吉澤と共に全国を旅する。
必殺技『大回転踵落し』『猛虎硬爬山』、渋川の師事の元、念法を会得。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000009.jpg


★『七曲署』
飯田達が住むS市の警察署。
捜査一係に飯田と紺野が事件解決の為、アルバイトをする。

☆松田優作
元七曲署のジーパン刑事。念法を使う鬼武者。
渋川へ月百万円の送金の為、ヤクザの用心棒をしている。

☆渋川剛気
念法の達人、渋川流念法師範代、スケベだが物凄く強いお爺ちゃん。
5DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:10 ID:suLKcMxm
秘密結社『パンサークロー』
       『ツョッカー』壊滅後、中沢が仲間を集めて造り出した
       超魔人による改造人間犯罪集団。
       *『ツョッカー』が余りにも強く造った為、
         手に余り日本に放逐した残党達、全員念法を使う。

★中沢裕子  総帥
       中沢ビルのオーナー兼バー『パンサークロー』のママ兼
       中沢芸能事務所社長。
       必殺技 暗黒瘴気を操る。瘴気に触れた人間は即死。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000014.jpg

★平家みちよ 副長
       バー『パンサークロー』のチィママ兼『モーニングペアー』のマネージャー。
       必殺技 右手人差し指から発射する念弾『サイコガン』
           曲がる性質のある念弾は相手が物影に隠れても追尾し命中する。

★市井紗耶香 団員 
       全てを無くし、放浪の旅をする。
       必殺技 邪眼『パンサーアイ』で相手を木偶にする。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000015.jpg

★石黒彩   団員
       夫の真矢と共にCAT'S-EYEとして盗賊家業に勤しむ。
       必殺技 超硬質の爪『キャッツクロー』で全てを引き裂く。

★真矢    団員
       超怪力の持ち主。妻の彩と共にCAT'S-EYEとして盗賊家業に勤しむ。
       必殺技 指先から発する超振動で相手を粉砕する『ダイヤモンドクラッシュ』
6DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:15 ID:suLKcMxm
★石川梨華  団員
       松浦と共に『モーニングペアー』として歌手デビュー(中沢芸能事務所所属)
       必殺技 複数の五寸釘を天空に放りシャワーのように
           相手に突き刺す『モーニングシャワー』
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000017.jpg
          
★松浦亜弥  団員
       石川と共に『モーニングペアー』として歌手デビュー(中沢芸能事務所所属)
       必殺技 念により作り出されるシャボン玉を口から吹き出す
           『シャボンピーチ』シャボン玉には桃の香りがする
            松浦の吐息が含まれているが、それは相手の四肢を
            弛緩させ、動けなくする毒息。
 
★新垣理沙  団員
       『モーニングペアー』のマネージャー(中沢芸能事務所所属)
        飯田圭織によって命を絶たれる。

* 他にも団員が居るかは不明

7DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:18 ID:suLKcMxm
今までの粗筋。(但し、自分も読み返してないので間違ってたらスマソ・・・)

200X年、日本に革命政権が誕生する。
資本主義を否定する政権は独裁者によって軍拡に勤しみ、
国民を恐怖政治によって押さえ込む。
政治力を国民に知らしめる為に最初に粛清のターゲットになったのは
ブルジョワ芸能界だった。
ツンク♂の裏切りによって差し出された生贄はハロープロジェクト。
彼女達はハロープロジェクト解散の最後のツアー中に拉致される。
解散という事で駆けつけた卒業生達も理不尽な殺し合いのゲームに
巻き込まれる、『バトルロアイアル』の開始だった。

無人と化した小さな島で殺し合いを余儀なくされたメンバー達は
国民への恐怖を刷り込む為のスケープゴートになった。

こうなる事を予想していたのか、積極的に参加する者、
ただ、ひたすら逃げる者、仲間を探す者、メンバーの団結力は急速に無くなる。

殺し合いを助長するために投入された陰獣達は芸能界でも持て余す犯罪予備軍だ。
喜び参戦する者、大切な人を守る為参戦する者、それぞれの葛藤は悲劇を呼ぶ。

その闘いの中で自分の潜在能力を引き出す者達がいた。
後藤真希は磨きぬいた肉体を最大限引き出し、闘いの中で自我流の拳法を編み出す。
吉澤ひとみは日本刀を手にする事により殺人の快感に身を委ねる魔剣を身に着けた
シリアルキラーと化した。
福田あすかは幼い頃から習得していた柔術を使い生き残る決意を固める。
8DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:21 ID:suLKcMxm
辻と加護は手を取り合いミニモニリーダーの矢口を探し出した。
信頼出来ると思われる飯田を探す矢口達の前で、既に石川を殺害している
中沢裕子がボーガンで松浦を殺害。
中沢は矢口を探していたが、殺人現場を目撃された矢口に否定されると
矢口の目の前で自殺を図った。

政府の目的は殺人ゲームを楽しむだけでは無かった。
政府は軍事科学において全てのタブーを否定した。
それはマッドサイエンティストを生み出し、人体実験を繰り返し、
生物兵器の可能性を探っていたのだ。

闘いの中でモニタリングされていた、娘達の中で選ばれたのが
後藤、吉澤、福田の3人だった。

その後藤と福田の死闘は、辛くも後藤の勝利で終わる。

一方、ひょんな事からチームを組む事になった市井、紺野、高橋は
殺し合いを止めさせるべく島をさ迷うが、やっと見つけた寺で見た物は
死体がゴロゴロと転がる中で対峙する後藤と吉澤だった。

魔剣と剛拳の闘いは後藤に軍配が上がるが、親友の吉澤を殺した
後藤は吉澤の亡骸を蹴りつける高橋を見て激昂、高橋を殺害する。

本当の妹の様に可愛がっていた後藤の変わり様に絶望した市井は
後藤を抱きしめながらナイフで殺害し、自分もそのナイフで自殺をする。

その頃、ナイナイの岡村の手を借りてツンク♂とその仲間を殺し、
首輪の爆破装置を解除するリモコンを奪った安倍と飯田は
モニターに映る矢口達を見つけて合流に成功して島を脱出する。

政府の命を受けた転向者、和田アキコが屍が転がる寺の境内に到着すると
そこに居たのは一番無害と思われた紺野だけだった。
モニタリングしてた3人を生死に関わらず、人体実験のために運び込もうとする
和田は、過酷な運命を切り抜けた紺野も何かの運命かもしれないと思い連れ去る。
9DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:22 ID:suLKcMxm
革命政府の人体実験は成功した。
吉澤、後藤、福田は蘇生手術と肉体改造を受けて超人として甦る。
紺野は脳手術を受けてテレパシストになっていた。
政府の手によって命を握られた4人はチームを組んで
次の『バトルロアイアル』に陰獣として参加する事になる。
相手はジャニーズ軍団だったが、彼等の半分以上は改造手術を受けた
魔獣と化していた。

洗脳を受けて、死んだメンバーの事を忘れた、ニューモーニング娘。の
安倍、矢口、飯田、辻、加護の5人はジャニーズの生贄として
戦いの場、『軍艦島』に送り込まれる。

吉澤達は5人を守りながらジャニーズと戦わなければ為らなくなる。
熾烈を極める魔戦で福田あすかが死亡。
洗脳から解き放たれた5人の娘達のリーダー飯田圭織は紺野のテレパシーによって
隠されていた最強の武器、ライダースーツを手に入れて仮面ライダーに変身、
魔獣香取しんごを殺害。

一方、稲垣メンバーの復讐劇によって殺された和田アキコ。 
そして、一緒に居た紺野は稲垣メンバーの手に掛かる前に
自分のテレパシー能力を辻に託し自ら死亡、しかし紺野の死は仮死状態だった。

紺野の死にキレた後藤が稲垣メンバーを殺害。
吉澤は最後の魔獣、木村タクヤに追い詰められるも必殺の『次元刀』により
辛うじて勝利する。

生き残ったのは、やはりモーニング娘。のメンバー達だった。
10DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:28 ID:suLKcMxm
時は経ち、日本人民共和国となった国も、抑圧された国民の怒りが爆発、
自分達の力に自信をつけた、吉澤達は反政府ゲリラになり、
超人の能力をフル活用する活動は政権を弱体化させる。
そして、各地で反政府活動が活発化して遂には赤い政権は終焉を迎える。

しかし、政権を離れたマッドサイエンティストの活動は地下犯罪組織を造る事になる。
秘密結社『ツョッカー』の誕生は、新たな戦いが始まる事を意味していた。

新たに出来た新政府の特命を受ける吉澤と後藤。
テレパシー能力を失った代わりにIQ200を超える超天才になった紺野。

紺野は『ツョッカー』壊滅の為に飯田が経営する『飯田二輪店』に転がり込む。
飯田と暮らし始める紺野は戦いの中で『ツョッカー』壊滅よりも飯田達を
守る事を使命として感じ始める。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000008.jpg

運命的な出会いで愛し合うようになった高橋愛と松田優作は
高橋を改造人間にした『ツョッカー』を壊滅する為に軍艦島に向かう。

軍艦島で後藤、吉澤と出会った松田は共闘することで
鈴木ムネオ、松山チハルの『ツョッカー』の首領を倒し基地を爆破して壊滅に成功する。
遅れて来た飯田達とも合流して再会を果たすが、松田は高橋を飯田達に託して姿を消す。
11DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:31 ID:suLKcMxm
『ツョッカー』壊滅後。
高橋を向かい入れて楽しく暮らす『レストランプチモーニング』と
『飯田二輪店』の安倍、矢口、辻、加護、飯田、紺野。

吉澤と後藤は『ツョッカー』の残党狩りの途中で再会した松田に
今までとは違う敵の存在を教えられて愕然とする。
『ツョッカー』でさえ手に余り日本国内に放逐した改造人間達。
彼女達は全員『念法』という人外の能力を身に着けていた。
吉澤達がどんなに肉体を鍛錬しても念には無力だ。
対抗するには自身も念能力を身に着ける必要があった。

その頃、飯田は矢口の不思議な事件がきっかけで出会った渋川剛気という
念法の達人の老人に弟子入りして念法を憶える。
そして、その後、後藤、吉澤も弟子入りを果たし念法を習得。

その頃、新たな犯罪組織、中沢裕子を筆頭とする『パンサークロー』が
その活動を開始しようと蠢いていた。

中沢の命を受けて、矢口の居所を探っていた『パンサークロー』の団員、
新垣は毒の瘴気で飯田と対峙するが念を覚えた飯田の敵ではなかった。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000011.jpg
そして、紺野と高橋の前に現れた市井紗耶香は2人を心ごとさらってしまう。
怒る飯田を罠に嵌め、紺野の手で飯田を死地に追いやる市井。
http://pandaemonium.cool.ne.jp/oekakilog/log135/035_054.png
矢口を想い続ける総帥中沢、自分勝手な石川、松浦。
組織の結束を一番に考える石黒夫妻、平家みちよ。
様々な事情を内包しつつ『パンサークロー』は活動を開始する。
12DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 08:41 ID:suLKcMxm
う〜む、粗筋は、こんなところか・・・
なんか、ペタペタ貼ってるイラストは突っ込まないで下さい。
似てないのは重々承知の上ですので・・・申し訳!

では、これから本編です。
が・・・連続カキコで書き込めない・・・
ので、もう少ししてから書き込もうと思います。
13DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 13:58 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話


今日の2時のワイドショーは生放送で局が開催する世界の宝石店の紹介をしている。
その紹介番組は凄惨な殺戮現場を中継する事になった。

某局の一般人用の玄関口に集まった『パンサークロー』の面々は
それぞれにアイマスクをして集合した。
中沢はお気に入りのエルメスのバックを持っている。
「いや〜、これに入りきれるんやろか?」
「ハハハ、大丈夫よ、うちの旦那様が全部運び出すから」
石黒は夫の真矢の腹をポンポンと叩いた。
真矢は黒く大きい麻袋を担いでいた。
「さてと・・・」
平家はさっきから呆然と立ち尽くしている市井と紺野、高橋をチラリと見る。
「紗耶香・・・あんた達準備はいいの?」
黙って頷く市井に平家は中沢に視線を送り窺うと、中沢は首をすくめた。

さっきから此方をチラチラと見ていた警備員らしき男が意を決して尋ねてきた。
「あの・・・その格好は・・・」
「先週に予告状送ってんねんけどなぁ、パンサークローの名前で・・・」
中沢の言う『パンサークロー』の名前を聞いて警備員の表情が変わる。
「・・・あっ・・・」
「ほう、一応名前は知れてたんだね・・・無視されたかと思ってたわ」
事務所に報告に走る警備員に拳銃を撃つような格好で指先を向ける平家。
「ぱん・・・」
指先から放たれた念弾が警備員の頭を撃ち抜く。
スイカのように頭を潰され倒れる姿に周りの一般人が悲鳴を上げた。
14DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 13:59 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

「よっしゃ!行くでぇ!祭りの始まりや!!!」
中沢はメンバーを見渡し襲撃開始を宣言する。
「逃げる一般人は無視やで、抵抗する奴だけにしときな!!」
死んだ警備員を抱き揺する同僚めがけて石黒は大ジャンプの跳躍をみせる、
「シューーー!!」
着地と同時に右手を振ると同僚は5枚の肉片になる。
石黒の指先は全てを引き裂く念の爪で出来ている。
「ハハハハ・・・・来た来たぁああ!!!」
玄関からバラバラと出てくる職員と警備員達を見て石黒の唇が釣りあがる。
「石黒さん、私にやらせて!!!」
石川は右手を頭上に掲げ、念を集中すると手の中には五寸釘がゴッソリと握られていた。
「みんなぁ!ハッピー!!」
五寸釘を空に放るとキラキラと輝く銀の光は放射状に散らばり、
物凄い勢いで落下する。
釘が落ちる半径5m以内にいた人間は五寸釘の洗礼によって蜂の巣にされた。
「キャハハハハハ・・・」
人を貫いてもコンクリートの地面に深々と突き刺さる自分の念能力に
手を叩いて喜ぶ石川。
蜘蛛の子が散らばるように人々はその現場から逃げ惑う。
蜂の巣になって死んだ警備員達を跨いで玄関に赴くメンバー達。
玄関は鍵が掛けられシャッターが下ろされた。
「無駄な事を・・・アナタ、お願いね」
「おう・・・」
石黒に頼まれて巨大なシャッターに両手を当てる真矢。
「ふん!」
気合いと共にシャッターと強化ガラスで出来た玄関は強力な超振動に揺れる。
サーーッと音も無く砂のように崩れる玄関とシャッターは
真矢を砂まみれにした。
「もう、やりすぎです!」
モウモウと立ち込める砂煙に鼻と口を押さえながら松浦が抗議する。
「でも、キャーキャーうるさいんだよね」
逃げ惑う一般人を見渡し
「殺さなきゃいいんですよね、中沢さん」と、中沢にウィンクしてみせる。
松浦は大きく深呼吸すると唇を尖らせ、桃色の息を吐き出す。
その息は無数のシャボン玉に包まれ、フワフワと漂い、逃げる人間にぶつかり弾ける。
人の四肢を弛緩させる甘い毒息はバタバタと倒れる人の山を築いた。
15DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:02 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

迷路のように入り組むテレビ局の巨大ビルディング・・・
一階ホールに立つメンバー達に中沢は指示する。
「よっし、ここからは自由行動だよ、目標は宝石展がある球体展示場!
まあ、何人殺しても構わないが、テレビカメラ持ってる人には
ちゃんとサービスしてスクープを撮らせるんだよ、じゃあ解散!!」
パンパンと手を叩いてメンバーを煽る中沢は腕組みをして
散々になる面々を見てニンマリと笑った。

市井の後ろをトコトコと着いて行く紺野と高橋。
「あの・・・これからどうするんですか?」
「う〜ん、まあ、なるようになるんじゃないか・・・」
「警察も来ますよ・・・」
紺野の警察との言葉に市井はハハハと笑う。
「警察?・・・逮捕されるのもいいし、皆殺しにするのもいいね」
「でも、警察には後藤さんと吉澤さんがいますよ」

急に市井が立ち止まる。
「・・・どうしたんです?」
「・・・今、なんて言った・・・」
「えっ?」
振り返り紺野の肩を押さえる。
「なんて言ったんだ!」
揺する市井の手が紺野の肩に食い込む。
「い、痛い!離して!」
「答えろ!!なんて言ったんだ!!」
ドンと突き放すと紺野は尻餅をついた。
「・・・警察に後藤さんと吉澤さんがいるんです・・・」
高橋に支えられて肩を押さえる紺野。
「それが・・・どうかしたんですか・・・?」
呆然とする市井の呼吸は荒れていた。
16DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:03 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

廊下の向こうから此方に気付いた警備員と職員が走ってくる。
「おまえ等、何処から来た?」
警備員が市井の腕を掴んだ。
「・・・うるさいよ・・・」
「なにぃ!」
「・・・うるさいって言ってんだよ・・・」
市井の裏拳が警備員の顔面をグシャリと潰す。
「・・・!!!・・・」
たじろぐ残りの職員達5人は、ユラリと動いたかと思う間も無く
電光石火のスピードで職員達の間を抜ける市井の貫手で瞬殺された。

ドサリと倒れる職員達を一瞥もせず、市井は自分の顔を隠していた
アイマスクを無造作に取り捨てた。
「・・・市井さん・・・」
「・・・・・・」
「市井さん!」
紺野の呼びかけにも無反応な市井は肩で息をし、顔色は蒼くなっている。
「・・・関係ない・・・」
「えっ」
「もう、パンサークローも何も無い・・・」
無表情ながらも紺野と高橋を見る市井は薄く笑う。
「・・・もう、おまえ達も・・・」
「・・・なんです・・・?」
「いや・・・なんでない・・・好きにしな」
見合わせる紺野と高橋。
フラフラと歩く市井をそれでも2人はトコトコと着いて行く。
17DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:05 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

テレビで生中継される某局は各階で爆発が起こり、煙が上がっていた。
局内のカメラマンが中継する凄惨な殺人ショーは
国民の目を釘付けにした。

飯田と矢口と安倍、加護、辻もテレビの前でパニックになり体が凍りついていた。
テレビに映し出される殺人ショーの主役達のアイマスクの下の口は笑っていた。
「なんでこんな事すんだよ!あいつ等!!」
矢口の声は怒りで震えていた。
アイマスクをしていても矢口達には誰なのか判った。
皆、知っている、かつての仲間だった。
安倍と矢口で応援しようと約束した、石川と松浦もいた。
「裕ちゃん・・・」
中沢は高笑いをしていた。
「裕ちゃん、なんで・・・」
矢口はガクリと肩を落としポロポロと涙を流す。

「あっ、見て!あさ美ちゃんと愛ちゃんがいるよ!!」
辻が指差す画面には返り血を浴び両腕を血だらけにした市井が
警官を無造作に撲殺する姿と怯えるように後を着いて歩く紺野と高橋が映し出された。
ガバリと立ち上がる飯田の両拳が怒りで震えていた。
「紗耶香!!!」
出て行こうとする飯田に辻と加護が追いかけようとする。
「ののも行くのです!」
「うちも行くでぇ!」
「駄目だっ!!!」
飯田の余りの剣幕に辻の腰が抜ける。
飯田は目が潤み泣き出しそうな辻に近付きソッと頭を撫でる。
「おまえ達が来たら、今度こそ死ぬよ・・・私は大丈夫だから・・・ねっ」
への字に口を曲げる涙目の加護に矢口が抱きしめてやる。
「大丈夫、かおりは強いよ・・・信じよう」
大粒の涙を流す矢口は飯田に親指を立ててみせる。
「必ず、戻って来るんだよ・・・」
「おう・・・」

バイクに乗り込む飯田に安倍が走って追いかけてきた。
「・・・行ってくる・・・」
安倍は黙って頷くしかなかった。
言葉を出せば泣いてしまうからだ。
人差し指と中指を立ててピッと挨拶をして爆音と共に飯田のバイクは街に消える。
安倍は飯田が見えなくなっても何時までもその場から離れなかった。
18DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:06 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

東京のホテルのスィートルームで麻薬取引の為に上京していたヤクザの一団がいた。
テレビの中継を手を叩いて喜ぶヤクザ達。
画面の中の少女を見た松田優作は、おもむろに立ち上がり部屋を出ようとする。
「おい、ちょっと待てや、何処に行く?」
「・・・俺は抜ける・・・」
「なにぃ!取り引きは一時間後だぞ!」
親分が騒ぐ皆を制して松田に詰め寄る。
「てめえ、何言ってんのか分かってるのか?」
「・・・・」
「この世界、勝手は許されねえ」
「・・・・」
「なんとか言えや」
「・・・邪魔すれば斬る・・・」
ヤクザ達は顔を見合わせてゲラゲラ笑う。
「斬るって、おまえ、得物持って無えじゃねえか!」
松田は右手を横に水平に振った。
「・・・!!・・・」
言葉も無く4人のヤクザ達の首がボトボトと落ちる。
松田の右手には念で隠し持つ長剣が握られていた。
用心棒として雇われているだけの関係には情など有る筈も無かった。

吉澤が以前言っていた。
高橋は幸せに暮らしていると・・・
その高橋が、念を憶える前の自分を瀕死の重傷に追いやった市井と行動を共にしていた。
無言で部屋を出る松田の胸に付いている、市井から受けた傷がズキリと疼いた。
19DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:07 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

2台のハーレーに乗る美女2人・・・吉澤と後藤は遠くに見える
某局のビルから立ち上る爆煙を複雑な想いで見ていた。

とる行動は決まっていた。
それは市井紗耶香を殺し、紺野と高橋を救い出す事だった。

テレビ画面で見るパンサークローのメンバーの念能力は想像以上だった。
1対1でも勝てるか分からないのに、全員相手では絶対に勝てない。
他のメンバーは後回しにする・・・
そうするしか無かった・・・

吉澤はチラリと後藤を見た。
後藤の顔は悲壮感が漂っていた。
大丈夫かと思う。
後藤は市井と刺し違えても殺すと言った。
しかし、後藤の精神状態は手に取るように判った。
迷っている・・・
こんな状態では勝てない。
それなら・・・と、思う。

ごっちん・・・悪いけど、ごっちんを死なす訳にはいかないんだ・・・
私が困るんだよ・・・この先、どうしたらいいか判らなくなっちゃうじゃないか・・・


局ビルが近付くにつれ吉澤の決意は固くなる。

市井紗耶香は私が殺す・・・

それは、市井に心奪われている後藤に対しての微かな嫉妬も含まれていた。

20DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:08 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

球体展示場の真ん中に鎮座する世界一と謳われるダイヤのネックレスを首に掛けて
ご満悦の中沢に石黒が声を掛ける。
「裕ちゃん、お宝は粗方頂いたわよ、ねえアナタ」
真矢の麻袋はパンパンに膨らんでいた。
五指にギラギラと光る指輪を嵌める石川は窓の光に指輪をかざして見る。
「わあ、もう、ハッピーですう」
腕組みする平家はチラリと時下数千万円の腕時計をチラリと見る。
「ねえ、紗耶香達遅いんじゃない・・・」
「逃げたね、あいつ等・・・」
腰に手を当てた石黒が呆れ声で言う。
「紗耶香は結成当初から、やる気が無いからね・・・」
窓から下を見ていた松浦が報告する。
「皆さん、凄い数の警察が集まってきましたよ」
平家が松浦の所に行き、見てみると数十台のパトカーと消防車、救急車が集まってきた。
「さて、どうする裕ちゃん・・・」
「もう、あんな人達ほっといて行きましょうよ」
松浦も少し焦ってきたのか、訴えるように言う。
「・・・・・」
少し考える中沢。
「裕ちゃん・・・」
「わかったよ、出よう・・・紗耶香は後で私が罰を与える・・・これでええかな?」
中沢はポンと石黒の肩を叩いた。
石黒は溜め息まじりに頷く。
「よっしゃ、それでは正面玄関からどうどうと出るよ」
「・・・えっ?」
松浦と石川は顔を見合わせて渋い顔をする。
「私の暗黒瘴気を使って皆殺しにする・・・みんな、ちょっと我慢してね」
やっぱりと、松浦と石川は肩をガックリと落とした。
念防御をしても中沢の瘴気を浴びると暫らくの間、体が具合悪くなるのだ。
ポンと平家が石川の肩を叩く。
平家は仕方が無いと首をすくめて見せた。

21DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:10 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

正面玄関から現れたパンサークローのメンバーに一斉に銃口が向けられた。
一人前へズイと出た中沢のダラリと垂らした両手から
黒い煙のような靄が溢れ地面に広がる。
「う、撃てーーーー!!!」
怪異な現象を見た警官隊の隊長の命令により一斉に射撃が始まる、
が、瞬時に移動するメンバーには銃弾が当たらない。
その銃撃も数秒で収まった。
中沢の暗黒瘴気が風に乗り、あっという間に正面玄関に集まった人間を殺したからだ。
累々と転がる屍の間を悠々と歩き去る『パンサークロー』の最初の活動は終わった。



離れた所から見ていた見ていた吉澤と後藤。
「あの中には、いないな・・・」
歩き去るメンバーの中には市井達はいなかった。
双眼鏡を覗いていた後藤が吉澤に双眼鏡を手渡し指を刺す。
指差す先に市井達はいた。
局ビルの屋上から下を見下ろす3人が見えた。

玄関口まで約100メートル、殺人瘴気は漂っている。
吉澤は日本刀を上段に構える。
ヒュン!
無言で振り下ろす念の刃は瘴気を切り裂く。
サーーー!と切れる瘴気の間を走り抜けて玄関口に立つ。
見上げる先に市井は居るのだ。


22DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:12 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

屋上のドアが開いて中から出てきた後藤と吉澤。
無言で見詰める先には市井達がいる。
「ハハハ・・・やっぱり来たね・・・」
手摺りにもたれる市井は天を仰いだ。
ビィィン!
その足元に一本のナイフがコンクリートに突き刺さる。
「・・・・」
無言でナイフを見詰める市井。
最初に口を開いたのは後藤だった。
「市井ちゃん・・・私ずうと考えてたんだよ」
「・・・・」

「でも、解からなかった・・・」
「・・・・」

「どういう意味?」
「・・・何の事だい?・・・」

「そのナイフを使って、紺野にかおりんを殺させようとした・・・」
「・・・その事か・・・」
市井は静かに、寂しそうに瞳を落とす。

「どういう意味かって聞いてんだ!!」

後藤の拳は震えていた。
手摺りにもたれかかった市井は動かない。
「答えろ!!」

「・・・永遠の別れ・・・」

市井はひっそりと呟いた。

「・・・えっ?・・・」

「聞こえなかったのかい・・・」
「・・・・」

後藤の顔は苦悩で歪んだ。
「・・・そういう事・・・なの?」

ユラリと動きだそうとする後藤の前に吉澤が回りこむ。
 
「・・・!!・・・」

後藤の鳩尾に吉澤の日本刀の柄がめり込んだ。
「・・・よっすぃ・・・何故・・・」
ズルリと崩れ落ちる後藤を優しく支え頬にそっと手を置く。
「ごっちん、今のあんたじゃ無理だよ・・・ここで黙って見てな・・・」

立ち上がる吉澤はゆっくりと市井に向かう。
「見ての通り、私が相手をさせて貰うよ・・・
紺野、高橋、危ないから下がってな!」
市井が紺野と高橋に頷くと2人はその場所を離れた。
「吉澤・・・あんたが後藤とつるんでるとはねえ・・・
あの時は私の目の前で闘ったのに・・・」
「・・ふん、そうだったかねえ?・・」
構える吉澤に不用意に近付く市井の目が光り始めた。

その時、ドアが勢いよく破られ一人の漢が現れた。

23DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:14 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

飯田の乗り込むバイク『サイクロソ』はキャハハハと笑う一団とすれ違う。
10mも離れた所で気付いた飯田は弧を描いてバイクを急停車する。
振り向く集団、それは『パンサークロー』のメンバーだった。
「・・・かおり・・・?」
「かおりか?」
ざわつく一団の中に市井達が居ない事を確認すると
飯田は無言でバイクを急発進する。
爆音と共に消える飯田を見送るメンバーは顔を見合わせた。
「どういう事?」
石黒は中沢に話を向ける。
「・・・解からへん・・・けど、紺野と高橋に関係有るかも知れへんな・・・
やっぱり紗耶香に話し聞かへんとな・・・」
腕組む中沢は遠い空を見上げた。


サイクロソは中沢の瘴気を切り裂き局ビルの中に突っ込む。
この中に市井達はいる筈だ。
微かに漂う市井の念は、確かにこのビルに居る事を伝えていた。

24DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:19 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

屋上のドアを蹴破って入ってきた松田優作は
横たわり、何かを訴えようとする後藤、
目の前で対峙する吉澤と市井、
手を取り合って震える紺野と高橋を見て、だいたいの状況を把握した。

「わぁぁあああ!!!」
高橋は松田を見て両手で顔を覆い、その場にへたり込んだ。
松田も気付いたが、それ所では無かった。
市井のあの目・・・ヤバイ・・・

「吉澤!その女の目を見るな!操られるぞ!!」
しかし、松田の警告は遅かった。
クルリと松田に向き直る吉澤の瞳は光りが抜けていた。
上段に構える吉澤の体は微かに震えている。
市井の邪眼『パンサーアイ』を見た者は自分の意思を無くす木偶となる。
しかたなく長剣を構える松田・・・

吉澤の攻撃は単調だった。
体が強張り、力任せの大振りは何時もの華麗な剣技とは程遠い。
吉澤なりに必死に邪眼の呪縛に抵抗をしているのが判った。
しかし、念が込められている吉澤の日本刀は当たれば致命傷になる。
それは、松田の持つ長剣も同じだった。

あの技を使うしかない・・・

しかし、技を使うには吉澤の動きを止める事が前提だ。
25DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:21 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

高橋は松田と吉澤の闘いを祈るように見詰めていた。
松田は吉澤の剣を受けるか避けるのが、やっとのように見える。
「止めさせなきゃ・・・」
このままだと、松田、いや2人とも死んでしまう・・・
フラフラと立ち上がる高橋は紺野の制止を振り切って走り出した。

「止めてぇぇええ!お願がぁぁああいい!!」

松田と吉澤の間に両手を広げて入る高橋・・・

松田は愕然とする。
「ば、馬鹿!・・・」
操られる吉澤の剣は止まらない。
その日本刀は高橋の脳天に襲い掛かる・・・
「高橋!!!」
ザクリと振り下ろされた吉澤の日本刀・・・
ズルリと落ちたのは松田の左腕だった。
松田は高橋を庇い左肩から先を無くした。

吉澤の目が見開く・・・
「わあぁぁああああ!!!」
叫びと共に上段に構えたままの、吉澤の動きが止まった。
邪眼への必死の抵抗が自身の体の動きを止めた。

その吉澤の背中からスッと突き出る光る長剣。
振り向きざまに放った松田の最後の突きは吉澤の体の細胞の隙間を通す神技だった。
スルッと何事も無いように鳩尾に刺さった長剣を抜き取ると吉澤は静かに崩れ落ち、
松田は大の字に倒れた。

26DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:22 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

「いやぁぁあああ!!!」
高橋は松田の左腕を拾い上げ必死に肩に着けようとする。

「わぁぁあああ!!よっすぃぃいい!!!」
バタバタと這いながら近寄り吉澤を抱き寄せる後藤は激しく体を揺らした。
「よっすぃ、よっすぃ、起きてよ!!!」
後藤はパニックになりかける、吉澤の腹は血で染まっていた。
「・・・大丈夫だ・・・」
松田が後藤に声をかける。
「吉澤の内臓は傷ついていない・・・血は仕方ないと思え・・・
まあ、俺の念によって、また何週間か動けないけどな・・・」
薄く笑う松田はゴフッと血を吐いた。
吉澤に受けた念の傷は確実に松田を死地に連れて行こうとする。

「なあ、高橋・・・」
必死に腕を繋げようとする高橋に松田が声をかける。
「・・・な、なに?・・・」
「膝枕をしてくれ・・・」
「でも・・・でも・・・」
尚も繋げようとする高橋に笑ってみせる。
「ハハ・・くっつかないぜ・・・それよりも、俺のポケットにタバコとライターが有る・・・」
高橋はタバコを探し膝枕をする。
震える手でタバコを口に当てジッポーで火を点けた。
「・・・旨い・・・」
右手を高橋の頬に当てると高橋もその手を握り返す。
「なあ・・・」
「なに・・・?」
「俺が死んだら・・・」
「いや・・・」
「俺が死んだら・・・」
「いやだ・・・」
「キス・・・してくれ・・・」
「いやだ・・・今する!」
ポロリと咥えていたタバコが落ちる・・・

そっと口付けた松田の唇は冷たくなっていた・・・


市井紗耶香から取り上げられた『愛』は松田優作の死と引き替えに高橋愛の心に戻った・・・


27DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:23 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

意識が無い吉澤をそっと離し、後藤は自分の鳩尾に手を当てる。
吉澤から受けたダメージは回復していた。
目の前の出来事を黙って見ていた市井は無表情のままだった。
「もう、容赦はしない・・・」
「・・・そうか・・・」
「あんたの事、ずっとお姉ちゃんと思ってた・・・」
「・・・・・」
「でも・・・それも今、断ち切る!!」
後藤の声は震えていた。
それでも、キッパリと言い切る宣言に市井の顔に変化が生じた。
「・・・いいよ・・・」
力無く呻くように言う市井の額にどっと汗が吹き出る。

無表情に見える市井は激しく動揺していた。



最初は自分と同じ様に後藤は生きていると思った。

でも、『ツョッカー』の中に後藤は居なかった。

市井は絶望の中、日本中を旅した。

万が一でも後藤が生きている事を期待して・・・

拾われた中沢達のグループは居心地は悪かったが、何かを忘れられそうな気がした・・・

しかし・・・気がした・・・だけだった。

全てが、どうでも良くなり死に場所を探していたら紺野と高橋に出会った。

その時に後藤の事を聞いていればと、思う・・・

自分が撒いた種とは言え、こんな結果に成るとは夢にも思わなかった。

時間が戻せたなら、紺野達と出会ったあの海に還りたい・・・

そうすれば、今の自分はそちら側にいた・・・

だって、後藤真希・・・あんたが生きてると思わなかったから・・・


この想い全てを後藤に伝えたい、でも、伝えるすべが無い・・・


全てが・・・全てが、空回る・・・


もう、全てが遅かった・・・


28DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:27 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

「紗耶香ぁぁああ!!!」
市井が声がする空を見ると、輝く太陽を背に飯田圭織がキックの体勢を取っていた。
「・・・なっ・・・!!」
動き出そうとした後藤も唖然とする。
「かおりーんキーークッ!!!」
何時来たのかさえ分からない仮面の飯田は市井を見るなり
必殺のライダーキックを繰り出していた。
全ての念防御を両腕に込め、十字ブロックする市井は激しい衝撃に
数メートルも後ろに吹っ飛ぶ。

「紺野!!」
「飯田さん!!」
飯田はよろめく市井をそっちのけで紺野に駆け寄った。
「い、生きてたんですか・・・」
抱きしめた紺野はエグエグッとベソをかいた。
「ハハハ、当たり前じゃん、俺様が死ぬ訳ないじゃん!」
「だって、だって・・・死んだと思ってました・・・」
仮面を外した飯田はギュッと抱きしめて頬をくっつけた。
「バカ・・・心配させやがって・・・」
「ごめんなさい・・・」
「いんや、許さない・・・帰ったら、お灸すえるからな・・・」
「・・・えっ・・・?」
飯田はくつけていた頬を離して紺野の頭を撫でた。
「だから・・・帰るんだよ・・・」
「帰っていいの・・・?」
「当たり前だよ、高橋も一緒にな・・・」
飯田は紺野の手を取って松田の躯に跪く高橋の元に向かった。
言葉の無い飯田と紺野に向かって高橋は言う。
「・・・飯田さん・・・私、帰りたい・・・みんなの居る家に・・・あさ美ちゃんと一緒に・・・」
「・・・愛ちゃん・・・」
紺野は高橋に抱きついた。
松田の遺体に手を合わせる飯田はニコリと笑ってみせた。
「嫌だと言っても、連れて帰るよ・・・」
そして、倒れている吉澤を見て紺野にリーダーとして命令する。
「紺野、よっすぃの止血、頼んだよ」
「は、はい・・・」

帰れるんだ・・・私達、帰っていいんだ・・・

紺野の呪縛は飯田の命令で開放された・・・

29DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:30 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

飯田が振り向く先には後藤がいた。
「ごっちん!決着をつけるんだ!!」
後藤はうつむきながらも微かに頷いてみせた。


市井の腕は飯田のキックによって完全に折れた。

市井は後藤を見た・・・項垂れている妹を・・・

飯田が後藤に言った「決着」という言葉・・・

そうだな・・・決着はつけないとね・・・


「うわぁぁぁああぁぁああああ!!!!」
市井はがむしゃらに後藤に突っ込む。
迎え撃つ後藤は項垂れていた。


どうしたんだい・・・?

そんなんじゃ私の念が当たっちゃうよ・・・

私を殺すんだろう・・・


顔を上げた後藤は泣いていた。
「うおぉぉおおお!!!」
後藤の貫手は市井の胸に突き刺さる。
「・・・!!!・・・」
後藤の手に衝撃が走った。
貫手で刺さった後藤の指先にカチリと金属の感触・・・
市井の心臓は機械で出来ていたのだ。
「市井ちゃん・・・」
「ハハハ、私の心臓・・・破壊しないと、私は殺せないよ・・・」
後藤はそっと市井の機械の心臓を掴んだ。

30DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:31 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

「ゴメンね・・・悪いお姉ちゃんで・・・」
万感の想いを込めて、初めて市井が微笑んだ。
「市井ちゃん・・・」
後藤の瞳から大粒の涙がポロポロと零れ落ちる。
「さっ、殺りな・・・念、使えんだろ?」
市井は優しく後藤の頬を擦る・・・
「市井ちゃん・・・」
後藤の念能力・・・
それは、拳を燃やす『炎のオーバードライブ』・・・

静かに燃え始める市井紗耶香の体・・・
炎に包まれる市井は後藤の手をそっと引き離す。

「・・・私の心臓・・・爆発するんだ・・・」
後ろに下がりながら市井は最後の言葉を伝える。
「だから・・・死ぬ瞬間は見せたくない・・・」
「市井ちゃん・・・」


「さようなら・・・真希・・・私の妹・・・」


市井は踵を返すと屋上の手摺りに向かって走り出した。

「わぁぁあああ!!市井ちゃん!!」
後藤は追いかけようと走り出すが、
・・・死ぬ瞬間は見られたくない・・・
市井の言葉が後藤の足を止めた。

市井は手摺りを越えて屋上から飛び降りる。


「わぁぁあああ!!・・・お、お姉ちゃん・・・お姉ちゃん!!!」


数秒の後、爆発音と共に煙が屋上に昇ってきた・・・


その煙は天に昇り、青空に果かなく溶けて消えた・・・



http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000018.jpg
31DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:33 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

ーーーー数日後ーーーー

吉澤は病院のベットの上で目覚めた。
「・・・ここは・・・?」
「かおりんの使ってた部屋だよ・・・」
後藤は優しく微笑んだ。
「良かったです」
「のの・・・なんでここに・・・?」
何故か辻も付き添っていた。
「さあ・・・?」
後藤も肩をすくめる。


「は〜い、あ〜んするのです」
辻に言われるままに、口を開ける吉澤。
お粥を口に入れてもらいながら、吉澤は不思議に思う。
目覚めてから数日・・・毎日、辻がお見舞いに来るのだが、
辻がいると、場が和むのだ。
「可笑しいね、ののを見てると何かホンワリとするよ・・・」
「そうですか・・・?」
うんうん、と頷く吉澤。
「ほんと、ほんと、偉いよ〜ののは」
何が偉いのかは分からないが、後藤も辻の頭を撫でる。
「へへへ〜、ののは偉いのです、はい、あ〜ん」
「本当に不思議な娘だね・・・あ〜ん」
吉澤は当然のように口を開けて、お粥を口に入れて貰ってる自分が可笑しかった。
事実、辻が居ると助かった。
後藤と2人きりになると、何となく気まずい雰囲気が漂った。

あんな事の後だ・・・まあ、仕方ない・・・時間が解決するよ・・・
吉澤は自分に言い聞かせた。
それは、後藤も同じだった。
2人とも言葉に出さないが、考える事は同じ・・・解かっていた。


辻の瞳に宿る、聖眼『ハムスターアイ』は人をホンワリと幸せな気分に何となくさせる。

吉澤と後藤は辻の能力に自分達がハマっている事に気付いていない。

勿論、辻はそんな自分の能力に気付いてさえいない・・・

いや、気付く筈もなかった・・・

32DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:36 ID:8j2q6HU6
【 BATTLE AFTER 】第十九話

高校の中庭の花壇に咲く予定だった、高橋の誕生花アザミは見事に枯れていた。

「やっぱり枯れてたね・・・」
少し残念そうな紺野。
それを見た高橋はニッコリと笑う。
「また、植えなおそうよ」
「うん、そうだね・・・」
「今度は、あさ美ちゃんの誕生花も一緒に」
「えっ・・・」
得意そうに高橋はユックリと花壇を回る。
「知ってるよ、あさ美ちゃんの誕生花・・・すずらん・・・花言葉は繊細・・・
ムフフ〜、なんか合ってるね・・・」
「私が繊細・・・ですか?」
キャハハハと笑う高橋。
「もう、やっぱり、そう思って無いですね」
プウとほっぺたを膨らませる紺野。

キャハハハと笑い合う2人の声・・・

新しい2人の物語は、今始まったばかりだった・・・


ーーー市井紗耶香篇(完)ーーー
33DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/10 14:38 ID:8j2q6HU6
ども、やっと市井紗耶香篇、終了です。
スレも新しくしたし・・・
と言いつつ、例のごとく次の展開を全然考えていない・・・
次は何篇にするか・・・あ〜、難しい・・・
ちゅうことで、次回更新も未定です。。。申し訳!         では。
34otsu!:02/07/10 14:47 ID:VqDmN0w4
乙です!
35ののの虜 ◆nono2P.. :02/07/10 21:27 ID:4fVLvQGd
oノノハヽo
从 ´D`)<更新&新スレ立て乙れす。
36YOU:02/07/11 20:15 ID:PfINGmIS
すっごい面白いです!!頑張ってください!!
37名無し募集中。。。:02/07/11 22:39 ID:vfWQDT84
お、ついに新スレですね。
これからも頑張って下さい。期待して待ってます。
38名無し募集中。。。:02/07/12 20:32 ID:gOKrAaFB
何か書き込めなくなったんだって、作者。
39矢口LOVA:02/07/13 16:24 ID:033RZyKI
な〜んか矢口影薄いような・・・・・・・?
40DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/14 12:07 ID:ki4FV3aJ
皆様、ありがとうございます。
>>38
いや〜、スレ立てた時間帯は、この板にあまり人が居なくて、
書き込む度に「連続カキコ云々」や「二重カキコ云々」ばかり出て、
時間をずらそうと思ったですよ。
>>39
申し訳。でも、必ず大きな出番が来ますよ。

で、まだ全然書いてないです・・・・もちっと待って下さい・・・・では。
しかし、高橋の訛りは業となのか・・・?・・・いや、めっちゃ好きだけど・・・・
41名無し募集中。。。:02/07/15 22:11 ID:AwzMaHQ+
ほ・ぜ・ん
42保全:02/07/15 23:22 ID:MArJUHek
またーサーバー変わった
ちょっとあせった・・
43DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:26 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十話

中沢ビルの『バーパンサークロー』でカウンターに座り
カクテルのグラスを傾ける中沢は、物思いに耽っていた。
「どうしたん?裕ちゃん」
グラスを拭きながら聞く平家。
「・・・いや、ちょっとね・・・」
メンソールのタバコに火を点けて煙を燻らす。

あの日以来、市井からの連絡は無い。
携帯しか連絡手段は無かったが、その携帯も繋がらない状態だった。
考えられるのは、裏切ったか   死んだか、だった。

もしも、死んだとしたなら  殺されたんだろう。
市井程の使い手を殺す事の出来る人間がいる。

気になるのは飯田圭織の存在だ。
あの時、すれ違った飯田からは微かに念のオーラを感じた。
今更ながら思うのは、飯田は紺野、槁橋と繋がりが有るんだろうという事だった。
飯田ならテレビに映ったアイマスクの軍団は自分達と解かるだろう。
そして、紺野と槁橋を救う為に市井の元に向かったのなら
何となく辻褄が合う気がする。

少なくても自分の知らない所で、矢口が、紺野と槁橋が、そして飯田圭織が生きていた。
この調子だと、他の娘。達も生きていると思った方がいいのだろう。

矢口・・・矢口は気付いたのだろうか・・・
飯田と繋がっているのなら間違いなく自分達の事を気付いただろう。

だとしたら自分はどうしたら良いのだろう。

中沢はもう、自分が何を考えているのか分らなくなってきた。
頭がパンクしそうだった。
自分が次にリーダーとして取る行動も分らない。
44DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:28 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十話

 「なあ、みっちゃん、どう思う・・・?」
「どうって・・・かおりの事・・・?」
「・・・うん、まあ・・・」
中沢は曖昧に答えた。

「念は感じたよ、でも大した物では無かったけど・・・」
「そやねん・・・」
「裕ちゃん、紗耶香が かおりに殺されたと思ってんの?」
答える代わりに肩を竦める中沢。

「ハハハ、無理無理、かおりが念能力を持ってたって、あの程度じゃ
返り討ちに会うだけやん、私は紗耶香が裏切っただけだと思うよ、
紺野達と一緒にいた方が居心地が良くなっただけよ」
「そやったら、それでもええんやけど・・・」

「良くないよ・・・」
平家の目つきが鋭くなる。
「・・・裏切り者は殺す・・・それが掟でしょ」

「そやなぁ・・・」
ボンヤリと答える中沢。
「もう、しっかりしてや・・・まあ、も少し様子みよう」
溜め息をつく平家は、この頃少しやる気の無い中沢を心配する。

「裕ちゃん、タバコの灰!」
「・・・あ、ごめん・・・」

中沢の指に挟んでいたメンソールタバコの灰がポトリと落ちた。


45DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:30 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十一話

 紺野と槁橋が通う高校の昼休み時間、
槁橋が放課後合唱部に見学に行こうと紺野に誘いをかけた。

「私、合唱部に入ろうと思うんだけど、あさ美ちゃんも一緒に入ろうよ」
「え〜、合唱部ぅ・・・どうしようかなぁ」
「楽しいよ」
「でも、お店とか、警察のアルバイトも有るし・・・」
「もう、そんなの本当は飯田さんがやる仕事だよ」
「ですが・・・」
「あさ美ちゃんが入んないなら私も入んない・・・」
ぷ〜と脹れる槁橋。
「・・・分かりました、でも、店とか用事が有る時は抜けますよ」

紺野は槁橋の勧めで一緒に合唱部に入部した。
部員の皆は中途入部の2人を歓迎したし、部長はとても美しく、とても優しかった。
感激した槁橋は一生懸命に合唱に打ち込み、とても楽しそうだ。
紺野も歌う事は嫌いじゃなかったし、
ハーモニーが揃う美しさに次第に引き込まれた。

その合唱部が使う放課後の音楽室は、いつも甘いラベンダーの香りがした。

「ありがとうございました」
部活が終わりペコリと頭を下げて音楽室を出ようとする2人を部長が呼び止めた。
「少し、お話ししましょう」 
取り留めの無い話しは、何時しか部員全員が輪になって楽しい談笑になる。
その輪の中心にいる部長を見る部員達の目はキラキラと輝いている。
紺野は少し不思議に思う、こういう雰囲気が女子高なのかなと・・・

最初は単にそう思っただけだった。
 


46DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:32 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十一話

 一週間も経つ頃、紺野は違和感を憶えだした。
槁橋はまだ気付いていない・・・
いや、槁橋は憧れているのか、その人物を見る目はキラキラと輝いていた。

藤本美貴・・・彼女は合唱部の部長だった。

冷たい中に優しさを湛える藤本の凛とした瞳に見据えられると
何故か背中がゾクゾクとする。
部員達全員の憧れは彼女を完全に崇拝する異様な空気を造りだしていた。



決定的になったのは紺野が忘れ物を取りに学校に戻った時だった。
音楽室に明かりが点いていた。
夜の7時を回った頃だが、まだ誰か残って居るのかと
音楽室のドアに手をかけようとした時に中から声が聞こえた。
「あ・・・あう!あぅぅうう!」
それは呻いてるような声だった。

音を立てないように少しドアを開けて隙間からそっと覗いて見ると、
そこにはキスをする3人の少女がいた。
「・・!!・・」
部長の藤本は恍惚の部員2人の首筋に舌を這わせ、指を使う。
「あ・・せ、先輩・・・」
部員の体は小刻みに震えていた。

47DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:33 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十一話

 紺野は見ていられなかった。
ドアを離れると足早に音楽室を離れる。
靴箱がある玄関にくると急に動悸がして胸を押さえる。
ドキドキしていた。
鼓動を沈める為に深呼吸すると少し落ち着いた。
「やっぱり女子高なんですね・・・」
1人変な風に納得して、学校の正面口で待っている槁橋にジンジャーを走らす。
槁橋は紺野の顔を見てキョトンとする。
「どうしたのあさ美ちゃん?」
「な、何がです」
「顔、真っ赤だよ」
「・・・・・・」
紺野は今見た出来事を話すか迷った。
音楽室での光景を言葉にするのが恥ずかしかったし、
藤本とその恋人2人だったらまだしも、3人は異常だと思った。

「ねえ、愛ちゃん」
「何?」
「合唱部、辞めませんか?」
「えっ!!」
唐突に言い出す紺野に槁橋はビックリする。
「なんで?」
「・・・い、いや・・・か、帰ってから話します・・・やっぱり話しません」
「・・・????・・・」
混乱する紺野はチラリと2階にある音楽室を見る。
音楽室の明かりは消えていた。
「電気を消した・・・って事は」
好からぬ考えが頭をかすめ、更に顔を赤くする紺野。
「何言ってるの?あさ美ちゃん」
「ややや・・・、かかか帰りましょ、はやく、早く・・・」
ジンジャーに乗り込み加速する紺野。
「あっ、待ってよ!もう!」
追いかける槁橋は、帰ったら絶対に問い詰めると心に誓った。

48DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:35 ID:fBQzlktk
【 BATTLE AFTER 】第二十一話


 明かりを消した音楽室の窓から、ジンジャーに乗り出て行く
紺野と槁橋を見送る藤本美貴。
妖艶に笑う藤本の足元には、先程の部員が2人、呼吸も荒く寝そべっていた。
いや、倒れていたのは2人だけではない。
合唱部全員が恍惚の表情で失神、もしくは喘いでいる。


紺野は藤本の餌食になり倒れている部員達を見ていなかっただけだった。


藤本の唇は部員達の血で赤く染まっていた。
笑う唇の間から見えるのは鋭く尖る犬歯・・・

藤本美貴・・・

彼女は人間を奴隷にし、生血を吸う事によって生命を維持する・・・


吸血鬼・・・ヴァンパイアだった・・・


49kkk:02/07/16 02:37 ID:vhNbwR8G
割り込みゴメン。。
槁橋がどうしても気になって、、、
50DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 02:40 ID:fBQzlktk
鯖変わって俺もチトビビリますた。
てな事で前スレも変わったYO
http://tv2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1011018323/l50
展開も変わって・・・・次回更新も未定っす!
51DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 03:00 ID:fBQzlktk
>>49
槁橋は純粋に合唱部に入っただけです。
贄にはなってません。(今のところ・・・次回の内容はまだ考えてない)
52DEADorALIVE ◆ALIVE7Is :02/07/16 03:28 ID:fBQzlktk
しまった!高橋が槁橋になってた!
>>49はそういう事だったのね、・・・スマソ・・・全然気付かなかった・・・鬱だ・・・・
それと誤爆の>>38にレス返した>>40の俺はレス誤爆・・・・マジ鬱・・・・逝ってきます・・・
53名無し募集中。。。:02/07/16 18:08 ID:6t4NQoYg
藤本美貴きたー!!
ヴァンパイアか〜、なんかイメージにあいそう。
またまた今後が楽しみですね。
54エレコマニア・マリオJ ◆nBfobFj. :02/07/17 18:18 ID:e/DVuFoi
文字通り
『そっと口づけて ギュッと抱きしめて』
生き血を吸うわけですな。
55YOU:02/07/17 23:13 ID:bYsZnBck
あ〜、面白い!!早く続きが見たいです!!
56kp:02/07/18 16:00 ID:vCUmuUUh
保全します
57ののの虜 ◆nono2P.. :02/07/19 00:02 ID:cvVxk6Ow
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙です。鯖移転で一瞬見失ってました・・・。
58名無し募集中。。。:02/07/20 00:00 ID:GFutr9NA
保全
59名無し募集中。。。 :02/07/20 16:52 ID:lKFTh9Pe
里田は出ねーの?
60エレコマニア・マリオJ ◆nBfobFj. :02/07/21 09:26 ID:zTBkPQ2d
思い出しましたけど、高橋にも『相手の精気を抜く』と言う
必殺技があるんですよね。
と言うことは、今回は高橋VS藤本の「サッキュバスVSドラキュラ」
と言う感じになるのかなあ。と予想してみたり。
61ののの虜 ◆nono2P.. :02/07/21 23:27 ID:siP3woTr
>>60
oノノハヽo
从 ´D`)<それは封印したんじゃ・・・
【 BATTLE AFTER 】第二十二話

 願成寺というお寺が有る。
そこには保田圭の小さな墓石がひっそりと佇んであった。
墓石には、保田のお気に入りの小さなネックレスが掛けられている。
安倍と矢口は、たまに墓の掃除をしに来ていた。
今日はその日だった。

「おわっ、なんだ?このバイク」
矢口が目を丸くする。
「でっかいバイクだねえ、かおりのよりデカイよ」
安倍も驚嘆の声を出す。
願成寺の入り口には漆黒のドゥカティ996Rが止めてあった。


いつものように綺麗に掃除をして、手を合わせる。
矢口は毎回同じ念仏を唱える。
「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ユルシテクラハイ....」
安倍はそれを見てハハハと笑う。
「もう、化けて出ないよ、圭ちゃんは」
墓石に掛けてあるネックレスの青い宝石のペンダントヘッドをチョコンと指で弾いた。


帰り際に、御神木の大木に寄り掛かり腕を組み、此方を見ている女性に気付いた。
漆黒のフルフェースのヘルメットを被り、黒の上下のライダースーツに身を包んだ
その人物が何故女性かと分かったかといえば、
大胆に開けた胸元の白い谷間が眩しかったからだった。

「多分、あのでかいバイクの持ち主だよ」
「そうだねえ」
ひそひそと話しながら何故かその女性に会釈する
安倍と矢口は愛想笑いを浮かべていた。


此方をチラチラ見ながら寺を後にする安倍と矢口を無言で見送る女性ライダーは
おもむろに保田の墓石に向かう。
何を思うのか、墓石に掛けてあるネックレスをそっと拾い上げて、
手の平に乗せ静かに握った。


ドルルルルルンーーー
漆黒のドゥカティに乗り願成寺を後にする女性ライダー。
その白い胸の谷間には、ブルーサファイアのペンダントヘッドが揺れていた。


【 BATTLE AFTER 】第二十三話

 いつものように『バーパンサークロー』でブランデーをあおる中沢裕子。
チィママの平家は石川達のマネージャー業で今日はいない。
そこにドアを開けて入ってきた石黒彩はニヤニヤ笑っていた。
「どうしたん?あやっぺ、ニヤニヤして気持ち悪い」
「へへへ〜、面白いの見付けて来たよ」
「面白い物?」
「うん、アナタ〜♪」
呼ばれて入ってきた真矢は、片手に小柄な白衣の老人を摘んでいた。
無造作に放り投げられイタタタと腰を押さえる老人。
「ありゃ、アンタ生きていたんだ?」
足元に転がる老人に冷笑を浴びせる。
「あやっぺ、よく見付けたね」
中沢は老人のボサボサの白髪を掴み、顎を上げる。
「さぁて、どうしようかねえ・・・ドクターマシリト」
マシリトと呼ばれた老人の顔が蒼ざめる。


ーーードクターマシリトーーー
『ツョッカー』最高のマッドサイエンティストの彼は
その技術で最強の改造人間を造り上げた。
造り上げた超魔人、中沢達は組織さえ手が出せず日本本土に放逐するが
その責任を取らされそうになり、ドクターマシリトは組織を抜け逃げ出した。

マシリトは町で買い物をしている時、偶然石黒夫妻に見付かり捕まったのだ。


「離せ、中沢!これが見えんか!」
マシリトはポケットから起爆装置を取り出す。
「なにそれ?」
「おまえ等の心臓に取り付けた爆弾の起爆装置じゃ!」
スイッチに指をかけるマシリト。
それを見る中沢達はニヤニヤと侮蔑の笑みを漏らす。
「押してみなよ」
「なにぃ!」
「だから、押してみろって」
マシリトはスイッチを押す、しかし何事も起こらなかった。
【 BATTLE AFTER 】第二十三話

 「はっは〜、私等の念能力は強烈でね、爆弾を無効にするぐらい簡単なんだよ」
勝ち誇る中沢はマシリトの耳を持って引き立たせる。
「あんた、今私達を殺そうとしたね、これで私に殺されても文句は言えない訳だ」
中沢の不敵な笑みに今度こそ震え上がるマシリト。
「わ、わしはお前達を生き返らせたんじゃぞ!」
「頼みもしないのにね」
「最強の改造人間にもした!」
「それも、頼んでない」
「・・・・な、何が望みじゃ?」
「・・・もう、あんたに叶えられる事なんて無いよ」
「・・・・・・」
「殺してええかな?あやっぺ」
同意を求めて石黒に向いた中沢の顔が凍りつく。
「うん?どしたの裕ちゃん」
中沢の視線の先が自分の後ろに向いているので振り向く石黒・・・
「・・・!!・・・」
愕然として、その場を飛び退き、石黒は真矢の後ろに隠れる。

「何者だ!おまえ?」
音も無く、いや、気配さえ無く、石黒の後ろを取る漆黒のフルフェースヘルメットを被る
ライダースーツの女・・・
その女のはだけた白い胸元にはブルーサファイアのネックレスが揺れていた。

「おお!ケイ!助けに来てくれたか!」
バタバタと這いずりながらケイと呼んだ女の後ろに隠れるマシリト。
「・・・ケイ・・・?」
中沢達の表情が曇る。
ヘルメットを取るその女の顔・・・・
「・・・圭ちゃん・・・」

それは保田圭だった。
だが、中沢は知っている。
「け、圭ちゃん、アンタ、改造に失敗して肉塊になったんじゃ・・・」
無言の保田の後ろに隠れるマシリトが哂う。
「ヒャハハハ・・・確かに肉体はな、じゃが脳みそは崩れなかった・・・
ワシは、それを持ち帰り密かに造ったんじゃよ、最強の人造人間・・・
最強のサイボーグをな!!」

愕然とする中沢・・・
保田は人間では無かった。
脳だけが、人間の・・・サイボーグ・・・
だから、気配など無かったのだ・・・



【 BATTLE AFTER 】第二十三話

 「マシリト・・・おまえ、何人の運命を弄ぶんや・・・」
中沢の心が、どす黒い瘴気で満たされていく。

「ドクター・・・」
初めて保田が声を出した。
「なんじゃ?」
「私の体に爆弾を取り付けてるって言ってたよね・・・」
ギクリとするマシリト。
「ドクターの言う、起爆装置・・・さっき押したね・・・」
「あ、あれは・・・」
「嘘だったんだ・・・」

「ち、ちが・・・・!!!!・・・」
保田の裏拳がグシャリとドクターマシリトの顔を潰した。


「ふう、すっきりした・・・今まで爆弾の事で脅されてたんだよ」
保田はニヤリと中沢に笑いかけて髪を掻き上げる。
「じゃあね・・・」

店を出ようとする保田に中沢が声をかける。
「ま、待ってや、圭ちゃん!」
立ち止まる保田。
「行く所、あんの?」
「・・・無いけど・・・」
「ほな、なあ、あやっぺ」
同意を求めると、石黒も頷く。
「そ、そうだよ・・・私達の組織に入らない?」
「・・・組織・・・?」
「そうそう、私達の他にみっちゃん、石川、松浦がいるよ、あと行方不明の紗耶香も・・・」

「ふ〜ん、面白そうな話しだね・・・」
保田はカウンターの席に座る。
「マスター、何か作ってよ」
無言で腕組みをする真矢に保田はウィンクしてみせた。

【 BATTLE AFTER 】第二十三話

 保田はあれ程の大事件(テレビ局襲撃事件)を知らなかった。
保田が人造人間として生まれ変わったのは1ヶ月ほど前の事だったからだ。
それだけの開発期間を掛けてドクターマシリトは保田を造ったのだった。

「悪い連中だなあ、パンサークローってのは」
ハハハと保田は笑う。
「なあ、入いらへんか?マジで」
「私はその念なんとかっての使えないよ」
「かまへんがな」
保田はカクテルのグラスに視線を落とす。

「裕ちゃん、私、お酒飲んでも酔わないんだよね」
「・・・それがどしたん?」
保田はニッと笑う。
「私から見れば裕ちゃん達は人間だよ、改造って言っても肉体強化手術だけだろ・・・
私の体は機械で出来てるから・・・」
保田はライダースーツの腕をまくって見せる。
中沢達は愕然とする、黒く光るメタリックの腕が見えたからだ。
「肌が露出してない部分は殆んどこんなんだよ・・・」
保田はタバコに火を点けてフーと吹き出す紫煙を気だるく見詰める。
「・・・変身もするし・・・」
中沢達は言葉にならなかった。
【 BATTLE AFTER 】第二十三話

 「・・・それに・・・私にも・・・」
薄く笑う保田。
「仲間じゃないけど、顔見知りなら・・・」
「いるの?」
「ああ、ドクターが生体実験で造った・・・吸血鬼だけどね・・・」
吸血鬼との言葉を聞いて中沢は呆れる。
「吸血鬼・・・はあ、私等も含めて色んな物、造るんやな・・・この爺は・・・」
中沢は屍と化したマシリトに冷徹な視線を送る。

「行ってみる?・・・その吸血鬼を見に・・・」
う〜んと唸る中沢は目を輝かせる石黒に気付いた。
「なに、あやっぺ 行きたいの?」
うんうんと頷く石黒。
石黒は吸血鬼と聞いて凄く興味が沸いたのだ。
「ええよ、行ってきて・・・」
「ほんと?」
喜ぶ石黒を見てフッと笑う保田。
「でも、知らないよ、どうなっても・・・」
「どういう事?」
「顔見知りなだけ・・・話した事も無いし、名前も知らない」
「ハハハ・・・それって、知り合いなの?」
石黒はニンマリと笑い返す、
どんな事になっても負けない自信があるからだ。


「じゃあ、行こうか・・・」
店を出ようとする保田に中沢が声をかける。
「圭ちゃん、私等の仲間になる事も考えといてや」
中沢は保田の入団を諦めてなかった。
チラリと中沢を見る保田は薄く笑うだけだった。

【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 夕暮れの街並みを走る漆黒のドゥカティ996RとメタリックブラックのフェラーリF40。
ドゥカティの後を走るフェラーリのハンドルを握る真矢と助手席に乗る石黒彩。
保田の説明だと吸血鬼達は太陽を嫌わない、十字架も効かない・・・
やはり改造人間だ、伝説とは違っていた。

「おいおい、どこまで行くんだ・・・」
真矢がこぼす。
保田のバイクは街を外れ山道に入る。

「ちょっと擦らないでよアナタ」
その山道から舗装のない道に入りワダチに車底を擦らせる。
「しゃあないだろ、車高が低いんだから・・・」
コツコツと砂利がフェラーリの車体を傷つける。
「あ〜もう!まだなの?」
イラつきを隠せない石黒に真矢が促がす。
「おい見ろ、あれだ・・・」
「わぁお!なにあれ、凄いじゃない」

目を見張る石黒の視界に飛び込んできたのは小高い丘に建つ古びた洋館・・・
いや、古城と言った方が正確かもしれない。
靄のかかる城に着いたのは日が暮れた夜だった。

ヘッドライトに映るその洋館は映画のセットのようにも見える。
「アナタ・・・」
「ああ・・・」
2人は洋館に漂う異様な空気に気付いた、それは今までに感じたことの無い妖気だった。


【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 「圭ちゃん、ここに住んでたんだ・・・」
車から降りて洋館を見上げながら保田に聞く。
「一ヶ月ぐらいだけどね」
保田はそのまま館に入り5分ぐらいで戻ってきた。
その手にはショルダーバックが握られていた。
「うん?何処かに行くの?」
バイクに乗り込みエンジンをかける保田に聞く。
「いや、もう此処には用は無いんでね・・・」
「どういうこと?」
「別に好き好んで此処に居た訳じゃないからね・・・好きにしていいって事だよ・・・
中には何匹か居るみたいだけど・・・気を付けてね」
「ふ〜ん」
石黒はニヤリと笑う。
「最後に聞くけどパンサークローには入るの?」
保田は薄く笑って答えなかった。
「たまに裕ちゃんの店に遊びに行ってみるよ・・・」
そう言って保田は爆音と共に闇に消えた。


「アナタ、どうする・・・私このお城、気に入っちゃった♥」
「保田は好きにしろって言ってたな・・・」
「じゃあ、決定ね」
石黒の体から念のオーラが立ち昇り始めた。

【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 洋館の中はひっそりとしていた。
「ずいぶんと天井が高いねえ・・・」
見上げる石黒はシャンデリアに隠れる人陰を見つけたが無視し、
地下へ降りる階段を下った。

頑丈な扉には鍵がかかっていた。
「ここね、圭ちゃんが言っていたマシリトの研究室って・・・」
真矢は扉に五指を当てる。
「ふん、無駄な事を・・・」
真矢の超振動は扉を粉砕する。

中は案の定、研究室になっていた。
「なんか・・・思い出しちゃうね・・・」
「・・・ああ・・・」

石黒夫妻は昔の、改造された時の、忌まわしい記憶が甦り、
無性に怒りが込み上げてきた。
石黒は自分の念を指先に集中する。
「りゃああぁぁあああ!!!」
振り下ろす指先の念は全てを引き裂く。
バリバリと音を立てて引き裂かれる鉄の装置類は青い火花をスパークさせる。
「おいおい、爆発でもしたらこの城、乗っ取れないぞ」
「・・・でも・・・」
「俺に任せろ、全て砂に変えてやる・・・」
ブン・・・部屋全体が微細な振動に揺れる。

「もう、アナタ何時もやりすぎ!」
砂煙の立ち上がる階段を口を押さえて上る石黒は真矢を責める。
「正直、すまんかった・・・」
研究室は超振動で崩れた機械類の砂で埋まった。


【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 「あらあら、出てきたわね・・・」
腰に手を当て辺りを見回す石黒の目が据わる。
一階フロアには3人の女性・・・ヴァンパイアが居た。

その中の一人、タキシード姿の女が一歩前に出る。
「私はこの館の執事をしています、里田まいと言います」
一礼する里田まい。
「貴方達・・・此処に居た人造人間のお友達?」
「まあね・・・」
「あの人造人間には辟易していたんです・・・出て行ってくれて清々しました」
「それで・・・?」
フンと鼻で笑う石黒。
「研究室を破壊するのが目的?・・・だったら帰ってくれないかしら・・・」
顔を見合わせて笑う石黒夫妻。

「まだ、用事は済んでないよ・・・」
「どういう事でしょう?」
「この洋館・・・空け渡してもらう・・・」
「そうですか・・・では、此方へ・・・」
そう言って2人を外に促がしながら歩き出す3匹のヴァンパイア。
「館内で暴れられては困ります・・・
まあ、地下の研究室は此方でも壊す予定でしたから構いませんでしたが・・・」
「ほう・・・」
後に着いて外に出る石黒夫妻。
「さあ、美貴様が帰っていらっしゃる前に決着をつけましょう・・・」

窓からの明かりだけが照らす、薄暗い前庭で対峙する里田と石黒。

里田の瞳は赤く染まる・・・・
 
【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 「ふん、邪眼かい?・・・効かないねえ、紗耶香の足元にも及ばないよ・・・」
ズカズカと踏み込み念の手刀を打ち込む。
「ふむ」
石黒の手刀は空を切る、里田が瞬間にジャンプをして石黒の頭上を飛び越えたからだ。
「甘いね」
同時に同じ軌道をジャンプして着地と同時に里田の右腕を手刀で切断する。
「・・・!!!・・・」
驚いた里田は左手で落ちた右腕を拾おうとする。
刹那、石黒の右手の貫手が里田の胸の中心を貫き、背中から突き出た。
「うぎゃっ!!」
そのまま石黒の体にもたれ掛かる里田の体は弛緩していた。
「邪魔よ」
体を離そうと、右手を抜き取ろうとした石黒の首にヒヤリとした感触。
里田の犬歯は石黒の首に突き刺さる。

・・・吸われる感触があった・・・

「にゃろう!」
背中から抜けている右手をそのまま振り上げる。
右手が抜けると里田はその勢いのまま宙を飛び、ドウと地面に叩き付けられる。

石黒は首筋を触ると、自分の血で濡れていた。
「・・・殺す・・・」
一歩踏み出すと里田の声がかかった。
「き、来てはいけません!」
ググッと石黒の動きが止まる。

何故か体が動かなかった。

「おい、大丈夫か・・・?」
真矢が妻の肩に手を掛ける。
「だ、大丈夫よ・・・それよりアイツを・・・」
「おう・・・」
踏み出す真矢の前に立つのはメイド服を着た2人の少女だった。

「邪魔だ・・・」
真矢は両腕に念を込めて2人の顔面めがけてダブルパンチを繰り出す。
それを避ける敏捷な動きの2人は、伸びた真矢の両腕に跳び付いてしがみつく。
真矢の両肩にチクリとした痛みが走る。
「血を吸うのは首だけとは限りませんよ」
一人のメイドがニコリと笑う。
「馬鹿め・・・」
真矢の指は2人の少女の足首を掴んでいた。

2人のメイドは真矢の超振動で肉塊と化しズルリと崩れ落ちる。


【 BATTLE AFTER 】第二十四話

 「さて・・・」
里田に歩もうとする真矢は後ろからドサリと崩れる音を聞いて振り向く。
石黒は倒れていた。

「帰りなさい・・・」
里田が諭すように真矢に声をかける。
「私の近くにいると、その人は私の呪縛に囚われます・・・自殺させる事も出来ます・・・」

真矢は自分の肩に手を当てる。
血は吸われたようだが何ともなかった。
「なるほど・・・おまえが死ねば、呪縛も消える訳だな・・・」

ニヤリと笑う里田まい・・・

「なっ・・・!」


真矢は妻を連れて引き返すしかなかった。
里田は後ろに生い茂る森に逃げ込み闇に消えたのだ。



フェラーリが消えると森から出てきた里田は落ちている自分の腕を拾って肩口に当てる。
ヴァンパイアの再生能力は自分の腕を繋ぐ事が出来た。
溶けて肉の塊になった2人のメイドを悲しげに見る。
「美貴様のメイドを殺させてしまった・・・」
里田は自分の傷より、藤本美貴から受ける罰に体が震えた・・・
同時に身悶えし、自分の股間をまさぐる・・・
藤本の罰は、里田にとって激しく熾烈を極める地獄なのだ・・・



【 BATTLE AFTER 】第二十五話

 中沢はうっかりしていた。
もう、開店時間が過ぎているのにマシリトの死体をそのままにしていたのだ。
客が来ていない事が幸いだった。
ホッと胸を撫で下ろす中沢。
『バーパンサークロー』に来る客は皆良い人達ばかりだったからだ。
「あかんな・・・死体に慣れすぎてるわ」
自嘲気味に頭をポリポリと掻き、マシリトの死体に近付く。
「うん・・・?」
ピクリと死体が動いたように見えた。
いや、動いた。
「うわっ!」
少しビビッた。
ガバリと立ち上がったマシリトは潰れた顔面では目が見えないのか
手を振り回しながら何かを呻いていた。
「まだ、生きてたんかい!おとなしくせいや!」
手刀で首を刎ねようとした中沢の手が止まる。
マシリトの口に長く伸びる犬歯が見えたからだ。
「み、美貴様・・・お助けを・・・」

「なるほど・・・」
中沢は理解した。
「あんた、自分で造った吸血鬼に血を吸われたんだね・・・」
ハハハハと笑う中沢はマシリトの首を掴んでビップルームに連れて行き中に放り込んだ。
「馬鹿な爺だ・・・あんた、私の餌になってもらうよ」
ビップルームという名の蟲毒の壷に入れられたマシリトは今までの人生を悔やむ事になる。
「屑共をいっぱい連れてくるから頑張って生き残るんだよ」
言い残して蠱毒の部屋の鍵を閉めて、中沢はまだしていなかった店の開店準備を始めた。


ども、お待たせです。
あ〜、出してしまった・・・保田・・・
もう、絶対、多分・・・他のキャラの復活はしないつもりです・・・

皆様、いつも保全ありがとうデス・・・次回更新も未定って事で・・・では。
76ののの虜 ◆nono2P.. :02/07/23 00:12 ID:NZDu5wDC
oノノハヽo
从 ´D`)<更新おつれす〜。
        マシリトれすか〜中澤たちはキャ○メルマン??
77矢口LOVA:02/07/23 18:16 ID:ZNsAIiN3
○ラレちゃんかよ。
いや〜、別にアラ○ちゃんを意識した訳ではないです・・・
本当は銃夢のドクターノヴァを意識したんだけど、ノヴァじゃ日本人じゃないな・・・
と思いまして適当に頭に浮かんだ名前を使っただけです・・・
あ、あと一人だけ復活予定者がいます・・・これは前から決めてた。
79名無し募集中。。。:02/07/24 21:49 ID:syGQUSl1
>あ、あと一人だけ復活予定者がいます・・・
誰だろうと心密かに予想してみる。
楽しみにしてます。
80矢口LOVA:02/07/24 23:44 ID:1Zty98ue
・・・・・・・・・・・・ダニエル?
81名無し募集中。。。:02/07/24 23:47 ID:bXMU9daL
ドラゴンアッシュだろ(w
82矢口LOVA:02/07/24 23:51 ID:1Zty98ue
>>81なるほどね。
83奈々始:02/07/25 22:11 ID:KtO317vZ
保全じゃ!
84奈々始:02/07/25 22:12 ID:KtO317vZ
上げてしまった・・・。すんまそん。
85エレコマニア・マリオJ ◆nBfobFj. :02/07/26 17:11 ID:d1zaPwxr
石井リカの出番も今後あるのかな?
楽しみにしてまっす。>デッドオアアライブさん
86名無し募集中。。。:02/07/27 02:08 ID:nY+Rid/H
保の字
87 :02/07/27 21:31 ID:8wMUlbAq
下がりすぎ 保全
88名無し募集中。。。 :02/07/27 22:59 ID:9Ap1Yq30
ほほほほほほっほっほほほほほほほほほーい!!保全
皆様スマソ、更新は あと2,3日待って下さい。
90名無し募集中。。。:02/07/28 21:33 ID:42ALK0B3
待ってます。
保全
91ナナ〜シ!:02/07/29 21:25 ID:P70SUJ9i
覚悟するのは簡単だった〜!
【 BATTLE AFTER 】第二十六話

夕暮れが迫る校舎に一台のリムジンが静かに滑り込み停車する。
中から出てきた素肌にタキシードを着込んだ男は
優雅に校舎から出てきた藤本美貴に一礼してリムジンのドアを開ける。
滑り込むように座席に座る藤本。
黒塗りのリムジンは夕暮れの中に消えた。


合唱部員達は部長の藤本が今日の部活に出ないと知ってガッカリした。

「今日は顧問の石井リカ先生に可愛がって貰いなさい・・・」
藤本は優しく皆に言うと、仕方が無いと部員達は納得した。

合唱部顧問の音楽教師、石井リカはドクターマシリトの人体実験で生まれた
藤本と同じヴァンパイアだ。
序列は藤本、石井、里田の順だが、これはヴァンパイアとしての能力の差だった。


車内の藤本は一人考え事をしていた。
気になる事が有った。
昨日、屋敷に現れたという、保田とかいう人造人間の友達らしき2人の魔人。
里田の体に聞いたところでは、ヴァンパイアの牙を打ち込み虜にしたらしいが
実力では完全に向こうの方が上との事だった。
まあ、里田クラスでは、そんな所かとも思う。
実力としては、このリムジンを運転してる下僕の改造人間と変わらない弱さだ。

そしてもう一つ・・・
昨日、退部を申し込んできた高橋と紺野の美少女2人組みの事だった。
自分の虜にしようと何度か妖視線を送った。
だが、無駄だった。
高橋と紺野の2人には自分の邪眼が効かなかったのだ。
不思議な感じのする少女達だった。
何か秘密がある筈だ。
此方の方が気になった。



【 BATTLE AFTER 】第二十六話

 藤本は高橋と紺野の謎を突き止める事を選んだ。
昨夜の2人の魔人は今日は来ないだろう。
里田に血を吸われていれば暫らくは動けまい・・・
いや、近付く事さえ容易ではない筈だ。
藤本はそれ程までに、自分達の吸血能力に自身を持っていた。


藤本は携帯を取り出し石井に電話する。
《はい・・・》
「私です」
《あっ、美貴様》
「昨日退部した高橋と紺野の住所を調べて下さい」
《あ、はい・・・》

少しの時間の後2人の住所が分かった。
「そう・・・2人とも同じ所に住んでるの」
《はい、でも紺野は今日、学校を休んでます・・・高橋はまだ校内に居ますが、どうします?》
「そう・・・」
暫らく考えてから
「じゃあ、高橋は貴女に任せます・・・奴隷にするなり虜にするなり好きにしなさい・・・
ただし、妖視線が効かない秘密を暴いてからですよ」
《はい、判りました・・・で、美貴様は?》
「私は紺野を虜にします・・・あの娘達、何か秘密が有りそうです・・・
それに屋敷のメイドが居なくなりましたので、あの2人をメイドにと考えています」
《判りました・・・あの娘達なら素晴しいメイドになると思います》

携帯を切り、運転手に住所を伝え行くように命令する。
「・・・ところで貴方、何故いつも上半身裸なんです?」
「へへへ、すいません・・・生前からの癖でして・・・でも、ちゃんと着てますよ」
藤本は呆れる。
「そんなのは着てるとは言いません、裸にタキシードを羽織ってるだけです」
無言でニヤリと笑う男。
「明日からはちゃんと・・・と言っても無駄ですね・・・」
何回注意しても、この男はすぐ上半身裸になる・・・しかも下は黒タイツだし・・・
「へへへ・・・それより美貴様、紺野というのは・・・?」
「彼方には関係有りません」
ピシャリと言い切る藤本。
「・・・へい、すいません・・・」
運転手は不気味にニヤニヤと笑う。
藤本は慣れてるのか平然としたものだ。
素で笑っても不気味に見える男・・・江頭2:50だった。

【 BATTLE AFTER 】第二十六話


 中庭の花壇で新しく撒いた「愛の種」に水をやる高橋。
今日、紺野は警察のアルバイトで学校を休んだのだ。
高橋は正直、紺野が少し羨ましかった。
自分の個をしっかり持って生きていると思う・・・
それに比べて自分は・・・
ちょっぴり情けなかった。

「さて、帰ろかな・・・」
ウジウジ考えても仕方が無い、自分は自分だ。
高橋は頭を切り替えて帰ろうとする。

ピンポンパンポーン♪

校内放送が鳴った。
合唱部顧問の石井先生からの呼び出し放送だった。

どうせ、何故部活を辞めたか問いただす為の説教だろうと思った。
「はあ、なんて言えばいいんだろう・・・」
呼び出された音楽室に行く足取りは重かった。
紺野に聞いた藤本部長と部員の関係が理由だなんて言える訳が無い。
あれこれ言い訳を考えている内に音楽室の前に立っていた。


【 BATTLE AFTER 】第二十六話

 『バーパンサークロー』に真矢と石黒がやつれた表情で現れた。
「どうしたん?」
真矢は石黒を抱えていた。
「すまん、中沢・・・助けてくれ」
ペコリと頭を下げる真矢。
「助けてって・・・どういう事?」
真矢は黙って石黒の首の吸血痕を見せた。
「あちゃ〜、あやっぺ やられたの?」
「ゆ、油断しただけだよ・・・」
ヨロヨロと立ち上がりカウンターにドカリと座る石黒。

「彩を噛んだ吸血鬼を殺せばいいんだが・・・」
そう言う真矢も困った顔だ。
「真矢さんが殺せばええんちゃう?」
「いや、それはそうなんだが・・・」
真矢は自分の首筋を中沢に見せる。
そこには2つの穴、牙の傷跡があった。
「真矢さんも やられたの?」
「いや・・・俺はやられてないが・・・彩が余りにも血を欲しがるんでな・・・」
「・・・あやっぺ に吸わせた訳だ・・・」
ポリポリと頭を掻いて照れる真矢。

「血が・・・欲しくなるんだよね〜・・・牙も生えてきたし」
カウンターに突っ伏す石黒は気だるそうだ。
「んじゃ、このまま吸血鬼って事で・・・」
「それは駄目だ・・・」
真矢は中沢の言葉を直ぐに遮った。

血に飢えた妻に血を吸わせたのはいいが、自分も欲しくなり
昨夜は永延とお互いの血を貪ったのだ。

「ミイラ取りがミイラにか・・・まあ、仕方ないか・・・真矢さん場所教えて」
「すまん・・・」
ペコリと頭を下げる真矢。

そこに「あ〜疲れた〜!」と平家が帰ってきた。
中沢の瞳が輝く。
「おお!殺しにピッタリの人が帰って来たやん!」
中沢はパチパチと手を叩いて、マネージャー業でグッタリの平家を迎えた。
「・・・なに?何の事?」
キョトンとする平家。
「真矢さん、みっちゃんを行かせるわ、私が瘴気を使うと
そのお屋敷がお釈迦になる可能性があるやん!」
「うむ・・・でもなあ・・・」
真矢はマネージャー業で疲れている平家を少し可哀想に思った。
「大丈夫だって、チョコチョコってやってパーっと帰ってくればいいんやから」
アバウトすぎる中沢に腕を組み目を瞑る真矢。
「なになになに?何の事なのよ〜?」
事情を知らない平家に、もう一つ余計な仕事が出来上がった。

【 BATTLE AFTER 】第二十六話

 高橋がノックして音楽室に入ると、そこには石井だけが居た。
「あれ?他の部員の人達はどうしたんです?」
「今日は部長の美貴さんが休んだので皆帰りました」
「・・・はあ、そうですか」
石井はツカツカとドアに行き鍵を掛ける。
「今日は大事な話しが有ります」
クルリと振り向き、フフフと笑う石井の瞳が赤く光り始めた。

しかし、キョトンと目を丸くするだけの高橋。

邪眼が効かないのも当然だった。
市井紗耶香の邪眼の呪縛を自力で克服した高橋と紺野には
ヴァンパイアの妖視線は無力、効く筈がなかった。


「どうしたんです?先生、目が赤いですよ、寝不足ですか?」
フーと溜め息を漏らす石井。
「それに鍵なんて掛けて・・・お説教なら覚悟してますよ、逃げ出しません」
「そうですか、逃げないのは良い心掛けです・・・でも・・・」
「でも?」
「説教なんてしません・・・あなたは私の物になるんですから」
ニヤリと笑う石井の口から鋭い犬歯が見えた。


ブワリと跳んだ石井は目を見張る高橋の首に吸血鬼の牙を刺し込む。
「あっ・・・先生・・・なにを・・・」
たっぷりと高橋の血液を吸い、そして自分のヴァンパイアの血を送り込む。
それだけで石井は勝利を確信する。
事実、高橋は早くも喘ぎ始めたからだ。

【 BATTLE AFTER 】第二十六話

 高橋のダラリと弛緩した手がブラブラと揺れる。
「あ、あなたの血・・・最高・・・」
石井の声は歓喜で震える。
今まで吸った血の中では、高橋の血は最高級のワインだった。
石井はそのまま高橋の唇を奪い貪った。

ピクリ・・・ と高橋の体が反応する。

 ーードクンーー と高橋の心臓が鳴る・・・

胸を揉まれ、股間を弄られる高橋は、
心の奥底に眠る何かが起き出そうとしている事を真っ白になりつつある頭の片隅に感じた。

高橋は何時の間にか全裸にされていた。
体を重ねる石井の指の児戯に翻弄させられビクビクと体が艶めかしく動く。

この娘の体・・・
石井は今までに感じたことが無い快感に自分を忘れる・・・

「ああぁぁぁあああ!!!!」
絶叫に近い喘ぎ声を出したのは石井の方だった。
【 BATTLE AFTER 】第二十六話

 ハァハァと胸を上下させる石井は満足の表情で立ち上がる。
「愛さん・・・これであなたは私の物だわ」
高橋はダランと弛緩した体にヒンヤリとした床を背中に感じながら
おぼろ気に石井を見詰める。
「・・・そう・・・かしら?」

気だるそうに立ち上がる高橋。

「そうですわ 愛さん、もうあなたは私の命令に逆らえないのよ・・・」
そう言った石井の体が愕然とする。
薄く笑う高橋が石井の手首を掴んだのだ。
それだけだけなら驚く必要も無い。
掴まれた手首から電気が流れるように快感の波が石井の体を襲ったのだ。

「ど、どういう事なの・・・?」
腰がガクガクと震え立っていられなくなり、崩れ落ちる石井は
カエルのように股を広げていた。
「ウフフ、先生・・・それは今から教えてあげる・・・」
今度は高橋が石井の上に乗る。


封印していた高橋の能力『フェアリーサキュバス』は、
石井のヴァンパイアの血によって目覚めたのだ。


淫魔戦に敗れた石井は高橋の質問に喘ぎながら全て答える。
見る間に体が干乾びていく石井の表情は恍惚に歪んでいた。

「これは貰っておくね」
セーラー服に着替えた高橋は老婆のようになって横たわる
石井の緩くなった歯茎から鋭い犬歯を2本とも抜き取る。
「これでもう、悪さは出来ないよ先生・・・」
高橋は自分の首筋にそっと手を当てる。
ヴァンパイアの吸血痕は跡形も無く消えていた。


「救急車を呼んであげるね先生、 たぶん2,3ヶ月も入院すれば体は治るよ・・・
歯は駄目だろうけど・・・そしたら元の優しい先生に戻ってね」
高橋が音楽室を出ると部員達がいた。
ニコリと笑う高橋はペコリと頭を下げる。
「先輩達も吸われたんだね・・・でも、私には治してあげる事は出来ないです、
これ以上、被害者を出さないで下さいね・・・じゃないと私・・・」
それ以上言わず、前に進む高橋。
無言の合唱部員達はサーと横に引いて高橋の道を造った・・・


おまけデス
藤本美貴篇イメージイラスト
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000022.jpg
保田圭イメージイラスト
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000020.jpg
お待たせしてスマソ。
今回は此処までです、次回で藤本美貴篇は終わる予定です。
保全してくれる皆様に感謝しつつ・・・            では。

ついでに100ゲト!!!
101 :02/07/30 15:57 ID:afs1DKbc
>>100
いえいえ
つづき、マターリと期待しています
102名無し募集中。。。 :02/07/30 18:09 ID:327SsxIj
ちょっといいですか?
何回注意しても、この男はすぐ上半身裸になる・・・しかも下は黒タイツだし・・・
「へへへ・・・それより美貴様、紺野というのは・・・?」
「彼方には関係有りません」
  ↑kなたになってますよ?
103Lucifer:02/07/30 19:02 ID:1wWdHLzW
藤本は、ののたんの聖眼「ハムスターアイ」で、逆にあっさり手懐けられそうな気がする。
104ののの虜 ◆nono2P.. :02/07/30 23:48 ID:v3Ynex0/
oノノハヽo
从 ´D`)<更新おつれす〜。
       もうすぐオソロなんで明日ゆっくりよまさせていただきます。
105 :02/07/31 16:16 ID:7TPG5EX9
圧縮回避保全
106エレコマニア・マリオJ ◆nBfobFj. :02/07/31 18:45 ID:7NTSiKx1
江頭が復活というのはかなり予想外でした。
第一作での存在とかを踏まえて考えると…。
いや、これ以上は良いか。
107名無しさん:02/07/31 21:15 ID:V7zowWE7
後藤と保田の脱退、ユニットの再編成は、この物語にどんな影響を及ぼすのだろう。
108名無し募集中。。。:02/07/31 21:29 ID:k5GI7rpr
まああんまり関係ないと思うよ。この物語の娘。メンバーは
もう芸能活動してないし・・・

6期メンバーが出てきたら話は変わるが・・・
109矢口LOVA:02/08/01 20:23 ID:v0IWtUff
保全んんんんんん!!
本当は今日書いてうpするつもりだったんだけど・・・
今回の事はさすがにキツイです・・・
気力が・・・
でも、頑張るかな・・・        はあ・・・
111名無し募集中。。。:02/08/02 23:01 ID:G5WtkFzE
・・・保全・・・
112名無し募集中。。。:02/08/03 00:30 ID:3LOVEuBb
LOVE保全
113名無し募集中。。。:02/08/03 11:33 ID:C4A/yyvm
>>107
それより、みっちゃんはどうなるんだろう
【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 真矢の操る黒のフェラーリF40は屋敷に続く山道の途中で停車する。
物凄く狭い後部座席でギュウギュウの状態だった平家が身を乗り出す。
「あやっぺ 着いたの?」
「いや、まだだ・・・」
助手席でグッタリしている石黒の代わりに真矢が答える。
「・・・どういう事?」
「うむ、すまんが此処から歩いて行ってくれないか」
「えっ!!」
「これ以上進むと俺達は奴の影響下に入る・・・」
「・・・歩くって・・・」
「うむ、普通に歩けば2時間ぐらい掛かるが、アンタの足なら10分あれば着くだろう」
「・・・・・・・」
平家は絶句して言葉にならなかった。

車を降りて薄暗くなった山道を見る。
この道を走って登るのかと思うとドッと疲れてきた。
恨めしげに真矢を見ると「すまん」と頭を下げるばかりだった。
「この道は一本道だ・・・迷う事は無い・・・」
「あ〜も〜!!分かったわよ!!」
平家はノースリーブのワンピースとヒールの高いサンダルを履いてきたことを後悔した。
見送る真矢を振り返る事なく、黙々と山道を歩く平家は走る事はやめた。
確かに走れば10分そこそこで着く。
だが、ちょっとでも時間を延ばしてやろうと真矢夫妻に意地悪したくなったのだ。

「なんで私が歩かなならんの・・・」
ぶつぶつと呟きながら一時間も歩いた頃、平家はハッと気付く。
「私がフェラーリで来れば良かったやん!」
ハンカチで汗を拭いながら、今来た道を恨めしげに見る・・・
せっかく来たのに、道半場で戻るのは嫌だった。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 『飯田二輪店』の前に一台の高級リムジンが止まった。
江頭が降りてきて後部ドアを開けて一礼する。
リムジンから優雅に出てきた藤本は店の看板を見上げた。

「ごめんください」
店の中には一人の少女がチョコンと座り、店番をしていた。
「いらっしゃいませなのです」
「あら、可愛いお嬢さんねぇ、店番?」
「そうなのです」
「紺野あさ美さんのお宅は此処でいいのかしら?」
微笑む藤本に辻はウンと頷く。
「でも、今はいないのです」
「・・・どうして?」
「アルバイトに行ってるのです」
「アルバイト?貴女に店番をさせて?」
「飯田さんと一緒に警察なのです」
「警察・・・?」
よく要領を得ない返答に藤本は困惑する。
「あさ美ちゃんは元警察官なのです」
「元警察官?15歳で?」
「多分そうなのです」
う〜んと首を捻る藤本は、ますます解からなくなる。
「あ、私は紺野さんの倶楽部の部長をしてます藤本と言います」
一礼する藤本にペコリと返す辻。
「ののはののと言いますです」
「・・・ののちゃんですか?」
辻は立ち上がり外に向かって走り出す。
「あっ、待って、何処に行くの?」
「友達のアイボンを連れて来るのです」
「あいぼん・・・?・・・なんですの?」
出て行く辻を見送る藤本は店に取り残された。
「へんな子ね・・・まあ、戻ってくるまで待ちましょう」

しかし、何時まで経っても辻は戻ってこなかった。
丁度、夕食時で夕飯を『レストランプチモーニング』で取っていた加護を見て
なんで自分を誘わないのかと怒りだして、なだめる安倍に加護と同じ物を作って貰い、
藤本の事を忘れて一緒に夕ご飯を食べたからだった。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 まさか藤本が家に来ているとは知らない高橋は鼻唄を歌い、ノロノロとジンジャーに乗って
帰り道の海岸線を走っていた。
「今日は大変だったなぁ・・・あさ美ちゃんに何て話そう・・・」
そこに後ろから声が掛かった。

「よう、高橋!今帰りか?」
飯田のバイクと紺野のジンジャーが追いかけてきた。
「飯田さん、あさ美ちゃん、今アルバイト終わったんですか?」
「おおよ、お腹ペコペコだぜ、帰ろ帰ろう」
「愛ちゃん、随分遅い帰りですね・・・まさか、合唱部に戻ったんじゃ?」
ギクリとする高橋。
「あっ、やっぱり・・・駄目ですよ、あそこは・・・」
「ち、違うよ、戻った訳じゃないよ・・・ただ・・・」
「ただ、なんです?」
高橋は首をすくめ、隠しきれないと思い、今日の出来事を話し始めた。


「へ〜、そんな事があったんだ・・・」
飯田は腕を組み目を閉じて頷く。
「でも偉いぞ、高橋!悪い奴をやっつけたんだからな」
高橋は飯田に褒められて満更でもなさそうだ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
紺野は腑に落ちない所があった。
「部長がヴァンパイアの長だとしても・・・その部長は今何処にいるんです」
「う〜ん、聞かなかったけど・・・」

飯田が不思議そうに聞く。
「帰ったんじゃないのか?・・・紺野、それがどうかしたのか?」
「石井先生は愛ちゃんを狙ったんですよね・・・」
高橋と飯田は顔を見合わせる。
「だったら、部長は私を狙うんじゃないでしょうか・・・」
飯田と高橋の顔色が変わる・・・
「や、やばいな・・・紺野、高橋!ちょっと先に帰るわ!辻が心配だ・・・」
そう言うと飯田はアクセルをふかし『サイクロソ』を飛ばす。
「愛ちゃん、私達も急ぎましょう」
「う、うん」
高橋と紺野も改造ジンジャーのアクセルをふかした。

【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 平家みちよ は立派な城門のある、古城にも見える洋館の前に立っていた。
見上げるソレは如何にもな雰囲気が有り、確かに石黒夫妻が欲しがるのも判る。

「やっと着いたわ・・・」
溜め息混じりに独り言を言いつつ、ためらいも無く玄関からどうどうと中に入る。
中はちゃんと明かりが点いていた。
「誰もおらへんのかな・・・?」
館内をグルリと見回す。

「おらへんのなら、色々と物色しちゃうかな〜?」
平家が手を真っ直ぐに天井に向ける。
その手は人差し指を伸ばす。
「なんちゃって〜」
ドンと指先から光の弾『念弾』が放たれた。
真っ直ぐ天井に向かう念弾は軌道を変え二階の柱の影に当たる。
バンと柱に当たる音と共に人影が飛び出し窓ガラスを割って外に逃げた。
「ちっ、外したか・・・」

走って外に出ると、洋館の屋根に女が立っていた。
「オマエか?あやっぺを吸血鬼にした奴は?」
月明かりが女の顔を照らす。
「そうです・・・貴女はあの人の仲間ですか?」
里田まい の目は赤く光っている。

「・・・友達だよ」
平家の指から念弾が放たれる。
屋根の上を素早く移動する里田は念弾をかわす。
「当たるまで何発でも撃つよ」
ドンドンドン・・・
放たれる念弾は避ける里田の立つ屋根を次々と破壊する。
「やべ・・・これじゃ屋敷が壊れちゃうな・・・」
ペロリと舌を出す平家。

「しゃあない・・・あんまり得意じゃないけど、肉弾戦といくか・・・」
得意じゃないと言いながら数メートルもジャンプする平家は屋根に着地し、
里田に走り突っかかる。
「いくら、目を赤くしても邪眼は効かへんねん!」
クルリと回転しながら繰り出す回し蹴りを里田は身を捻って避ける。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 月明かりを背にして、闘う2つの影・・・

「はあ!!!」
平家渾身の念パンチが里田の顔面を捉えた。
「ぐあっ!」
ゴロゴロと屋根を転げ落ちる里田は屋敷の庭に体を打ちつけた。
ぐう、と呻いたきり動かない里田に余裕で近付く平家みちよ。
「念のパンチを打ち込んだ・・・もう、終わりやで」
「・・・・」
指先を里田の額に向けようとした瞬間・・・

倒れた体勢のままガバリと里田が立ち上がった。
「なっ!!!」
里田の真っ赤な口が開き、咄嗟に顔をブロックした平家の腕に噛み付いた。

「うおぉぉおお!!」
腕を振り、里田の牙を引き剥がす。

「お前、念が効かないんか?」
首をコキリと鳴らしてニヤリと笑う里田まい。
「貴女のお友達と戦った時、耐性が付きました」

「なんやて・・・」
愕然とする平家・・・有り得ない事だった。
しかしそれは、里田には可能だった。

石黒との闘いで腕を失っても、直ぐに繋げた
超絶の生命力が念への耐性を造ったのだ。

「それよりも・・・血を吸いましたよ・・・」
平家は自分の右腕に付いている吸血痕を見た。
「そのようやね・・・」
クルリと踵を返す平家みちよ。
「どうしたんです?」
今度は逆転した立場の里田が聞く。
「アンタの影響を受ける前に退散するわ・・・」
その平家の後姿に向かって里田が声をかける。
「もう、二度と来ないで下さい・・・次は自殺させます」
「へいへい・・・」
平家は背を向けたまま手を振って答えた。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 フェラーリの中で石黒夫妻はお互いの血を求め合っていた。
・・・コンコン・・・
窓ガラスをノックされて真矢がビックリして頭を天井に打ちつけた。
「お、おお・・・終わったのか?」
車外に出た真矢と石黒は自分の傷跡に手を当てる。
痕は消えてなかった。

「私が酷い目に合ってたのに、抱き合ってたの?」
バツが悪そうな夫妻。
平家はやれやれと少し呆れ顔で右腕の牙の痕を見せた。
「み、みっちゃん・・・あんたも・・・」
呆然とした表情の石黒に対してニヤリと笑う平家。
「馬鹿な奴だよ、私の血を吸うなんて・・・」
平家は館のある方角に向かって右手を突き出す。
「何すんの?」

石黒彩は知らない・・・平家みちよの『サイコガン』の秘密を・・・

「これで、どんなに離れていても奴の居場所が判る・・・まあ、今死んで貰うけどね」
・・・ドンドンドンドン・・・・・・・
平家は10発以上の念弾を空に向かって打ち込む。
「私のサイコガンを甘く見ちゃあかんよ・・・」
ふうと、指先に息を吹きかける真似をする平家は、石黒にウィンクをして見せた。


玄関の前で静かに藤本の帰りを待つ里田まいはチラリと腕時計を見る。
「遅いですね・・・もう、帰ってきてもいい時間なのに・・・」
その頭上めがけて平家の念弾の雨が降り注いだ。
「なっ!?」
敵の気配が無いので油断していたのだ。
次々に襲い来る念弾を全身に浴びて、言葉も無く里田まいは絶命した。
玄関前に転がる屍は、もはや人の形さえしていなかった・・・


街を走る漆黒のフェラーリF40・・・
キャハハハと笑う平家は助手席の石黒の頭をペンペンと叩いた。
「これで貸しが一個できたね・・・」
「へいへい、分かりましたよ・・・みっちゃんには敵わんよ」
平家につられて大笑いする真矢。
3人の傷跡は完全に消滅していた・・・




【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ジンジャーで飯田を追いかける2人は不安に苛まれた。
飯田は猛スピードで消えたのだが、
藤本の妖視線を飯田は知らない。
追いかける途中で高橋が、嫌な感じのする視線を感じたのを思い出し、
市井紗耶香の邪眼と同じじゃないかとの結論に達したのだ。

「飯田さん!!」
飯田二輪店に跳び込むと、藤本に抱かれる飯田がいた。
その藤本の唇からは血で染まった犬歯が見えた。
愕然とする2人。

「あら、遅かったわね・・・」
ニッと笑う藤本の足元にドサリと飯田が崩れ落ちた。
「高橋さん、石井先生を倒したんですって?・・・今、この女の人が話してくれましたよ」

「飯田さんをどうしたんです!」
高橋が睨み返す。
「フフフ、私の奴隷にしただけです・・・」

「もう一人女の子がいた筈です!」
紺野も睨み返す。
「店番の子供ですか?・・・あの子は出て行ったきり帰って来てません・・・」

藤本の目がスッと細くなる。
「それより・・・やはり貴女達は只者ではないようですね・・・」
高橋を指差す藤本。
「高橋さん・・・貴女がどうやって石井先生を倒したのか興味があります」
ドキリとする高橋。
「石井先生を倒した技・・・私に試しても構いませんのよ・・・」


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ニヤリと犬歯を見せて一歩踏み出そうとする藤本の足が止まる。
「だ・・・誰が奴隷だって・・・?」
飯田が藤本の足首を掴んだのだ。
「ふうん、しぶといんですね・・・」
足で飯田の手を振り払いヨロヨロと立ち上がる飯田を見据える。
「ですが、貴女はもう、私の影響からは逃げられませんよ」

藤本は改めて高橋と紺野を指差す。
「命令です、あの2人を捕らえて私に差し出すのです」

フーフーと肩で息をする飯田は2人に向かってヨタヨタと歩き出す。
「い、飯田さん!」
「飯田さん!しっかりして下さい!」
目を見張る高橋と紺野に飯田の両手が伸びる。
その両腕はドンと2人を突き飛ばし店の外に出した。
「・・・お、おまえ等・・・危ないから・・・さがってな・・・」

飯田のダラリと下ろした両腕の間には何時の間にか仮面が赤く光っていた。

「・・・へ・・・変身・・・」

仮面の内部から蒼い稲妻が迸る・・・

「な、なんですの?」
藤本は目を見開き驚きを隠せないでいる。

「うおおぉぉぉおおおおお!!!!」
バチバチと音を立てて蒼い電気を放電する赤い戦士は雄叫びと共に
藤本を持ち上げボディスラムのように藤本を外に向かって投げ捨てる。

十数メートルも飛んだ藤本の体はクルリと回転して着地する。
しかし、着地した場所はリムジンが止めてある道路だった。
「あ、有り得ませんわ!貴女達、人間ですの?」

ズカズカと店から出てきた飯田は、また雄叫びを上げる。
ライダースーツの中の首筋の吸血痕から藤本のヴァンパイアの血がビュッと抜けた。
・・・飯田の固有念能力の賜物だ・・・
「そりゃあ、こっちの台詞だ!」
突っ込む飯田のショルダータックルは藤本を道路向こうの崖下の海岸まで吹き飛ばした。

「飯田さん!大丈夫なの?」
高橋と紺野に親指を突き立ててハハハと笑ってみせる。
隣りのレストランからも全員何事かと跳び出して来た。
「大丈夫、大丈夫ぅ!みんな心配すんな!」
飯田は道路を飛び越えて崖下の海岸の砂浜に着地する。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 呆然と立ち尽くす高橋と紺野。
「おいおい、大丈夫って言って大丈夫だった事って余りないだろう」
後ろから矢口の声が聞こえてきた。
顔を見合わせる高橋と紺野。
「行きましょう愛ちゃん!」
「うん!」
2人は走り出した。

「ま、待てお前等!」
安倍と顔を見合わせる矢口。
「行こう!矢口!」
安倍と矢口も2人を追う。

辻と加護も顔を見合わせる。
「飯田さんが大丈夫って言ったのです・・・」
「そやな、確かに言ったね大丈夫やって・・・」
そう言う2人の子供の手には、ご飯茶碗が握られていた。



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 立ち尽くした藤本は月光を見上げていた。
「貴女・・・人間ではなかったんですね」
「はん、お前と一緒にすんな」
「まあ、いいでしょう・・・」
藤本は飯田に向き直る。
その目は赤く光っていた。
そして、その赤は金色に変化していく・・・

藤本の口が裂け、ザワザワと金色の体毛が生えてくる・・・
爪が鈎状に曲がり鈍く銀色に光る。

その口からはグルルルル・・・と野獣の声が漏れる。

「お前・・・可哀想に・・・成仏させてやるよ・・・」
ーーーキーーーンーーー
構える飯田のベルトが光り始める・・・

「飯田さーん!」
その時海岸に降りる道を紺野と高橋が走ってきた。

飯田は見た、紺野を見た藤本の顔に浮かんだ歪んだ笑みを・・・

「ば、馬鹿!来るなって言ったろうが!!」
間髪入れずに紺野が答える。
「そんな事言ってませんよ!大丈夫だって言っただけです!」
「また、減らず口を・・・」
気付いたら目の前の藤本が居なかった。

上を見上げるとブワリと飛んだ藤本が紺野に襲いかかろうと体勢をとっていた。
「逃げ・・・」
言いかける飯田を雄叫びが遮った。


【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 「こんのぉぉおおおぉぉおおおおお!!!!」
雄叫びの主は崖上から飛び降りた江頭2:50だった。
「え、江頭さん!!」
ザーと紺野の前に降り立った江頭は両手を広げて紺野を庇う。
「ぐああぁぁぁああああ!!!」
藤本の振り下ろす銀の爪は江頭の喉から腹にかけて見事に切り裂いた。

「な、何故オマエが・・・?」
血みどろになって倒れる江頭に藤本は驚く。
その藤本の肩にポンと置く手・・・
振り向く藤本の顔面に飯田のパンチが待っていた。
「ぎゃっ!」
ドーと波打ち際まで転がるヴァンパイア。


「え、江頭さん・・・生きていたんですか?」
紺野の膝枕の上でニヤリと笑う江頭はゲフッと血を吹いた。
「また・・・死ぬけどな・・・」
「そんな・・・」
「紺野ぉ・・・お前は生きろ・・・」
「死なないで下さい」
「さ、最後に頼みがある・・・」
「何です?」
「キ、キスしてくれ・・・」
「えっ!!」
「た、頼む・・・」

「・・・・・・・・・・・・・ぃゃ・・・です・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

何とも言えない笑みを残し江頭は紺野の膝の上で息を引き取った・・・

「え、江頭さーーーーーーん!!!!」

紺野の声が波に消えた・・・


駆けつけた矢口と安倍、高橋が泣き崩れる・・・・・・振りをした様に見えた・・・・・・




【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 ヨロヨロと立ち上がる藤本・・・

「お前、卑怯だな・・・」
飯田のベルトが光り輝く・・・
「おおぉぉおおお!! かおりんマーッハパーンチィ!!!」
波打ち際まで一瞬で跳んだ飯田のパンチが藤本の腹を貫く。
「ぐがぁぁあああ!!」
腹を抉り内臓を潰し、背中に抜ける筈の飯田のパンチは手首で止まった・・・
「な、なに!」
藤本の腹筋が飯田の手首を締めたのだ。

藤本の驚異的な回復力は獣に変化した事により更に強化された。
しかし、その獣性の為に人間性は無くなる・・・

「ヒャハハハハ・・・卑怯でも何でも勝てばいいのよ!!」
締め付ける腹筋は飯田の手を抜けなくさせる。

飯田のザクリと背中に鋭い痛みが走った。
「ぐっ・・・」
藤本が背中に鋭い爪を突き立てたのだ。

「ハハハハ、切り刻んでやるよ!」
爪を振り上げる藤本。
「おい・・・ヴァンパイアが太陽に弱いって本当か?」
不意に飯田が聞いた。
「ハハハ、何言ってんだ!嘘に決まってるだろう!」
「・・・そうか・・・」
「それに、この夜空でどうやって太陽を出すんだ?」
「・・・試していいか・・・?」
「何をだ?」
「・・・太陽・・・」

藤本の口が侮蔑の笑みで歪む。
「はっ?馬鹿かお前! もう喋るな、黙って私に殺されるんだ!!」
しかし、振り上げた藤本の爪は動かない。

ーーー!!ーーー

「お・・・お前・・・何をした・・・?」
藤本の口から血が滴る・・・
「・・・太陽・・・」
飯田は静かに答える・・・



【 BATTLE AFTER 】第二十七話

 
飯田圭織の念能力・・・

それは、光りのオーラ・・・『太陽のオーバードライブ』・・・

藤本の腹に食い込んだままの拳は太陽の輝きに燃えた・・・


ピシリと藤本の額が割れる・・・

「うががぁぁがぁああ!」
ビシビシと藤本の全身が、ひび割れる・・・

割れた内部から光りが漏れる・・・

それは眩い太陽の輝きを放っていた・・・

バラバラと崩れ落ちる藤本の肉片は波にさらわれる・・・

標本のように残った骨柱は、やがて砂のようにサラサラと崩れ、風に舞い、夜空に溶けた・・・


ドサリと膝を突く飯田に高橋と安倍、矢口が駆け寄る。
「大丈夫ですか?飯田さん!」
「ああ、だから言っただろ・・・」
矢口と安倍が飯田に肩を貸す。
「大丈夫のようには見えないけどな」
「ハハハ・・・」
「もう、意地っ張りなんだから、かおりは・・・」
飯田は江頭を膝に抱く紺野を見た・・・


紺野の頬には涙が止め処も無く伝わり落ちる・・・


その涙は・・・本当の涙・・・偽りなど有る筈も無かった・・・



ども、なんとか・・・書きました・・・
次回更新も未定・・・
こんな時でも保全してくれる皆様に感謝っす!
>>112は神ですか?こんなID初めて見ますたw
                                では。
129ねぇ、名乗って:02/08/04 16:29 ID:rIzeEGR5
>>123

(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル エガチャン・・・
130矢口LOVA:02/08/04 23:03 ID:aK+sSYUc
(〜^◇^)<更新乙です。
131なののー:02/08/05 00:34 ID:EM74ktrJ
江頭と紺野のやりとりに爆笑してしまった・・・。
132ののの虜 ◆nono2P.. :02/08/05 00:46 ID:uIkcRCGp
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙です〜。辻がイイ!!
133名無し募集中。。。:02/08/06 01:08 ID:wZ/hfrBn
一日一保全
134名無し:02/08/07 17:28 ID:s1A2Vd0c
ほぜ〜ん。
135カオリニアモーヲターカー:02/08/08 09:29 ID:od83bxzH
かおりん誕生日保全。
136名無し:02/08/09 08:55 ID:mZlAAzy3
保全
137  :02/08/10 00:01 ID:rw4JVOA0
なっち誕生日おめでとう
138矢口LOVA:02/08/11 00:04 ID:YH0hEIQQ
保全
139デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/11 02:03 ID:I/zZYwBw
【 BATTLE AFTER 】第二十八話

ーーーキーーーンーーー

当ても無く高速道路を走る保田のドゥカティ996Rは横転し
バイクから投げ出された保田はそのままコンクリートの壁に激突した。

ーーーキーーーンーーー

横転の原因は突如訪れた違和感だった。
事故を起こしても平気なボディを持つ保田は立ち上がり、片手で頭を押さえる。

ーーーキーーーンーーー

頭痛と共に耳鳴りがする。
サイボーグの肉体に共鳴する、何かが起きたのだ。


それは丁度、飯田圭織が藤本と闘う為に仮面を装着した時間。


当ての無い旅をする保田は自分の目的が何なのかを理解した。

ーーー仮面を破壊するーーー


ドクターマシリトは前の独裁政権の時に自分が造った
戦闘用ボディスーツを破壊する為に保田の体に共鳴装置を組み込んだのだ。

クーデターが起こり、現政権に移行した時マシリトは懇願した。
「今までしてきた実験を続けさせてくれ」と・・・
しかし、新たな政府は首を横に振る。
冷たく見捨てられたマシリトは復讐に燃え、次々と改造人間を造る事になる。
その最終系がサイボーグの保田圭だった・・・


何故、仮面と戦闘用スーツを破壊しなければいけないのか保田は解からない。
しかし、そんな事はどうでも良かった・・・
生きる理由が出来た。

仮面の戦士を殺す・・・

その目的の為に生きる・・・

どんな、些細な理由でも良い・・・

自分がこの世に再生した理由が欲しかったのだ・・・


【 BATTLE AFTER 】第二十八話

吉澤と後藤は石川と松浦『モーニングペアー』を監視していた。
目的は勿論、『パンサークロー』の壊滅だ。
大体の事は把握した。
石川と松浦は一般人の取り巻きやファン、分刻みのスケジュールの為、
近付く事は出来ない。
マネージャーの平家、事務所社長の中沢、そして、中沢ビルもつかんだ。
だが、分からない事が有った。
石黒夫妻の棲み家だった。


「どうする、よっすぃ?」
中沢ビルの向かいのビルから『パンサークロー』の動向を監視する2人。
吉澤は腕を組み考える。
組織を完全に把握してから行動を開始する・・・
それが作戦だったからだ。

実際、石黒夫妻は尾行するのが難しかった。
常に周囲を警戒して行動する盗賊『CAT'S-EYE』の石黒夫妻に
気付かれないように近付くのは無理だった。

「う〜ん・・・どうしよう? ごっちん」
吉澤にも分からない。
分かっているのは、不用意に近付けば返り討ちに合う。
その可能性が高い事だけだった。


後藤の携帯が鳴った。
相手は紺野だった。

「なに〜!本当か?」
暫らく頷きながら聞いていた後藤が驚きの声を上げた。
「どしたの?」
聞く吉澤。
「例の2人の居所・・・分かったかもしれないって!」
後藤は吉澤に向かってピースサインをして見せた。

【 BATTLE AFTER 】第二十八話

高橋が音楽教師の石井に相談されたのは、石井が退院し復学して暫らくの事だった。

「家に帰ったら、変な2人組みが屋敷を乗っ取っていたの・・・」
音楽室でコーヒーを高橋に淹れる石井の声は少し震えていた。
「変な2人組み?」
頷く石井・・・

高橋に牙を抜かれた石井はヴァンパイアの能力を喪失し、
普通の人間として生きていく事にしたのだ。

牙を抜かれたとは言え、普通の人間より回復能力の高い石井は
ミイラ状態の体を一ヶ月ほどで回復させた。
藤本、里田の事も忘れて、普通に生活しようと
屋敷に自分の荷物を取りに帰ったら
明らかに普通の人間とは雰囲気の違う男女が屋敷を占拠していたのだ。

「それで、どうしたの?」
高橋は2人の人相を聞いてピンと来るものが有った。
石黒夫妻の事を思い出したのだ。
「私が屋敷の住人と知ってヴァンパイアと思ったみたい・・・」
「それで?」
「殺されそうになったけど、抜けた牙を見せたら許してくれたわ」
「それで?それで?」

「・・・ごめんなさい高橋さん、牙を抜いた貴女の事を話したの・・・」
「・・・えっ」
「だって、殺されたくなかったから・・・」
「・・・そう・・・」
高橋はまずい事になったと思った。

「うん分かったよ・・・先生、もうその屋敷には近付かない方がいいよ」
「やっぱり、知ってるの?」
「う〜ん、心当たりが有るだけだよ・・・」
「貴女の事、知ってるみたいだったわ」
「・・・・・・」


高橋は帰るとすぐ、紺野と飯田に相談した。

「よし!私が行ってくるよ、高橋、住所を教えて」
飯田が腕をまくる。
「飯田さん・・・」
「ハハハ、大丈夫、大丈夫!」
飯田は豪快に笑ってみせた。

紺野は黙っていた・・・
思う事があった・・・

やはり、あの人達が存在する限り、私達は安全ではない・・・
ここの場所を知られる前に何とかしなくちゃ・・・
それには先手を打つしかない・・・

紺野は後藤に連絡を取った。
飯田と後藤、吉澤が力を合わせれば勝てると思ったからだ。

【 BATTLE AFTER 】第二十八話

海岸線を走るサイクロソが眩い閃光に包まれる。
「変身!!」
アクセルをふかす仮面の戦士は夕日を浴びる。
銀色の車体は夕暮れの中に消えた。



ーーーキーーーンーーー

耳鳴りと共に感じる・・・
仮面の戦士の居場所を・・・

保田は漆黒のドゥカティ996Rのアクセルをふかす。
感じるままにハンドルを傾ける保田は黒い閃光になった。



山道を走るサイクロソが弧を描いて急停車する。
暗い山道に立ち尽くす漆黒の人影をヘッドライトが捉えたからだ。

「・・・誰だ・・・?」

無言の女のフルフェイスヘルメットに隠された素顔は見えない。
黒いライダースーツの大胆に開いた胸元に光る、
青いペンダントヘッドだけが揺れていた。
「誰だって聞いてるんだ!」

「お前を殺す者・・・」

「・・・どう言う事だ・・・?」

「その仮面を破壊する・・・」

「・・・ほう・・・」

少し気色ばむ飯田がバイクから降りる。
「勝てるのかい?」

「・・・変身・・・」

「なっ!?」
飯田は変身する新たな敵の存在に驚きを隠せない。

カチカチとヘルメットが変形していく。
ライダースーツがスルスルと全身を覆う。

「私はお前を破壊する者・・・ハカイダーだ・・・」

漆黒のボディは頑丈そうな胸当てに稲妻の模様が黄色く光り、
同色の目は感情によって色が変化するサイボーグアイだ。
頭部の半透明のヘルメット状の超強化ガラスの中には、
生命維持の為の培養液に包まれた脳が赤く発光していた。

「・・・いくぞ・・・」

ハカイダーのサイボーグアイは赤く光り始めた・・・

しまった、ageてしまった・・・
今回はここまでです。
皆様に感謝しつつ、次回も未定という事で・・・           では。

遅ればせながら、なっち&かおりん誕生日オメデトー!       
144ねぇ、名乗って:02/08/11 09:55 ID:9sp4TLUa
乙、
145ののの虜 ◆nono2P.. :02/08/11 18:17 ID:LCQGbqX5
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙れす。
146名無しさん:02/08/12 10:37 ID:XZmJhL2j
乙。そして保全。
147146:02/08/12 10:39 ID:XZmJhL2j
すまん。ageてモーヲタ。
148矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/08/12 16:07 ID:fULMGgFr
マターリ次待ってマス。
149矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/08/13 11:44 ID:Ftb09/IF
保全
150名無し募集中。。。 :02/08/14 12:36 ID:rzjmI5Xd
保全
【 BATTLE AFTER 】第二十九話


「とぅう!」
跳び込む飯田はハカイダーに変身した保田の無防備な顔面に念のパンチを打ち込む。
飯田は完全に捉えた感触に勝ったと思った。

「な、なに!」

愕然とする飯田。
保田は2、3歩後ろに下がっただけだった。
顎を擦りながら首をコキコキと鳴らす保田には念が通用しない。
「ふん、そんな物か…」

「じゃあ、こっちはどうだ!」
両手を前でクロスする飯田のライダーグローブが光り始める。
「くらえっ!」
飯田の念能力『太陽のオーバードライブ』は保田の胸を捉える。
飯田のパンチに保田の胸当てがバチンと火花を飛ばす。

保田の黒いボディの表面にバチバチと光の念がまとわりつく。

「う、嘘だぁ!!」

飯田驚愕の叫びは嘘ではなかった。
念の光はそのまま地面に吸い込まれるように流れたのだ。

不思議そうに自分にまとわり付いた光りを見ていた保田はようやく気付いた。
「そうか・・・今のが念法というのか…」
変身後の保田のボディには念を通さない特殊なコーティングが施されていた。
まるで水を弾く油のごとく念は保田の表面を流れるだけだった。
「効かないね…」

ギリギリと腕を振り上げる保田のパンチは両手でブロックする飯田の体ごと吹き飛ばす。

「ぐう…」

ビリビリと響く衝撃。
飯田は防御にまわっては負けると思った。
「おぉりゃぁあああ!!!」
保田の懐に飛び込みマッハの連撃を繰り出す。

拳が胸に入る、肘が顎を捉える、膝が腹を抉る…

闘いながら飯田は気付き始めた。

ーーコイツ…闘い慣れてないーー

徐々にではあるが、飯田の攻撃は保田の動きを鈍くする。
念法は効かないが、闘い方は間違っていないと確信した。
イケる! そう思った飯田は一気に後ろに飛び保田との距離をとる。
腰を落とす飯田のベルトが光り始める。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

 「これで、終わりだ!」

大ジャンプをし、カオリンキックの体勢に入った飯田の瞳に此方に腕を向ける保田が映った。
保田の左手首がカクンと落ちた。
落ちた手首には穴が開いていた。

ーーボシュン!ーー

腕から放たれたのは超小型ミサイル…
保田の左腕はバズーカになっていたのだ。

ドゴォォォーーン!!

空中で爆発して煙を上げながら落下する飯田は咄嗟の念防御によって辛うじて致命傷は免れた。

しかし、仮面の機能は著しく低下する。
「うぁぁああ!!」
プスプスと煙を上げながら呻く飯田に静かに近付く保田。
飯田は初めて「死」の言葉が脳裏を過ぎった。



その時、保田と飯田にバイクのヘッドライトが当たった。
眩しさに手をかざす保田は止めたバイクから降りる2人の影を認めた。
紺野の連絡で屋敷に向かった後藤と吉澤だ。

保田は後藤と吉澤の存在を確認した。
しかし、今の保田には2人がどんな存在だろうが関係なかった。
例え以前、自分を殺したのが吉澤でも…
それは過去の出来事だった…

「はぁぁああ!!」
1人の影が俊足のスピードで保田の顔面に膝を浴びせる。
飯田のピンチを救った後藤の膝の衝撃に一瞬たじろぐ保田。
ズズッと下がる保田に間髪いれずジャンピングソバットを決める。
そのソバットの足は赤く燃えていた。

「んあぁぁぁあああ!!」
後藤の念能力『炎のオーバードライブ』は保田の顔面を叩く。

ボンと炎に包まれる保田。

しかし、その炎は流れるように地面に落ちて消える。
「なっ…!」
目を見張る後藤。

「キ、キサマ何者だ?」
念が通用しない…
そして、渾身の一撃をもビクともしない黒き戦士に後藤は改めて構え直す。

しかし保田は後藤など居ないかのように無視して飯田に向かって言う。
「ふん…邪魔が入ったようだな…」
踵を返す保田は静かに闇に消える。
「だが…これは始まりに過ぎない…」
闇の中から爆音と共に出てきた保田のドゥカティ996Rは無灯のまま後藤達の
横をすり抜けていった。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

 「かおりん!」
「飯田さん!」
抱き起こされて胸を押さえる飯田はゴホゴホと咳き込む。
「だ…大丈夫だよ…」
「アイツ、何者なの?」
飯田は首を振る。
「…分からない…」
「分からない…?」
「ああ、突然現れて…私を殺すって…」
「かおりん を?」
コクンと頷く飯田。
「でも…人と闘った気はしなかったよ…腕からミサイル出すし…」
顔を見合わせる後藤と吉澤。
確かに後藤の念は通じなかったし、打たれ強さは人間の物では無い。

「奴もパンサークロー…?」
後藤の問いに吉澤は静かに頷く。
「たぶん…この道に居たって事はそうなんだろうね」
「兎に角、一旦引き上げようよ、かおりんがこの状態じゃ…」
「それもそうだね…」

後藤と吉澤に支えられてた飯田は2人の手を振り解く。
「駄目だ…私は行くよ」
よろめきながらサイクロソに跨る飯田。
「ちょっと、かおりん大丈夫なの?」
後藤は止めに入る。
「高橋の通う高校が奴等に知られた…」
「え…?」
「ほっとけば私達の事もばれる」
「……」
「私達はいいよ、でも なっち や矢口…辻、加護はヤバイだろう」
飯田はサイクロソのエンジンをかける。

後藤は気付いた…
紺野の電話の意味を。
「それで紺野は私に携帯をかけたんだ…」
「行こう、ごっちん!飯田さん一人じゃ無理だよ」

後藤と吉澤も飯田の後を追いハーレーを疾走させた。


【 BATTLE AFTER 】第二十九話

 「アナタ〜、誰かお客さんが来たみたいよ〜」
洋館の二階から前庭を覗く石黒は一階のソファーで日本酒を口に運ぶ真矢に声をかけた。
「ふむ、また招かれざる客か…」
ゆっくりと立ち上がり玄関に出向く。

真っ暗だった洋館は石黒の趣味で各所にライティングが施され洒落たレストランみたいになっていた。

庭に止まった3台の大型バイクとそれに跨る3人の女ライダーを見て真矢は目を細める。
「お前達…生きていたのか…」

バイクから降りる後藤が口を開く。
「私達が来た理由は分かるでしょ?」
後藤から立ち上るオーラは戦闘用のソレだった。
「…うむ、大体はな」
 
そこに飯田が口を挟む。
飯田の変身は疲労と傷によって解けていた。
「あんた達パンサークローの仲間に高橋の事はしゃべったのかい?」
「ほう、俺達の事を知ってるみたいだな…」
「あれだけテレビで暴れればね…それより、仲間には報告したのか?」
「…さあな、知りたければ腕ずくで聞くんだな…」
真矢は自信たっぷりに腕を組む。
「…OK 分かったよ…」
飯田がバイクから降りる。

その前に吉澤が静かに立つ。
「飯田さん…あんたは傷ついている…私がやるよ」

「まあ、誰でもいいがな…」
真矢は顎をしゃくって、 着いて来い と促がす。

少し離れた所に綺麗に芝が刈りそろえてある庭園が有った。
「おやおや、これはエライお客さんだねえ」
庭園には石黒が立っていた。
「後藤と吉澤か…生きてるとは思わなかったよ…で?目的は私達の死かしら?」
「ふむ、そのようだ…」
真矢は踏み出そうとする石黒を手で制止する。
「まずは俺が殺る…」
そして改めて向き直る顔は何時もの無表情だった。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

「さあ、誰から来るんだ?」
「私だと言ったろう」

手ぶらの吉澤は腰を落とし居合い抜きの格好をする。

「おい、手ぶらじゃないか」
「よく見な…」
揺らめく妖気のように立ち上る吉澤のオーラ…
吉澤の手には忽然と現れた日本刀が握られていた。
「…ほう、一応は使えるようだな…」
真矢は2、3歩後ろに下がる。
「居合いの間合いが有るようだな…だが、入らなねえぜ」

ーーピンーー

空気が張り詰める…

「一つ聞きたい事がある…」
吉澤はそのままの体勢で静かに聴く。
「…なんだ…?」
「さっき、飯田さんを襲った黒い改造人間はオマエ等の仲間か?」

真矢は少し訝しげな顔をしたが、すぐに元の表情に戻った。
「…知らんな……いや、例え知ってても教えん」
「そうか…」
真矢の指がコキコキと鳴る。

「それはそうと…」
真矢は意味深に笑う。
「オマエは俺の間合いに入ってる事に気付いてたか?」

真矢の指は芝にめり込む。

ーーブンーー

ザワザワと芝生が震え、超振動の波が吉澤の足を捕らえた。
「ハハハ、一度捕らえたら俺の『ダイヤモンドクラッシュ』からは逃げられん!」
足に絡まる超振動に、吉澤は動く事が出来ない。
「そのまま肉塊になって死ね!」
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

ーーヒュンーー

吉澤の抜刀…
閃光が白く光った。
パチリと『太陽の剣』を鞘に収める吉澤。

しかし、真矢は何とも無かった。
「馬鹿め、何処を斬っている!芝を斬っても何ともならんぞ!」
ハハハと笑う真矢の顔が凍りつく。
吉澤の足に絡みつく超振動が消えていたのだ。

「斬ったのはアンタのダイヤモンドナントカ…」
吉澤の魔剣は真矢の超振動を芝生ごと斬ったのだ。

「ば、馬鹿な!!」
刹那のスピードで間合いを詰める吉澤。
一瞬送れた真矢はそれでも後ろに跳んだ。

だが、その一瞬は命取りになる。

瞬く閃光と共に抜かれた吉澤の魔剣は真矢最大の武器 手首 を斬り落とした。

落ちた手首を見る真矢の目が驚愕と共に見開く。

「うおぉぉおおお!! お、俺のダイヤモンドクラッシュがぁぁああ!!」

両手首を切り落とされ狼狽する真矢に無言で近付く吉澤はためらいも無く首を刎ね落とした。

ズズンと音を立てて崩れる真矢の後ろから妻の石黒が吉澤めがけて跳びかかる。

「おぉのぉれぇぇえええ!!」
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

その石黒を飯田のキックが横から迎撃する。
横腹を蹴られて体勢を崩す石黒はそれでも身を捻って着地する。
「かおり!邪魔するな!」
石黒がキッと見据える飯田は膝を付き肩で息をしている。
そして、吉澤も立っているのがやっと…膝が震えていた。
後一秒でも真矢の超振動を浴びていれば吉澤の足は破壊されていたのだ。

「アンタの相手は私がする」
後藤が石黒の前に立つ。

「…ほう…」
石黒の目が据わる。
「こっちも聞きたい事があるんだけど」
「何を?」
「何故、私達を狙う?」

後藤はチラリと飯田を見る。
「かおりん は私情かもしれないけど…」
石黒を見る顔は薄く笑っていた。
「私とよっすぃ は…こういう関係だよ」
後藤は懐から警察手帳を出して見せた。

「ハハ…お前が警察?…笑えない冗談だな」
石黒の両手の爪に念が集中する。

「と言うのは建て前でね…本当は大量に殺人を犯したオマエ達が許せないだけだよ!」
言い終わると同時に後藤が突っ込む。
迎え撃つ石黒の爪。
ーーやばい!ーー
下から振り上げられる石黒の念の爪を見た瞬間に、後藤はバクテンで踵を返す。

構え直す後藤の頬には赤い筋が3本…

親指で頬の血をすくいペロリと舐めると、そのままベッと吐き出す。

「ハハ、ブルースリーの真似かよ!」
今度は石黒が一気に間合いを詰めて念の爪を繰り出す。
「余裕と見て欲しいね!」
後藤は振り下ろす石黒の両手首を掴み、顔面に頭突きを叩き込む。
「ぐあ!」
鼻血を出しながら仰け反る石黒はそのままサマーソルトキックを後藤の顎にヒットさせる。
「んあ!」

潰れた鼻を指で摘み元に戻す石黒。
首を振りながら顎を擦る後藤。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

「ふん、まあまあやるね…じゃあこれはどう?」
石黒は鈎状に曲げてた念の爪を揃え貫手の構えになる。
「しゃあぁぁああ!」
貫手の連撃は後藤を穴だらけにする筈だった。

後藤は受けに徹する。
連撃を全て手の平で横に受け流す。
少しでも集中を切れば、それは致命傷になる。
「くそぅ!」
当たらない…後藤が防御に徹していれば埒が明かないと思った。

「チッ」
石黒は一旦離れ、爪に集めていた念の集中を切る。
その瞬間を後藤は見逃さない。

「だあぁぁああ!」
後藤の剛拳が石黒を襲う。
顔面を襲う拳を首を捻ってかわす石黒の耳が衝撃で裂ける。

続いて襲う後藤の右ハイキックを左腕でガードする。
ビリビリと伝わる衝撃によろける石黒。

その石黒の瞳に後藤の背中が映った。
回転しての踵落しは石黒の顔面を襲う。
全ての念防御を腕に集中して腕をクロスさせる十字ブロックは必殺の踵落しを受け止めた。
「おりゃぁああ!」
石黒はそのまま後藤の踵を跳ね返した。

体勢を崩す後藤を見た石黒の目が光る。

「よっしゃぁああ!死ねぇぇええ!!」
体勢を崩したままの後藤の首めがけて念の貫手を放つ。
石黒の必殺の貫手…『キャッツクロー』…
その貫手は後藤の首を跳ばす筈だった。
それだけの念を込めて放った一撃だった。

しかし、その貫手は首を防御した後藤の左手の平を貫いただけだった。
手の平に突き刺さった指を抜こうとするが抜けない。
後藤が左手を握り石黒の手を離さなかったからだ。
【 BATTLE AFTER 】第二十九話

「何故だ!今の一撃は止められない筈だ!」
「アンタの動きを止めるにはコレしかないと思ってね…」
後藤は一連の連撃の攻防で密かに左掌に防御の念を集めていたのだ。

後藤は大きく振りかぶる。
その右手の拳は燃えていた。

「んあぁぁああああ!!!」

後藤の念能力『炎のオーバードライブ』は防御する石黒の左掌を貫き顔面にめり込んだ。

ーーボン!ーー

音を立てて石黒は炎に包まれる。

後藤の念が体内に流れる…

その念は全てを炎に変える…

石黒はヨロヨロと真矢の骸に近付き、覆い被さるように倒れた。

「アナタ…ごめん…」

真矢の首を抱きしめながら石黒は絶命する。

静かに燃え始める二人の屍はやがて業火に包まれる…

メラメラと燃える二人の遺体…

それは人の形をした墨を残しただけになった…

ども、今日はここまでです。
毎回同じコメントしか書かなくてスマソ。
皆様には本当に感謝しています。
次回更新も未定っす                      では。
161なののー:02/08/15 10:07 ID:fypoA3YX
更新乙です
162名無し募集中。。。:02/08/15 11:04 ID:vAymROhE
>>160
まあマターリ保全していますので気長に待ちます(w
163デッドオアアライブ :02/08/15 15:15 ID:/DkbA34E
>>162そう言って頂けると助かります
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000024.jpg
飯田、後藤、吉澤の3人組です
164矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/08/15 16:47 ID:9LTgEDPk
乙カレーさま。
165名無し募集中。。。:02/08/17 00:08 ID:RcLrsgaN
一日一保全
166名無し募集中。。。:02/08/17 20:14 ID:rE9fZtBE
緊急保全
167ナナ〜シ!:02/08/18 22:07 ID:3sFedeBW
保全しまくり・・・。
168なののー:02/08/19 23:34 ID:FpUQjzJ5
保全しちゃうぞぉ←ウザw
169ののの虜 ◆nono2P.. :02/08/20 01:09 ID:aikayXl4
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙れす〜。最初の方を忘れてきたんでもう一度読み返そう・・・
【 BATTLE AFTER 】第三十話

中沢は石黒から連絡を受けて高橋の件は知っていた。
だが、他のメンバーには話していなかった。

石黒からの連絡が無くなり、平家を屋敷に向かわせた。

平家からの連絡は屋敷の庭に小さな墓標が二つ並んで建っていたとの事だった。


「裕ちゃん…あやっぺから何か聞いてへん?」
「い、いや何にも…」
「そう…」

中沢は『バー パンサークロー』のカウンターで気だるそうに溜め息をつく。
それをひっそりと見詰める平家。
中沢は平家の視線に気付いた。

「な、何 みっちゃん?」
「…メンバー…少なくなったね」
「あ、ああ そやな…」

中沢は平家が差し出すブランデーを口につける。
【 BATTLE AFTER 】第三十話

「なあ、みっちゃん…」
「なに?」
「…生き返った時、どう思った?」
「…生き返った時?」
「あ、いや、こっち(本島)に来てからや…」

平家はニコリと微笑んで見せた。

「裕ちゃんには感謝してるよ…」

平家は中沢と同時期に改造され、同時期に日本に放逐された。
そして何も考えずに、中沢と行動を共にした。
一人では不安だったのだ。

中沢は当初から何かを悟っていたように見えた。
平家は中沢の手足になる事を自ら選んだ。
『パンサークロー』結成時にメンバーを探し出したのも平家だった。

平家には解かる、その中沢が今、何かに悩んでいる事に。


 
【 BATTLE AFTER 】第三十話

「そういえば 裕ちゃん言ってたなぁ」
「なにを?」
「この組織を結成した時…」
「…なんだっけ?」

「わたし等は自由やって…」

「好きに生きていいって…」

平家は自分の力を持て余していた。
それを解放してくれたのが中沢だった。
自分を縛っていた理性は中沢の言葉で吹き飛んだ。

人を殺しても何とも思わなくなった。

それは理不尽に殺された過去に対する復讐でもあった。

「だから、こっちに来てからの感想は『自由になった』だよ」
「…そっか」
「私はね みっちゃん」
平家は黙って聞き役にまわる。
「生き返った時に思った事が一つだけ有ったんよ」
中沢の目が遠くを見詰める。
「もう、絶対 死ぬのはゴメンやって 寿命が来るまで天寿をまっとうするんやって…」
「……」
「例え、自分の為にどんなに人が死んだって…」
「……」
「…そう、思ってたんや…」
「思ってた?」
「いや、今でもそう思ってるねん…」
中沢はグラスに付いた水滴を指でなぞる。
「たぶん やけどな…」
そう言ってブランデーのグラスを傾けた。

こんなに弱気な中沢は初めて見た。


 
  …だが…

平家はタバコに火を点けてフーと一息つく。

「あやっぺ の仇は討つよ…」
ひっそりと呟く。

「そやなぁ…」
伏し目がちな中沢は曖昧に答える。

「かおり と紺野、高橋は生きていた…」
ピクリと中沢は反応する。
「手がかりは それしか無いねん…居所を探すよ」

中沢は黙っていた。
平家は空になったグラスにブランデーを注ぎ水割りを作る。
無言の中沢はカラカラと回るグラスの氷を見詰めていた。
【 BATTLE AFTER 】第三十一話

中沢は『レストランプチモーニング』の前に立っていた。

高橋の学校で石井と面会してこの場所を教えてもらったのだ。
勿論、石井を脅しての事だ。

以前の中沢だったら、石井を殺していただろう。

怯える石井を見て可哀相に思った。

おおよそ自分に関係ない人間に対してこんな感情を持ったのは何時以来だろう。

生き返ったからは 初めてのような気がした。


午後2時の気だるい時間…
辻 加護 高橋 紺野は学校の時間だ。
飯田は肋骨を折り入院していた。
店には矢口と安倍しか居なかった。

ドクンドクンと心臓が高鳴る。

カラカラと喉が渇いた。

中沢は店に入る前に2度3度と深呼吸をする。

ーーーカランカランーーー

店には2,3人の客が居ただけだった。

「いらっしゃい…」
矢口の顔が固まった。

中沢は立ち尽くしたままだ。

「に、似合ってるじゃん…その格好」
エプロン姿の矢口に思わずその言葉が口をついた。

…涙が出そうになった…

「す、座ってええんかな?」
話す声が震えているのが自分でも分かった。

「ど どうぞ…」
言われてカウンターに座る。

そこに厨房から出てきた安倍と顔が合った。
「ゆ、裕ちゃん!」
「なっち…生きてたんや…」
死んだと思っていた安倍がこの小さな店にいた。
矢口と一緒に この店をきりもりしてたんだ…
驚きと懐かしさに、話そうと思っていた事を全て忘れた。

中沢はキョロキョロと所在無げに店内を見渡す。
「なかなか良い店じゃん…」

「何しに来たの?」
ドンと水を置く矢口。
「えっ?」

安倍は不審の目で中沢を見詰める。

「…やっぱり知ってたんか 私達の事…」
「あれだけテレビで暴れればね」
「マスクしてたんやけどなぁ」
「マスクしてても判るよ…」

「それに紺野達をさらったし…」
安倍は腕組みをして睨む。

「あれは私じゃ無いやん…紗耶香が勝手にやったんよ」
「でも、大変な目にあったべさ」
「……」
中沢は言葉が無かった。

「なあ…」
「なによ」
「コーヒー」
「…」

中沢はサイフォンでコーヒーを立てる矢口をボンヤリ見詰める。

「はい、どうぞ」
出されたコーヒーの香りに鼻腔をくすぐられる。
「なあ、矢口」
「なによ?」
「ここに住んでるの 矢口と なっち と高橋と紺野と かおり だけなの?」
矢口と安倍は顔を見合わせる。
「そんな事聞いてどうすんのよ」
「言い方がキツイなぁ 別に狙ったりせえへんよ」
「じゃあ、何よ」

「あのなぁ 今日は手打ちに来たんよ…」
「手打ち?」
ウンウンと中沢は頷いた。


中沢は初めて知った。
あの島で本当に生き残ったのが矢口、辻、加護、安倍、飯田だった事を…

「良かったなぁ 生き残ってて…」
中沢は矢口と安倍を見てしみじみと思った。
この2人は あの頃と全然変わっていなかった。

たぶん辻、加護、飯田も変わってないんだろう。

そして改めて判った…
新垣、市井、石黒、真矢の死を…
しかし矢口と安倍も詳しくは知らないようだった。

それよりも驚いたのが後藤と吉澤が生きている事だ。

特に後藤と吉澤が特殊警察官で念法を使いこなし
市井と石黒、真矢を殺害した事は驚嘆した。

その後藤と吉澤も石黒と真矢との死闘で負傷し、今は動く事が出来ない。

中沢は何故か仇を討とうとは思わない。
あの2人も自分達と同じ、蘇生強化手術を受けた人間だったからだ。

「もう、わたし等に関わらないで欲しいねん」
矢口と安倍は顔を見合わせる。
「関わってきたのは そっち!」
安倍はプウとほっぺを膨らませる。
「…そりゃまあ…そやけど…」
上目遣いに睨む安倍を中沢は抱きしめたくなる。

「相変わらず可愛いなぁ なっち」

なんじゃそりゃと突っ込む矢口。

その場の空気が心なしか和む。

中沢は昔のじゃれあいを思い出した。

矢口と安倍も同じ事を思った…懐かしいと…
 
 矢口が腕を組んでウ〜ンと唸った。
「…関わらないのはいいけど…ごっちん と よっすぃ がなぁ…」

後藤と吉澤は矢口達とは関係が薄い。
そして、あの2人が中沢の提案を受け入れるとは思えなかった。

「なあ矢口、あの2人と関わらない方がええで…」
「なんで?」
「わたし等でも命は惜しいねん…狙われたら迎え撃つだけやから…」
「……」

中沢はタバコを取り出し火を点ける。
「裕ちゃん…タバコ吸うんだ」
矢口がビックリしたように言う。

「…?…あ、この店 禁煙か?」
慌てて灰皿を探す中沢に矢口が首を振りながら灰皿を差し出す。
「初めて見たよ 裕ちゃんがタバコ吸うとこ」
「……」

ーーそっか…前はタバコ吸ってなかったんやーー


 
  
 矢口を見る中沢の目が潤む。


泣きそうな顔の中沢に矢口が慌てる。

「なに?どうしたの?」

「わ、私 変わったんかなぁ?」

「なに?急に…」

「だって、あんた等 全然変わってないやん」

「……」

「昔のままやん」

中沢の瞳から涙がポロリと零れた。


 中沢は矢口の淹れたコーヒーを飲みほすと静かに立った。
「矢口、美味しかったでぇ」
「裕ちゃん…」
「なんぼや?」
矢口は首を振る。
安倍は涙ぐんでいた。
「いらないよ…」
「そっか」

出ようとした中沢は思い出したように立ち止まって言う。
「あ〜  とにかく後藤と吉澤にも伝えといてや…もう関わるなって…
こっちだって相当譲歩してるんやから」

店を出ると矢口と安倍が追いかけて来た。
「裕ちゃん!」
中沢は振り返らない。
「約束して欲しい事がある」
「なに?」
「もう…人を殺さないって」
「…」
背中を向けたまま中沢は無言で頷いた。
矢口と安倍は顔を見合わせてニコリと笑う。

「裕ちゃん!また来てもいいよ!」

中沢は振り返らず そのまま両手を上げて振って見せた…

【 BATTLE AFTER 】第三十二話

 帰り道…

ポツリ ポツリ と雨…

見上げる中沢の視界を花柄の傘が覆った。

「みっちゃん…」

傘を差し出したのは平家だった。

「そのへんの女子高生からちょっと借りてきたんよ」

「あんた…後 着けてたんか?」

ポリポリと鼻を掻きながら平家はもう一本の傘を広げる。

「全部 聞かせてもらったわ…」

「…そっか…」


 
無言で歩く2人…

不意に平家が口を開いた。

「裕ちゃんが人を殺すのを止めるんなら 私も止めるよ…」

「…そっか…」

「でも、あやっぺ の仇は討つよ…」

「…好きにしいや…」

「まあ、あっちが仕掛けてきたらやけど…」

平家の殺意のトーンは落ちていた。

「おおきに…」

中沢はペコリと頭を下げた。
  
「ところで かおり は…どうするん?」

「どうするって?」

「新垣を殺ったのはアイツやん」

「…新垣を殺したのは かおり ちゃうよ…」

「えっ?」

「みっちゃんは知らへんけど アイツを殺したのは私なんよ」

「…?…どういう事なん?」

「…アイツは最初っから死んでたんよ」

「……」
 
「新垣は死んでる事を知らへんで動いてただけや」

「…」

「それを新垣に教えて解放したのが かおり って事…」

「…」

「つまり かおり は新垣を天国に送っただけなんよ…」

「…そうなんだ…」

「新垣は感謝せにゃならんでぇ かおり に…」


ハハハと笑う中沢は悲しげだった…

 
傘を持つ2人の前方から2人の少女がキャーキャー言いながら走ってくる。
顔を傘で隠した中沢と平家の横を走り抜けるのは辻と加護だった。
セーラー服の2人は雨に濡れないように鞄で頭を覆い、
ケラケラ笑っていた。

「相変わらずなんや…」
立ち止まり2人の背中を見送る中沢は微笑んでいた。
「そやなぁ…」
平家も微笑む。

その辻、加護を追いかけるように2台のジンジャーが中沢と平家の横を過ぎる。
紺野と高橋は傘で顔を隠した中沢と平家に気付かなかった。
「辻さ〜ん!待ってくださ〜い」
「あさ美ちゃん!早く早く!中沢さんが家に来てるかもしれないから!」
高橋は石井に中沢の事を聞いて学校が終わると直ぐに紺野と共に家路を急いだ。
その途中で辻と加護の後姿を見つけたのだ。

2人に追いつき一生懸命 何事かを説明する紺野と高橋に
辻と加護はキョトーンとしている。

中沢と平家は顔を見合わせて肩を竦める。
「わたし等 相当嫌われてんねんなぁ」
「フフ‥でも今日はオンパレードやね」
「ハハハ、そら言えるわ」
2人は気付かれぬように 静かにその場を離れた。
  
みっちゃん…」

「なに?」

「ごめんな…」

「ハハ‥なに言うてんねん」

「……」

「裕ちゃん 私も思ったわ…」

「なにを?」

「あの娘達に わたし等が立ち入っちゃ駄目だって事をや…」

「…ありがとう」

「…」

「…」

「なあ、裕ちゃん」

「なに?」

「私 これからも 裕ちゃんに着いてくわ」


何時の間にか雨は上がり、雲間からは夕日の赤が差し込んできた…

その空に投げ出された2本の傘がフワフワと浮いた…


ども今日は此処までです。
う〜ん なんか長文が書き込めなくなってる気がする・・・
だから今回はボツボツと切れてしまって読みづらくなって申し訳です。
次回は安倍なつみ篇に突入します!           では!
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000025.jpg
これは残暑見舞いの安倍ちゃんです。
191矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/08/21 20:52 ID:pPBfmnsU
更新乙です、これからも頑張ってください。
192名無し募集中。。。:02/08/22 03:47 ID:XyAC7tnQ
いい!今回特にいいです。
セリフや情景にリアリティがあって、ドラマのワンシーンのように
光景が目に浮かぶようです。
益々今後期待しちゃいます。
193名無し募集中。。。:02/08/22 23:15 ID:kdxdy4gW
絶賛保全
194ののの虜 ◆nono2P.. :02/08/23 00:37 ID:KpL9vxPo
oノノハヽo
从 TDT)<感動しました。。。
195kk:02/08/23 02:24 ID:E0G/2NLZ
泣き入りましたね、、、
196ナナ〜シ!:02/08/24 00:26 ID:8vQbWAov
保全!でごじゃいます
197名無し募集中。。。:02/08/25 21:11 ID:8XhqGMwb
保全
198名無し募集中。。。:02/08/28 01:14 ID:EDVgzbL6
保全
199デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:25 ID:ED64rmA8
お待たせしました。今日、更新します。
皆様、褒めていただきありがとうございます。
めっちゃ嬉しいです…が…プレッシャーが…アワワワワ…
200デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:26 ID:ED64rmA8
【 BATTLE AFTER 】第三十三話

 中沢の訪問から3週間が過ぎた…

安倍は綺麗に林檎の皮を剥く。
辻はその作業を待ちきれない表情で見詰める。
「辻ぃ、ヨダレが出そうだよ」
ベットで横になってる飯田が呆れるように言う。

ここは飯田が入院している病院だ。
飯田は全身打撲と肋骨が数本折れ、ヒビにいたっては全身におよび入院している。
そして病室は七曲署のコネで個室になっていた。
安倍は仕事を早めに切り上げ 辻を連れて見舞いに来ていたのだ。

「まあ、あと2、3日で退院できるよ」
ハハハと笑う飯田…
全治二ヶ月と言われた怪我は念によって驚異的な回復をみせていた。

「もう、かおりは何回入院すれば気が済むんだか」
ねえ、と辻に振りながら切った林檎を辻にハイと渡す。
「わ〜」
辻の目がパ〜と輝く。
辻は林檎を頬ばりながら、もう一つを飯田の口に運ぶ。
「ハイ、あ〜んするのです」
「へいへい」
辻に林檎を食べさせてもらいながら飯田は頭を撫でてやる。

それを見る安倍はニコニコと微笑んでいた。

201デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:27 ID:ED64rmA8
安倍はチラリと時計を見た。
夜の9時を回っている。
「あ、こんな時間か…」
帰り支度をしようとする安倍に飯田が提案する。
「…泊まっていけば?」
「わ〜、泊まるのです!」
辻は直ぐに反応した。

「いいの?かおり」

「いいって いいって、一人で寝るのも寂しいしなぁ」

個室には宿泊用の布団が付いていた。

「ちょっと矢口に電話してくるから辻は布団敷いてて」
ア〜イと頷く辻。


矢口に泊まると伝えて病室に戻ると、飯田が布団を敷いていた。
「かおり 大丈夫なの?」
「いや、敷き直してたんだ」
辻が敷いた布団は適当でバラバラだったので見かねた飯田が敷き直していたのだ。
「飯田さんが敷き直しているのです」
「……」

「もう、なっち がやるよ、かおり は寝てて」
安倍は飯田をベットに追いやって腕まくりをする。
「辻ぃ、そっち持って」
辻と二人でシーツを持って敷布団に被せる。
「いい?この角を三角折するんだよ」
優しく教える安倍に辻も素直に頷く。
202デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:28 ID:ED64rmA8
 
 「さっき矢口に電話したらね、後ろの方で加護がブーブー言ってたよ」
「え〜!」
ちょっとした意地悪に辻は口を尖らす。
「ハハハ、明日なっち も一緒に謝ってあげるよ」

そんな話をしながら布団を敷いた。

「よし、これでOK!」
パンパンと手を叩き腰に手を当ててエッヘンと威張る安倍。

「わ〜、ホテルの布団みたいなのです」
パチパチと手を叩いて辻も喜ぶ。

それを見る飯田は微笑んでいた。


テレビに石川と松浦のコンビ『モーニングペアー』が映っていた。

同じ布団に転がりながら辻を真ん中にして3人で見た。

「こいつ等 売れてきたなぁ」
飯田がしみじみと言う。
「はぁ〜、みんな知らないんだね…」
「梨華ちゃんと亜弥ちゃんは人殺しなのです」
「ハハハ…って 笑い事でないか…」

203デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:29 ID:ED64rmA8
 
 「ねえ なっち 裕ちゃんが持ってきた提案って信用できるの?」
「…うん、大丈夫だよ、なっちは信じるよ!」
「のの も信用するのです」
「はぁ?辻はその場所にいなかったろ…って辻ぃ お菓子 こぼしてる!」
ポテチをポリポリ食べながらテレビを見ていた辻は
枕にポロポロとお菓子のカスを零していた。
「もう!せっかく綺麗に敷いたのに」
安倍がパンパンとお菓子のカスを手で払う。
辻はケラケラと笑う。

ハハハと笑って自分のベットに戻ろうする飯田は少し考えてから辻に自分のベットを譲った。
「辻ぃ、こっちで寝な」
「いいの?かおり…」
「ハハハ、柔らかいベットの方がいいだろ…なあ 辻ぃ?」
「安倍さんと飯田さんは優しいのです…矢口さんとは違うのです」
顔を見合わせてプッと笑う安倍と飯田。
「まあ、そういう事にしておくか…さ、電気消すよ」

204デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:31 ID:ED64rmA8
 
カチ カチと時計の音だけが聞こえる…

「ねえ、かおり 寝た?」

「うん…起きてるよ…」

「のの も起きてるのです」

「辻は寝ろよ…」

「まあ、いいじゃないの」

安倍は何を思い出したのかクスクス笑う。

「どうした なっち?」

「同じ病院で寝るなんて…」

「…ああ、初めてかな?」

「ふふ、初めてじゃ無いよ」

「うん…?…そうだっけ?」

「…生まれた時…」
205デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:34 ID:ED64rmA8

「おお そうだったなぁ」

「なんの話しなのです?」

「はは、辻は知らないのか?私と なっち は同じ病院で生まれたんだよ」

「知らないのです」

「同じ保育器に入ってたんだよ」

安倍は辻に話して聞かせた。
憶えていない赤ちゃんの時の事…
モーニング娘。のオーディションの事…
同郷で同い年の飯田との出会いを…

206デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:35 ID:ED64rmA8

「へ〜、のの と あいぼん と一緒なのです」

「違うだろ…まあ、似てなくもないか…」

「じゃあ のの は大人になったら飯田さんになるのです」

「え〜、辻は なっち より かおり の方がいいんだ?」

「うっ…そうで…違うのです」

「ハハハ辻は素直だね〜」

「ののは素直なのです」

「…はぁ〜〜…」

「……」

「…」
207デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:36 ID:ED64rmA8

辻はスースーと寝息を立てる…

「ハハ、辻 寝ちゃったね…」

「だな…」

「…ねえ、かおり…」

「なに?」

「退院したらどっか遊びに行こっか?」

「え〜」

「たまには良いじゃん」

「ん〜…どこ行くの?」

「なっち はここんところ働き詰めで疲れたよ…」

「じゃあ 温泉だ」

「…いいねぇ」

「…のの も行くの でしゅ  ムニャ  」

「辻ぃ 起きてたの?」

208デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:37 ID:ED64rmA8

安倍はそっと起きてベットの辻を覗き込む。
辻は腹を出してポリポリ掻いて寝ていた。

「寝言だべさ…」

安倍は優しく布団を掛けてやり、また自分の布団に潜り込む。

「辻は何時になったら大人になるのかねぇ?」

「本当 心配になってくるよ」

「ハハ このまま変わらなかったりして…」

「…うむ、ありえるな…」


「かおり…」

「ん?」

「本当に行こうねぇ…」

「だな…」


何時の間にか寝息を立てる3人…

静かな病室に飯田のイビキだけが響いた…

209デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:38 ID:ED64rmA8
【 BATTLE AFTER 】第三十四話

飯田は3日後に退院した。
病院玄関で待っていたのは安倍だった。
「なっち どしたん?その格好」
水色のノースリーブのワンピース…
その安倍の手には大きな旅行バックが握られていた。
「へへへ 涼しそうでしょ…かおり は暑そうだけど」
飯田は何時もの格好 黒のライダースーツだ。
「いや、このスーツは特殊だから…って違う!そのバックは何?」
「へへ〜、今から行くんだよ」
「…どこへ?」
「温泉」
「…」

駅に向かう道すがら飯田が安倍に聞く。
「店は?」
「休みにしたよ」
「矢口達は?」
「黙って来た」
「なんで?」
「お金かかるもん」
「…」

「へへ〜、あっちに着いたら矢口に電話して驚かそうと思ってねぇ」
「怒るぞ〜 矢口…」
「いいのよ」
安倍はプイと口を尖らす。
「…?…」
210デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:39 ID:ED64rmA8

昨夜、安倍は矢口と久しぶりに大喧嘩をした。
ほんの些細な出来事…

飯田が退院したら皆で旅行しようと矢口と話し合っていた。
ホテルにするか旅館にするかで意見が別れた。

2人とも意地になっていた。

加護が泣きながら2人を止める。

安倍は自分の部屋に閉じこもって布団をかぶった。

「矢口のバカ…」

結果、安倍は朝早く家を飛び出したのだ。

211デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:40 ID:ED64rmA8

「矢口さ〜ん、阿部さんが居ませんよ〜!」
朝食のトーストを作っている矢口に加護が慌てて報告する。

「ああ、知ってるよ」
「何処に行ったんです」
「たぶん、かおり と温泉だろ…」
「え〜!なんで〜? 昨日 安倍さんと大喧嘩したから?」
「なっち はそのつもりだろ…」
矢口はニコリと笑って見せた。

「私も行く!」
「駄目だよ」
「なんで〜?」
矢口は目を伏せて静かに笑う。
「今日は何の日か知ってるか?」
「今日?」
「そう」
加護はブンブンと首を振る。
「今日は かおり の誕生日…」
「…あっ…」
「そして、2日後は なっち の誕生日」

「2人っきりにしてやろうよ」
矢口はポンと加護の頭を叩いた。

「それで昨日 喧嘩したの?」
矢口はフライパンで目玉焼きを作りながら首を振る。
「それとこれは違うよ…ほら、冷蔵庫からジュース出して」
加護は冷蔵庫からオレンジジュースを出してコップに注ぐ。

212デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:41 ID:ED64rmA8

「まあ、昨日の事で なっち は少し気まずいだろう…」
矢口は歯を見せてニカッと笑う。
少し困らせてやりたい気持ちもあったのだ。
「どうするの?」
トーストにバターを塗りながら加護が聞く。
「ハハ‥朝ごはん食べたらメールでも送るよ」


安倍の携帯に矢口からメールが入った。

ーーー楽しんできなよーーー

浮かなかった安倍の顔はにわかに輝きだす。

矢口への返信は たった一言。

ーーーうんーーー

それで充分だった。

213デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:43 ID:ED64rmA8
【 BATTLE AFTER 】第三十五話

暑い日ざしにセミも堪らず鳴く…

駅に着くとTシャツとジーンズの短パンの辻がいた。
辻の手には小さなバックが握られていた。
「ありゃ‥辻だ…」
「ちょっと辻、学校は?」
「夏休みなのです」
「あぁ、そっか…」
「よくここを分かったな?」
飯田は辻の頭を撫でる。
「のの も行くのです」
「行くって…加護は?」
「矢口さんのお守りなのです」
「……」

「あっ」
安倍は何かを思い出したように言う。
「前にもこんな事があったような…」
必死に思い出そうとする。


214デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:44 ID:ED64rmA8

「安田さんの悪霊が取り付いた時なのです」
安倍はポンと手を叩く。
「あ〜そうそう、圭ちゃんの悪霊が…って悪霊じゃないでしょ」
「あれは悪霊なのです」
「違うよ!ちゃんとお墓にも……」
安倍は また何かを思いついたようだ。

「どした?なっち」
「ねえ、ついでにお墓参りに行こっか?」
「お墓参り?」
「そうそう、行こ行こう」

安倍は辻と飯田を追い立ててホームに入った。

215デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:45 ID:ED64rmA8

 ーーー願成寺ーーー


3人は保田の墓の前に立っていた。

「圭ちゃんのペンダントが無くなってる…」
安倍は立ち尽くしたままだ。
「まあ、盗まれたんだろうな…」
「……」
飯田は安倍の肩に手を置いて しゃあない と首を振って見せた。

「でも…」
安倍はやり切れない表情だ。

「また、悪霊が取り付くのです」
ゴツンと辻の頭が鳴った。
「縁起でもない事言うんじゃないよ」
飯田のゲンコツに辻は頭を押さえてしゃがみ込んだ。

3人で綺麗に墓を掃除して線香をあげる。

「辻、お菓子出しな」
「え〜!」
「お供え物なきゃ圭ちゃん可哀相だろ」

墓に供えたのはチョコレートだった。

216デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:46 ID:ED64rmA8

「ん〜〜〜!でも気持ちいいね〜〜」
綺麗になった墓に手を合わせ拝み終わると、安倍は大きく背伸びをした。
「本当だな‥掃除がこんなに気持ち良いとは思わなかったよ」
つられて飯田も伸びをする。

「飯田さんの部屋はいつも汚いのです」
「そうなんだよなぁ いつもゴミだらけで…ってコラッ!」

飯田の乗り突っ込みに3人で爆笑した。


寺の二階から笑いながら出て行く3人を見る人影。
その瞳が細くなる。

「どうしたのじゃ?」
80歳を越えてると思われる風貌の寺の住職が聞く。

保田圭は膝をついて頭を下げた。
「今まで 有り難う御座いました」

「出て行くのか?」

保田は静かに頷く。
「…気になる事があります」
立ち上がるとそのまま寺を後にする。

「何か有ったらまた来なさい」

保田は振り返り少し微笑んだ。
217デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:47 ID:ED64rmA8

行き場の無い保田は自分の墓があるこの寺に毎日のように来ていた。
ただただ 一日中ずうと居る 保田を見かねた住職が声をかけた。
なにか訳でもあると住職は思った。
しかし、聞かれても答え辛い事もあるのだろう。
ーーいつか話してくれるーー
住職は訳も聞かずに保田に部屋を提供した。

その保田が出て行く…訳も話さずに。
ーーそれもいいじゃろうーー

住職は保田の後姿に合掌した。



保田は安倍達を着ける事にした。

飯田の周りに僅かだが感じるものがある。

保田の胸に取り付けてある仮面への共鳴装置が反応したのだった。

218デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:49 ID:ED64rmA8
【 BATTLE AFTER 】第三十六話

新幹線でM県に着く…

「あ〜ここで降りよう」
「なんで?」
「ほら、もう宿を探さないと」
「…えっ?」
「いいから いいからぁ」

駅の売店で観光の本を買い、レンタカーを借りた。

「何処に行くんだ?」
ハンドルを握る飯田が聞く。
「それが なっち も決めてないのよ」
助手席の安倍はペラペラと観光案内の本をめくった。
「え〜?決めてないの〜?」
219デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:50 ID:ED64rmA8

安倍はキョトンとして聞く。
「なに今更慌ててるのよ?」
「いや、てっきり決めているものと…」
「のの もです」
安倍はハァと溜め息をつく。
「もう、気付くの遅すぎるわよ」
「……」
飯田は言葉も無い…
「兎に角なっちは疲れたよ…さあ、探しましょ」
「…そ、そうだな…」
呆然と答える飯田…
「探すのです」
何故か辻は楽しそうだった。

220デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:51 ID:ED64rmA8

しかし、ガイドブックに載ってる旅館は全て満室だった。

秋保温泉という山添に有る温泉街で
泊まれる所を探しながら空を見上げると日が傾いてきている。

「おいおい、もう無いんじゃないか?」
山道は何時の間にか砂利道になっていた。

「ひ、引き返そうか?」
流石の安倍も弱気になる。

「あっ、あれはなんなのです?」
辻が指差す先…山影から煙が上っていた。

「お…温泉の煙だよ〜」
安倍の瞳は潤んでいた。
221デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:52 ID:ED64rmA8

その温泉旅館の看板は緑風荘と書かれていた。
築百年は経っているだろうその温泉宿は秘湯の趣きがあった。

「ボロなのです」
慌てて安倍が辻の口を塞ぐ。
ハハハと笑って誤魔化す安倍に旅館の女将は微笑む。
「いいんじゃよ、本当の事じゃから」
女将と言っても腰の曲がったお婆さんだ。

「今日はあんた等を入れてお客さんは5組じゃよ」
部屋に通されて お茶を淹れる女将はニコリと笑った。
「え〜、下のホテルは何処も一杯でしたよ」

「ははは 此処はアタシと主人と息子の3人だけでやってるからねぇ
お客さんを抑えてるんじゃよ」
「じゃあ なんで私達を?」
「なんでじゃろうねぇ…この子の顔を見たらねぇ」
女将は辻の頭を撫でた。

辻の能力『ハムスターアイ』の賜物だった。

「夕食の時間になったら呼ぶから、下の庵に降りてくるんじゃよ」

「あーーい」
辻はニッコリと微笑んだ。
222デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:52 ID:ED64rmA8

「探検してくるのです」
辻は部屋を飛び出した。
木造の古い廊下は歩く度にギシギシと音が鳴る。
「わぁ、本当にボロなのです」

一階に下りて庵の有る部屋に行くと老人が何かの準備をしていた。
その庵には鍋が掛けられていた。
「わぁ、これは何の鍋ですか?」
庵に岩魚の塩焼きを刺している老人に聞く。

「ははは 周りを見てみい」
宿の主人の老人に言われて見回すと、鹿と猪、熊の剥製が飾ってあった。
「今日は猪鍋じゃよ」
「わぁ!凄いのです」
辻は走って庵のある部屋を出る。
「これ 何処に行く?」
「飯田さんと安倍さんに教えてくるのです」
ドタドタと響かせて階段を上っていく足音が聞こえた。
「やれやれ 慌ただしい子供じゃのう」
笑みを浮かべて老人は一息ついた。

223デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:53 ID:ED64rmA8

「大変なのです、もうご飯ができたのです」
辻が慌ただしく部屋に戻ってきて報告する。
「えー!まだ5時だよ」
「それに お婆ちゃんが出来たら呼ぶって言ってただろ」
安倍と飯田はお風呂に行く準備をしていたのだ。

「凄いのです、猪鍋なのです!」
辻に手を取られて2人はシブシブ着いて行く。


庵には食事の準備をしている老人がいた。

「ありゃ、夕飯はまだだぞい」

安倍と飯田は辻を睨みつける。
「つ〜じ〜、どゆこと!」
辻はポカーンとしていた。

「ははは よっぽどお腹が空いたのじゃな…もうちょっと待っとれ」

安倍と飯田は顔を見合わせ頷く。

「お爺ちゃん、手伝おっか?」
「ほう、そりゃ助かるわい」
「辻ぃ、アンタもだよ」
「分かったのです…」

224デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:55 ID:ED64rmA8

手伝いながら話を聞くと この旅館は完全予約制で食事は予約した
お客の分しか用意をしていなかった。
女将と息子は予約分の食事の用意をしていて忙しいとの事だ。
安倍達の夕飯は言わば まかない食みたいな物だった。

「じゃあ、他のお客さんは部屋食なのに私達だけ この庵なんだ」
「なんだか悪いのう」
「いやいや、こっちの方が趣きが有って全然いいよ」
「それに猪鍋なのです」

鍋からは良い匂いが立ち込めてきた。


225デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:56 ID:ED64rmA8

安倍が猪鍋から肉と豆腐とネギを取って辻の碗によそう。
「わぁぁ」
辻の顔がパ〜〜と輝く。
「初めてなのです」
「食べてみぃ」
「いただきますです」

辻は一口で猪肉を頬張る。

「どう?」
「美味いのです」
辻は満面の笑みだ。
「そう、良かったねぇ」

「じゃあ私等は…」
そう言いながら飯田は地酒の入った徳利を安倍のオチョコに注ぐ。
「はい かおり」
今度は安倍が飯田に酌をする。
「辻はジュースだな」

226デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:57 ID:ED64rmA8

チョコンとオチョコで小さく乾杯し飯田は一気に飲み干す。

「プハー!旨めぇなぁ」

安倍はちょっと口をつけたが、直ぐにウエ〜と舌をだす。

「やっぱ なっち はジュースでいいよ」

自分のコップにジュースを注ごうとする手を飯田が止める。

「ぬぁにぃぃいい!」

「か かおり…」

「飲め!」

「…」

安倍にオチョコを差し出す飯田の目は据わっていた。
227デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:58 ID:ED64rmA8

「美味い、美味いのです」

辻は至福の表情でモリモリ食べる。

「よっしゃ〜!今日は飲むぞ!」

飯田は徳利を一人で5本も開ける。

「なっち はもう無理、絶対無理だべさ」

安倍はオチョコ2杯で顔が真っ赤になり目がシパシパしていた。


228デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 19:59 ID:ED64rmA8


「わぁぁああ!すごぉぉおおい!」

満天の星の下の露天風呂…

滝の流れる幻想的な風景に安倍達は歓声を上げた。

「なんだぁ?辻、その腹は」
飯田が辻のプニプニした腹の肉を摘まむ。

「やめて下さいなのです」
「キャハハハ、ほらほらほらぁ〜」

飯田は辻の腹をプニプニ摘まみながら湯船に追い立てる。

ーードッパ〜〜ン!ーー

「あぢゃ〜〜っ!!」
「あぢぃ〜のです!!」

お湯の熱さに飛び出す2人に腹を抱えて笑う安倍。

229デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:00 ID:ED64rmA8

その熱さに慣れてきた頃…
縁石に腰掛けて湯船を足でジャバジャバする飯田に安倍が話しかける。

「ねぇ かおり…目 つぶって…」
「…なんで?」
「いいから いいから」

目をつぶる飯田の胸にヒヤリとした物が当たった。

「…これは?」

それは赤い宝石『サファイア』のペンダントだった。

「ふふ、誕生日おめでとう かおり」

「な なっち…」

ニコリと笑う安倍に飯田は泣きそうになる。

230デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:01 ID:ED64rmA8

安倍は両手親指と人差し指で四角◇を作り
滝を背景に飯田のバストショットを撮る真似をする。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000026.jpg

「かおり はプロポーションがいいから絵になるねぇ」

「もう、やめてよ〜、恥ずかしい」

手で胸を隠す飯田がショボーンとする辻に気が付く。

「どした?辻」

「のの は忘れてたのです…」

飯田と安倍は顔を見合わせる。

「辻、おいで」
飯田が手招きする。
231デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:02 ID:ED64rmA8

横に来てチョコンと座る辻に飯田は優しく語り掛ける。
「ハハ‥気にすんな…」
「でも…」
「あ、あのなぁ…言い辛いんだけどな…お前と加護には感謝してんだよ…」
「…?…」

「ほ、ほら いつも元気をいっぱい貰ってるからさ…」

ポリポリと鼻を掻きながら照れる飯田。
辻の顔がパ〜と明るくなる。

ニコニコ笑う安倍が そうっと辻の後ろに近付いた。
「そうそう、かおり の言う通り!」
言いながら辻の脇腹をコチョコチョとくすぐる。

「わっ!やめるのです!…わぁ!あじぃ〜のです!!」
ビックリして立ち上がった辻は、まだ熱さに慣れてない湯船に突っ込んだ。

キャハハハハと笑いあう声が満天の星空に溶けた…


232デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:03 ID:ED64rmA8


「なあ なっち…」

「なに?」

「た 高かったんじゃないの…これ」

「ハハ…気にする事ないよ」


「あ〜 えっと あ ありがとう…」


ニコリと笑う安倍の笑顔が天使に見えた…

233デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:04 ID:ED64rmA8

次の日も同じ宿に予約して観光に出る3人。
動物園で辻はちょっとした有名人になった。
全ての動物が辻に対して猫なで声をだしたのだ。
辻の言葉通りにクルリと回るライオンに飼育係も目を丸くする。
ケヘケヘと笑う辻の周りには何時の間にか子供達が集まる。
動物を操る辻は子供のヒーローになっていた。


午後は遊園地で遊ぶ事にする。
ジェットコースターで辻以上にギャーギャー騒ぐ飯田。
お化け屋敷で騒ぎまくる3人にお化け役の青年も満足の表情だ。
5重の団子のアイスクリームを片手に辻は満足の笑みを漏らす。

楽しい思い出作りの1日はあっと言う間に過ぎた…

234デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:06 ID:ED64rmA8
【 BATTLE AFTER 】第三十七話

『レストランプチモーニング』では居残り組が奮闘していた。

矢口がリーダーになってレストランの模様替えをする。

「明日、あいつ等帰ってきたらビックリするぞ〜」

矢口はパーティの飾りつけを見てニッコリと頷く。

矢口、加護、紺野、高橋の4人は飯田と安倍の誕生パーティを計画したのだ。

「よっしゃ!歌の練習しようぜ!」

矢口を中心にパート割を決めて歌う曲は『真夏の誕生日』に決めた。

歌う4人のハーモニーは夜中まで続いた…


翌日…

安倍なつみ は22回目の誕生日を迎える…



235デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/28 20:09 ID:ED64rmA8
今日はここまでです。
まあ、娘達の年齢は適当なので突っ込まないでください。
次回更新も未定ってことで…                  では。
236よしヲタだけど:02/08/28 23:50 ID:DzBIOtJ8
ダ、ダメだぁ〜良すぎる〜〜!!!
237ソネリオン:02/08/29 00:13 ID:TaCPfPrR
ひとつ質問。 「赤いサファイア」って、在るんですか?ピンク色の「スターサファイア」は、知っているのですが、流石に赤いのは見た事がありません。もしかして、「ルビー」の間違いでは?(それとも、私が知らないだけで実際に在るのか?)まぁ〜、少し気になったモノで(;^_^A
238名無し募集中。。。:02/08/29 00:36 ID:VKnSi9D9
毎回更新楽しみにしています。
一応書いておきますが>>214で保田が安田になってましたよ。
239名無し募集中。。。:02/08/29 01:12 ID:7/g43h9n
>>237
ルビーとサファイアは成分が一緒ですけどね。
多分ルビーではないかと・・・
240デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/08/29 07:36 ID:4pbrIgWE
おはようございます。
しまった、赤いのはルビーか…物凄い勘違いですた…申し訳。じゃあルビーという事で。
更新する前に一度は読み返すんだけど…いつも誤字や脱字が出てしまう。これもスマソ。
(まあ、さら〜〜〜っと読み返すだけなんだけど…)
241名無しさん:02/08/29 09:10 ID:1Vx8/wnD
乙です。
たまにはこういうマターリものもいいですねぇ。
242kkk:02/08/30 01:03 ID:/rjw0yDS
いつものことながら、いいですねぇ。
しみじみ思いますです。
>>211が阿部になっちょります。
まあ、ささいなことですが。すんまそん
243矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/08/30 22:50 ID:xLGXyXCW
更新乙です、こういうのもいいですね
244ののの虜 ◆nono2P.. :02/08/31 16:45 ID:yn8KRp/3
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙れす。
       戦闘よりこっちのほうがいいなぁ・・・
245デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:18 ID:yC1pLTfF
う〜む、ほのぼの系の方がみんな好きなのか…
それは次作を書く時にって事で…
今回は…  でも、前から決めてた…
246デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:20 ID:yC1pLTfF
【 BATTLE AFTER 】第三十八話

「楽しかったねぇ」
安倍は帰りの準備をしながら飯田に話す。

「ハハ‥そうだな」
「でも、まだ楽しい事があるのです」

「うん?辻、どゆこと?」

「あのですねぇ…」
何かを言おうとする辻の口を飯田が慌てて塞ぐ。

「ハハハ、何でもないよ」

「…?…」



「ありがとうございました〜!」
見送りに出た旅館の女将と主人にペコリと頭を下げて、手を振って別れた。

247デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:22 ID:yC1pLTfF

「かおり 何処行くの?」
飯田の運転する車は旅館を出ると登りはじめた。

「へへ〜、まあ すぐ分かるよ」
「すぐ分かるのです」

「ふ〜ん」
何かある と思った安倍は少し楽しみになった。

走る事30分…山の頂上付近に開けた小さな公園が有った。

「どうよ なっち」
飯田は車から降りて背伸びをする。

「すご〜い!」
眼前に広がる風景に安倍は感嘆の声をあげる。
「すごいのです」
安倍を連れて来たつもりの辻もポカーンと口を開けたままだ。

深い緑の間に流れる滝や界下に広がる街並み。

安倍と辻も思わず深呼吸をする。
248デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:23 ID:yC1pLTfF

「なっち 今日 誕生日だったよな…」
何にも用意していなかった飯田と辻は安倍に内緒で旅館の女将にこの場所を教えてもらったのだ。
「なんにも用意出来なくて…こんな事しか思いつかなかったよ…ゴメン」
「ううん そんな事ないよ」
安倍は左右に首を振る。
「安倍さん、オメデトウなのです」
「うん ありがとう 辻 かおり…」
安倍は ちょっぴり涙ぐんだ。

「へへ〜」
飯田は得意そうに手を広げる。
フッと仮面が現れる。

「かおり それ何処に隠してるの」
「内緒…」

飯田は仮面を被り変身する。

「な、なに?」
安倍に手を回し飯田はお姫様抱っこをする。

「とう!」
「キャッ」
飯田は安倍を抱いたまま公園に有るベンチが入った白い建物の屋根に飛び移る。
249デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:24 ID:yC1pLTfF

「わぁ〜、すごい すご〜い!」
さっきよりも高い所に立ち安倍は感激する。

「そうか?じゃあ…」
そう言うと飯田は安倍を抱き直してビョーンビョーンと大ジャンプをする。

「わぁ!! 怖い!かおり 怖いよ!!」
ハハハと笑う飯田の跳躍は軽く5mを越えた。


「飯田さん!のの もなのです!」
下で辻が手を振る。

「わかった わかった」
そう言いながら飯田が屋根から飛び降りる。

250デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:25 ID:yC1pLTfF

ーーボシュンーー

その飯田めがけて小型ミサイルが飛ぶ。

ーードォォンーー

空中でミサイルの直撃を受けた飯田はゴロゴロと転がりながら崖下に落ちた。

「…!!…な、なに?」
「飯田さん!」
「か かおり…かおりぃぃいい!!」

辻が走って落ちた飯田を追いかける。

「い、いないのです!」

飯田は崖下の森に消えていた。

「辻ぃ!ちょ、ちょっと ここから下ろして!」

安倍は屋根の上で手足をバタつかせる。
辻がキョロキョロと梯子を探して辺りを見回すと道路から黒い人影が現れた。
「わぁ!」
辻が驚いて腰を抜かす。

それは変身後の保田圭…ハカイダーだった。
251デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:26 ID:yC1pLTfF

「な、なんなの?」

目を見張る安倍をチラリと一瞥し、保田はジャンプをして崖下の森に消えた。


「辻ぃ!早く下ろして!かおり が…かおり が!!」

安倍の声は涙声になっていた…


252デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:27 ID:yC1pLTfF

ズキンと脇腹に痛みが走る。
飯田は首を振りながらヨロヨロと立ち上がった。

「な、なんなんだ…?」

飯田の瞳に漆黒のボディが映った。

「お、お前は…」

保田ハカイダーは悠然と佇む。

「まさか かおり が仮面の戦士だとは思わなかった…」

「…?…」

「だが…私の使命は仮面を破壊する事…」

「そ、その声…」

飯田は聞いたことの有る声に愕然とする…

「け、圭ちゃん…圭ちゃんか?」

「問答無用…」

そう言うと保田は突っ込む。
253デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:28 ID:yC1pLTfF

「うわっ!」
保田のパンチに飯田もパンチで応酬する。
ガシン!と拳同士がぶつかる音。

「な、なんで私を狙うんだよ!」
無言の保田は更に重いパンチを繰り出す。
「にゃろう!」
ソレを避けて飯田は念のパンチを胸に叩き込む。
バチバチと弾かれる念は保田のボディを流れるだけだ。
「…!…」
飯田は一気に後ろに跳ぶ。
「…そう言えば念が効かなかったんだっけ…」
飯田は念を全て防御に集中する事にした。

「どういう理由で私を狙うか知らないけどな!」
飯田が一気に間合いを詰める。
「この間のようには いかないよ!」
ドスンと保田にボディブローを放つ。

保田の頭を持ってガチンと頭突きをかます。
「おりゃ!」
チョップを肩口に叩き込む。

最初は痛んだ脇腹の痛みは気に為らなくなっていた。

254デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:29 ID:yC1pLTfF

飯田は気付いていない…

自分が以前より強くなっている事に…

一発のミサイルで全身の骨にヒビが入った以前の体では無くなっていた事に…


ビシリと保田の胸当てにヒビが入る。

「これで どうだぁぁああ!!」

ひび割れた部分に飯田の念能力『太陽のオーバードライブ』が叩き込まれた。

光の念は保田の漆黒のボディスーツの中に隠されたブルーの宝石、
『安倍から貰ったペンダントヘッド』で増幅された…

   ーーバカァァァン!ーー

保田の胸当てが割れた。

ビシビシと脳を守る超強化ガラスにヒビが入る。

飯田は勝ちを確信する…
255デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:30 ID:yC1pLTfF

ーーしかしーー

振りかぶる飯田の瞳に手首の無い保田の右手が見えた。

ミサイル!
そう思い、顔面を十字ブロックでガードする。

「…!!…」
発射されたのはミサイルでは無かった。

ミサイルは保田の左手に一発しか入っていない。
右手首から出される武器…

それは保田の全身のエネルギーを一気に放出する『保田砲』だった。

「ぎゃぁぁあああ!!!」

1千度を超える瞬間の炎に包まれ転げ回る飯田。


保田はヨロヨロと立ち上がる。
しかし、保田も立ってはいられずゴロゴロと斜面を転げ落ちた。

256デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:31 ID:yC1pLTfF

安倍と辻は擦り傷だらけになりながら斜面を駆け下りてきた。

「あ、安倍さん あそこなのです」
辻の指差す先に飯田が横たわっている。
「か、かおりぃ!」
バタバタと駆け寄る。
飯田の体からは煙が上がっていた。

「かおり!」
仮面に手をかけた安倍は手を引く。
仮面は触れないほど熱かった。

「辻ぃ!も、戻って救急車!はやく!」
「でも…」
「いいから、はやく!」
辻は頷き駆け戻る。

「かおりぃ、かおり!」
安倍は地面を掘って土を飯田に被せる。
他に熱を下げる方法を思いつかなかった。

がむしゃらに掘った。
「…痛っ」
爪が割れた。

「かおり…かおり…」
それでも掘って土をかけた。
257デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:32 ID:yC1pLTfF

「かおり しっかりして」
着ていたワンピースを脱いで土と一緒に飯田の体を擦った。

安倍は一生懸命に飯田の体を擦り熱を下げる。
土が熱を奪い飯田の仮面の温度は下がった。

「どうすればいいの?」
飯田のマスクの外し方を知らない安倍は彼方此方と仮面を弄る。
「あっ…」
何処をどうしたのか分からないがカチリと音がして仮面が外れた。

「かおり!」
飯田はヒューヒューと不自然な呼吸をしていた。

一千度を超す高熱にも仮面の内部は耐えた。
しかし、瞬間的にもソレを吸い込んだ飯田は虫の息だった。

「かおり!」
安倍は飯田のホッペタをペチペチと叩く。
「かおりぃ!起きて!」
尚もペチペチ叩く。
すると飯田はゴホゴホと咳き込みながらも辛うじて意識が戻った。
258デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:34 ID:yC1pLTfF

「かおりぃ…」
「なっち…」
安倍は飯田の手を取り喜んだ。
「よ、よかったぁ」
「に、逃げろ…」
「えっ?」

「アイツは私を狙ってる…」
「だ、誰もいないよ…」
飯田はゆっくりと斜面の下を指差す。
「まだ…生きてる…」
安倍は立ち上がり下を見ると遠くにゴソゴソと動く人影が見えた。

「なっち が担ぐよ」
安倍は飯田を担ごうとするが非力な安倍には飯田は重くて担げなかった。

「どうしよう」
「だから 逃げろって…」

「かおり を置いて逃げれる訳ないじゃん…」

「そうだ…」
安倍は飯田のライダースーツの背中のチャックに手をかけた。
「な…なにを?」
「黙ってて」

安倍は飯田のスーツを脱がした。
259デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:36 ID:yC1pLTfF

半裸の飯田に自分のワンピースを掛けてそっと土を被せカムフラージュする。
「かおり は隠れてて」
飯田は体を動かす事も出来ない程、衰弱していた。

「よいしょ、よいしょ」
安倍は飯田のライダースーツを着る。
「ふう、やっぱり結構ブカブカだね…」

飯田はようやく気付いた。
安倍は自分の身代わりになる気だ…

「やめろ なっち…」

「大丈夫だよ」

「アイツは火を吹く…」

安倍の喉がゴクリと鳴った。

「大丈夫…このまま逃げるから…それに、このスーツ 丈夫に出来てるんでしょ」

「ちが…」
「しっ、来たよ」

ヨロヨロとしながらも保田は斜面を登ってくる。

260デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:37 ID:yC1pLTfF

「ア、アイツは保田だよ…」
「えっ?」
「でも、私達の知ってる 圭ちゃんじゃ な い …」

安倍はしゃがんで飯田の頭を撫でる。

「じゃあ、なっち が勝つよ…前に悪霊になった圭ちゃんをやっつけたもん」

安倍はニッコリと飯田に向かって笑って見せた。

「……」

安倍は飯田の仮面を被った。


飯田の見た天使の笑顔…


それは 安倍なつみ の最後の笑顔になった…



261デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:38 ID:yC1pLTfF

ーーー私、何やってるんだろう?ーーー

「ハハハハハ…こっちだ!こっち!」

安倍は保田を引きつけて走りながら ぼんやりと思った。

ーーーかおり はこんなに重いの着て走り回ってたの?ーーー

安倍は知らない…

飯田の仮面とスーツの秘密を…

飯田の肉体と精神にシンクロするライダースーツは安倍が着ても無意味…

普通の皮のスーツと同じだった…

ーーーやっぱり、普段から運動しないとねーーー

「よいしょっと…」

斜面を登る足が重い…

公園に登りきったら助かると…何となく思った…
262デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:39 ID:yC1pLTfF

ーーー圭ちゃん…私だと分かっても攻撃するのかなぁ?ーーー

「よいしょ、よいしょ」

安倍は声を出しながらチョコチョコと走り登る…

ーーー私、何にも悪い事してないのに…ーーー

「よいしょ、よいしょ」

声を出しながら少しブーたれる…

ーーーそう言えば、あの島でも かおり とずうっと一緒だったなぁーーー

「よいしょ、よいしょ」

安倍はあの島で飯田と一緒に見た満天の星空を思い出した…
263デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:40 ID:yC1pLTfF

ーーー昨日のお風呂も星が綺麗だったねーーー

「よいしょ、よいしょ」

心の中で飯田に話しかけた…

ーーー来年もまた来ようねぇーーー

「よいしょ、よいしょ」

公園の手摺りが見えてきた…

もう少しで登りきる…

だが、足が鉛のように重かった…
264デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:41 ID:yC1pLTfF

ーーーふう、なんか 私 疲れたよーーー

「よいしょ、よいしょ」

極端に視界の狭い仮面は保田が何処にいるかも分からない…

「よいしょ、よいしょ」

だから『保田砲』が安倍を狙ってるのも分からない…

「よいしょ…」

ーーー熱いーーー

一瞬そう思った…

それが最後だった…


265デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:42 ID:yC1pLTfF

「安倍さ〜ん!救急車…」

辻は見た。
白い光に包まれて燃え上がるライダーを…

「わぁぁあああ!!!」

辻は見た。
変身が解けた保田がエネルギーが尽きて斜面を転げ落ちる姿を…

「飯田さ〜〜〜ん!!!」

辻は燃え上がったのは飯田だと思った…

瞬く間に燃え尽きたソレは人の形をした炭になった…

あまりのショックに辻は気を失う…

辻が見たのは 安倍なつみ の最後の姿だった…

266デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:44 ID:yC1pLTfF

飯田は全ての念を回復に回す…

這って起き上がれるようになったのは30分後だった…

這いながら斜面を登ると、人の形をした炭が有った…

その炭からは白い煙がプスプスと立ち上っていた…

「い、いやぁぁぁああああぁぁぁ……!!!」

飯田の叫びに反応したかのように炭はザザーと砂のように崩れる…

残ったのは黒くすすけた仮面だけだった…

「あ ぁぁ  ぁ ぁ …」

気を失う飯田の耳に救急車のサイレンが微かに聞こえた…


267デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:46 ID:yC1pLTfF
【 BATTLE AFTER 】第三十九話

『バーパンサークロー』

カチャリとドアが開いた…

「あ〜、まだ開店して…」

開店準備をしていた中沢の声が止まる。

「矢口…」

立っていたのは矢口と加護だった。

「どしたん…?」

矢口の瞳からポロポロと涙が落ちた。

「中沢ぁ!コンニャロー!」

矢口が泣きながら中沢に突っかかる。

「な、なに?」

胸をドンドンと叩かれて慌てる中沢。


268デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:48 ID:yC1pLTfF

「なっちを返せ!!」
「安倍さんを返せ!」

加護もワーと泣きながら跳びつく。

「ど、どないしたん?」

「とぼけんな!」

「…?…」

「お前んとこの保田が…」

「…圭ちゃん?…」

「お前んとこの保田が昨日 なっち を殺したんだ!!」

「…!!…」

中沢の顔が一気に蒼ざめる…

269デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:49 ID:yC1pLTfF

「ちょ、ちょっと待ってや…」

カウンターに居た平家が間に入ろうとする。

「うるさい!」

平家に一瞥をくれて矢口は中沢の襟を掴む。

「お前、言ったよな!」

「……」

「手を出さないって言ったよな!!」

「……」

「言ったよな!!」

ショックの余り中沢は言葉が無い。

「なのに、なんだ!」

ドンと押されて尻餅をつく中沢。

加護は拳を握り締めてブルブル震えている。
270デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:50 ID:yC1pLTfF

「なっち はな!毎月 保田のお墓参りに行ってたんだぞ!!」

「ぁぁ ぁ」

「なのに…なんで…なんで なっち が保田に殺されなくちゃならないんだよ!!」

中沢の瞳からブワッと涙が溢れた。

「なっち が何か悪い事したのかよ!!」

中沢は左右に首を振る。

「殺されなきゃならない事したのかよ!!」

中沢は何か言おうとするが言葉にならない。

「答えろ!!」

「……」

「答えろよ…」
271デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:52 ID:yC1pLTfF

矢口はガックリと膝を突きドンドンと床を叩いた。

「ぁ ぁぁ ぁ 」

中沢は腰が抜けて立つ事さえ出来ない。

「…そ、そうだ…」

中沢は何かを思いついた。

「た、助かるかもしれないよ」

「助かる?」

ウンウンと頷く中沢。
ビップルームには、まだマシリトがいる。
中沢は殺すのが面倒になってそのままマシリトを放っておいたのだ。

「これでもか?」

矢口はポケットに手を入れて何かを掴み出した。
それは安倍の墨のように黒くなった灰だった。
272デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:53 ID:yC1pLTfF

「これでも生き返るのかよ!!」

バッ!と灰を投げつける。

「なっち は、こんな灰になったんだぞ!!」

灰を被り中沢は我を失った…
「わぁぁあああ! ま、待ってて…今、今 生き返らすから…」

中沢は腰が抜けたまま、バタバタと這いながらビップルームに向かう。
中沢の頭は混乱していた…

「ばっ、ばかっ!裕ちゃん!」

平家が止めたが遅かった…

鍵が開き出てきたのは人の形をした死人…
ドクターマシリトは最早 人間ではなかった。

「うがぁぁあああ!」

マシリトは矢口に向かって襲い掛かる。
中沢は腰が抜けて動けない。
273デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:55 ID:yC1pLTfF

ボンと音がしてマシリトの頭が吹き飛んだ。
そのままドサリと倒れるマシリト。
平家の念弾がマシリトを殺したのだ。

しかし、マシリトの体からは毒の瘴気が漏れる…

それは 中沢がマシリトに仕込んだ自身の暗黒瘴気だった…

平家はマシリトの傍に居る矢口は助からないと判断した。

ダン!とカウンターを跳び越えて、加護を抱えて外に連れ出す。

平家は外に出る時チラリと店内を見た。

矢口が崩れるように倒れるのが見えた…


274デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 03:56 ID:yC1pLTfF

平家は加護の両肩を押さえつけて言い聞かす。

「ええか、圭ちゃ…保田はウチ等とは無関係や」
「……」
「前に一度会った事はあったが、それっきりなんや」
「……」
「…信じるか?」
「……」
「…信じんでもええ…でも、本当の事や」
「……」

平家は店内に戻る、前に加護に忠告する。

「ええか、絶対、中に入いんなや…」
「なんで?」
「店ん中は毒が充満しとる、入ったら死ぬでぇ」
「や、矢口さんは?」
「……」

平家は答えず、店内に入り鍵をかけた。

275デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:00 ID:yC1pLTfF

中沢は横たわる矢口の体に突っ伏してメソメソ泣いていた。

「裕ちゃん…」
「……」
「裕ちゃん!」

平家は中沢の両腕を掴み揺する。

「しっかりしてや!」
「…みっちゃん…矢口が…矢口がぁ…」

平家は矢口の心臓に手を当てる…
心臓は止まっていた…

「裕ちゃん…試したんか?」
「何を…?」
「血や…」

「や、矢口は念を使えへんねん…」

「やってみなきゃ判らへんやろ!」

平家はカウンターに入り、ぺティナイフを取り出した…



276デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:01 ID:yC1pLTfF

主の居ない『レストランプチモーニング』は しめやかに密葬が行われていた。

誰も訪れる者もいない寂しい葬儀…

飯田と辻は入院していて、居るのは紺野と高橋だけだった。


その店内に無言で帰ってきた加護と後に続く人影…

矢口を抱えた中沢と平家だった。

「や、矢口さん!」
「アナタ達、矢口さんまで…」

中沢はそっと矢口を紺野に渡す。
矢口は静かな寝息を立てていた。

「保田は私等とは関係あらへん…」
中沢は静かに話す。
「なっち の仇は私が取るよ…」

「……」

「線香…あげていいかな?」

紺野と高橋は無言で睨む。
277デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:02 ID:yC1pLTfF

「そっか…」

踵を返し店を出ようとする中沢と平家に紺野が声をかける。

「矢口さんは、何故 寝てるんです?」

「矢口は…」
中沢の声は震えていた。
「長くは…持たん…」

「えっ」

「勘違いした 矢口が  悪い  … 」

「どういう事です?」

「…矢口が目を覚ましたら伝えといてや…」

「……」

「ゴメンって…」

「…」

「ちゃんと静養するんだよって…」

「…」

それ以上喋らず、中沢達は店を出た…
278デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:03 ID:yC1pLTfF

矢口が犯された瘴気の毒は中沢の血によって辛うじて中和された。

念によって造られた中沢の体に流れる特別な血…

それは 自身の体を暗黒瘴気から守る為の聖血…

中沢の暗黒瘴気は中沢の聖血でしか中和が出来ない…

そして、自身の念によってバランスを保てなくては その血は毒になる…

中沢裕子の血…

それは 念を持たない矢口にとっては気休めのカンフル剤…

瘴気によって蝕まれる矢口の命の灯は あと何ヶ月…いや、何日持つかも分からない…

それは 逃れる事が出来ない矢口真里と中沢裕子の運命でもあった…


279デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:06 ID:yC1pLTfF
【 BATTLE AFTER 】第四十話

保田の体はボロボロだった…

エネルギーのほとんどを使い果たし、飯田の念攻撃に変身も出来なくなっていた。

体を治す為に辛うじて辿り着いた所…

そこはマシリトの研究室が有った洋館だった…


深夜の洋館を月光が照らす…

照らしたのは洋館だけではなかった…

「…誰だ?」

ひっそりと佇む人影…

それは中沢裕子だった…
280デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:09 ID:yC1pLTfF

ポツリと中沢は呟く。
「ここで待てばアンタが来ると思ってね…」

保田の目は漏れる中沢の瘴気を捉えた。
「どうやら、仲間にするお誘いではないようだね」

答えない中沢の体から念の瘴気が立ち上る。

バイクを降りる保田の手首が落ちる。

伏目がちな中沢の瞳が静かに保田を見据えた。
「お前は おおよそ人を殺すとき何を思う」

「…別に…」

「以前の仲間を殺すとき何を思う」

「…何も…」

「私もそやったわ」

「…」

「でもな、今は違うねん…」
281デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:11 ID:yC1pLTfF

中沢に向けた保田の手首が光りだす。
保田の最後のエネルギー『保田砲』だった。

「!!」

中沢は発射されたソレを辛うじてかわす。
『保田砲』は洋館に当たり、屋敷はメラメラと燃え始めた。

「それで なっち を殺したんか?」

「…そうか…私が殺したのは かおり では無く なっち だったか…」

「何も思わんのか?」

「思わない…」

「そっか……保田圭…今は何の ためらいも無くお前を殺せる」

中沢の手からブワッと瘴気が溢れる…
手を握るとソレは鞭の形に変化した。

282デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:12 ID:yC1pLTfF

ーービュンーー

鞭は蛇のように這い保田の体に巻きつく。
「…!!…」
保田の体からプスプスと煙が上がる。
暗黒瘴気で出来た鞭は全てを腐食させるのだ。
保田は何の抵抗もせず、為すがままだった。

「最後に何か言う事はないか?」

「…無い…」

「そうか…」

巻き付いていた鞭がマントのように広がり保田を覆う。

抵抗も無く崩れ落ちる保田…

無言の中沢の手にスルスルと瘴気が戻った。
283デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:16 ID:yC1pLTfF

残ったのは保田の残骸だった…

カチカチと光っている残骸の部分が有った…保田の機械の目だ。

その光る保田の目もスーと光を失う…

もう…

もう、生きていても意味が無い…

人の心を失った今の保田の全てはマシリトが造った仮面を破壊する事だった…

その目的を達成すると何も残っていなかった…

目的を失った保田は自ら死を選んだのだ…


焼け崩れる洋館が保田に向かって倒れる…

メラメラと燃える炎は全てを焼き尽くした…


284デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/02 04:23 ID:yC1pLTfF
今回で 安倍なつみ篇は終わりです。
うpするのに1時間ぐらいかかった…
もう寝ます…

次回更新も未定って事で…                    では。
285矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/09/02 07:26 ID:O/6chfqp
なっち・・・・・・・・
ウワ━━━━━━(T∀T)━━━━━━ン !!!!!!

それはともかく更新乙です中沢が(・∀・)イイ!!
286名無し募集中。。。:02/09/02 12:19 ID:NgFbSutA
なっちが・・・
287kkk:02/09/02 16:09 ID:WoBAOlqs
なっち、、、、
288ソネリオン:02/09/02 19:04 ID:XyTYcqxV
何気に、前シリーズのバトルロワイアルが伏線なのではと思いした。
仲間が次々と逝き、最後に残るのは、一体誰だ? 
本当は、もう誰も死んで欲しく無いです。(T_T)
作者さん、せめて矢口だけでも助けてあげて下さい。m(_ _)m
289んななしぃ:02/09/02 19:48 ID:xsDi1lGU
うーん・・・悲しいな・・・それ以上の言葉が出ない
>>288さんに同意。ちょっとショッキングすぎかも
290ののの虜 ◆nono2P.. :02/09/02 23:01 ID:B63AAxtu
oノノハヽo
从 TDT)<感動しました。更新乙です・・・
291某作者:02/09/02 23:01 ID:X5Q4U3eZ
なっちと矢口だけ特殊能力が無かったので、いつかはこうなると思ってました。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
翌日…

安倍なつみ は22回目の誕生日を迎える…
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

↑この表現で、何か嫌な予感はしていたんですけど…
まさか炭化なっちとは…

でも、続きを楽しみにしてます。
292名無し募集中。。。:02/09/02 23:15 ID:x6ZNJdf3
ガーン!!!ここまできて、なっちが・・・。
今まで読んできた中で一番ショック!
ホント矢口だけでも助けてあげられません?
293名無し募集中。。。:02/09/03 00:19 ID:9c2kDQU/
早く大雪山から渋川剛気を呼べ!
矢口のチャクラを開かせろ!

すみません取り乱しますた・・・
294名無し:02/09/03 14:10 ID:cKJS40IN
安倍に身代わりになられた飯田も辛いやね。
一体誰に喪失感をぶつければいいのやら。
295名無し募集中。。。 :02/09/03 14:47 ID:OULINit7
>>294
敵は一応全部全滅したことになるのかな?
296デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/03 15:22 ID:/JR5U8Ru
うわっ…レスがこんなに付いてる…
え〜と、行き当たりばったりで書いていた俺ですが
実は藤本篇を書き始めた辺りから今回を含めラストまで
俺の脳内では話が出来上がっています。
本当は話したいんですが話すとネタバレになってしまうので…
ただ、書こうと思っていたラストが変わりました。
それは、飯田と保田の決闘でエンディングを向えるという話です。
一昼夜永延と殴りあう話で、最後はどちらかが死にます。
しかし、誰が死んだとは書かずに謎のままエンドにしたいと思ってましたが、
人の心を失った保田が勝つ(たとえ、どちらが勝ったとは書かなくても…)
エンディングは有り得ないなと…
そう思い直し、今回保田には死んで頂ますた。でも、本当の意味でのエンディングは固まってます。
ソレを書くために(もう少し話は有りますが…)頑張ってます。
皆様には あと少し(少しじゃないかも)お付き合いして頂いたら幸いです。     かしこ。
 
297名無し募集中。。。:02/09/03 19:15 ID:ohte2Cri
頑張ってください!
298どら ◆heikebT6 :02/09/04 07:18 ID:F0qn+hui
みっちゃんいい子なのにね( `◇´)
299名無し募集中。。。 :02/09/04 20:35 ID:8DTpePS/
>>295
いや、まだ松浦と石川が残っている。
300グラハムボネット:02/09/04 23:43 ID:GXz8soVx
申し訳ありませんが300をいただきます。
301名無し募集中。。。:02/09/05 01:55 ID:QZUFUpJT
>>299
松浦、石川は中澤との戦いだろうな・・・きっと
302名無し募集中。。。:02/09/06 06:42 ID:CgZ3LREc
303ソネリオン:02/09/06 11:43 ID:wUdaVtTw
確かにここでの、石川と松浦は凄げぇワガママそうだし、殺し自体を楽しんでるから、中澤の命令も聞かないだろうな。
へたすりゃ、中澤・平家を倒してパンサークローを、乗っ取るつもりかも?

まぁ〜、多分あの二人は何かやるだろうね。
304名無し募集中。。。:02/09/06 21:06 ID:veCuQMhD
>>301 >>303
そういうことを言っていると、作者さんが書きづらいだろうに・・・。
305名無し募集中。。。:02/09/07 22:35 ID:zKx2L+E1
保全するべさ
306名無し募集中。。。:02/09/09 04:06 ID:Zw1d1GKx
307デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:44 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四一話

 矢口が目を覚ましたのは翌日のお昼になってからだった。
自室のベットの上でボンヤリと瞼が開くと加護が心配そうに見詰めていた。

「加護…」
「よかった〜!起きた〜!」

加護はバタバタと紺野を呼びに行く。

矢口の瞳から涙が一筋落ちる…

夢を見ていたのだ。


階段を上って来る足音が聞こえて矢口は慌てて涙を拭う。

「良かった〜、心配しました」
「高橋は…?」
「飯田さんと辻さんの病院です」
「そうか…」

加護は手拭いを絞って矢口の額に乗せる。

「ちゃんと休めって…中沢さんが言ってたよ」
「裕ちゃんが…?」
「そうです…あの…」
紺野は何か言い辛そうだ。
 


308デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:45 ID:Gu6WFjen

「体調はどうです?」
「体調?」
「ええ」
「なんともないけど…」
「そうですか…取り合えず一安心です」
「取り合えず…って、どゆ事?」
「あ、いや…」
「…?…」

矢口は中沢の店での出来事を思い出そうとする。
しかし、ぼんやりと霞がかかったように思い出せない。
でも、分かった事がある…

「…なかざ…裕ちゃんには悪い事したな…」
「えっ?」

「あ〜…私の勘違いみたいだったよ…」

中沢の血の為せる業か、矢口には中沢の想いが分かった。

夢を見たのだ…

安倍と、中沢と矢口…飯田……   そして保田…

楽しかった時の  思い出…

それが中沢の想いとシンクロした。
309デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:46 ID:Gu6WFjen

「う…ぅぅ ぅ う…」
矢口の瞳から大粒の涙がポロポロと零れる。
「ご、ごめんね…なっち   うぇぇぇ  ん」

声を出して泣きじゃくる矢口に加護と紺野も貰い泣きする。


「や、矢口さん…明日 渋川さんが来ます…」

「…遅いよ、あの爺…」
勿論、安倍に線香を上げに来るのだが
矢口は渋川が自分を診に来るとは思っていない…

加護と紺野は祈る思いで矢口を見詰めた…


310デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:47 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四二話

「お疲れ様でしたー!」
ペコリとお辞儀をして音楽番組の録画を終える石川と松浦。

「いや〜、新しい事務所は天国だね」
「本当だね〜、私達の思い通りだし」

キャッキャと笑いあう2人は新しい人生を謳歌していた。

『パンサークロー』は解散、そして、中沢音楽事務所も同時に解散した。
解散理由は告げられなかったが2人には関係無かった。
中沢の束縛から抜けられるだけで充分だったのだ。

大手のプロダクションに自分達から売り込み強引に割り入った。
プロダクション社長の号令で2人は破格の扱いを受け、
売り込む為の様々なキャンペーンを張られた。

社長だけが知っている2人の秘密…

誰かに話せば自分は確実に死ぬ。
社長は2人に脅された…
しかし、裏を返せば…2人を手なずければ…芸能界で怖い物が無くなる。
社長もしたたかな人間だった。
311デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:48 ID:Gu6WFjen

面白くないのが事務所のベテラン…
大御所と言われている大物歌手達だった。
テレビに映る石川と松浦は清純そのもの…
非の打ち所の無いアイドル…
しかし、裏の顔は傍若無人の我がまま娘だった。
挨拶はしない、それどころか廊下で出会っても道さえ空けない。
しまいには「〜ちゃん」扱いだった。

一人の大御所がキレた。
事務所に居た2人を見つけて部屋に呼びつけた。
「うざい、ババアだね」
石川は人差し指と中指をクルクル回すと何故か一本の五寸釘が指に挟まっている。
「な、なにそれ?」
ドン!とテーブルに手の甲を打ちつけられた。
叫び声を出させないように松浦が喉に指をギリギリと食い込ませる。
「死にたいの?」
刺すような氷の視線に大物は怯え失禁する。
「汚いね〜…アンタ明日引退しなよ…」
「社長には言っとくわ」
石川と松浦には怖い物はなかった…

312デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:49 ID:Gu6WFjen

その2人を狙う殺し屋が居た。
芸能界の魑魅魍魎…
ある大物歌手が雇った「黒犬」の異名を持つ念の使い手だった。
石川の高級マンションを見上げる目は狂犬そのものだ。
「こんな所に住みやがって餓鬼が…」
吐き棄てる唇が歪む。
どんな事をしてもいいから殺す…
条件はなかった。
契約は3億、こんな美味しい仕事は無かった。

その黒犬の背中に戦慄が走る。
知らぬ間に殺意の気配…後ろに人が立っていたからだ。
一気に後ろに跳んで対峙する。
「てめえ 何者だ?」
警察手帳を見せながらマンションを見上げる吉澤ひとみ。
「サツ?」

「私の獲物だ…」
「獲物?」

「アンタ 念が使えるようだが…」

「キサマ…本当に警察か?」

吉澤の瞳に何を見たのか黒犬はニヤリと笑う。

313デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:50 ID:Gu6WFjen

「ククク…その目…俺と同じ匂いがするぜ」

ギラリと見せる歯は全て犬歯だった。

「俺と同じ殺人狂の匂いがな!」

バッと飛び掛る黒犬。

「その肉!食い千切ってやるぜ!」

ピンと一瞬だけ光る。

着地した黒犬の首がズルリと落ちた。

パチリと鞘に刀を納める音だけが闇夜に鳴る。


無言のままひっそりと闇に溶ける吉澤…


飢える狼の如く、吉澤の瞳は何かに乾いていた…



314デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:51 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四三話

翌日に渋川剛気が来た。
矢口に対しての念治療を終えると紺野を手招きして部屋の外に連れ出す。
矢口は静かな寝息を立てていた。

「どうなんです?」
「……」

渋川は首を振る。

「紺野よ…」
「はい」
「わしの念も気休めにしかならん…」
「どういう事です?」
「持って、あと3ヶ月じゃ」

「そんな…」

紺野は絶句する。

「矢口が侵された瘴気はソレを造った奴でも完全に浄化する事はできん」
315デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:52 ID:Gu6WFjen

「ね、念法を憶えれば…」
渋川は静かに、諭すように紺野を見据える。
「無駄じゃ…3ヶ月で念を身につける程の体力は矢口には残っておらん」
「……」
「残された時間を大事にするんじゃ…」

「わ、私は  諦めません 」
紺野の声は震えていた。

「ふむ、それもよかろう」

渋川はチラリと時計を見た。

「紺野よ、後藤と吉澤とは連絡が取れるのか?」
「取れますけど…何故です?」
「飯田の事じゃ…」
「飯田さんの事?」
「…ふむ」
316デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:53 ID:Gu6WFjen

渋川は此処に来る前に飯田と辻の入院している病院を見舞った。

渋川の顔を見た飯田は薄く笑った。

その瞳からは大粒の涙がポロポロと零れる。

飯田の手をそっと取ると、強く握り返してきた。

握った渋川の手に額をつけて飯田は声を出して泣いた。

渋川は飯田の手を握って気付く…

飯田は念を喪失していた…

渋川は泣きじゃくる飯田に声を掛けることも出来ず、そっと病院を後にしたのだ。

317デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:54 ID:Gu6WFjen

矢口の部屋に戻ると矢口は目を覚ました。

「どうじゃ 矢口?」
「うん、だいぶ楽になったよ、アリガトお爺ちゃん」
「そうか…」

矢口は今朝までは何とも無かった。
しかし、朝食を取って少しすると吐き気がしてきて布団に入ったのだ。

矢口は瘴気のせいだとは気付いていない、色んな出来事の気疲れだと思い込んでいた。

「矢口よ…」
「なに?」
「飯田の心の傷はワシでは癒す事ができん」
「……」
「おぬしを中心に皆で支えてやるんじゃ…よいな」
「…うん」

渋川の心に虚無感が広がる…

「お爺ちゃん」
「なんじゃ?」

「ありがとう…」

渋川は言葉が無かった…
318デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:56 ID:Gu6WFjen

店を出る渋川を紺野が見送り、一緒に歩く。

「紺野よ…」
「はい?」
「ワシには何もできんかった…」
「…」
「すまんのう」
「…」

「先程、矢口には飯田を支えるように言ったが、おぬしが中心になって支えてくれ」
「…私が?…」
「そうじゃ…」
「何故…?」
「負担をかける事はできん…矢口には心に張りが出来ればと思って言ったことじゃ」
「…」
319デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:57 ID:Gu6WFjen

渋川は空を仰いだ。

「ワシにはこんな事しか、想い浮かばなんだ…」
「…」
「皆をサポートしてやってくれい」
「…はい」


一人の影が待ち構えるように立っていた。
「うん?」
吉澤はペコリと渋川に頭を下げる。

「紺野よ…」
「はい」
「もう、よい…帰りなさい」
「…?」
「此処からは、おぬしの突っ込む話しでは無いのでな…」
320デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:58 ID:Gu6WFjen

此方を気にしながら帰る紺野の後姿を見送り、渋川は吉澤に向き直る。

「後藤はどうしたんじゃ?」
「…今は別行動をしています」
「ふむ…」

吉澤と後藤は石川組と中沢組を監視する為に別行動をしていたのだ。


夕暮れの迫る海岸線を眺めながら渋川は砂浜にドカリと座った。

「おぬし…変わったか?」
「……」

無言の吉澤…
しかし、渋川には分かった。
吉澤から立ち上る微かな狂気の色を…

「おぬしからは血の匂いがする…」

「…殺人許可証が有ります」

「刀を見せてみい」

「…」
321デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 21:59 ID:Gu6WFjen

吉澤は自分の日本刀を渋川に渡す。

「…妖気じゃな…おぬしの刀は血を吸い過ぎておる」

「…処分してもらっても構いません」

「ふむ…」

渋川は刀身をパチリと鞘に収め吉澤に手渡した。

「おぬし、気付いておるんだろう…」

「……」

「自身の心の闇じゃ…」

「……」

「そして、迷っておるのじゃろう」

「…はい」

「じゃが、ワシにはどうする事もできん」

「どうしてです?」

322デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:00 ID:Gu6WFjen

「ワシは今日で現役を引退した…」

「引退…」

「そうじゃ…それに、ワシに頼っても仕方あるまい…
おぬしの心の闇は おぬし自身でしか解決できんわ」

渋川は立ち上がり砂をパンパンと払う。

「ワシは武に長けてはいても、人を救う事が出来ない事を今日 改めて知った…
吉澤よ、おぬしを含めての事じゃ…」

「……」

「飯田が念を喪失したんじゃ…」

「飯田さんが?」

「その事を おぬしと後藤に託そうと思ったんじゃが…」

渋川は寂しそうだった。

323デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:01 ID:Gu6WFjen

「迷ってる おぬし には無理な話しじゃ…」

拳を握り項垂れる吉澤…

震える拳からは自身の血が滲みポタリと落ちた…

それを静かに見詰める渋川が踵を返す…

夕日を浴びながら消える渋川の背中は小さく見えた…


324デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:03 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四四話

吉澤は後藤と連絡も取らずに繁華街をさ迷う。
吉澤は乾いていた。
しかし、酒を飲んでも酔わない。

ーーーこの心の渇きを癒す物は有るのか?ーーー

答えは解かっている…

フラフラと歩く吉澤の肩がヤクザ者の肩に触れた。

「なんじゃ!こら…」

言い終わらずに男の首が落ちた。

雑踏の中、通行人の悲鳴が響く。

瞬速の抜刀…念で消える日本刀…目撃者は居ない…
325デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:04 ID:Gu6WFjen

フラフラと歩く吉澤の唇が歪んだ…

吉澤は魔に魅入られた…

最初の、あの島で保田を殺したように…

それは、禁断の麻薬だった…

人の命を奪う快感…

人生を奪う快感…

フラッシュバックのように殺人への快感に自分が埋もれていくのが分かった…

326デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:04 ID:Gu6WFjen

ズキリと肩口が痛む…

ふざけて後藤と一緒に入れた唇型のタトゥが疼いたのだ…

吉澤の顔が苦痛で歪む…

膝を突き道の真ん中で嘔吐する…

「う ぅぅ ぅ うぅ…」

嗚咽する吉澤は、生き返り 最初に見た後藤の笑顔を思い出した…


「大丈夫かい?」

下心丸出しの茶髪の男が声をかけ、吉澤を抱き起こす。

無言で男を払いのけて吉澤は雑踏に消える…

吉澤を追いかけようとした男の体が二つに裂けた…


その日から後藤は吉澤と連絡が取れなくなった…

327デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:06 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四五話

『バーパンサークロー』に紺野と高橋、加護が訪れたのは
安倍が死んで3週間も過ぎた頃だった。

バサリと新聞を広げてタバコをふかす中沢。

「みっちゃん、大変やでぇ…ここんところ連日や」
「なんの話し?」
「通り魔や…」
「…ああ、首を刎ねる例のヤツね…」
「私が居たらねぇ…返り討ちなんやけどなぁ」
「ハハハ…そりゃそうだ」

そこに紺野と高橋、加護がペコリと頭を下げて入ってきた。

「おまえ等…」
「どないした?」

「中沢さんに お願いが有って来ました」

「お願い?」

顔を見合わせる中沢と平家。
入り口で立ち尽くす3人に中沢は手招きする。

「そんな所に突っ立ってないで、こっちにおいで」

「はい…お邪魔します…」


328デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:07 ID:Gu6WFjen

矢口は その後、普通の生活に戻った。
安倍の事は今でも引きずってはいるが、持ち前の明るさで沈む皆を奮い立たせた。
飯田と辻も退院して、何とか落ち着いたが
飯田だけは一日中 部屋に引き篭もる生活をしていた。
矢口は飯田は もう少し そっとしておいた方が良いと思って
腫れ物を触るように接触していた。
そして、店はまだ再開してはいないが、そろそろ…と思い始めているようだった。

その矢口が この頃 自然と漏らす言葉が有った…

「裕ちゃん どうしてるかなぁ…」

その言葉を何度と無く聞く紺野達は 居た堪れなくなって中沢に相談しに来たのだった。

「矢口がそんな事を…」

中沢は言葉が無かった。

「はい、ですので 一回 会いに来て頂けないかと…」

加護は唇を尖らして泣きそうだ。
「矢口さんは…あと、2ヶ月ぐらいしか…」

「えっ?」
中沢の顔からスーと色が抜ける。
329デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:08 ID:Gu6WFjen

「念法の達人に診て貰いました…」

「そうか…この事は 誰が知ってるの?」

「知っているのは私達だけです…」

「そう…」

「お願いします」

紺野と高橋、加護は頭を下げる。

「す、少し…考えさせてや…」

紺野と高橋、加護が店を出てからも、中沢は その場を動く事が出来なかった。


「みっちゃん…ちょっと 一人になってくるわ…」

そう言うと中沢はフラフラと店を出た…
「……」
黙って見送る平家には 中沢の答えは判っていた。

330デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:09 ID:Gu6WFjen

中沢が店に戻ったのは それから3時間後…
開店の一時間前だった。

中沢は大きな鞄を抱えていた。
そして、何かを決意した表情だった。

「みっちゃん…暫らく みっちゃんに店 任せていいかな?」

平家は微笑みながら頷く。

「嫌われてもええねん…最後まで傍に居たいんよ…」

「…うん」

「残り、2ヶ月ちょっと…悔いは残したく無いねん」

「…うん 店の事は任しとき…」

「アリガト」

「裕ちゃん…私も たまに遊びに行くよ」

「うん、来てや、約束やでぇ」

いそいそと店を出る中沢を見送る平家は こころなしか寂しそうだった…
331デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:10 ID:Gu6WFjen
【 BATTLE AFTER 】第四六話

「おぉ!矢口ぃ 元気かぁ?」
中沢は泣きそうなのを堪えて業と陽気に振舞ってみせた。

いきなり『レストランプチモーニング』に入ってきた中沢に矢口は驚く。
「ゆ、裕ちゃん…」
矢口は一瞬 笑顔を見せかけたが こちらも業と ぶっきらぼうに答える。
「何しにきたのよ?」

「ハハハ、寂しいかなぁと思ってな…」
「ハァ?」
「ほら、どいてどいて!なっちに線香あげなきゃ」


小さな仏壇に手を合わせる中沢は後ろに居る矢口にそっと伝える。

「なっち の仇は取ったよ…」
「…えっ?」
「保田を殺した…」
「……」
「あいつ…人の心を無くしてたよ」
「…」
「私は…取り戻したのに…」

「…そう…」

矢口は静かに答えただけだった…


332デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:11 ID:Gu6WFjen

「裕ちゃん、その荷物なに?」
中沢の でかいバックを見て矢口が怪訝そうに言う。
「ん〜、何だろうねぇ?」

そこに辻と加護が入ってきた。
辻は加護の「天然ボケのケア」で心の傷は治りかけていた。

「あ〜!!」

驚く2人に中沢はニンマリと笑いかける。

「お〜!元気やったか?」
「なんで〜?」
「ハハハ、いやな…」
中沢はポリポリと鼻を掻きながらチラリと矢口を見た。
「暫らく、ここで生活しようかなぁ な〜んて 思ってな…」

「え〜〜〜!!!」

矢口と辻、加護 同時に驚く。

「うっさい!もう、決めたの!  決めたから 来たの!!」

呆然とする3人に中沢はギロリと一瞥をくれた。

「文句ある?」

「い…いや…」

唖然としながらも矢口は少し嬉しそうだった。
333デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:12 ID:Gu6WFjen

二日後…
『レストランプチモーニング』は開店した。

「いらっしゃいませ〜!」

中沢の声が店内にこだまする。

「矢口〜!ランチ一丁!」

厨房にいる矢口はヘイヘイと慣れないフライパンを振る。


「もう、プチ じゃ無くなったな…」

飯田がカウンターでコーヒーをすすりながらポツリと呟く。

「なんやて?」

「い…いや なんでも…」

中沢が来て飯田も少し元気を取り戻した。
事情(中沢達が関係無い)が分かった飯田も頼れる人が欲しかったのだ。

中沢は すっかり皆に馴染んだ…

まるで 昔から そこに居たように…

ハハハと笑い合う声が店内に響いた…

334デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/09 22:16 ID:Gu6WFjen
今日は此処までです。
今回から「混沌(カオス)篇」に突入です。
次回更新も未定っちゅう事で                   では。
335モーニング無記名。:02/09/09 22:26 ID:Jp9Enakw
乙です。
吉澤…狂気の侍ですな…。
336ザックワイルド:02/09/09 22:33 ID:Zk45s/VQ
うぉー、よっすぃ〜は一体どうなってしまうんだ!!
次回激しく期待
337名無し募集中。。。:02/09/09 22:37 ID:Av0TYk+b
更新乙です。
混沌(カオス)篇ですか・・・、ほんとそんな感じですね。吉沢はどうなるんでしょう?
338kk:02/09/10 00:09 ID:UGSd/re7
ん〜おもろい。
大作ですね。
339レクイエム:02/09/10 19:09 ID:3Ebf+DIW
素晴らしいです。
340名無し募集中。。。:02/09/11 03:27 ID:F7vC4KL4
なんかとっても自分にとって嫌な展開が頭の中に浮かんできた・・・(; ´Д⊂
でも付いていくっす
341矢口LOVA ◆OtJW9BFA :02/09/11 17:13 ID:DYZyzUxC
更新乙です、まさか吉澤が・・・・・
342ののの虜 ◆nono2P.. :02/09/12 00:26 ID:jbR+3tQe
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙。なんかデッドオアアライブ さん冴えてきましたね。。。
343名無し募集中。。。:02/09/12 22:49 ID:+YAuwBqn
344モーニング無記名。:02/09/13 21:47 ID:nuJoz86p
13日のフライデー
保全。
345(0^〜^0):02/09/14 23:24 ID:CIJjvhEB
|^0)<どーなりますか。
346あふぉ:02/09/16 00:20 ID:uwaSt92I
ペロ〜ン・・・。
347名無し募集中。。。:02/09/17 01:27 ID:25001zAU
保全
348レクイエム:02/09/17 21:59 ID:oB+IkzaL
保全します。
349名無し募集中。。。:02/09/19 01:26 ID:AQIAbmpn
ほぜん
350デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/20 00:41 ID:Kta/nP2r
皆様、保全ありがとうございます。
チョコチョコと書いてますが、更新できるほどの量になってません。
もうちょっと待って下さい。                スマソ…
351名無し募集中。。。:02/09/20 12:34 ID:JyDre0FB
了解保全
352名無し募集中。。。:02/09/21 23:12 ID:7DGNHbES
保全
353デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:19 ID:SpoJZqWk
【 BATTLE AFTER 】第四七話

ごっちん…今、何してるの?…

ごっちん…会いたいです…

でも…もう…会えません…

今日も また一人、殺してしまいました…

もう 何人殺したのかさえ憶えてません…

自分が何者なのかも解からなくなってきました…

たぶん…自分も いつかは こんな死に方をするのでしょう…


でも その前に  もう一度   ごっちん に   会いたい   です…


ぼんやりと考えていると遠い所に後藤の影が見えた。

後藤は吉澤に気付きニッコリと笑った。

「ごっちん!」

吉澤は立ち上がり後藤に向って駆け寄ろうとする。
354デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:21 ID:SpoJZqWk

「あ…あれ?」

吉澤は足がもつれて走る事が出来ない。

「ちょ…ちょっと待って」

後藤は笑いながら遠くに消えていく。

「ごっちん!待ってよ!」

吉澤は自分の足を見ると何故か泥の沼に嵌まっていた。

ーー ゴポ ーー

「…?…」

泥沼から何かが浮き上がってくる。

ーー ゴポ ーー ゴポ ーー ゴポ ーー

何体も浮き上がるソレは…人の首…

「…!!…」
355デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:22 ID:SpoJZqWk

吉澤は目を伏せたままボンヤリと気付く…
…夢…
吉澤は朝靄の中、公園のベンチに項垂れて座っていた。

冷たい汗をビッショリと掻いていた…
もう何日も寝てないような気がする。

パタパタと此方に近付く足音に気付き、ふと目をやると子犬と散歩中の
中学生くらいの女の子が吉澤の前を通り …  過ぎなかった。
「…?…」
女の子は吉澤の前で立ち止まり、怯えたように目を見張っている。
子犬がキャンキャンと吠えた。

「ああ…コレか…」

吉澤は自分の隣りに置いてある物を虚ろ気に見る。
それは、ゴロリと転がりベンチから落ちた。

「きゃ…!!…」

生首を見て叫ぼうとした少女は、それ以上叫ぶ事が出来なかった。

ーーヒュンーー キラリと光る…


ユラリと立ち上がりソコを離れる吉澤の代わりに少女の首が落ちた…


356デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:24 ID:SpoJZqWk
【 BATTLE AFTER 】第四八話

ーー警視庁ーー

庁内の奥に極一部の人間しか知らない部屋がある。

ーー特殊課ーー

何も書かれていないドアの奥には10畳程の部屋にデスクが一つ、
他にはソファーが置いてあるだけだ。
壁には最新式のプラズマモニターが掛けてあった。

何ヶ月ぶりかで呼び出された後藤はソファーにドカリと座った。
待っているのは宇津井という名の渋い初老の課長が一人。
特殊課は10人程度の組織だが 横の繋がりは無い。
後藤と吉澤は課長以外の同僚の顔も名前も知らなかった。

目も合わさず宇津井は淡々と話す。
「吉澤はどうした?」
「別に…」
「連絡は取れてるのか?」
「取れてますよ」
後藤は平然と嘘をつく。
「此方では連絡が取れなくなってな…」
「そうっすか」

「それにな…」
そう言いながら宇津井はモニターのスイッチを入れた。
「君達に注入しているナノマシーンが 反応するレーダーに映らなくなった」
モニターには何箇所かに青いレーダー反応が点滅していた…たぶん、他の捜査員だろう。
357デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:24 ID:SpoJZqWk

ニンマリと笑う後藤。
そして、なるほど と納得する。
念の使い手達がレーダーに反応しない訳が分かったからだ。

「ふむ、何か有るようだが…まあ、それはいい 今日呼んだのは 別の件だからな」
「何の用?」
「お前達に任せていた例のテレビ局襲撃事件…」
「まだ何も掴んでませんよ」
「…それを他の奴に任せる事にした」
「…なっ!」

立ち上がろうとする後藤を手で制して宇津井は新聞を投げ渡した。
「お前も知ってはいるだろう」
後藤の顔が僅かに強張る。
「首を刎ねる通り魔だ…既に13人の犠牲者が出ている」
「…それを?」
「そうだ、お前達に任せる」
「今までは好きにさせてたのに何故?」

質問に答えず、宇津井はタバコに火を点けて深く吸い込む。

「犠牲者は最初の内は、まあ、俺が言うのも何だが…死んでも構わない連中だ…」
宇津井は一枚の写真を後藤に渡す。
「…それが、昨日の犠牲者…女子中学生だ」
写真を持つ後藤の手が震えた。
「今は完全に無差別に殺している…」
「……」
358デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:25 ID:SpoJZqWk

宇津井はタバコを揉み消し溜め息を一つついた。
「俺はな…犯人は吉…」
言い終わる前に後藤が胸ぐらを掴み喉に手をかける。
「下らない妄想はやめな…」

「も、妄想かね?」
「……」
「アイツは日本刀が武器だったな…」
「関係無いね!」

ドンとソファーに突き落とされ、ずれたネクタイを直しながら宇津井は更に続けた。

「本当は連絡なんか取れてないんだろう?…俺には確信に近い物を感じるのだが…
違うと思うなら犯人を捜すんだ」

「…言った その言葉…後悔するんじゃないよ」

「…勿論、犯人を殺すんだろうな?」

「…当たり前だ!」

後藤は部屋を出る前に振り向きざまに棄て台詞を吐く。

「取った首…アンタの前に持ってきてやるよ」

警視庁を後にする後藤の表情には悲壮感が漂っていた。

359デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:27 ID:SpoJZqWk
【 BATTLE AFTER 】第四九話

『バーパンサークロー』は何時もの賑わいをみせていた。
中沢の変わりにママを勤める平家は新しいバイトの娘とも上手くやっている。
「いらっしゃいめせ〜!」
バイトの娘の声が少し強張る。
入って来た客の成りが強面の其の筋っぽかったからだ。

カウンターに座る男に平家は肩を竦める。
「お客さん、どちらの組の方?うちではお断りしてるんだけどねぇ」
男は黙って懐に手を入れて在る物を取り出した。
「へぇ、珍しいねぇ」
それは警察手帳だった。
「公務員の給料で大丈夫なの?うちは結構高い方だよ」
「水割り…」
「へいへい…」

カラカラと回る水割りの氷を見詰めながら男は一枚の写真を差し出した。
それは襲撃事件の時の写真…アイマスクの平家だった。
「アンタに似てるな…」
「そう?」
「それに店の名前も一緒だしな」
「偶然じゃないの?」


360デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:28 ID:SpoJZqWk

「俺の名前は桜井と言う…」
「ふ〜ん、でも次に来た時は憶えてないかもよ」
意味深に微笑む平家はカクテルを作り出した。
桜井は一気に水割りを飲み干す。
「また来る…」
立ち上がろうとする桜井を平家が制する。
「これ…飲んでいってよ」
平家が差し出したのは真っ赤なカクテルだった。
「ブラッディレイン…私のオリジナルよ」
「なんの真似だ」
「お近付きの印し…」
「ふん…」

赤いカクテルを飲み干すとカツンとカウンターに置く。
「特殊警察官って知ってるか?」
「知らへんよ…貴方がそうなの?」
「殺人許可証が有る」
ニヤリと笑う桜井。
「じゃあ、お給料はいっぱい貰ってるんだ…」
「ふん…」
「でも、今日の分はツケにしといてあげる」

「お前の尻尾を掴むまで毎日来る…」
「そして、私を殺す気?」
「ふん、そう言う事だ…」
361デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:29 ID:SpoJZqWk

出て行く桜井を見詰める平家は独り言を呟く。
「明日は無いのに…」
そして、少し困った顔だ。
「もう、人は殺さないって決めたんやけどなぁ…」


平家のカクテル『ブラッディレイン』…
それは、念弾『サイコガン』を誘導する魔のカクテルだった。
何故なら、そのカクテルには平家の血が入っているから…



警視庁入り口でタバコに火を点けて一息吸う桜井刑事。
その桜井に念弾のシャワーが降り注いだ。
呆気に取られる職員達の目の前で桜井刑事は形の残さぬ肉塊になった…


362デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:30 ID:SpoJZqWk
【 BATTLE AFTER 】第五十話

後藤は吉澤の手掛かりを得る為に石川達に張り付いた。
それ以外の方法を思いつかなかった と言う方が正解かもしれない。

後藤は気付いた。
石川達に張り付くもう一つの存在を…
身のこなしからして、自分達の知らない特殊警察官…
黒いスーツを身に包んだ恐ろしく目の細い男だった。

「ふん、流石に仕事だけは早いね…」
独り言を呟き、男の念を探ってみる。
「やっぱりね…」
確かに腕は立つようだが、念の使い手では無かった。
「あれじゃ〜石川達に返り討ちにあうよ」
言葉に出して言って自嘲気味に笑う…
そうでもしないと、嫌な不安感に押し潰されそうになるからだ。

その不安は的中する…

深夜の路上に幽鬼のように歩く吉澤が男に近付いたからだ。

363デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:32 ID:SpoJZqWk

後藤は嫌な予感を振り払うかのように首をブンブンとふる…そして、思う…
 
         よっすぃ…

         よっすぃ…違うよね…

         よっすぃ じゃ無いよね…

吉澤は項垂れながら男とすれ違う…

         よっすぃ は 石川を監視してるだけだよね…

男が吉澤に何かを言おうと振り向く…その首が落ちた…

         あっ…!!…
     
         ハ‥ハハ…そ、そいつ が悪いんだよね…

         よっすぃは悪い奴を殺したんだよね…
364デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:33 ID:SpoJZqWk

ユラユラと歩く吉澤の肩が揺れるのが見えた…それは、笑っているようだった…

         ハハハ…悪い奴をやっつけたんだもん…


         よっすぃ は  偉いよ   …


         だって …     だって   …



         よっすぃ は 一人で  やっつけ   たん   だもの   …


365デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:34 ID:SpoJZqWk

吉澤の前にまるで夢遊病者のようにフラフラと建物の影から現れた一人の影…

後藤は笑顔のままで泣いていた。

「よっすぃ や、やったじゃん…わ、悪い奴を殺したんだよね」

後藤が吉澤に向って歩む歩数分、吉澤はさがる。

「あ あれ? な なんで泣いてるんだろう?」

後藤は自分の瞳からポロポロと涙が出てる事に初めて気付いた。

ゴシゴシと目を擦っても溢れる涙は止まらない…

「あれっ?  あれっ?   なんでだろう?」

無言の吉澤は項垂れて顔を上げようとしない。

「お  おかしいな…  なんでだろう?」

やがて、後藤は堰を切ったようにベソを掻いてウエーンと泣き出す。


366デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:35 ID:SpoJZqWk

ズキリと吉澤の唇型のタトゥが痛む。
ピシリと吉澤の心にヒビが入る。
目の前で泣きじゃくる後藤の顔が霞んで見えない。

「…ご ごっちん…」

喉がカラカラに渇いて声がかすれた。


「さ  探したんだよ   なんで連絡くれないのさ…」

後藤はヒックヒックとしゃくり上げながら近付く。

「動くな!!」

「なんでよ!」

「それ以上近付くな…」

「だから、なんでよ!」

「頼むから、近寄らないでよ…」

「いやぁ!探したんだもん!!」

駆け寄る後藤…
367デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:36 ID:SpoJZqWk

ーーーヒュンーーー…瞬速の抜刀…

後藤の左腕が肩口からズルリと落ちた…


吉澤と一緒に肩に入れたタトゥ…

その唇型は半分になった…



膝を突く後藤に吉澤が叫ぶ。

「念は込めてない!早く止血するんだ!   そして…」

吉澤の声が落ちる。

「もう…私の前に…」


「……」
後藤は項垂れたまま自分の髪を一本抜く。
そして、右手と口を使って器用に切断された肩口を縛り止血をする。
念を込めた髪に縛られた肩からは血が止まった。
後藤は一連の作業の間ずっと無言のままだった。

落ちた自分の左腕を拾おうとする後藤の表情は悲しかった。
368デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:37 ID:SpoJZqWk

その後藤の胸に吉澤の日本刀の鞘が飛んできて当たる。

よろける後藤の前をかすめる空から落ちる数十本の五寸釘。

後藤の左腕はドスドスと突き刺さる五寸釘と共にコンクリートの地面にめり込んだ。


「いや〜〜面白い物 見せてもらったよ アンタ達そんな関係だったの?」

パチパチと手を叩きながらマンションから出てきたのは石川だった。

「久しぶり〜、って生きてたんだね♪」

無言の後藤と吉澤。

「なんか、この頃 着けられてたと思ったらアンタ達だったのね〜♪」

石川はニコリと笑ってみせる。

「ごっちん、コンクリに突き刺さった腕は もう抜けないよ〜 残念だったね〜♪」

「…いらないよ…」

後藤はそっと呟き、踵を返す。

「あらら…帰るの?」

振り向きもせず闇に消える後藤の背中は寂しかった。
369デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:38 ID:SpoJZqWk

「さてと、よっすぃ アンタはどうすんの?」

石川が振り向くと吉澤の体から歪んだオーラが立ち上っていた。

「やる気マンマンのようね♥」

石川の手には大量の五寸釘が握られていた。

「じゃあ、再開を祝してコレをプレゼントするわ♪」

空中に放り投げるソレは『モーニングシャワー』。
五寸釘の雨は吉澤の頭上に降り注ぐ。
吉澤は避けもせず五寸釘の雨を浴びる。
釘はドスドスと音を立ててコンクリートの地面に突き刺さった。
しかし、無言の吉澤は無傷…
ヒッソリと佇む吉澤は釘の洗礼を紙一重で避けたのだ。

「…なっ!」
石川の表情が驚きのソレに変わる。
「どうやって避けたの?」

吉澤は それには答えず、静かに一歩を踏み込む。

「でも、私には まだ手があるもんね♪」

ニコッと笑う石川は大きく息を吸い、そして叫んだ。
370デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:39 ID:SpoJZqWk

「キャ〜〜〜〜〜〜!!! 人殺し〜〜〜〜〜!!! 誰か来て〜〜〜〜〜〜〜♪」

深夜の路上に響く、石川の絶叫に吉澤は狼狽する。

「痴漢よ〜〜〜!!! 助けて〜〜〜〜〜〜♥」

「…くっ…」
吉澤は躊躇したが、踵を返して走り去った。


腕組みをして笑う石川は逃げる吉澤を見ながらマンションに消えた。


371デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:40 ID:SpoJZqWk
【 BATTLE AFTER 】第五一話

平家は中沢との約束通り、『レストランプチモーニング』の中沢に会いに行く。
「…ん?」
夕日のあたる路上で沈痛な面持ちの紺野が携帯を手に何か話している。
携帯を切った紺野は暫らく俯いていた。

平家は思い切って声を掛けてみる。
「よう、どないした?」
「あっ…」
「やけに深刻そうやん」
平家は矢口に何かあったのかと不安になる。
「や、矢口に何かあったんか?」
「…いえ、違います」
「じゃあ、なんや?」
「……」
紺野は話すか迷う…
「話してみぃ」
「…」
紺野は静かに頷いた。


携帯で後藤と話した紺野は何が何だか判らなくなっていた。
電話の向こうの後藤は すすり泣きをしていた。
自分の腕が無くなったから泣いているのでは無かった。
ただただ、悲しかったのだ。
高橋に相談するには荷が重過ぎる話だ…
途方に暮れた紺野は相談する人間が居なかったのだ。
372デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:42 ID:SpoJZqWk

「ふ〜ん…吉澤がなぁ…」
平家は腕を組んで考え込み、何かを思い出したようだ。
「なあ、紺野…」
「はい…」
「前に紗耶香から聞いたんやけどな…」
「…」
「あの島で吉澤は狂ってたらしいやん…」
「…はい」
「その時、オマエも居たんやろ?」
頷く紺野。
紺野の脳裏に吉澤に殺されかけた忌まわしい記憶が甦る。

「もどったんや…あの時に…」

平家は紺野の両肩に手を置き真剣な面持ちで話しかけた。

「この事は私に任しとき…絶対、誰にも言うんやないでぇ
ええか、これは 私と紺野 2人きりの秘密や…」
「でも…」
「誰にも心配かけさせたく無いやろ?」
「…どうするんです?」
「確かめる…」
「何をです?」
「吉澤をや」
「…吉澤さんを?」
頷く平家。
「狂ってたら…殺す…」
「…えっ…」
「私にしか出来へん…」
「で、でも…」
373デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:43 ID:SpoJZqWk

「吉澤を殺したら死体は私が始末する…それで吉澤は行方不明のままや」
「そ、そんな…」
「だから、誰にも話したらあかん」
「……」
「一生、話したらあかんねん…胸の奥底にずうっと仕舞っておくんや」
「…」

平家は紺野の頬をそっと撫でる。

「私は暗殺のプロや…心配すな」
平家は踵を返す。
「それにな…吉澤が狂ってなかったら殺さへんよ」

平家は振り向き笑ってみせた。
374デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:43 ID:SpoJZqWk

「……」
紺野は黙ってペコリと頭をさげる。
そして、小さくなっていく平家の後姿を見送りながら心の中で問いかけた。


平家さん…聞けなかった事があります…

何故、私達の為に そこまでしてくれるんですか?

そして…

平家さん…もし…

もし、貴女が死んだら…


…貴女が死んだら、私はどうすればいいんですか?


佇む紺野の小さな肩に 平家の暖かい手の温もりだけが残った…
 

375デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:47 ID:SpoJZqWk
お待たせしてスマソ
今日は此処までです。 次回更新も未定です。 コメント短くてスマソ。   では。
376レクイエム:02/09/21 23:48 ID:1Esrst5g
更新お疲れ様です。個人的には平家さんに死んで欲しくないです・・・
これからも頑張ってください!
377Mr.Moonlight:02/09/21 23:50 ID:WouD/uaw
初リアルタイムで見ました。更新乙です。
まだまだ先の読めない展開がいいですね。
平家vs吉澤のラジオコンビ(解消寸前…)対決に期待してます。
の〜んびり書いて下さい。
378デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/21 23:56 ID:SpoJZqWk
をを〜!リアルタイムで読んでくれる人達が!   感謝っす!
379名無し募集中。。。:02/09/22 23:45 ID:OsZCOhUV
保全
380 ◆heikebT6 :02/09/23 11:04 ID:mdheddgq
みっちゃんいい子だね( `◇´)
381ソネリオン:02/09/23 17:24 ID:9cUxfArn
そう言えば、吉澤の念能力って何なんだろう?
刀を念でコーティングして、色々切ったり、素早くなったりしてるから、強化系?
イマイチ、解らんな。

石川の具現化系は、すぐ解ったが...。
382名無し募集中。。。:02/09/24 00:05 ID:uEGC4BEo
( ^▽^)<バトルロワイアル大好き!
383名無し募集中。。。:02/09/25 02:06 ID:KBC9tZW/
保全だべさ
384名無し募集中。。。:02/09/26 00:32 ID:Px2geuBo
保全
385名無し募集中。。。:02/09/27 01:01 ID:QuCKUn1o
前スレにショートエピソードがあるので、そっちも行ってみては?
386名無し募集中。。。:02/09/27 02:47 ID:CIhupOkD
でっかいでっかい保全
387名無し募集中。。。:02/09/27 14:52 ID:dm+Zx5d1
保全
388名無し募集中。。。:02/09/27 21:12 ID:BwVZNWtA
hozen
389名無し募集中。。。:02/09/28 10:06 ID:GJkW7NTE
ネバーギブアップ保全
390名無し募集中。。。:02/09/28 21:16 ID:jyunygmz
保全
391名無し募集中。。。:02/09/29 02:56 ID:TiGE65DM
保全します
392名無し募集中。。。:02/09/29 12:03 ID:lnbHzf6T
保全だっちゃ
393名前入れてちょ?:02/09/29 22:06 ID:OMG0UZaK
600番台保全。
394名無し募集中。。。:02/09/29 23:15 ID:ayLYlG4p
保全
395セイヤ:02/09/30 00:00 ID:8psr63Q+
ここまでサガってると怖いな保全
396名無し募集中。。。:02/09/30 08:28 ID:M1OsFKTy
397デッドオアアライブ ◆ALIVE7Is :02/09/30 11:18 ID:6KlFCnWx
あと、5日ぐらい待ってて、スマソ自己保全。
398名無し募集中。。。:02/09/30 13:40 ID:uoo6MkQN
待ちます保全
399名無し募集中。。。:02/09/30 22:26 ID:K72d/mpT
更新期待保全
400ID:02/10/01 00:03 ID:400zNrrY
400もらいましたよ。
401名無し募集中。。。:02/10/01 06:44 ID:dz9vVIUR
保全
402名無し募集中。。。:02/10/02 06:16 ID:eWWUe8pc
ほぜ
403名無し募集中。。。 :02/10/02 23:54 ID:eUllCzC9
hozenn
404名無し募集中。。。:02/10/03 00:14 ID:cBCxN5pd
更新までもうちょっとかなホゼン
405名無し募集中。。。:02/10/03 22:56 ID:P3Voljls
デッドオアアライブさんがんがってね保全
406名無し募集中。。。:02/10/04 22:46 ID:0U78WxpQ
まだまだ保全実行中。
【 BATTLE AFTER 】第五二話

ーー棒テレビ局の『モーニングペアー』の楽屋ーー

コンコンとノックをする平家は返事が無いのも係わらずガチャリとドアを開ける。
「誰よ、勝手に…って  平家さん…」
少し驚いた表情の石川と松浦…それ以上に驚いたのは平家だった。
「なんやねん?これは…」
石川と松浦は四つん這いにした「キャイ〜ン」にドッカリと座り、
他のお笑いコンビに漫才をさせていた。
2人の前では「おさる」が灰皿を持って正座している。

「ハ‥ハハ‥よ、余興ですよ♪」
「そうそう、余興、余興♥」

「何の余興やねん」
平家は腰に手を置き呆れ果てる。
「あんた等、もう帰りな…この2人に付き合う事ないで」

バタバタと楽屋を出る石川&松浦ファミリーを尻目に平家は溜め息をつく。
「久しぶりに来てみたら…おまえ等ムチャクチャやなぁ」

「そんな事ないよ〜、ねぇ亜弥ちゃん♪」
「そうですよ〜♥」

「あのな〜…まあ、ええわ…文句言う為に来たんとちゃうし」
「じゃあ何です?」
「石川…おまえ 吉澤と会ったんやってな」
「…なんで知ってるんです?」
平家はニカッと笑う。
「色々と情報は入ってくんねん」
「…でも、追っ払いましたよ…大した事無かったし」
「吉澤が特殊警察官って事も知ってるか?」
「えっ、よっすぃが警察?」
石川と松浦は顔を見合わせる。
「芸能界で生きて行くには致命的な情報が警察から漏れるんちゃうか?」
「……」

「そこでや…」
「なんです?」
「また、私がマネージャー兼ボディガードしてやるわ」
「え〜〜〜!!!!」
2人は同時に仰け反る。
「心配すな、おまえ等の社長には話しつけとるわ」
「…で、でも…」
2人の目の前が真っ暗になる。

「…吉澤を殺すまでの間や」
「本当…?」
「ほんまや」
2人はホッと安堵の表情だ。

「でも、なんで よっすいを平家さんが…?」

「…こっちにも色々と有んねん」

「あっ…」
石川が思い出したように言う。
「ごっちん は…警察なの?」
平家は訳有り顔でニヤニヤ笑う。
「そうやでぇ」
「平家さん、勿論ごっちん も殺すんですよね」

「後藤か…殺したかったら勝手にやりな」
「……」
「片腕なんやろ…おまえ等でも勝てるやろ」
「…」

平家はドカリと座り、お茶をすすり、松浦に手を差し出す。
「出してや」
「な、なんです?」
「これからのスケジュールや」
「そ、それはマネージャーの仕事…」
「今、なったばかりやん、分かる訳無いやろ…」
「……」
石川と松浦は顔を見合わせガックリと肩を落とした。

【 BATTLE AFTER 】第五三話

病室の窓からボンヤリと外を眺める後藤…
毎日同じ夢ばかり見る…
そして、起きている時は一日中ボーと外を眺めていた。

病室へのノックの音がしても無反応だ。

「おはようございま〜す♪」
入ってきたのは松浦だった。

「おまえ…」
少し驚いた表情の後藤に松浦はニッコリと微笑む。
「探しましたよ…探偵費用に三百万掛かっちゃった」

「殺しに来たの…?」
後藤は静かに聞く。
「違いますよ」
松浦は首を左右に振る。
「梨華ちゃんは来づらいから…」
片腕の後藤を見る松浦はチョッピリ神妙だ。
「実は、知らせたい事があって来たんです」
「…何?」
「平家さんが私達のマネージャーになったんですよ」
「…で?」
「あの人は吉澤さんを殺すつもりですよ」
「……」
「携帯の番号教えて下さい」
「どうするつもり?」
「あの2人が殺し合いになったら教えてあげます」
「……」
「後藤さんならどうするのかなぁ?」
松浦は意地悪そうに笑う。
「興味が沸いたんです♪」
「…」

病院を後にする松浦を窓から眺めながら後藤は自分の携帯を握り締めた。

【 BATTLE AFTER 】第五四話

「さあ、次の収録に行くよ」
「へい…」
文句を言いながらも平家に着いて行く石川と松浦は
当たり前の様に新人の扱いだ。
今までのように自分たちの都合で遅刻したり収録を伸ばしたりは出来なくなっていた。

「あ、あのう平家さん…」
「何やねん」
妙に媚びる石川が可笑しかった。
「平家さんがマネージャーやってる事は中沢さんは知ってるの…?」
平家は意味有り気にニヤリと笑うだけだ。
「そないな事 聞いてどうするん?」
「い、いや…中沢さんはどうしてるのかなぁって思って…」
「アンタ等には関係あらへん」
平家にピシャリと言われて顔を見合わせる石川と松浦は
平家が怖くて言う事を聞いている訳ではなかった。
中沢の存在が2人の我がままを自制させていたのだ。
2人はあの島で中沢に殺された…
石川と松浦にとって中沢は恐怖…トラウマだったのだ。

「早く、よっすぃが見つかるといいですね」
「そうよ♪ねぇ梨華ちゃん 私達も協力しましょ」
「ハハ‥狙われてるのは おまえ等やで」
「あ〜、そうだったぁ♪」
「ハッピーすぎて忘れてたね♥」

その2人を見て溜め息をつく。
(ヌケヌケとよく言うわ…)
天井を仰ぐ平家は呆れるばかりだった。

夜は寝ずの番で石川のマンションを隣のビルの屋上から見張る。
松浦も平家に言われて石川のマンションに越して来た。
その石川の部屋の電気が消える。
もう、夜中の2時を回っていた…
「あいつ等 寝やがって…」
さすがの平家もアクビを抑えることは出来ない。
平家は収録の合間に仮眠を取る生活を続ける。

もう、このまま帰って寝ようかとも思う…
しかし、紺野と約束をした…
破る訳にはいかなかった。

ウトウトしかける平家の鼻がピクリと反応した。
はたして、  吉澤は来た…
平家はビルの手摺りにもたれて様子を窺う。
吉澤は石川のマンションを見上げただけで、静かにその場を離れる。
「どういう事なん…?」
ただ偶然にそこを通り過ぎた訳では無い筈なのにアッサリとしすぎている。
「石川が目的では無いんやな…」
平家は吉澤を尾行する事にした。


マンションのテラスから、吉澤の後を着ける平家を見ながら
松浦は携帯を手の平でクルクル回す。
「面白くなってきたね♪」
石川は松浦にウィンクしてみせた。


雑踏の歌舞伎町を歩く吉澤を尾行する平家。
あの日…吉澤が後藤の腕を斬り落とした日から、無差別殺人の事件は無くなった。
「確かめさせて貰うでぇ…お前の乾きを…」
吉澤はビルの間の細い路地に入る。
着ける平家も路地に入る。
そこには誰も居なかった。
「…ここか、お前のヤサは…」
人一人居ない細い路地にはマンホールが有る。
その蓋は僅かだが動かした形跡が有った…


マンホールの地下は何も見えない暗闇だった。
ドブの匂いに辟易しながらも気配を頼りに尾行するとボーとした光りが見えてきた。
「…これは?」
コンクリートの壁に囲まれた だだっ広い空間に無機質に光るランプと
寝袋とウイスキーの瓶やビールの缶が無造作に棄てられている…
その中央に吉澤がヒッソリと立ち尽くしていた。
「何しに来たかは聞かないんやな…」

吉澤は静かに平家を見据える。
「誰かに着けられていたのは解かっていた…」
「ほう…」
「知ってて此処に誘い込んだ…」
「…」
「だが、アンタとは思わなかった…」
「どう言う事や?」
「…アンタには 殺されるつもりは無い…」

平家は溜め息混じりに笑う。
「まるで、誰かに殺される事を望んでいるようやな…」
「…」
「だが、今 死んで貰うでぇ」
「…」
「お前の念には殺意しか感じられんわ」

平家は右手を吉澤に向ける。
人差し指から発射される念弾…
しかし、それは吉澤の日本刀で打ち落とされる。

「まあ、そんなところやな…」
平家は撥ね返される事は解かっているような口調で、後ろに下がった。
「取り合えず、一旦 消えるわ」
平家は闇に溶けて消えた。


入り組んだマンホール内は平家の念弾には有利だ。
身を隠しながら放たれる念弾はマンホール内を曲がり確実に吉澤を捕らえる。

「ぐあっ!」
何発放ったか分からなくなった頃、吉澤の悲鳴が聞こえた。
撃った平家も手ごたえを感じる。
間髪要れず、飛び出し吉澤の元に走る。
「うん?」
そこには吉澤は居なかった。
「まさか…側溝に落ちたんちゃうやろな…」
黒い汚水が流れる側溝はヘドロの川だ。
「こんな所、探されへんわ」
腰に手を当てて側溝を覗き込もうとした平家の目が見開く。

「なっ!」

ザブンと汚水の飛沫と共に吉澤が側溝から飛び出し必殺の居合いを平家の首めがけて繰り出す。

「腕一本くれてやるわ!」

吉澤は首を刎ねる筈だった剣を平家が突き出す左手に切り替えて本能的に振り払う。

スパンと斬れた手首から大量の血が噴出し吉澤に降りかかった。

フーフーと息をする吉澤はガクリと膝を突く。
平家の念弾は吉澤の左太腿を貫通していたのだ。

「やはり、当たってたんか…」

左手首を押さえる平家も膝が震えていた。

「き、今日は見逃したるわ」

棄て台詞を吐き平家はヨタヨタと闇に消えた。



勿論、平家は見逃す筈が無い。

遠く離れたマンホール内の壁にもたれて腰をついた。
「さすがに念の傷はキツイわ…」
服を切り裂いて傷口を縛り止血をしたが、吉澤の念はジワジワと平家の体を蝕む。
それは、吉澤についても同じな筈だ。
確実に今、仕留める…
吉澤は平家の血を浴びたのだ。

「アレ…使うか…」
独り言を呟き右手に念を集中する…
何時の間にか右手にはマグナムが握られていた。
「弾は…?」
2発しか入っていなかった。
「何時の間にそんなに使ったんやろ…忘れたわ…」

平家の命を削るマグナムの弾…

一生涯で5発しか使えない『命の弾』は必殺の最終技だった。

「しゃあない…約束やもんな…」

カチリと引き鉄を引く…

音も無く発射される命の弾は全ての壁を貫き確実に吉澤の命を奪う…

「もう…動けへんわ」

平家は紺野に連絡を取る為に携帯を取り出した。

【 BATTLE AFTER 】第五五話

平家が闇に消えた反対の方から足音が聞こえてきた。

--- コツ  コツ  コツ  ---

その足音は吉澤の背後で止まる…

吉澤は振り返る気にはなれなかった。
振り返れば…
日本刀を持つ右手が震えた。

「こ…殺して…」

吉澤は振り返らずに項垂れたまま後藤に向って呟く。



「出来ないよ…」
後藤が答えるのに数分の時間が掛かった。
「また 元のように…」
「もう、無理だよ……  だから  殺して   ください   …」
「…い  いやだ  …」
「…」


更に数分の沈黙の後、意を決した吉澤は日本刀を振りかざしながら振り返る。

「殺さなければ ごっちん!アンタを斬る!」

震える吉澤を見据える後藤は涙を零しながら微笑んでいた。

「…なんで…なんで こんな会話しなくちゃならないのかなぁ?」

「……」

「…なんで私と よっすぃ で 殺し合わなくちゃならないのかなぁ?」

「……」

後藤の笑みは悲壮感が漂う…

「なんでなのよ! 答えろ!   吉澤ぁああ!!」

答えられる筈も無く、吉澤の表情は苦渋に歪む。
その時……

--- ボン ---

妙な音と共に吉澤の胸が鮮血で染まった。

「!!よっすぃ!!」

それは背後の壁を貫き吉澤の心臓めがけて跳んできた平家のマグナムの念弾だった。

「わぁああ!!よっすぃ!!」
駆け寄る後藤の前に日本刀がニュッと突き出る。
「こ…殺して…」
「ぁぁああ」
「最後に…ごっちん の 手 で  …」

そっと日本刀を受け取る後藤の手にゴフッと吉澤の口から漏れる血がかかる。

「お願い… 殺して  くだ   さい  …」

「ぅぅ…ぁぁぁああああ!!!!」

後藤は震える右手で日本刀を振りかざした…



【 BATTLE AFTER 】第五六話

プルルル…

「こんな地下でも携帯は繋がるんやな…」
平家は妙に感心しながら紺野が出るのを待った。
5回目のコールで紺野は出た。
「お〜、紺野かぁ…向かえに来て欲しいんや…疲れたでぇ…」

その時…
「やっぱり 中沢さんは、この事を知らないんですね♪」
悪臭に鼻を押さえながら出てきたのは石川だった。
「石川…お前 着けてたんか?」
「まあねぇ」
足元を走り抜けるネズミに釘が突き刺さる。
「中沢さんベッタリの平家さんが紺野に連絡取ってるんだもん…ネッ♥」
「だったら何やねん」
平家は立ち上がる事も出来ず壁にもたれたままだ。
「邪魔なんですよ アナタが♪」
ニッコリ笑う石川の右手には十数本の五寸釘が握られていた。
「ほう、ウンコ垂れが偉いもんやな…」

ピクリと石川の額の血管が浮き出る。



「ハハ‥何か気に障る事でも言ったか?…ウンコ垂れちゃん♥」

見る間に石川の顔が怒りで真っ赤になる。

「ハハハ、おもろいな!ウンコ垂れは!」

「ウンコ垂れ言うな!!!」

怒りの形相で投げられる五寸釘は平家を貫く。

ドスドスと音を立てて平家に突き刺さる釘に石川はニッと歯を見せて笑う…

その顔は驚愕に変わった。

両手で顔面をブロックした平家の右手にはマグナムが握られていた。

「脳さえ…守れば…刺し違える事は…出来るんやでぇ」

ニュッと石川に向けて伸びるマグナム。

「じょ…冗談です♪」

「なんや冗談なん?…って阿呆か…」

引きつる笑顔の石川の心臓めがけて引き鉄を引く…
マグナムに残った最後の弾は石川の心臓を破壊した。

声も無くドサリと崩れる石川を尻目に平家は携帯に手を伸ばす。
携帯からはしきりに紺野の声が響いている。

「あ〜、ゴメンゴメン…紺野  さっきの話しは撤回や…
私…もう  死ぬわ  悪いが… 遺体を  取りに   来てや …
それから     裕ちゃ  ん   に…」

--- 心配するなって言っといてや ---

あかん…最後の方は声が出えへん…

遠ざかる意識の中で平家はボンヤリとそんな事を思った…

ダラリと伸びた平家の手から携帯が転がる…

その携帯からは、何時までも紺野の声が木霊した…


【 BATTLE AFTER 】第五七話

「気持ち悪いですね♪」
コンクリートの壁に囲まれた薄暗い吉澤のヤサに松浦の声が響く。

「……」
無言の後藤…
跪く後藤の胸には吉沢の首が抱き締められていた。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000027.jpg

「せっかく連絡したんだから お礼ぐらい言ってもいいんじゃない?」
「……」
「でも、アナタの命をお礼代わりに頂こうかなぁ♥」
「……」
松浦はニコリと微笑む。
「ショックで弱ってるみたいだしぃ♪」
「……」
「キモイ首抱いてるしぃ♪」
「……」
「今だったら楽勝できそうだしぃ♪」

「…いい加減に減らず口叩くのはやめな…ウザいよ」
ボソリと後藤が呟く。

「はぁ?」
後藤に向って歩み出そうとする松浦の足が止まる。


「ひっ!」
静かに顔を上げる後藤の顔を見た松浦の表情が笑顔のまま凍りついた。

「じょ…冗談ですよ」

後藤の氷の様な瞳からは血の涙が流れていた。

「き、今日はこのまま帰りますけど、つ、次は憶えていて下さい!」

ビビッて棄て台詞を吐く松浦は踵を返し足早にその場を後にした。


…よっすぃ…

私…どうやって生きていけばいいのかなぁ?

それとも、そっちに逝ってもいいのかなぁ?

ねぇ…私…死んでもいい?

答えて下さい…よっすぃ…


吉澤の首を抱き締める後藤は何時までもその場を動かなかった…


ども、お待たせして しぃましぇん…
一応今回で混沌篇はお仕舞いです。
次回からは最終章、矢口真里篇に突入致します。
相変わらず更新未定なので気長にお待ちくだされば幸いです。

そう言えば、石川って「バトロワ(映画)」が好きなんですね。
今回書いてて、もしも石川がコレを読んだら何て思うかなどど想像してみましたw

>>381さん、ソレに関してはこの小説が終わった時に「後書き」として書きたいと思ってます。

                                       では。
427ののの虜 ◆/Ynono2P.. :02/10/05 00:32 ID:hZTQk0jY
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙!
>>407の出だしで 某テレビ が 棒テレビ になってる…いきなり鬱だ…
うん?トリップが10桁になったってこの事か…
ののの虜 ◆/Ynono2P.. さんもチョット変わってるし…
新しいトリッパーはまだぁ?(いや、使わないけど…たぶん)
430モーニング無記名。:02/10/05 01:20 ID:6ROWxHwv
更新、乙。
いっぱい死んだ、欝。
431名無し募集中。。。:02/10/05 01:35 ID:qrNlGVGu
やっと、更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!
デッドオアアライブサン乙カレー
432レクイエム ◆8FREQU/2yA :02/10/05 09:33 ID:VAtOFFYm
更新お疲れ様です。
433ののの虜 ◆/Ynono2P.. :02/10/05 23:22 ID:F2hKVbUT
>>429
oノノハヽo
从 ´D`)<もうでてますよ。

http://isweb34.infoseek.co.jp/computer/tripsage/
434名無し募集中。。。:02/10/06 20:08 ID:IYUc/4Bs
hozen
>>433ありがとうございます、使わないとか言いつつ使いますた。
でもって、まだ一行も書いてない…今日あたりからボチボチ書こうかと思ってます。
436名無し募集中。。。:02/10/07 21:21 ID:jiqM9OFH
作者さんガンガレ保全
437名無し:02/10/09 23:06 ID:Z4m6qLKl
hozen
438名無し募集中。。。:02/10/10 23:04 ID:87C6pxiw
保全
439名無し:02/10/11 22:41 ID:H0kMpuem
hozen
【 BATTLE AFTER 】第五八話

「中沢さん!」
紺野が青い顔をして『レストランプチモーニング』に駆け込んできた。
「どないした?」
「あのですね…」
言いかけた紺野は 何事かと此方を向く矢口に気付き、それ以上の言葉を続けられなかった。
「いや、あの…」
紺野はチョンチョンと手招きして中沢を外に連れ出す。
「何?」
中沢は只事では無いと気付くが、矢口に心配をかけまいと業と面倒くさそうに着いて行く。

その中沢と紺野を見る矢口は少し寂しそうだった。

店に戻った中沢は平静を装いながらも、黙って閉店の準備をしだした。
「ちょ、ちょっと裕ちゃん…どうしたの?」
「ハハハ…ごめん矢口、今日は閉めよう」
「閉めるって…説明してよ」
「……」
「裕ちゃん!」

「ごめんな…後で説明するわ…」

中沢の声のトーンは落ち込んでいた…


「これは…」
紺野は平家と石川の死体を発見して言葉を失う。
中沢は死体を前に無言のままだ。

紺野は後藤に連絡を取り、喋らない後藤から なんとかマンホールの場所だけを聞きだした。
高橋と相談して、中沢だけには話さなくてはいけないとの結論に達して
中沢と一緒にマンホールに来たのだ。

「私が平家さんに話したから…」
顔を覆う紺野と呆然と立ち尽くす高橋。

「紺野、高橋…ガソリンと骨壷を買ってきてや…」
中沢は二人に背中を向けたまま命じる。
「えっ?」
「死体を担いで街には出れないだろう…」
「ここで…?」
「そうや…仕方ないやろ」
「でも…」
「いいから行くんや!」

紺野と高橋がその場を離れると、中沢は平家の死体へ近付きしゃがみ込む。

「みっちゃん…アンタはアホやな…」

そっと平家の頬に手を添えて撫でる。

「いっつも、人の為ばかりに働いて…吉澤の事なんか、ほっとけば良かったやん」

溜め息をつく中沢は優しく語りかける。

「でも…みっちゃんには、それが出来へんねんなぁ…」

「なあ、みっちゃん…?」

「アンタ幸せやったんかぁ?」

「ずうっと、人の為だけに生きて幸せやったんかぁ?」

平家の顔は微笑んでいるように見える。

「…そっか…」

微笑む中沢の瞳からは涙が落ちる。

「で、どないすんねん?」

「私はアンタに借りた貸しは、全然返してへんねんでぇ…」

「いっぱい いっぱい 借りたままや…」

「どないすればええねん…」

うずくまる中沢の背中は、いつまでも震えていた…

【 BATTLE AFTER 】第五九話

『モーニングペアーの石川リカ、マネージャーと失踪』
翌々日の新聞テレビ等は大々的に報じた。
松浦はレポーターの追跡を恐れ、自分のマンションに閉じこもったままだ。
しかし、真に恐れているのはマスコミ等ではなかった。
後藤にビビリ 逃げたのはいいが、途中で石川と平家の死体を見つけ動揺した。
夢中で逃げてマンションに戻り、それから一歩も外に出ていない。
真に恐れているのは『パンサークロー』のメンバーが
仇を討ちに自分を殺しに来るかもしれないという事だった。
松浦は石黒と真矢が死んだ事を知らない。
スカウトしたと聞いた、保田が死んだ事をしらない。
松浦は事務所からの連絡も無視して部屋のベットで膝を抱えてうずくまっていた。

その日の深夜、携帯の着メロが鳴った。
出ると聞きなれた声が耳に入る。
「どや、気分は?」
松浦の顔から血の気が引く。
声の主は中沢だった。
「ど、どうして…私の番号を…?」
「ハハハ、元中沢芸能事務所社長やで、そんなん簡単に調べる事出来るわ」
「……」

「今日な…みっちゃんの密葬が有ったんよ」
「…」
「ついでに石川のもしてやったわ」
「そ、それで…?」
松浦のドクドクと波打つ心臓は破裂しそうだ。

「お前だけ生きてるのは不公平やん」
「な、なにを…」
「実はな、もうマンションの下に来てんねん」

松浦は慌ててベランダに出て階下を見ると、
中沢が携帯を片手に此方に向かって手を振っていた。

「ひっ…」
松浦は携帯を切り、マンションの屋上に逃げる。
隣のビルに飛び移り、その隣のビルにまた飛び移る。

その光景を眺めていた中沢は肩をすくめる。
「逃げ足だけは速いやっちゃな…」
呆れるように言い、溜息をついた。

その日を境に松浦も失踪し、新聞を賑わす事になった…

【 BATTLE AFTER 】第六十話

深夜に帰宅した中沢は音を立てずに そっと布団にもぐり込む。
隣では矢口が静かに寝息を立てていた。
さすがに安倍の部屋は使えず、中沢は矢口の部屋で寝食を共にしていた。

「裕ちゃん…何処行ってたの?」
不意に話しかける矢口は寝てはいなかった。

「お、起きてたんか?」
「…うん」

「まあ…ちょっとな…」
「ちょっと?」

「…松浦の所や」
「…殺してきたの?」

「いんや…逃げたよ アイツは」
「そう…」
矢口は寂しそうだった。

「あ…あのな、人は殺さないって言ったけど…仇は討つで…」

「そんな事じゃないよ」
「うん…?」

「みっちゃんと石川が死んだのは分ったけど…」
「…けど?」

「それだけなんだよね…」
「…」

「何時もそう…なっちが居た時は気付かなかったけど…
事件が有る度に私となっちは蚊帳の外…誰もちゃんと話してくれないんだ…」

「…そか…」

「みっちゃんの事だって皆 言葉を濁して…」
「…」

「仲間じゃ無いみたい…」
ポツリと矢口が寂しそうに呟く。

「アホやな…」
「えっ」

「矢口はアホや…」
「なんでよ」

「仲間だからに決まってるやないけ」
「…」

「みんな矢口が好きなんや…だから心配かけさせたく無いだけや」
「…」

「矢口は特殊な能力が無いねん…それぐらい、分かれよ…」
中沢の言葉は少し怒っているようだった。

「うん…分かった…でも、何か有ったら詳しい事ぐらい教えてよ…やっぱり寂しいからさ」
「…分かった…約束しちゃる…って、私もよう知らへんねん」
「辻、加護よりは知ってるでしょ」
「ハハ‥アイツ等は矢口より知らへん」

そりゃそうだ、と矢口も納得の笑みを漏らす。
「知らないって言うより、理解出来て無いだけなんじゃないの?」
「ハハハ、毒舌やなぁ」
「だから、アイツ等 私の事『おこりんぼ』って避けるんだな」
一人で勝手に納得して頷く矢口。

「何言うてん、みんな矢口の事好きやでぇ」

話しは妙な方へ脱線していく。

「裕ちゃんは…?」
「え?」

「裕ちゃんは私の事好きなの?」

「ハハハ…」
中沢はドキリとした…
「当たり前や…」
次の言葉を出すのに少し勇気が必要だった。
「む、むっちゃ好っきやでぇ」

「ほんとう?」
矢口は少し意地悪そうに聞く。

「本当やでぇ…そ、そや、チュ〜したるわ」
中沢は照れ隠しに業と矢口に抱きつき唇を尖らす。

「わわわゎゎ…ちょ、ちょっと!」
矢口は布団から這い出しバタバタと部屋の隅に這って逃げる。

「ハハハハ、なに慌ててん…」
指をさして笑う中沢の顔にバフンと矢口が投げた枕が当たる。

「や〜ぐ〜ち〜!」

睨む中沢に矢口はベ〜と舌を出してニカッと笑う。

「この〜!」
今度は中沢が矢口に枕を投げ返す。

「残念でした〜」

枕を受け止めニッと笑う矢口の顔にもう一つの枕が当たる。

「はっは〜、枕は一つだけや無いねんでぇ」

「もう!」
プウとほっぺを膨らませる矢口。

「なあ、矢口はどやねん?」
「何が?」

「わ、私の事…好きなんか?」
「えっ?」

「どうよ?」
「…」

「なあ、なあ、教えてや?」

「そ、そりゃあ… す き だけど…」

矢口は恥かしそうにボソリと呟く。

「え〜?何やて?聞こえへん」

顔を真っ赤にする矢口は枕を投げ返す。

「うるさい!もう、絶対言わない!」

「ハハハハ…」

部屋の明かりは点いていない…
笑う中沢の瞳からポロリと涙が零れた。

キャッキャッと はしゃぐ、深夜の枕投げ大会は明かりも点けずに続く…
点けない理由…?
それは電気を点けたら泣いてるのが ばれるから…

ハハ…

知ってるわ…

矢口が私を好きな事ぐらい…

でもな…

確信を持って言える事が、一つ有んねん…

それはな…

矢口が私の事を好き…それ以上に私の方が矢口を好きな事や…

だからな…

不安やねん…

不安で不安で堪らへんねん…

矢口がな…

矢口が…遠くへな…行ってしまう事や…

その時な…

その時、私はどないしたらええねん…?


どうしたらええ?…なあ、矢口…


答えは…


  答えは…        解かってんねんけどなぁ…




「うるさ〜い!」
部屋のドアがバンと開き、腰に両手を据えた加護が一喝する。
「うっ…ごめん…」
「…加護に怒られるなんて…」
無邪気な枕投げは、うるさくて起きだした加護に注意されるまで続いた…

今日はここまでです。
毎度ながら、次回更新も未定です。               では。
453レク ◆ZLtcq2fQdY :02/10/12 16:19 ID:625TdFA2
更新お疲れ様です。残りは松浦だけか・・・。
454名無し募集中。。。:02/10/12 22:37 ID:GCx4Epgl
更新乙です。
松浦でもう一波乱あるんですかね・・・。
中沢切ないですね。
455名無し募集中。。。 :02/10/14 01:46 ID:TNd1I3JD
保全
456PT:02/10/15 20:36 ID:13IgoVU1
hozen
457名無し:02/10/16 22:29 ID:X7DHbTBx
ほぜ
458名無し:02/10/17 22:36 ID:0pxtYr2K
フォゼン
459名無し募集中。。。:02/10/17 22:49 ID:Kp+5ACDH
下がっているので心配保全
460名無し募集中。。。:02/10/18 01:46 ID:OFkqKj3q
過去ログ読破記念保全

。。・゚・(ノД`)・゚・。
461日本保全協会:02/10/19 00:42 ID:9pIVcmVp
保全
462名無し募集中。。。 :02/10/19 12:44 ID:COd79WHH
下がってますが、まだまだ保全
463名無し募集中。。。:02/10/19 14:11 ID:R+5opX4Q
保全
464名無し募集中。。。:02/10/19 17:41 ID:WQ7WkgkJ
戦慄と衝撃の保全
465ののの虜 ◆/Ynono2P.. :02/10/20 01:06 ID:qHKz6giI
oノノハヽo
从 ´D`)<更新乙!!
466O:02/10/20 10:41 ID:0/VR/8bt
sage
【 BATTLE AFTER 】第六一話

「矢口〜、ナポリタン一つ追加ね〜!」
お昼の時間は『レストランプチモーニング』で一番忙しい時間帯だ。
でも、厨房からは返事が無い。
「もう、返事ぐらいせいよ」
中沢が厨房に顔を入れると矢口の顔色が変だ。
「矢口…」
青い顔で額から珠のような汗が吹き出ている。
「大丈夫か…?」
「ハハ‥大丈夫だよ…」
気丈に振舞うが様子がおかしいのは明らかだ。
「ちょ…ちょっと休んだら?」
「だって、今 忙しいもん」
「でも…」

そこにカウンターで暇を潰していた飯田が割って入る。
「おいおい、顔色が悪いじゃないか…よし、私に任せて矢口は休んどけ」
「ハァ?…かおり 出来るの?」
腕まくりをしながら厨房に入ってくる飯田に矢口は疑問顔だ。
「大丈夫だって、毎日 何の為に此処に来てると思ってるんだ?」

「そりゃ、かおり の店が異常に暇だから…」

「……と、兎に角だ、矢口は休んどけよ」

飯田は矢口に 邪魔だ邪魔だ と言いながらフライパンを手にする。

「おおぉ!」
油をひいて玉葱とピーマンを颯爽と入れる手際を見て矢口と中沢は感嘆の声を上げる。
「おおおおぉぉ!」
刻みベーコンを入れ、炒めだす姿に益々惹かれる。
「なっ…!」
しかし、スパゲティの麺を入れてフライパンを振ると麺はバラバラと零れ落ちた。
「出来へんやん!」
「…ごめん…」

結局、手伝う事で矢口の負担を減らす事にした。



忙しい時間が終わり矢口は自分の部屋で休む事にした。
ヨタヨタと階段を上る矢口を心配そうに見る中沢。
「矢口…この頃 少し調子悪いみたいだな…」
事情を知らない飯田も、心配そうに中沢に聞く。
「…そやな」
飯田にコーヒーを出しながら中沢は曖昧に答える。
「…」

「なあ、裕ちゃん」
「なに?」
「なんで、此処に住み込むようになったの?」
「ハハ‥なんでやろな」

「改心したの?」
少し間を置き中沢は微笑む。
「まあ…そんなとこや…」
「ふーん…」
頬杖をつき飯田も微笑み返す。

「かおり…」
「…なに?」

「もう…残ってるのは私と松浦だけや…」
「…」
 
「罰が当たったんかもな…」

微笑む中沢は寂しそうだった…



夕方…中沢はお粥を作り、矢口の部屋に入った。
「矢口〜、お粥 作ったでぇ」

矢口は寝たまま天井をぼんやりと見詰めていた。
「裕ちゃん、店は…?」
「今日は仕舞いや」
「…そう」

「さっ、体 起こしや」
中沢は矢口の背中に手を回そうとした。
「裕ちゃん…」
「なんや?」

「私…死ぬのかな…?」

中沢の手が止まる。
「な…なに言うてん」

「さっきね…」
「うん?」
「思い出しちゃった…」
「…」
「裕ちゃんの店での出来事…」

「…そ か」
中沢は項垂れて言葉が続かない。

「でもね…」
「…」
「私が死んでも、裕ちゃんは許してあげるよ」

「だから、何言うてん!」
中沢は涙と震える声を必死で我慢した。
「死ぬ訳ないやんか…ちょっと体調がおかしくなったなっただけや」
「…」
矢口の背中に手を回し、優しく抱き起こす。

「心配すなよ…」
「でも…」
「でもも何もあらへん」
中沢は矢口の手に粥の入った椀を持たせる。
「さっ、お粥 食べ…美味いでぇ」
「うん…」

お粥をすする矢口を見る中沢は怒ったような顔だ。
そうでもしないと、顔が崩れそうだからだった。
「なに? 裕ちゃん怒ってるの?」
中沢の顔に気付き、矢口は聞いた。
中沢は無言のまま頷く。
「…ごめんなさい」
ペコリと頭を下げる矢口に 中沢は怒った顔のまま、また無言で頷いた。
「あ、明日から、また頑張るね…」
ご機嫌を取るように矢口はヘヘヘと舌をだした…


しかし…翌日から『レストランプチモーニング』は店を開ける事はなかった…

【 BATTLE AFTER 】第六二話

安ホテルの一室で松浦は膝を抱えて震えていた。
怯える目の下には隈が出来ている。
複数の念能力者から命を狙われてると思うと眠る事も出来ない。

何故自分一人がこんな目に…

松浦の瞳に狂気の色が浮かぶ。

一人で死ぬのは嫌だ… 

何時しか それは強烈な憎悪に変わる。

みんな 道連れにしてやる…

死を目前にして松浦亜弥の精神は崩壊した。


フロントでチェックイン業務をこなしているホテルマンがフワフワと漂う無数のシャボン玉に気付く。
「…?」
指先で一つを割ってみる。
「うがぁぁああ…」
喉を掻き毟りながらホテルマンと客は絶命した。

キャハハハと笑いながらホテルを出る松浦の瞳には感情の色は宿っていない。
精神が崩壊した松浦の念のシャボンは人を殺す毒に変化していたのだ。


ホテルの前の通りをフワフワと舞うシャボン玉…
そのシャボン玉が広がる範囲の全ての人間は毒死した。


そして、東京の各街は人死の山を築く事になった…


【 BATTLE AFTER 】第六三話

矢口を蝕む瘴気の毒は 静かに、しかし確実に命のカウントを刻んでいた。
矢口の体調は改善する気配はなく、寝込みがちな毎日を送っている。

矢口と中沢と加護はトランプで遊んでいた。
「また、私がババやん!」
ババ抜きでジョーカーばかり引く中沢に矢口と加護が顔を見合わせてクスクスと笑う。
「やっぱり…」
「ババだから…」
ゴツンと加護の頭にゲンコツが降る。
「イッタ〜イ、なんでウチばっかり叩くの〜?」
「うっさい!アンタいちいち棘があんねん!ムカつく」
「ブ〜〜〜!」
加護が頬を膨らませる。
「さあ、もう一回 最初からや!次は負けへんでぇ」
カードを配ろうとすると、階段をドスドスと上る足音が聞こえてきた。

「たたた、大変だよ!」
飯田が何事か 慌てて部屋に入ってきてテレビのスイッチを入れる。
「どうしたの かおり?」
「いいから見て!」

テレビには累々と転がる人の死体が映っている。
「なにコレ?」
「人が次々と死んでるんだよ!」
「え〜!」
テレビでは すでに数千人の死者が出てると報告していた。
「犯人は?」
「知らないよ」
画面の中でシャボン玉が数個フワフワと横切る。

「ま、松浦や…」
中沢が呆然とした声を出した。
「なに裕ちゃん?」
「犯人は松浦や…」
「え〜?」

中沢は立ち上がり部屋を出ようとする。
「何処行くの?」

「決まってるやん」
中沢の声は怒気が含まれている。
「松浦を殺しに行くんや…」

「裕ちゃん!」
矢口の呼び止めに そっと振り返る。
「心配すな…」
「…」
中沢の決意を感じて矢口はそれ以上話せない。

「私も行くよ!」
階段を下りる中沢を飯田が追いかける。

「よし!ウチも…」
着いて行こうとする加護の袖を矢口が掴んだ。
「アンタは駄目だよ」
「え〜!」
「え〜じゃない!」
加護を引き寄せて抱きしめる。
「足を引っ張るんじゃないよ」
「でも…」
「信じるしかないよ」
「…」
「信じるしか…」
加護を抱きしめる矢口の体は震えていた。


「裕ちゃん待って」
飯田は中沢の腕を取る。
「私にやらせて…」

「アンタ念を無くしたって聞いたで」
「無くしてないよ」
「ホンマか?…感じられへんけどなぁ」
「試したい事があるの」
飯田は自分の右手をジッと見詰めた。
中沢は飯田の右手に確かな念を感じてフーンと少し感心した。
「…松浦は死の毒を撒き散らしてる…防毒マスクが必要や」
「待ってて」

飯田は自分の店からマスクを2つ持ってきた。
「紺野から借りてきた」
ハイと一つを中沢に渡す。
「私は要らへん…毒は効かへんからな」
「そうなんだ…」
飯田は じゃあコッチ とヘルメットを渡す。
「バイクで行くの?」
「早いよ」
シルバーに輝く愛車『サイクロソ』を飯田はガレージから引っ張り出す。

「さあ、乗って」
飯田はサイクロソのエンジンを掛けた。
「ホンマに大丈夫か?」
「大丈夫!」
「松浦は何処に居るか分かるんか?」
「分からない…」
へへへと笑う飯田の腰に手を回し中沢は溜め息交じりに笑い返した。
「しゃあない…私が念で探ってやるわ」
「じゃあ、行くよ!」
「よっしゃ行こう!」


飯田のサイクロソは魔都と化した都心に向って爆音を響かせた…

【 BATTLE AFTER 】第六四話

原宿通りの中央に松浦はポツンと佇む。
変装もしないで呆けた様に立ち尽くす松浦の周りには気付いた若者が集まり
黒山の人だかりが出来上がった。
揉みくちゃ にされ、松浦は自分の人気を感じながら芸能人生に別れを告げる。

「みんなぁ!サヨ〜ナラ〜〜♪」

死のシャボン玉が広がる…

バラバラと倒れる人波…

原宿通りには松浦が一人 所在無げに立ち尽くしていた。

いや、もう一人…

防毒マスクを被る革ジャンの女…

「…誰?」

マスクを外す女は長い黒髪をなびかせる…

「…飯田さん…?」

飯田は右手を突き出し、五指を広げる。

「…?」

飯田の指にはキラキラと光る細い鎖が絡まっている。

その鎖には赤く煌く小さな宝石が揺れていた。

「…ペンダント?」

ペンダントと気付いた時には細い鎖はスルスルと伸び、松浦の体に絡み 巻きついた。

「な…なに?」

細い鎖は松浦の動きを止める。

「クッ…」

松浦の胸には赤い宝石が揺れた。

その赤は深いブルーに変色する…


松浦の心の色を表す沈む深海の青…


飯田のペンダントは相手の心にシンクロし そして実行する…

安倍からのプレゼントは新たな念能力を飯田に授けた…

『シンクロなっちストーン』


飯田の想いと安倍の残留思念が奇跡を起こしたのだ。


ゴポッ…松浦の口から海水が溢れる…

「うわぁぁぁああああ!!」

松浦の心は深い海の中でもがき苦しみ、そして溺れた…

「死にたくない…死にたくない…死にたく   な     い    死  に…」

死にたくない…

嘘だった…

自我が崩壊した時点で自ら死を望んだのだ…

「死に   た    か   った   …」

松浦は自身の心に溺れ、深い海に沈み溺死した。


寂しげな瞳の飯田は、松浦の死を無言で見取る。

そして、音も無く右手に戻ったペンダントを見詰める…

「なっち…何時までも一緒だよ…」

握る拳の中でペンダントは溶け込む様に消えた…


飯田の戦いぶりを見ていた中沢が近寄る。
その顔は驚きの表情だ。

「かおり 今の技は…?」

肩を掴む顔は真剣だった。

「今の念はどんな技や!」
「どんなって言われても…」
「いいから、教えて!」
「……」


万という数の死体が累々と転がる原宿通りに佇む2人の影…

その光景は凄惨と言う言葉は似合わない、むしろ美しくさえあった…


ども、今日はここまでです。
読み返さずにUPしたから変な所が有ったらゴメンナサイ…

ちゅう事で次回更新も未定です。(コレばっかりやな・・・)       では。
483名無し募集中。。。:02/10/20 16:25 ID:Y5rEgZh3
更新キタ――――(・∀・)――――!!
一言・・・・・・・・・・・・・・・・・飯田(゜Д゜)スゲェェェ!
484ソネリオン:02/10/20 21:27 ID:P4LqjnTr
飯田の新しい念技、なんか凄い。

系統としては、色々複合しているみたいだから特質系?
まぁ〜ビジュアルのイメージ的には、某鎖野郎の「律する小指の鎖」みたいな感じかな?

これで残るは改心したらしい中澤だけですね。
でも、なんかもう一波乱有りそうだぞ。

とにかく作者さん、頑張れ。
485名無し募集中。。。:02/10/20 21:31 ID:Iz4IMgJ1
なっちを思いだして泣きそうになりましたが何か・・・。・゚・(ノДT)・゚・。
486名無し募集中。。。:02/10/21 09:55 ID:Xu/C16mr
ほげん
487:02/10/21 22:18 ID:x6PvkXgJ
最高だねー
488名無し募集中。。。:02/10/22 12:47 ID:wPjrKORf
保全ですが何か?
489名無し募集中。。。:02/10/23 00:38 ID:fq9T9oaF
更新お疲れです。
松浦あっさり死にましたね。
矢口は助かるのでしょうか?心配・・・。
490名無し募集中。。。:02/10/23 21:57 ID:ihhFmaQs
更新乙です。
491名無し募集中。。。:02/10/24 15:59 ID:hq1bLcel
保全
492名無し募集中。。。:02/10/25 11:54 ID:xqahqb0r
。・゚・(ノД`)・゚・。
493レクイエム ◆8FREQU/2yA :02/10/25 21:37 ID:keEpufp8
更新お疲れ様です。
494アビバ@@@:02/10/26 00:20 ID:z0+8lI8k
おやすみ>>>>>。
495だめだ・・・。:02/10/26 23:31 ID:M8f5QnTF
保全じゃ・・・
496名無し募集中。。。:02/10/27 16:16 ID:J3xCvG1h
お膳
497名無し募集中。。。:02/10/28 13:47 ID:t3SNjw1F
偽善
498名無し募集中。。。:02/10/28 18:00 ID:t3SNjw1F
唖然
499名無し募集中。。。:02/10/29 00:01 ID:JpTmTKot
呆然
500名無し募集中。。。:02/10/29 06:00 ID:XRJmJ3WZ
自然
501名無し募集中。。。:02/10/29 06:03 ID:jZU10Nxn
粗ちん
すいません、お待たせしています。
チクチクと書いてはいるんですが、更新できる程の量になっていません。
もう少し待ってて下さい。
503名無し募集中。。。:02/10/29 15:44 ID:5rQWk/dl
期待

豊前
504名無し:02/10/29 17:13 ID:hpetxrd6
ラジャー!!あげ!!
【 BATTLE AFTER 】第六五話

朝、中沢がボンヤリと目を開けると矢口の気配が無い。
「…うん…矢口…?」
矢口の布団に手を伸ばすともぬけの空だった。

「矢口…?」
慌てて飛び起きる。
何事かが起きたのかと心配になったのだ。

廊下に出ると階下の厨房から何やら音が聞こえてきた。

「どないした…? こんな時間に…」
矢口は食材を出して何かの準備をしている。
「へへへ…今日は体調がいいんだよ」
「…?」
「お弁当 作ろうと思ってね」
「弁当?…まだ朝の6時前やで…」

矢口はニカッと笑う。
「裕ちゃん、手伝ってよ」
「はぁ?」
「どっか、遊びに行こうよ」
「……」
「ほらほら、ボサッとしないで」
矢口は中沢の肩を持って厨房の中へ追い立てる。

「裕ちゃん、何が食べたい?」
「う〜ん…そやなぁ…って、何処に行くの?」
「まだ、決めてないけど…」
「えっ?」
「作りながら決めようよ」
中沢の口元が緩む。
「…ハハハ、まぁ いいか…よっしゃ、作ろうや」

サンドイッチの野菜を刻む矢口の手つきを見ながら中沢は感心する。
「上手くなったなぁ…料理なんて全然出来へんかったのに」
「まあね、一応主婦だもん」
「主婦?」
「色々定義があんのよ」
「…ハハ、かなわんなぁ」

中沢がハンバーグをフライパンに乗せると矢口が慌てて止める。
「ちょっと、解凍した?」
「してへんよ」
「もう、作り溜めして凍らせてるんだから、最初にレンジで解凍しなきゃ」
「あ、そうなん?」

鳥の唐揚げを油に入れようとする中沢を矢口が止める。
「ちょっと、油の温度計ったの?」
「してへんよ」
「もう、小麦粉を少し入れて、ジュンって跳ねてきたら頃合なんだよ」
「あ、そうなん?」

「……」
矢口が腕組みをして中沢を睨む。
「な、なんやねん?」
「裕ちゃん、料理した事ないでしょ」
「あ、あるがな…」
「嘘だ…」
「あるって!」
「じゃあ、何作れんのよ?」
「…焼き魚…」
「…」
矢口の目は点になった…


「何してんの?」
良い匂いに誘われて起きてきた加護が 目を擦りながらボ〜と突っ立っていた。
「…加護、起きたの?」
「…うん」
「お弁当作るの手伝うか?」
「お弁当?」
「そうだよ」
「何処かに行くの?」
「遊びに行こうかなぁって思ってね」
加護の顔がパ〜と明るくなる。
「行く、行く!」

「え〜!」
2人のやり取りを見ていた中沢が不満の声をあげる。
「私と矢口の2人で行くんとちゃうの?」
「もう、加護を置いて行ける訳ないでしょ」
「……」
「裕ちゃんは焼き魚でも焼いててよ」
「カッチーン!…ハハハ…分ったわ!じゃあ、全員で行くか? 
加護ぉ!隣の自転車屋の連中も呼んできな!」
「へい!」
加護は中沢に敬礼をして、喜び勇んで辻達を呼びに出る。
「…ありゃりゃ、アイツは堪えないやっちゃなぁ」
皮肉が通じない加護に 中沢は溜息を漏らす。

「なんやねん…?」
それをニヤニヤ笑いながら見ていた矢口をジロリと睨む。
「決まり…だね」
溜め息をつく中沢。
「…ハハ、負けたわ」

矢口と2人で出かける中沢の目論見は、あっけなく終わった…

【 BATTLE AFTER 】第六六話

大型ワゴンをレンタカーで借りて全員で乗り込む。
運転手は飯田だ。
「よっしゃ、行こうぜ!」
「お〜!」
助手席に座る辻と加護が手を上げて叫ぶ。
「せまい…」
飯田がぼやく。
一緒に座ると言い張る辻と加護は、前列に無理矢理 乗り込んだのだ。
中座席に矢口と中沢、後部座席には紺野と高橋が乗った。


「ディズニーランド!」
辻と加護の一言で行き先は決まった。
加護は自分のバックからゴソゴソとCDを取り出す。
「いっぱい持ってきたでぇ」
娘。時代のCDを皆で聞く。
「おっ、いいねぇ」
飯田は いきなり歌いだす。
「ハハハ、音程はずしてるよ」
矢口の指摘も無視して、飯田は楽しそうだ。
「のの も歌うのです」
「じゃあウチも歌うでぇ」
各々自然に歌いだす…
何時しかそれはハーモニーになりコーラスになる。

そして、最後にはカラオケ大会になった。

ディズニーランドの入り口に立って紺野は気付いた。
「ここって、お弁当の持ち込み 禁止なんですよね」
「そう言えば…」

全員分の弁当は飯田が でかいリュックに入れて担いでいた。
「ばれるな…」
「やばいよ やばいよ…」
「出川かよ!」
「三村かよ!」

「おまえ等、阿呆か?」
矢口は馬鹿なやり取りをする、飯田、辻、加護の漫才に終止符を打つ。

全員が顔を見合わせていると、中沢がいきなり大笑いをする。
「ハッハッハッハッハ〜!何、深刻そうな顔してんねん」
「どう言う事です?」
キョトンと聞く紺野。
「念能力者を舐めたらあかんでぇ」
「はぁ?」
「みんな着いてきな」

中沢は全員を引き連れて堂々と入る。

園内に入っても係員は気付かない。

「裕ちゃん、何をしたの?」
中沢は矢口にニカッと笑ってみせる。
「ハハハ、紗耶香 程ではないけど、邪眼ぐらい使えんねん」
「…さすがだ」
飯田が感心する。
「まあね」
「さすが、悪い事ばっかりして…」
ギロリと飯田を睨む。
「なんやねん」
「…いや…なんでも…」

入るなり、紺野は辻と加護が居なくなってる事に気付いた。
「大変です!」
「今度はなんやねん?」
「辻さんと加護さんが居ません」
「……」

辻と加護は入園するなり、皆の事を忘れてミッキーに着いて行ったのだ。

「…じゃあ、自由行動って事にするか?」
飯田が仕方ないと いうふうに提案する。
「そうしよっか」
矢口が中沢を見る。
「じゃあ、お昼になったら携帯で連絡するわ」

「そうしましょう」
高橋は紺野の手を取って駆け出す。
「行こう、あさ美ちゃん!」
高橋もミッキーを追い駆けたくてウズウズしていたのだ。

「なんだ…あいつ等?」
ポツンと取り残された初期メンの3人…
「さて、どないする?」
「あっ」
飯田がワザとらしい声を上げる。
「どしたの かおり?」

「私、行きたい所 有ったんだ」
ジリジリと後ずさりするように2人から離れる飯田は、踵を返すと脱兎のごとく走り出した。

「な、なんなんだ…?」
呆然とする矢口…
「アイツ、みんなの弁当 背負ってるんだぞ」

「……」
中沢は飯田の気持ちに感謝する。

飯田の念能力を見た日…

中沢は 飯田に全てを話した…

飯田は彼女なりに気を利かせているんだろう…

「うん?」

その飯田がドタドタと走って戻ってくる。

「どした?かおり」
「忘れ物だよ」
飯田は2人分の弁当を中沢に渡した。
「じゃ!」
飯田はまた そのまま走って何処かに消えた。

「…おかしな奴だなぁ?」
矢口はポカーンと飯田を見送る。
「ハハハ、おかしいのは前からやん」
「裕ちゃん、言いすぎ」
中沢はニーッと矢口に向って笑う。
「私等もどっか行こか」
「…うん」
「何乗りたい?怖いのはあかんでぇ」
「怖いって…裕ちゃんも怖いの有るの?」
「ハハハ、あるがな」
「何?」

「…内緒や…」

「フ〜ン、見つけてやる…行こ」

矢口は自然と中沢の手を握り、中沢を引っ張って駆け出した…


「あかんな…何処も込んでるわ」
各テーマパークは長蛇の列だった。
「今日は土曜日だからね」
矢口も諦め顔だ。

「なあ、ちょっと早いけどお弁当にしようか?」
「どこで?」
「あそこや」
中沢が顎で指す所は夢と魔法の王国のお城だ。
「お城の中?」
「ちゃう」
「うん?」
「てっぺんや」
「はぁ?」
中沢は矢口に弁当を持たせて、しゃがみ込む。
「ほら、背負ったるわ、乗りや」
「おんぶするの?」
「そやで」
「恥かしいよ」
「いいから、いいから」
中沢は嫌がる矢口を無理やり背負うと城を見上げる。
「どんなアトラクションより面白いの見せたる、行くでぇ!」

中沢は気合いもろとも猿のごとき素早さで城壁を登り始める。
「わぁ!怖い、怖いよ!」
「ハハハ、大丈夫や!」
グングンと遠ざかる地面に矢口は目眩がする。
「ひ、人が小さくなってくよ〜」
「もうちょっとやで」
「ひえ〜〜〜〜!!」

そびえる山のような城の頂上は鋭角な三角錐の小さな屋根だ。
「着いたで」
「降りれる訳無いじゃん!」
矢口は中沢の背中に しがみ付いて離れようとしない。
「大丈夫や」
「無理だって!」
「この屋根に念を貼ってる、落ちる事はないよ」
「無理だ!…ヒッ!!!…」
中沢はヒョイと矢口を抱き上げて屋根の上にポンと下ろした。
「わぁぁあああ!!……って、あれ?」
屋根に強力な磁力があるみたいにピタリと吸い付く。
「なっ、言ったやろ」
中沢はウィンクをしてみせた。

屋根の淵にチョコンと座って弁当を広げる。
「凄い景色だなぁ」
矢口は感嘆の声をあげる。
「そやなぁ」
「裕ちゃん、ありがと」
「ハハハ…さ、食べ食べぇ」

サンドイッチを頬ばりながら、ふと疑問が浮かぶ。
「誰も私達の事、気付いてないのかなぁ?」
「とりあえず、念で見えないようにしてるからな」
「へ〜、そんな事も出来るの?」
「それとな、人間、信じられない物は見えへんもんよ」
「そうなの?」
「ああ、そんなもんや…」
中沢は少し寂しそうだった。

「かおり も、出来るの?」
「…う〜ん、無理やろうなぁ」
「どうして?」
「かおり の念は右手にしか感じられへん、それに応用は出来ない性格みたいやし」
「…ふ〜ん、じゃあ‥」
「もう、質問多すぎ!」
中沢は矢口の唐揚げを取って口に運ぶ。
「あっ、裕ちゃんの有るでしょ」
「ええやん」
中沢は自分の弁当を開けていない。
「貸して」
矢口は中沢の弁当を取り上げて蓋を開ける。
「……」
そこには秋刀魚の塩焼きが一本無造作に入っていただけだった。

飯田は係員に大量の弁当を持っている所を見付かり事務所で絞られていた。
しょげて事務所を出ると、紺野が待っている。
「紺野…来てくれたのか」
「お弁当、取り上げられたんですね」
「ごめん…」
「仕方ありません、帰りに皆で食べましょ」
「…うぅ‥ありがとう」

近くのベンチに座って、買ってきたソフトクリームを舐める。
「なぁ、他の奴等は?」
「……」
答えない紺野は少し寂しそうだ。

「どうした?」
「私、あんまり楽しいと思わないんですよねぇ…子供っぽいって言うか…」
「ハハハ、お前らしいな」
「…ちょっと、辻さん達が羨ましいです」

「高橋はどうした?」
高橋と聞いて、紺野の顔色が少し変わる。
「そうなんですよ!愛ちゃんまで辻さん達と一緒になって はしゃいで!」
そこまで言って、紺野の顔が赤くなった。

「は〜ん…嫉妬か?」
「ちがい…そうかもしれません」
ハ〜と溜め息をつく紺野。

飯田はニコリと微笑み、紺野の頭を撫でて慰めた。
「大丈夫、大丈夫だって」
「何がです?」
「えっ…」
「何が大丈夫なんです?」
「うっ…そ、それは…」

紺野は焦る飯田に微笑み返す。
「大丈夫ですよ」
「へっ?」
「私なら平気です」
「お、お前なぁ…」
フフフと笑う紺野の方が飯田より一枚上手だった。


空には鳩がパタパタと羽ばたく…

「なあ、紺野…」
「はい?」
「…お前にだけは話しておこうか」
「何をです?」

飯田は少しためらう…

「矢口と裕ちゃんの事だよ…」

「矢口さんと中沢さん…?」

紺野の胸がチクリと痛む。

「…ああ」

飯田はベンチに もたれ掛かり天を仰いだ。

その瞳は遠くを見詰めていた…


屋根の上で取り留めの無い話しをしていた矢口が中沢の肩にチョコンと頭を乗せる。

「なんか、寒くなってきたよ」
矢口は震えている。
「うん?念で防備してるん…」
そこまで言って中沢は気付く。
「矢口…あんた…」
矢口の額に手を当てると凄い熱だ。
「ヘヘヘ…」
「ヘヘヘじゃないやん、…何時からや?」
「……」
矢口は無言で微笑んでみせる。

「あぁぁ…」

中沢は愕然とする。

今日、矢口が体調が良いと言った事は嘘だった。

仲間全員で楽しい思い出を造りたかったのだ。


最後の思い出造り…


矢口の命の残り灯は今、燃え尽きようとしていた…


「あぁぁぁ…やぐち!」

震える矢口を中沢は抱きしめる。

「ねぇ、裕ちゃん…」

「なんや…?」

「海が見たい…」

「……」

「裕ちゃんと…見たいの…」

「…よっしゃ、連れてったる」


グッタリとする矢口を背負う中沢に係員が「大丈夫ですか?」と声を掛ける。
悲壮感が漂う中沢は無言のままだ。
「お客様…」
「うっさい、ほっとけ!殺されたいんか?」
刺すような目に係員は尻餅をつく。

「裕ちゃん…」
「なんや?」
「殺しは駄目だよ…」
「…」

タクシーを拾って近くの海に行く。

「着いたでぇ」

「何処?」

「知らない海や…」

其処は広い海岸線が見える砂浜だった。

春ならば一面が花が咲き乱れるだろう草原の柔らかい草の上に矢口を横たえる。

「寒くないか?」

中沢は自分のジャケットを矢口に掛ける。

「もう、10月も終わりだもんね…」

「…そやなぁ」

カモメが空を滑るように舞う。

「裕ちゃん…」

「うん?」

「私ね…気付いてたよ」

矢口は蝋人形のように白くなった自分の手を見詰める。

「今日が最後の日になるって…」

「そうかぁ…でもなぁ、矢口」

「…なに?」

「矢口のその言葉…ハズレやわ」

「ハハ‥気休めだよ」

「本当だよ…矢口はなぁ、今日も、明日も…来年も、再来年も…ずうっと変わらずに生活するんよ」

「ハハ‥それも、寂しいなぁ」

「そうか?…穏やかで ええと思うんけどな」

矢口は未来を想像して微笑む。

「…うん、そうだね」

「だろ?」

みんなが笑って今まで通りに生活する夢…

「そうなったら…本当にいいのに…」

「……」

穏やかな風が中沢の頬を撫でる…

「矢口、向日葵って知ってるか?」

「…知ってるけど…」

「向日葵ってなぁ、何本も何本も寄り添うように真っ直ぐ太陽に向かって伸びるんやでぇ」

「……」

「そして、でっかい花を咲かせるんよ」

「…いいねぇ」

「そして、太陽のように皆を照らすんや」

「ハハハ…」

「私はなぁ、矢口」

「うん」

「皆で、そんな向日葵になれたらいいと思ってんねん…」

「…うん」

穏やかな海は波打ち際に白い飛沫の花を咲かせる…

白い雲…波の音と風の声…

矢口は中沢の手をそっと握る…

「裕ちゃん…」

「うん?」

「ありがとうね…」

「なんや、急に」

「裕ちゃん…」

「だから、なんや?」

優しく聞く中沢は矢口の目の焦点があってない事に気付いた。

「私…眠くなってきたよ…」

「…」

「霞んで目も見えなくなってきたし…」

「…」

「裕ちゃん…いる?」

「…うん…ここにいるでぇ」

「私…眠るね…」

「うん…」

「でも…」

「なんや?」

「眠る前に…おやすみのキス…してね…」

矢口は静かに瞳を閉じた…

「……」

中沢は矢口の唇に そっと唇を近づける…

その顔が止まった…

矢口の頬にポトリと中沢の涙が落ちて溶ける…

「…矢口…」


矢口の呼吸は止まっていた…

528 :02/10/30 15:11 ID:b+tBDDI4
。・゚・(ノД`)・゚・。
ども、今日はここまでです。
さて、長々と続いていた この小説モドキも次回更新をもって完結になります。
今まで読んでくださった皆様と保全して頂いた方々に感謝しつつ、
次回更新も未定ってことで…                        では。
530kkk:02/10/30 16:35 ID:S0taVWrK
えぇ話ですなぁ、、、
531ソネリオン:02/10/30 20:23 ID:yIBtHnj7
矢口は死んだと言うより、天に召されたって感じですね。
平凡だけど幸せな最後かな。
今回、少しだけセンチメンタルになっちゃいました。
矢口さん今までありがとう。
君の事、忘れないよ。(あくまでここの矢口の事ね。)

作者さん、次回の完結編楽しみにしています。
532レクイエム ◆8FREQU/2yA :02/10/30 21:02 ID:nwogtczY
更新お疲れ様です。
矢口が散ったか・・・。
533名無し募集中。。。:02/10/30 22:10 ID:ax+A3lFU
(〜^◇^)・・・ヽ(`Д´)ノウワァァァァァァァーン!!!!
534名無し募集中。。。:02/10/30 22:28 ID:mLybWZU3
♪I'll never foget you〜♪
。・゚・(ノД`)・゚・。
535名無し募集中。。。:02/10/30 22:56 ID:wPMlvRH8
何か奇跡が起きればという願いむなしく矢口も逝ってしまいましたか・・・。
寂しいですね。

536名無し募集中。。。:02/10/31 00:13 ID:0J11lzAa
( T▽T)<矢口さんが・・・
       そんなの悲しすぎる・・・
537名無し募集中。。。:02/10/31 01:01 ID:qZcakXxU
>>536
あんた氏んでるやろ(w
538名無し募集中。。。:02/10/31 10:46 ID:m6SjeVMc
川oT-T)(〜T◇T)( TDT)
539ののの虜 ◆/Ynono2P.. :02/10/31 21:32 ID:Bbd8v1jt
oノノハヽo
从 TDT)<更新乙。。。
>>530-539( ̄ー ̄)ニヤリ
【 BATTLE AFTER 】第六七話

眠るような矢口の頬にそっと手を添える中沢の手は僅かに震えていた。

その中沢の首には、何時の間にか 細い鎖が巻き付いている…

「矢口…私がさっき言った事は嘘やないんやで」

中沢の胸にキラリと光る赤い宝石…

「矢口は これからも普通に生きるんや…」

矢口の死を持って発動するように仕掛けられた赤い宝石…

「これが最後の手段やねん」

飯田の念能力『シンクロなっちストーン』は音もなく その色を変える…

「私の命で矢口を救うんや」


限りなく透明なクリスタルホワイト…

その色は中沢の暗黒瘴気を全て浄化し、そして 聖なるオーラへ変換する。

奇跡の宝石が生み出す最終念技…『ホーリーウィンド』…

その聖なる念の風は全ての毒を浄化し、細胞を活性化させるのだ。

そして、毒の瘴気を中和する、中沢の体内に流れる聖血との融合によって
その念は『死』の概念さえも凌駕する。

「…あぁぁ…」

自分の両手を見詰める中沢は言葉もない。

肌は色を失い、肉体は透けてさえいそうだ。

体内に渦巻く、余りにも強力過ぎる 聖なる念は中沢の体を細胞ごと浄化するのだ。

「矢口とは最後まで本当のキスは出来へんかったなぁ」

万感の想いを込め、中沢はそっと顔を近づけて唇を重ねる…

「…矢口…アンタの胸で眠らせてや…」

柔らかな矢口の胸に身を沈め、中沢は静かに永遠の眠りについた…


やがて、中沢の体からは聖なる念が溢れ草原を埋め尽くす。


10月の枯れ果てた草花は奇跡の念によって青々と緑を取り戻し、色とりどりの花々を咲かせた…



「…此処は…? 天国なの…?」

ボンヤリと目を覚ます矢口は咲き乱れる花々の草原を天国だと思った。

「…うん?」

自分の胸に顔を埋める中沢を見て、自分が死んでいない事に気付く。

「ハハ…もう、裕ちゃん…何やってんのよ…エッチ」

矢口は中沢が寝ているものと思った。

「重いよ…」

「裕ちゃん…?」

ピクリとも動かない中沢…

「……裕…」

やっと…やっと、気付いた…

中沢は自分の為に死を選んだのだ…

中沢の髪を撫でる矢口の瞳からスーッと涙が落ちる…



ーーー いいよ…裕ちゃん…何時までも…そうしていて… ーーー

http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000029.jpg



【 BATTLE AFTER 】第六八話

「紺野…裕ちゃんは死んだよ…」

「…そう…ですか」

自分の右手に戻った奇跡の宝石を見詰める飯田と紺野は
花で覆い尽くされた草原を見下ろす高台に立ち尽くしていた。

飯田は自分の仕掛けた念を探って、紺野と2人で中沢と矢口を追い駆けてきたのだ。

あの日…飯田の念能力を見た中沢は自分に技をかける事を望んだ…

断る飯田を説得し、念を仕掛けさせたのは中沢の執念…

矢口の為なら命を差し出す、愛の悲劇だった…

「紺野…」

「…はい?」

「私は…間違っていたのかなぁ?」

飯田は空を悲しげに見詰め静かに問いかける。

「……」

紺野は答えることが出来ない…

仲間の為に死ぬことが本当に出来るのか…?

自問する紺野の心に、手を振る高橋の笑顔が浮かんだ。

ーーー 死ねるんだろうなぁ…私も… ーーー

そして、飯田も自分達の為に死ねるんだろうと思う。

「飯田さん…」

「…うん?」

「誰が間違っているなんて、私には解かりません…」

「…そうか」

「でも…」

「…」

「私にも、命を投げ出しても守りたい人はいます…」

「…」

「…今 答えられるのは…それだけです」

飯田は紺野の頭をポンと叩いて優しく微笑む。

「行こう、矢口を迎えに…」

「…はい!」


青い空と白い雲…涼やかな風と深い海… 


穏やかな風景は仲間たちを連想させた…


そんな自然な関係…


飯田さん…矢口さん…辻さんと加護さん…そして、愛ちゃん…


ーーー あなた達は私の掛け替えの無い家族なんです ーーー


矢口に駆け寄る紺野は涙が溢れるのを止める事が出来なかった…


【 BATTLE AFTER 】ーーーエピローグーーー


ーーー 5年後 ーーー


都心の女子大に通う加護は演劇の勉強をしていた。

加護の夢は女優になる事だった。

大学のテラスで便箋を広げる加護に大学でできた友達が声を掛ける。

「なに〜?ラブレターでも書いてんの?」

「違うよ!」

慌てて隠す加護。

「じゃあ、なんで隠すの?」

「へへへ〜、内緒!」

べ〜と舌を出す加護は外見は大人の女になっていた。


寮に戻り、姿見の鏡の前に立つ加護はチラリと書きかけの手紙に視線を送る。
http://isweb41.infoseek.co.jp/play/blanch/cgi-bin/data/IMG_000036.jpg

「のの…うちは こんなにボインボインになったでぇ」

便箋に書かれている宛先は『レストランプチモーニング』…辻宛の手紙だった。



のの、元気か? うちは相変わらず元気やで。

女優 目指してまっしぐらや!

その内、有名になって ののをビックリさせたるから、楽しみにしててや!

でも、有名になったのは のの の方が先やけどな…

うち、ビックリしたわ!

テレビに出るんなら連絡ぐらいしいや。

でもまあ、虎太郎と獅子丸も元気そうで良かったわ。

うちの大学でも のの の話しで持ちきりやでぇ…

「不思議少女」ってな。

しっかし、相変わらず ののは変わっておらへんなぁ…

少し安心、ちょっぴり不安や…

大丈夫かぁ?のの…



便箋は其処まで書いて、手が止まっていた。

「心配すること無いか…ののはののや…」

加護は次に帰郷する日を思って一人微笑んだ。



『レストランプチモーニング』は、あの日以来 連日大忙しの日々だ。

それはテレビで放送されたお笑いドキュメントだ。

【驚愕!猛獣のライオンと虎が店の中をウロつく、癒し系レストラン!】

こんな訳の解からないタイトルで放送された店は視聴者の度肝を抜いた。

レポーターが来店すると巨大なライオンと虎が出迎えた。

腰を抜かす女性レポーターは店内の不思議な癒し効果で2匹の猛獣に徐々になれて、
最後にはライオンに抱きついてキスまでする始末だった。

そこで紹介されたのがケヘケヘと笑う「不思議少女のの」だった。

店内に充満する癒し効果は勿論、辻自身も知らない辻の能力 聖眼『ハムスターアイ』の賜物だが
「不思議少女のの」の言うままに動く猛獣が辻の魅力を最大限に引き出したのだった。

「辻のお蔭で大繁盛だな」
矢口に頭を撫でられて辻も嬉しそうだ。
「のの の、お蔭なのです」

今は矢口と一緒に暮らしてる辻は『レストランプチモーニング』の看板娘だった。

そして、獅子丸と虎太郎も客席に料理を運ぶ看板ウエイターになっていた。

「辻ぃ!手紙が来てるよ」

「誰からなのです?」
夕飯を食べて風呂に入ろうと服を脱いでいた辻は矢口から手紙を受け取る。
「加護からだよ」

「お風呂に入りながら読むのです」

「おい、手紙が濡れるだろ」

「大丈夫なのです」

しかし、大丈夫ではなかった。
案の定 手紙はビショビショに濡れて、次第にインクが滲んで読めなくなる。
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「なんとか読めたのです、今度の日曜に あいぼん が帰ってくるのです」

ーーー 追伸−皆は元気にしてるか? ーーー

手紙の〆には、そんな事が書かれていた。

「みんなは元気なのです、愛ちゃんの店も繁盛しているのです」

辻は窓から見える高橋の店を覗き込んだ…


『フラワーショップ愛』

飯田二輪店を畳んで開店した高橋の経営する花屋は、県外からも足を運ぶ客がいる評判の店だ。

花が普通より何倍も長持ちするのが繁盛の秘訣なのだが
それは高橋の能力『フェアリーサキュバス』の水で花を活けるからだった。

店先の花壇には常時、色々な種類の花が可憐な花弁を広げている。

如雨露で水を与える高橋は、一際高く伸びる 7本の向日葵を眩しげに見上げる。

寄り添うように、しかし、一本一本独立して大きな花を咲かせる向日葵は
自分達の現在を表しているように思えて仕方なかった。

「のんちゃん のだけは一番背が低いね…ふふふ、でも花は一番でっかい」

花壇の向日葵の種は メンバー全員で、それぞれの想いを込めて植えたものだった。


「これ下さい」

高橋が振り向くと一人の女の子が小さな つぼみを付ける すずらんの鉢植えを抱いていた。

微笑む高橋は綺麗に包装しリボンを付けて女の子に手渡す。

「この花の花言葉 分かる?」

小首を傾げる女の子の頭を撫でながら同じ目線で話す。

「これはね、繊細な女の子の花なんだよ」

女の子の顔がパ〜と輝く。

ありがとう と手を振りながら駆け去る、女の子の後姿を見送る高橋も嬉しそうだった。
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ーーーリリリリーーー

『フラワーショップ愛』の2階から電話が鳴った。

留守を預かる高橋が、パタパタと2階に駆け上がり受話器をとる。

「はい、『紺野探偵事務所』です」

《あのう、紺野探偵の力を借りたいんですが…》

「すいません、今 紺野は別の事件で出かけていますので…後程 此方から掛け直しますので
お名前と連絡先の電話番号を教えてください…」

サラサラとメモを取る高橋は、事件解決の依頼しか受け付けない
『紺野探偵事務所』の忙しさに溜め息をつく。

「名探偵も大変だね…」

大きく伸びをすると階下から、花を求める客の声が聞こえた。

「はいは〜〜い!今行きま〜〜す!」

忙しさは『フラワーショップ愛』も一緒だった…


とあるマンションの一室で紺野はニコリと微笑んで周りの皆を見渡す。

迷宮入り確実な超密室殺人の解決の為に七曲署の依頼を受けた事件だった。

「この中に犯人はいます」

ゴクリと唾を飲む関係者達。

「それは…100%アナタです!」

「な、なにを馬鹿な…俺には完璧なアリバイが有るんだ!」
指差された男は僅かな動揺をみせる。

「完璧?…その言葉はアナタには似合いません」

「どういう事だ、説明してくれ紺野君」

ヤマさんに説明を求められニッと笑う紺野は100%完璧な推理で犯人を追い詰める。

頷く七曲署の署員達も納得の表情だ。


「…どうです、これで犯人は完璧にアナタという事が、お解かりになりましたか?」

完全に覆されたアリバイと見事な推理に男はガクリと膝をつく。

「ヤマさん、そいつを連行しろ」

葉巻を咥えるボスの命令で犯人は連れ出される。

「何時もながら見事な推理だ、さすがは名探偵 紺野あさ美、100%完璧だな」

渋みを増したボスはマンションのブラインドの隙間から外を眺めながら目を細めた。

「では、次の依頼がありますので私はこれで…」

ペコリと頭を下げて事件現場を去る『名探偵 紺野あさ美』…100%完璧な頭脳の持ち主だった…
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バサリと新聞を広げ、事件解決の記事を読む後藤は苦笑いをする。

「ハハハ、相変わらずだなぁ…でもな、紺野…事件というのは頭で解決するもんじゃないんだぜ」

ガッシリとした体格の大男が公園のベンチで新聞を読む後藤の前を通り過ぎる。

「国家権力の非合法捜査こそ最強!」

新聞を丸めて男の頭に投げつける。

「探したぜ、『ゲロツョッカー』の改造人間!」

立ち止まる男の肩が笑う。

「ほう、俺を知ってるキサマは何者だ?」

警察手帳を見せる後藤が左手を前に突き出す。

その手にはギラリと鈍く光る日本刀が何時の間にか握られていた。

「さっそくだが、死んでもらう」

両手で構える日本刀は紅蓮の炎に包まれた。

「んぁあああ!!」

距離も関係なく無造作に振り下ろされる日本刀の先にいる男の空間がズルリとずれる。

念技『炎獄次元刀』

次元を切り裂く紅蓮の炎は男の体を二つに裂き燃え上がらせた。

メラメラと燃える炎に照らされた後藤の左肩には唇型のタトゥが揺らめく…

その唇型は半分から微妙にずれていた…
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「よっすぃ…」

左手を見詰める後藤は寂しい笑みをふと漏らす…

こんな日は…また、あそこに行くに限る…



『飯田流念法』

達筆で書かれた看板…子供達の気合いが聞こえる…

飯田は一人 皆と離れて町外れの此処で小さな道場を開いていた。
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「はいはーい、今日はここまで!」

パンパンと手を叩いて練習の終わりを告げる。

手拭いで汗を拭いて一息ついていると女の子が飯田の前に立った。

「うん?どうたの?」

「押す!質問があります!」

「なに?」

「なんでラヴ&ピースって書いてるんですか?」

少女は道場に掛けてある、飯田が下手な字で書いた掛け軸を指差す。

「愛と平和なんて軟弱すぎます!押す!」

「うん…でも、其れを守るのが飯田流念法なんだよ」

飯田は右手を広げてみせる。

「わぁ!すご〜い!」

何時の間にか現れた赤い宝石に少女の目はキラキラと輝く。

「これはね、私を守って死んだ親友の形見…」

「ふ〜ん」

「もう、誰も死なせたくないの…だから皆に念法を教えるんだよ」

「……」

「あなたの家族が悪い奴に殺されそうになったらどうする?」

「押す!そいつをやっつけます!」

「うん、やっつけたら平和になるよね」

「押す!」

「だ か ら、ラヴ&ピース…ね♪」

飯田は少女にウィンクしてみせた。

そこに男の子がバタバタと駆けてきた。

「押す!師匠!また例の道場破りが来てます!」

新たな敵を殺す度に此処に来るのは…


「たのもう!!!」

後藤はニコニコと笑い、子供達に囲まれながら道場に上がってきた…



裕ちゃん…

今年もまた一つ貴女の歳に近付きました…

私は裕ちゃんの予言通り、何事もなく日々の忙しさに身を置く毎日です…

そして、今年もまた 高橋の店では向日葵が大きな花を咲かせ、皆を照らしています…

裕ちゃん…

でも、やっぱり寂しいです…

寂しさに気付かない振りをして歩いてきましたが…

私は今でも裕ちゃんと過ごした夢のなかに居るようです…

裕ちゃん…

貴女の夢は何だったんですか?

皆の幸せですか?…それとも、私の幸せ?

だとしたら、その夢は叶えられています…

私は貴女と一緒に、叶えられて行く永遠の風の中に居るみたいです…

叶えられないのは…ただ一つ…

それが一番寂しいんです…


「矢口さ〜ん!ナポリタン一丁なのです!」

ふと気付くと辻が厨房に顔を出して壁をバンバン叩いている。

「ボ〜としてちゃ駄目なのです」

「ハハハ…」

辻に ボ〜としてる と言われてしまった…

それが中沢に報告する最近のニュース中で、一番のショックな出来事だった…
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                  ーーーBATTLE AFTER ENDーーー

後書きともいえない後書き。

最初は行き当たりばったりで書いていたこの物語も皆様のお蔭で何とか完結を迎えました。
誤字脱字、日本語になってない文法等、大目に見てくれて本当に感謝に耐えませんです。

さて、この物語での念法についてですが、ハンターハンターに当てはめれば
ソネリオンさんが解説してくれた通りだと思います。
しかし、念について書き始めた頃は実はハンターではなくて菊池秀行の妖魔シリーズから拝借しました。
ただ、念についての技が広がり始めて念技がハンターっぽくなってしまってどうしようかと思ってて…
まあ、系統別とかは余り考えなかったのでソネリオンさんの分析には感謝しています、アリガトー。
念法については菊池秀行と富樫義博を足して二で割ったと思ってください。

主人公については…う〜ん、皆様の思う所におまかせします。
他の書き手の皆様がキャラが勝手に動き出すと言ってるのを見て
ホンマかいな?って思ってましたが、此方側の意図する事とは無関係に動くキャラが出てきて
ホンマやん!と思った事もありました。
初期メンヲタだった俺も何時の間にやら紺野と高橋が好きになったり、
最初は脇役だった飯田がグングン力をつけて来た事も俺の範囲を超えていました。

さて、次作についてですが、一応考えてはいるんです。
まあ、毎度の事ながら魔戦を中心にしたものです。
ベルセルクを土台にしようと思っているんですがどうなる事やら…
現代日本で狂戦士が複数出てくる話しです。(ゴッドハンドを出すと面倒くさいので、その辺はぼかすと思う)
それとも、ほのぼのメルヘンにしようか…などとも…
まあ、書くとしても、暫らく後になるでしょう。。。

取り留めの無い馬鹿話しを書きましたが、兎に角、皆様、今までありがとうございました…                  

                                           かしこ。
568ついに…:02/11/01 20:16 ID:Rs+h37mV
おつかれさまです。
569レクイエム ◆8FREQU/2yA :02/11/01 20:40 ID:DonZcOz+
お疲れ様です。

やはり偉大なお人だ・・・。
570お疲れ様でした:02/11/01 20:51 ID:t4NX5wg5
すばらしい作品ありがとうございました。
571 :02/11/01 20:53 ID:jdxE/Fv8
次回作が楽しみです★
572名無し募集中。。。:02/11/01 21:08 ID:ryfJ5Xtb
多くは語りません
素晴らしいものを、ありがとうございました。・゚・(ノД`)・゚・。

ローカルに落として永久保存(・∀・)します!!
573名無し募集中。。。:02/11/01 21:18 ID:/d9tliYQ
お疲れっす
574名無し募集中。。。:02/11/01 22:06 ID:PojM2+NS
大作お疲れさまでした。
矢口死にませんでしたね(w
良い意味でやられた〜って感じです。
ひょっとしてこれで終わりかなとも思っていたので、次作があると聞いて安心しました。
楽しみがなくならずに済みます。
作中「プチモーニング」での会話など、リアリティがあってうまいな〜と感心してたので、作者さんのほのぼの系小説、もし書いてもらえるならいいものになるだろうな〜と、すごく期待してしまいます。
気長に待っていますので、じっくり次作の構想練って下さい。
本当にお疲れでした。
575名無し:02/11/03 00:08 ID:5vA0SYvQ
正直最初は、なんて酷い文章だと思ってた。
けど、なんかどんどん惹き込まれていって、
いつしか更新を待ち望むようになっていた。
そして今、終わった事に対しものすごく寂しく思ってる。
甘い終わり方だと思うけど、それが何だかうれしい。
機会があれば、また違うものを書いてください。
576ソネリオン:02/11/03 13:13 ID:Vkj8sywm
作者さん、今まで本当にお疲れ様です。

毎回の更新を楽しく見ていたので、これでもう終わりかと思うと少し寂しい気持ちになります。
それに、一読者たる私の質問にも丁寧に答えて頂き、正直感謝の気持ちでいっぱいです。

次回作を構想中との事なので、楽しみに待ちたいと思います。
最後に、この様な良作を「ありがとう」です。
577ののの虜 ◆/Ynono2P.. :02/11/04 00:57 ID:hA6+BLCi
oノノハヽo
从 ´D`)<永い間乙でした。
       あ〜完結か〜なんか待つ楽しみが終わっちゃったなぁ。。。
       いままで楽しい時間をありがとうございました。

追伸:
別にいわんどこうと思ってたんですが
どーしても読んでて違和感があったんで完結ついでに突込みを。
デ○ズニーランドから海見えるんですよね。。。
○ンデレラ城の屋根からならほぼ間違いなく。。。
そこで海が見たいは変かなぁと。

二伸:
次回作激しく期待してます。。。
578名無し募集中。。。:02/11/04 04:54 ID:hrVa+GPn
>>577
きっと絵にもあったように砂浜でマターリしたかったんじゃないかと思われ
幕張海浜公園か富津岬方面までいったんじゃないかと・・・
皆様、感想ありがとうです。
え〜と、ディズニーランドは行った事が無いので海が見えるなんて知りませんでした。スマソ。
あの場面で、矢口は視力さえ相当に落ちていると思ってください。
あとは>>578さんの言う通りです。
580落ちそう…:02/11/06 20:51 ID:GhziFKVD
新作待ち保全。
581名無し募集中。。。:02/11/06 23:31 ID:DvdvX1E0
新作が出るにしても、一旦スレを終えて仕切り直した方が良さそうな矛感
582名無し募集中。。。:02/11/07 22:28 ID:yHAkE9UM
んにゃ、これ以上オナニースレ増やしちゃあいかん
まあ在る物は仕方がないのだからこのスレを有効に使いきりなさい


583名無し募集中。。。:02/11/07 23:39 ID:Fh2Oz2WC
・・・仕切り直すなら狩でやるべきかな、こういう椰子から防ぐためにも
584名無し募集中。。。:02/11/10 12:37 ID:cJfoSrth
保全するべき?
>>584
次作は年内は無いと思いますので放置して構いません。
他の方が書くのであれば、お使い下さい。
586名無し募集中。。。:02/11/13 09:12 ID:ifUBejy7
(´ー`)y-~~ ふぅ
582のせいで落ち込んじゃった
>作者(藁
587名無し募集中。。。:02/11/15 03:31 ID:Z/BawxVF
とりあえず>>584
588デッドの荒井注:02/11/16 22:59 ID:/P3QKzVx
はーい
使い切るなら使い切るで
ちゃっちゃとやっちゃいましょー!
こんな糞スレを
「希にみる良スレだ!」なんてほざいてた
馬鹿共に現実見せてやってくださーい>腐れ荒らし共

それではいきますよー
往年の名台詞〜「ほ ぜ ん あ げ」〜ゲラゲラ
589デッドの荒井注:02/11/16 23:06 ID:/P3QKzVx
少しでも下がるのは嫌なのよね〜
ハイ!晒しage!
590名無し募集中。。。:02/11/16 23:41 ID:v0PYYNEW
保全
591氏ね もしくは 逝きろ:02/11/17 02:19 ID:2/HU/t6m
氏ね
592名無し募集中。。。:02/11/17 04:23 ID:Sj7M3mnu
>>589
…もう終わりか?
593名無し募集中。。。:02/11/18 08:10 ID:EayE0OYj
594名無し募集中。。。:02/11/19 22:14 ID:vF1r4TRn
保全
595名無し募集中。。。:02/11/20 23:29 ID:Q/BZld9e
596 :02/11/20 23:30 ID:udK/OzrV
今日発売の高画質裏本(完全無料)
http://roli-channel.for-kids.com/            
597名無し娘。:02/11/21 00:59 ID:OUqMmGJV
age
598名無縞馬:02/11/21 15:11 ID:ZkUzUpxJ
hozenn
599名無し募集中。。。:02/11/21 19:57 ID:ZkUzUpxJ
保全

この小説をもとにしてRPGをつくったらスゴイことになりそうだ。
600おまえら全員低能な:02/11/22 14:24 ID:R/f/r9Wh
600ゲトー
ゲラゲラ
デドアラ出てきてなんか踊れー
601名無し募集中。。。:02/11/24 23:41 ID:ZikIJJw+
保全
602名無し募集中。。。:02/11/25 22:42 ID:skqJPbHi
保全
603名無し募集中。。。 :02/11/28 19:41 ID:pVmI3qAd
604名無し募集中。。。:02/12/01 21:13 ID:CT+r/JSP
605名無し募集中。。。:02/12/05 13:39 ID:fa3tlXZo
606落ちそう…