台風襲来◆矢口が心配なので明日は休む!

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696そろそろ続き
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不定期ドラマ「タイフーン娘。」
●第08話「もう泣かないで!木枯らし小川は悪くない!」

「いくらあんたたちの頼みでもねぇ・・・」
 生徒会長・保田が困り顔でクルクルとペンを回す。
 彼女に詰め寄っているのはマリと吉澤、そして1年の小川麻琴であった。
「部員が1人しか居ないんじゃ、廃部にするしかないでしょう?」
「そこをなんとかしてって言ってんじゃん!」
 熱を帯びるマリと保田のやりとりを、遠慮がちに小川が止める。
「あの・・もういいです。私が悪いんですから・・・」
 問題の部活とは、山岳部。小川は、その唯一の部員なのだ。
 しかし、学校の規定では部員が5人以上いない部は、廃部になってしまう。
 前回の一件で仲良くなった新垣から小川の話を聞いたマリたちは、なんとかしてあげねば、と乗り出してきたのだ。

「・・・小さい頃からそうだったんです。私の入るクラブはすぐ廃部になったし、通った塾は倒産しました。
委員会も解散したし、子供会も人数不足ですぐになくなりました。
まるで私の行くところ行くところ、いつも冷たい風が吹くようで・・・。みんな、私のことを木枯らしって呼ぶんです」
 校庭の片隅で、うつむきながら小川は語る。巡り合わせの悪い境遇である。
「でも、仕方がないですよね。これ以上、マリさんとよっすぃーさんに迷惑かけられないですもん。
それに無理に部員を集めるのも、なんか違う気もしますし!」
 つとめて明るく、小川は言う。そのカラ元気がいじらしく、哀しい。
 マリとよっすぃーが打ちひしがれたその時、背後から声がする。
『・・・小川っていうの、アナタ?』
 
697続き2:02/08/22 03:20 ID:hyICrMmp
 そこに立っていたのは、3年生の木村アヤカだった。英語に堪能な、学園でも1、2を争う才媛である。
「部員募集のチラシ見たんだけどさ、山岳部ってまだ入れるかな?」
「え・・・」
 意外な言葉であった。まさか部員が見つかるとは!
「でもアヤカさん、ココナッツ早食い同好会に所属してるんじゃ・・・?」
「アレはアレ、これはこれよ。英語で言うとザットイズザット、ディスイズディスね」
「絶対テキトー言ってる」
 何はともあれ、部員が増えることは喜ばしい。マリとよっすぃーを勘定に入れれば、
あと一人で山岳部は廃部を免れるのである。あと一人、あと一人で・・・。
「それって、アタシのこと?」
 ばーん。現れたのは誰あろう、生徒会長保田圭であった。
 実はアヤカも親友の保田から事情を聞かされ、入部を希望したのである。
「生徒会規約曲げなくても、ちゃんとこーやって5人揃えればいいんだからさぁ」
「さすがダーヤス!だてに顔怖くないね!」
「ひっぱたくよ」
「ありがとうございます、皆さん・・・」
 小川が涙ぐむ。とりあえずみんな臨時部員とはいえ、5人揃ったのだ。
 これは廃部は免れる・・・はずだったが。
「じゃすとあもーめんとぷりーず、ですわよ!」
 取り巻きを従えて現れたのは、マリの永遠のライバル・チャーミーだった。
「ふふん。あなた方は生徒会規約をちゃんと理解してないようね!」
 チャーミーが言うには、一度廃部が決定した部が復活するには、5人以上の部員が揃った上で、
部長会の過半数の承認がなければ認められない、というものだった。
 しかし部長会は形式だけのもので、部の復活に反対などあるはずもない。
698続き3:02/08/22 03:21 ID:hyICrMmp
「と・こ・ろ・が!」
 喜々としてチャーミーが取り出したのは、部長会全員分の委任状だった。
 つまり、チャーミー1人の意志で山岳部が復活出来るか否かが決まる、ということだ。
「お前、また裏でいろいろやったな!」
「おっほっほ、私に逆らう者をいじめるためなら何でもするわ!・・・特に、マリはね!」
 マリは歯がみした。結果的に、小川を助けたつもりが足を引っ張ってしまっているのだ。
 チャーミーは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「でもね、私も鬼じゃないの。私の出す条件をクリア出来たら、山岳部の復活を認めてもいいわよ」
 その条件とは、24時間以内の富士山の登頂!
 もし頂上まで行けたら、山岳部は復活。行けなければ廃部確定である。
「面白いじゃない。小川、この勝負受けるよ!」
「は、はい!」
「ふっ・・・決まりね」
 チャーミーには、この賭けに勝算があった。現在、関東地方に台風13号が接近しているのだ。
 富士山に登頂する頃には、ちょうど山は荒れ模様になっているはず。
 頂上までたどり着けるはずがない、と踏んだのである。
 だが、マリは台風界の王女。台風を操ることなど朝飯前である。
 マリはチャーミーの策略まで見抜いた上で、勝負を受けたのだ。
『チャーミー、おいらの力、思い知るがいいよ!』
699続き4:02/08/22 03:22 ID:hyICrMmp
翌日。マリ、よっすぃー、保田、アヤカ、そして小川の5人と、
「この目で確認するわ」とやってきたチャーミーは、富士山の五合目にいた。
すでに空は曇り、ラジオからは台風情報がしきりに流されている。
「危険はあるけど・・・行くのね?」
 保田の確認に、全員が頷く。もう後には引けない。
 小川を先頭に、ついに頂上へのアタックが始まった。
 最初はからかいの言葉や小馬鹿にしたセリフを浴びせていたチャーミーも、
黙々と登る小川たちの姿に口数を無くしていく。
 いや、しゃべらなくなったのは、単に強くなる風雨のせいかも知れない。台風は、確実に近づいていた。
 ――そして、九合目。
 雨も風も、地上とは比較にならない強烈さである。
 山小屋で一旦待機することになった小川たちも、不安の色を隠せない。
「どーすんのよ、あなたたち!早いとこ降参して、下山するわよ!」
 半泣きのチャーミーが言う。だが、小川も保田たちも簡単に諦めるわけにはいかない。
『・・・そろそろ、いいかな?』
 タイミングを見計らっていたマリは「ちょっと様子見てくる」と山小屋を出て、南の空が見通せる場所へと歩を進めた。
 強い風も雨も、彼女にとっては子守歌と同じ。恐怖はゼロである。
「ヘクトパスカル・ミリバール!大いなる台風13号よ、我が意に従い、東の海へと抜けろ!」
 ぱちん、と指を鳴らす。
 ・・・だが、風も雨も止むどころか、ますます勢いを強め始める。
「そ、そんな・・・これって!?」
 うろたえるマリ。台風界の王女であるマリに、操れない台風などないはずなのに!
 そこに、男の声が響いた。
「・・・台風界の力が、弱まっとるんや」
「誰!?」
 いつ現れたのか、背後にサングラスの男が立っている。
「俺の名は、列車つーく・・・お前らに、メッセージを送ったモンや・・・」

――なんとなーく話の大筋が見えてきて、ちょっとホッとしている矢口。
今回も長文スマソ。