不定期ドラマ「タイフーン娘。」(前話は
>>839-842)
●第10話「頼りになるのはあなただけ!生徒会長、かまいたち保田!」
「だからゴメンって言ってるじゃ〜ん」
「うるさい、バカ、黙れ、近づくな」
生徒会室に、マリと保田の声が響く。
保田は前回、富士山の九合目に置き去りにされたことを怒っているのだ。
あの台風の中、小川達を連れて無事に帰還するとはさすがに保田である。
「まあまあ保田さん。マリも謝ってるんだし、ここはこのよっすぃーの顔に免じて・・・」
「あんたも勝手に下山したでしょーが!」
「うえーん、保田さん顔が怖いー」
そんな先輩連中の様子を、笑顔で見守る小川と新垣。
二人は世話になった保田を補佐すべく、それぞれ生徒会の書記と副会長に就任していたのだ。
なんのかんの言って、意外と人望の厚い保田に感心するマリとよっすぃーであった。
「でも、ホントは脅されたんでしょ?」
「そこ、うるさい!」
こんな平和っぽい学園生活を送っているマリたちだったが、お気楽なだけではいられなかった。
あと6人のタイフーン娘。を捜さなければならないのだ。
すでに後藤にはコトの次第を話し、独自に捜索をしてもらっている。高橋も同様だ。
「飯田先生は?」
「それが・・・なんか休暇とって旅行に行っちゃったらしいんだよね」
彼女らしいといえば彼女らしいのだが、と頭を抱えるマリ。気苦労の絶えない主役である。
あと6人――それがどこにいるのか、まったく手がかりはない。
富士山から帰ってからというもの、毎日のようにあちこちを歩き回って捜索しているが、そう簡単に見つかるものでもない。
いささかマリたちにも閉塞感のようなものが漂っていた。
「何、人捜し?」
そんなムードを察したか、保田が明るく声を掛ける。
「そうだけど・・・かなりアバウトな話なんだよね」
保田に話して何になるものでもないが、「つーく」という男から手紙が来た女の子を捜している、と告げるマリ。
「あと6人いるはずなんだけど、世界中のどこにいるのかも分かんない始末で・・・」
「そうそう。こんなこと保田さん達に話してもしょうがないんだけど・・・って、なにその紙切れ!?」
見ると、保田、小川、新垣の3人がそれぞれ胸ポケットから同じ封筒を取り出していた。
――その頃。飯田先生は、北海道にいた。
「・・・ここに来るのも、5年ぶりね・・・」
真顔で呟く。風が吹く。長い髪がなびく。その手には、タイフーン娘。を募るあの手紙がある。
「この手紙、あなたのところにも届いているはずよね・・・」
飯田先生は目の前にある建物――病院へと歩みを進めていった。
「いやー、偶然ってあるんだねぇ・・・」
「よっすぃー、これご都合ってやつだよ」
マリが呆れたように言う。それもそのはずだ。
保田、小川、新垣といっぺんに3人も「タイフーン娘。」が見つかってしまったのである。しかも、こんな身近に!
「ただのイタズラみたいな気もしたんですけどね」
「なんかこの手紙が気になってたんです」
小川と新垣が言う。捨てるに捨てられなかったところが、微かに流れる台風界の血なのだろう。
だが、問題が一つある。果たして魔王だの台風界だのと説明して、保田たちが信じるだろうか?
いや、信じてもらえたところで、戦うことを納得してもらえるだろうか?
ただのお遊びではない。強大な力を持つ魔王との「戦争」である。
格闘家としての闘争本能を持っているよっすぃーと後藤はともかく、保田たちはただの女の子なのだ。
ともかく、話をしないことには始まらない。マリは魔王ユーコのことを順を追って話し始めた。
やけに白く塗られた病棟の一室に「彼女」はいた。
ベッドから身を起こして座るその姿に、飯田先生は優しく声をかける。
「・・・久しぶりね、なっち」
なっちと呼ばれた女性、安倍なつみはゆっくりと首を動かし、飯田先生を見つめた。
その瞳には生気が感じられない。記憶と感情を失っているのだ。
なっちの首筋をそっと抱いて、飯田先生は呟く。
「・・・ごめんね、なっち。もう一度あなたを目覚めさせなければならない・・・」
ベッドサイドの小さなテーブルには、封の切られていないつーくからの手紙が置かれていた。
「・・・つーわけなんだけど・・・信じてもらえる?」
マリの説明を聞いた小川と新垣はポカンと口を開けている。
台風界とか魔王だとか言われてもなかなか実感もないし、ゲームのやりすぎ程度に思われても仕方ないだろう。
だが、保田の目は真剣だった。
「・・・それで、わかったわ。ちょっと見てて」
そう言って、保田がスッと右手を挙げる。
ひゅっ。がこん。
軽く手を振り下ろすと、部屋の隅に置いてあった花瓶が縦に真っ二つに割れた。
「!」
「・・・かまいたち!」
「子供の頃から、自分だけこんな事が出来るのを不思議に思っていたの。でも、マリの話を聞いて納得したわ」
それは、彼女が台風界の血を引くことの何よりの証拠だった。
保田はマリたちと共に戦うことを承諾した。つまり、タイフーン娘。への参加表明である。
戦闘力といい存在感といい、頼りになる存在がまた一人増えたことになる。
「で、あんたたちはどうする?誰も強制はしないよ?」
保田が小川と新垣に訊く。
新垣は「保田さんが行くなら」と即答し、小川は一つだけ条件を出した。
「その、魔王ユーコを倒したら・・・」
「倒したら?」
「・・・みんな、山岳部に入ってもらえますか?」
なっちの目を、飯田先生の手のひらがそっと塞ぐ。
5年前に、泣きじゃくるなっちの記憶を封印した時と同じ恰好だ。
「・・・いくよ、なっち」
飯田先生の手のひらに極小のサイクロンが発生し、なっちの頭部を包んでいく。
「目覚めよ、安倍なつみ・・・!」
風が止み、飯田先生の手が離れる。
まぶたを開いたなっちの目には、明らかな意志があった。
「・・・『時』が来たんだね、カオリ」
「うん・・・ごめんね」
力無く微笑むなっち。その瞳に、深い深い哀しみが溢れる。
飯田先生は、泣いていた。
「つーわけで、あと飯田先生が帰ってくれば今判明してるタイフーン娘。は全員集合って事になるね」
とあるファミレスの大テーブルにマリ、よっすぃー、後藤、保田、高橋、小川、新垣が揃っている。
初対面組の自己紹介も終わり、とりあえずは和気藹々の雰囲気だ。
そんな中、後藤は対面に座る保田の顔をちらちらとうかがっていた。
(やっぱりこの人、どこかで会ったことある・・・)
明確には思い出せない。だが、それは確かに後藤の胸に残っていた。
保田は。――保田は何も語ろうとはしなかった。
その頃、モーニング学園の前に一台のタクシーが到着する。
「お釣りは要らないので、領収書だけ下さい・・・。名前は紺野で」
降りてきたのは、眼鏡を掛けた少女だった。
その眼鏡を外し、つぶらな瞳で学園を見上げる。
「ここが、明日から私の通う学校・・・」
爽やかな風が、校庭に吹いていた。 (つづく)
1話目を書いた時はこんな話になるとは思っても見なかった矢口。魔女っ子ものだったし。
スレ終わる前にあと3話・・・ちと苦しいかもなぁ。
(〜^◇^)<真里エンバード勝ったー!