いい年こいて、モーニング娘。かよ(w   

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239名無し娘。



病院は相変わらず薄暗くて、消毒液の匂いが鼻をつく。
夕方というのに、まだ沢山の患者さんたちが長いすに座って待っていた。
それをチラリと横目で見ながら、すこし埃っぽい外来の待合室を抜け、
のののいる病棟へと小走りで急ぐ。

「のの、久しぶり」
病室のドアをあけ、ウチはののを見た。

ののは、少しうつろな目をしたままウチをみる。
その表情は前にあったときとは違って、生気のないようにみえた。

「あいぼん……、久しぶりれすね」
そういって痛々しい微笑をみせる。
その表情が悲しげで、小さな不安がウチの胸をよぎる。

「ど、どないしたん?調子悪いん?」
「おにいちゃんからは聞いてないんれすか?」
「いや、なにも」
「そうれすか……」
ののはそう言うと、ウチから視線をそらし窓の外を見つめた。
こほこほと小さな咳をする。その後の言葉をウチは待ってはみたけど、
ののの口はそれ以上動く気配はなかった。
240名無し娘。:02/08/19 14:46 ID:cBa0KdwD

「あ、コロッケ持ってきたんや」
沈黙に耐え切れなくなったウチは、そう言って包みをあける。
おかあちゃんの作ってくれたコロッケ。半分しかないけど、
それでもきっと喜んでくれるはず。そう思っとった。

ののは、視線をお弁当箱に向けると、寂しげな微笑を浮かべて、
「有難う……。でも、頭が痛くて、あんまり食欲がないんれすよ……」
と、言った。その表情は本当に申し訳なさそうで、
かえって、ウチが悪いことをした気分になる。
「あ、ほ、ほんまか。そうやな、無理に食べることは無いと思うで」
「ごめんなさい」
「気にせんでええって。まあ気が向いたら食べてな」
ウチはそう言って、お弁当箱を包みなおしてベッドの横にある棚にそれを置く。
ののは、しんどそうな表情で有難うと言うと、
「ちょっと横になっていいれすか?」
と、言って目を閉じる。

「あ、しんどいな。ほなウチ、もう帰るわ。また来るし」
ウチがそう言うと、ののは目を開けて
「せっかく来てくれたのに……、ごめんなさい。ごめんなさい」
としきりに謝る。

「謝らんでもええって。ウチが勝手にきたんやし」
「でも、でも、来てくれてうれしいんれすよ。ごめんなさい。ごめんなさい」
必死な表情で謝りつづけるのの。
「そんなに謝らんといてな。別に気にしてないって」
ウチはのののそばに座ると、彼女の手をキュッと握った。
241名無し娘。:02/08/19 14:47 ID:cBa0KdwD

その瞬間、ゾクリと背中を不安な感情がはしる。
冷たく、細く、筋張ったようになっている手。昔はこんなんと違うかった。
もっと柔らかくて暖かかったはずや。
結核は確実にののの体を蝕んでいっているんや。

唯一の親友を冒している死の病。
それを再び自覚させるのに充分なほど、ののの体はやつれていた。

「のの……」
ウチはもうそれ以上なにも言えへんかった。
「……なんでこんな体になっちゃったんれすかね。情けないれす……」
そう言って再び目を閉じるのの。
そのとき、彼女の瞳から、一筋の涙がこぼれる。
ウチはそれをキュッとふくと、ののの手をもう一度しっかりと握り、
「頑張れ」
と、言った。それしか言えなかった。
力を分けてあげたかった。

ののはコクリと小さく頷くと、目を閉じたまま、
「ののは、まだ生きていたいんれす」
と、呟いた。
242名無し娘。:02/08/19 14:48 ID:cBa0KdwD

ウチはその言葉を聞いて少し安心する。
そう、ののは入院するまで、死ぬつもりでいた。
そして常に赤い髪飾りを握り締め、おにいちゃんの元へ旅立つ準備をしていた。
でも、今は生きていたいと言ってくれるようになった。
その理由は分からなかったが、そう言ってくれるようになってくれたことが嬉しかった。

ウチは力いっぱいののの手を握る。
治るように、退院できるようにと念を込めて。

「い、痛いれすよ……」
そう言って目をあけるのの。心なしか表情に生気が戻った気がした。
「治る。絶対治るんや。そしてまた一緒に遊ぶんや」
そう呟きながら、ウチは手を握りつづけた。

ののは、もう一度コクリと小さく頷くと、また目を閉じた。
そして、ウチの手をキュッと握り返してくれた。

気がつけば窓から見える空は青紫色に変わり、
病院の夕食の匂いが、病棟内に立ち込めていた。