いい年こいて、モーニング娘。かよ(w   

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262名無し娘。

病棟を抜け、玄関へと向かう。患者さんたちはすでに殆どいなくて、
数人の入院患者さんがうろうろしているぐらいやった。
日はすでに傾き、埃っぽい空気があたりを流れていた。

のの……、死にたくないと言っていたやんか。
なんで、なんでこんなことになるねん。
おにいちゃん……、なんとかしてな。
絶対助けてな。約束やで……。

そんなことを考えながら歩いていると、なんだかまた涙が溢れてきた。
ふと、手をひいていた看護婦さんが立ち止まる。

「どうしたの?」
「い、いや、ちょっと……」
ウチはごしごしと涙を拭く。せやけど、涙がとまらへんかった。

「ちょっと、話そうか」
その看護婦さんは、ウチを患者待合の長いすへと連れて行く。
ウチもこのまま泣きながら帰るのはいややった。
263名無し娘。:02/08/25 13:47 ID:juB9T6td

しばらく、その看護婦さんにのののことについて話してもらった。
背の高い看護婦さんは飯田さんという名前やった。
ののの担当で、入院のときからずっと見てきたらしい。
病状は入院時よりは良くなっているが、いまは髄膜炎というとても重い
合併症が出てしまって、意識がないということやった。
「それで、意識はもどるのん?」
「……、普通は半々というところなの。もちろん、意識が戻っても脳に障害が残ったりすることもあるの」
「え?」
ウチはショックやった。半分の確立でののが死んでしまう。それどころか、助かっても、
頭がパーになってしまうかもしれんのや。
うるうると涙がたまっていく。
「う…、のの……、うくっ……、のの……」
気がつけば嗚咽を上げて泣き出していた。
飯田さんはウチの肩を抱くと、
「でもね、のんちゃんは絶対大丈夫だと思うの」
と、言ってウチにガーゼを渡してくれた。
その目線は優しげな中にも、しっかりとした確信があるように思えた。
264名無し娘。:02/08/25 13:48 ID:juB9T6td

「なんで?」
「のんちゃんはね、絶対生きていたいって私に言ってくれた。その理由もね」
そう言って飯田さんは微笑む。ウチは不思議そうな顔をして彼女を見つめていた。

「生きていたいというキモチがね、一番のお薬なんだ」
飯田さんはそう言うと、いすから立ち上がる。そして、
「絶対大丈夫だから。先生とのんちゃんを信じてあげて」
と、ウチの手を引っ張った。その感触は柔らかくて、あたたかかった。

ウチはコクリと頷くと、送ってもらったことにお礼をいって病院の玄関を出る。
いつしか涙はまた乾いて、ぱりぱりとした感触が両頬を刺激していた。

後ろを振り返る。優しげに微笑む飯田さんが手を振ってくれている。
そう、ののはこの人とウチのおにいちゃんに治療してもらっている。
そして生きることを決して諦めていない。
絶対助かる。そう信じてるで、のの。

ウチは暗くなった街を急ぎ足で通り抜けていった。
夜の神戸の海は、港の光を反射しながら、ゆらゆらと揺れていた。

265名無し娘。:02/08/25 14:20 ID:w7B7WkwK



しとしとと、雨が続く。アジサイの花は綺麗に色づき、近所の子供たちがかたつむりと
戯れている。
ウチは、ぽたんぽたんと家の中で鳴る洗面器に、うるさいなと
文句を言ってみたりする毎日やった。
そう、雨漏りなんて直るはずはなかった。
おにいちゃんは全く家に帰って来うへんかったし、
男手がないと、屋根の修理なんてできるはずもなかった。
だんだんと暑くなってきたにもかかわらず、一人で寝るお布団は、
なんだか冷たくて、寂しかった。

あれから、のののお見舞いにも何度か行って見た。せやけどののの意識は戻ることもなく、
飯田さんに、ウチが励まされることばかりやった。
だんだんと、痩せていくのの。たまに会うおにいちゃんの顔色もさえなかった。
ウチは病状について聞く勇気もなく、ただ、のののそばでその日会った出来事を
話してみたり、歌を歌って聞かせてみたりして、なんとか目を覚ましてくれることを祈るだけやった。

そんなある日のことやった。
266名無し娘。:02/08/25 14:20 ID:w7B7WkwK
ウチはいつものように眠ったままの、
ののに、たわいも無い話をしたあと、
「今日も、起きひんな……」と、ため息をついていた。
飯田さんが、しばらくするとやってきて、ののの体を拭いてあげていた。
ウチはそれを手伝いながら、
「痩せてもうたな……」と、呟いた。
飯田さんは、そうね、と答えると優しくののに話し掛けながら、
寝間着を元に戻す。まるで、いとおしい娘か妹にそうするように。
それをウチはみながら、二人の関係がとても暖かくて優しいものに感じた。

「飯田さん……。他の看護婦さんはそこまでせえへんのに、なんで?」
ウチは不思議に感じていた疑問をふとぶつけてみる。すると飯田さんは、
のののお布団を肩までかけると、寂しげな微笑をみせながら、
「私はね、みんなにこうしてるの。でもね、のんちゃんは少しだけ特別かな」
と、言った。
「特別?」
ウチは驚いた声をだす。飯田さんはしばらく黙って清拭の後片付けをすると、
「のんちゃんが、始めは死んでもいいと思ってたことは知ってるよね」
と、呟いた。
267名無し娘。:02/08/25 14:21 ID:w7B7WkwK

「あ、うん……」
ウチもそのことは知っていた。でもいつしか生きる希望をなぜか見つけ出し、
死にたくないと口にするようになっていた。

「でね、私たち看護婦も、先生たちもいろいろち生きる希望をみつけてあげようと思ったの」
そう言って飯田さんはねむりつづけるののの方を見つめた。
「担当だったこともあって、いっぱい話をしたわ。
あなたのことも、ふたりのおにいさんのこともね」
「ふたりって、ののとウチのおにいちゃん?」
「そう。でね、のんちゃんのホントのキモチがね、分かったの」
「ホントのキモチ?」
のののキモチ。それはののの生きる希望のこと。
ウチはぼんやりとしか見えていないそれについて、答えを知っている
飯田さんの顔を見つめる。

そのとき、がちゃりと扉が開く。婦長さんが入ってきて、
飯田さんに検査の介助についてくれるようにと頼んでいた。

「あ、ごめんね。ちょっと用事ができたから」
飯田さんはそう言うと、清拭の道具を持って部屋を出て行った。
268名無し娘。:02/08/25 14:22 ID:w7B7WkwK

「あ……」
ウチは答えを聞けないまま、去っていく飯田さんの後姿を見つめていた。
「なんやろう……」
ウチはののの方をみる。
「なあ、のの。なんで生きていたいと思うようになったん?」
そう問い掛けてみても、目を開こうとはしない。
「なあ、ウチには教えてくれへんの?」
そう言ってののの頬を軽くつねってみる。

──いたいれすよ。

「え?」
一瞬ののの顔が少し歪んだように見えた。
そして、ののの声が聞こえた気がした。
ウチは慌ててののの頬を叩く。
「のの?のの?」
しかし、何度叩いてもののが反応することはなかった。
「気のせいか……」
ウチは小さなため息をつく。
「ごめん、痛かったな」
そう言ってののの頬をさする。少し温かい感触が命のともし火を感じさせてくれる。

痩せて白く透き通った、ののの肌はとても綺麗で、
ものすごく美人にみえた。
269名無し娘。:02/08/25 14:23 ID:w7B7WkwK

日も暮れ始め、ウチは家に帰るために、眠っているののに挨拶をすると病室をでた。

「今日もおにいちゃんと会われへんかったな……」
ちょっぴり残念なキモチで廊下を歩いていると、詰所のまえで
一人の男の人がなにやら看護婦さんと話をしていた。
それをあまり気にもとめずに、通り過ぎようとしたときやった。

「ちょっと」
その男の人が声をかける。
「ウチですか?」
ウチは振り返り、その人をみるそのとき、その男の人の片足が無いことに気づく
「あんた、あいぼんとちゃうか?」
「え?」