いい年こいて、モーニング娘。かよ(w   

このエントリーをはてなブックマークに追加
331名無し娘。



ジージーとあぶらぜみの声が、深い緑の六甲山に響く。
日差しは強くて、空が深い青色にそまり、
外に出ると、むわっとした空気が、ウチをつつんだ。

「今日はどないかな」
そうつぶやきながら汗ばんだ額を袖でぬぐい、病院へと向かう。
あれから、ののは刺激に対して反応をするようになった。
それがうれしくて、ついつい何度もののの頬をつねったりしていると、飯田さんや、
おにいちゃんに怒られてしまったりしていた。
でも、いつしかほぼ毎日ののの所へ行くようになっていた。

病室の扉を開ける。開け放たれた窓からは少しだけ海の匂いのする風が
薄汚れたカーテンを揺らしていた。そして、ののの髪の毛もその風で少しだけゆれている。
ウチはいつものようにののの横に座ると、近所の人からもらった教科書を開いて、
それを読むでもなし、眺めるでもなしに、ただぱらぱらとめくっていた。

332名無し娘。:02/09/15 23:37 ID:yT/sv9Bv

「……、ウチほんまに女学校うかるんかいな」
それは、おかあちゃんがどうしても学校に行くようにといったからやった。
正直、そんなに勉強したいわけではない。
でも、働き出したら忙しくて、のののそばにいてあげることができない。
だから、ウチは受験することを選んだ。

「さっぱりわかれへん……。やっぱり誰かに教えてもらわんとな……」
そうつぶやいて、ぽんとののの布団の上に教科書を投げたときやった。
がさがさっと教科書を投げたにしては大きな音が布団からした。

「ん?」
ウチは不思議そうにののの布団をみると、ののの白くやせ細った腕が
布団から出ているのが見えた。
それに気づいて慌ててののの顔を見る。
「のの!?」
ウチは思わず大きな声をあげた。
333名無し娘。:02/09/15 23:38 ID:yT/sv9Bv
ののはその瞳をぱっちりと見開いて、天井を見つめていた。
ウチはののの顔を覗き込むようにして、その視界に入ってみる。
すると、焦点の合っていなかった二つの瞳は、ゆっくりとウチの瞳の方向へと動いた。

「のの、起きたん?」
不思議な気持ちやった。
あれほどにまで待ち望んでいた、意識の回復。
もっと驚いたり、感動したりするもんかとおもっていた。
せやけど、それは普通に眠っていた友人が、普通に目を覚ましたような感覚で、
とてもあたりまえの出来事のように感じた。

ののは、しばらくぴくりとも動かないで、ただウチの瞳を見つめつづけていた。
そして、震える唇をゆっくりと動かそうとした。
  
「おはようさん」
ウチはそういって笑いかけた。
ずっと待ちつづけていたこと。でも特別なんかじゃない。
起きるべくして起きたんや。あたりまえなんや。

ののはゆっくり体を動かそうとするが、思うように力が入らない。
口元が何かを伝えようとしているが、声にはならなかった。
「無理せんほうがええんとちゃうか?」
「……」
ののは無言のまま視線を宙にさまよわす。
「ちょっと看護婦さん呼んでくる」
ウチはそういって、詰め所へと向かった。
334名無し娘。:02/09/15 23:59 ID:RTehQ6G9

飯田さんと、ウチのおにいちゃんがやってきた。
おにいちゃんは、ののの診察をはじめる。
すると、ののの頬に赤みがさして、少し恥ずかしそうな顔をした。
それは、先ほどとは違って、ただ目を開けた心のない人形とは違って、
明らかに感情が存在するものやった。
それは、意識のなくなる前から、おにいちゃんだけに見せる、
ウチには見せたことのないあの表情やった。

「名前、言える?」
「……、ついのろみれす……」
「頭とか痛いところないですか?」
「……、すこし……。せんせい……」
診察を続けているうちにののの瞳から涙があふれていた。
「……うっく、……ありがとう……」
ののは目を閉じる。その瞬間たまっていた涙が一気に彼女の頬を伝う。
それをみて飯田さんがののの頬を拭いた。
その手つきはとてもやさしくて、暖かい色が見えた気がした。

おにいちゃんは、ののに、お薬も効いていますから、がんばって、と言うと、
ウチの前に立ち、
「もうちょいや」
と頭をなでてくれた。
335名無し娘。:02/09/16 00:00 ID:p8nbas6u

ウチは思わずどきりとする。それはとても久しぶりで、
いつものようにやさしくて頼もしかった。
でも、なんでかわからないが、
むかしのように、そのやさしさに甘えてしまってはいけないような気がしていた。

ののの意識が戻ったのは確かにうれしくて、たくさんおしゃべりをして、
いっぱいお菓子を食べて、と思ったりする。
でも、おにいちゃんに対するののの姿をみると、ちょっぴり複雑やった。

ウチはののの気持ちに気付いていたのかもしれん。
ただ見えない振りをしていただけなのかもしれん。

「あいぼん……、いろいろとありがとう」
おにいちゃんと、飯田さんが病室を去ってしばらくすると、
ののは、小さな声でそうつぶやいた。

「ん?別になにもしてないよ」
ウチはそう答える。
「ごめんなさい。いろいろと心配や迷惑を……」
「ええて」
ウチの返事を聞いて、ののはゆっくりと笑う。
「ありがとう……」
そして、吐き出すような声でそうつぶやいた。
その笑顔は女のウチからみても、ドキッとするほどかわいらしくて、
純真で、すべてを許してあげたくなるようなものやった。
336名無し娘。:02/09/16 00:01 ID:p8nbas6u

別に、ののがおにいちゃんを好きでもええやんか。
ウチとののが友達であることに代わりはないやん。
そんな想いが、ウチの心を支配する。

のの、お帰り。
ウチも、おにいちゃんも、飯田さんもみんな待ってたで。
これから、早く良くなって、いっしょに遊ぼうな。


「早く良くなってな」
ウチは、ののの手をキュッと握る。
すると、ののはゆっくりとその手を握り返してくれた。

ふわりとカーテンがゆれる。あいた病室の窓から、
少しだけ涼しくなった風が、ウチら二人の間を流れてった。