そう、本当にそれはたわいのないゲームだった。でもふたりはそれを結構楽しんでやっ
ていた。まだ当分はそのゲームを続けるつもりだったし、それにそのゲームに飽きたら、
また新しいゲームを始めるだけだと思っていた。
姉ペンギンが魚を持って急な斜面を登り、お腹をすかせた妹ペンギンに届けようとす
る。でもいつもあと少しのところで何か邪魔が入り(それはたいてい妹ペンギン自身が邪
魔するのだったけど)、姉ペンギンは失敗して斜面を滑り落ちてしまう。そんなたわいの
ないゲーム。姉ペンギンの握りしめている魚は本物の魚じゃなくてぬいぐるみの魚だった
し、妹ペンギンだって別にお腹なんかすいちゃいなかった。でもふたりはとても仲良しで
気の合うペンギン姉妹だったので、ふたりで一緒にいるというそれだけでも愉快なぐらい
だったのだ。姉ペンギンが可愛いぬいぐるみの魚を不器用に握りしめて、それを振り振り
えっちらおっちらと登ってくる。その様を眺めると妹ペンギンはいつも幸福で胸が詰まり
そうになり、なかば恍惚としながら姉ペンギンを斜面の下へ蹴落とすのだった。
だがある日、そのゲームを終わらせなければならなくなった。最後に姉ペンギンが妹ペンギンのいると
ころに辿りついて、それでそのゲームは終わり、と決まったのだ。しかもそうして姉ペンギンが登り切っ
た時点で、姉ペンギンが妹ペンギンとこんな風にゲームをするのは、もうそれっきり最後になってしまう
のだ。
妹ペンギンは、そのゲームの最後の一回をするのがとても嫌だった。姉ペンギンは、いつものようにぬ
いぐるみの魚を握りしめてよちよちと登ってくる。でも今度は、妹ペンギンはそれを邪魔することは許さ
れないのだ。到達するまで見届けなければならない。到達したら「おめでとう」と言わなくてはいけな
い。
でも妹ペンギンは、まだまだ遊びたかった。あと少し、もうほんのちょっとの間でいいから、このゲー
ムを続けていたい。
「またいつもみたいに、あとちょっとで登りきるってところで、私が手を離して突き飛ばしたらどうな
るかな?いや、いっそ登ってきたところに体当たりして、私も姉ペンギンの体に抱きついて一緒に下まで
落ちていったらどうだろう。そうして、また姉ペンギンが登りはじめようとしたら、足にしがみついて離
さなかったら、そうしたら登れないんじゃないかしら?ずっとそうやっていれば、姉ペンギンもいいかげ
ん登るのをあきらめるに違いない。そうして、今度はふたりでまた別のゲームを始めるんだ。何なら今ま
でのを逆にして、姉ペンギンが上にいる役で、私が坂を登っていく役をやったっていい。まだ一緒に遊ん
でいられるなら、別に私はどんな役でも構わないんだ。だから、いくらでも手を離したり突き飛ばしたり
していいから、あともうほんのちょっとの間だけでもいいから、一緒に遊んでいようよ」
でも結局、妹ペンギンはそんなことは言わなかった。いつもと同じように斜面の上で、姉ペンギンがよ
ちよちと、でも着実に少しずつ、自分のいるところに近付いてくるのを見ていた。だって、魚がぬいぐる
みなのと同じように、本当はふたりともペンギンなんかじゃないし、姉と妹ですらなかったから。
「ありがとう、ごっちん」
魚がぬいぐるみでも、氷原が書き割りでも、ペンギンが着ぐるみでも、このふたりがとびきり仲良し
だったこと、そしてこれからも仲良しであること、それだけは掛け値なしに本当のこと。
おしまい。駄文失礼。感傷的ですみません。