いい年こいて、モーニング娘。かよ(w   

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191名無し娘。

小さな不安感が、ウチの心の中で湧き上がってくる。
なんやろう、ウチが入り込めないこの雰囲気。
そして、ののの表情。それは、ウチには決してみせない表情やった。

気がつくと、おにいちゃんが診察を終えていた。そして、
あんまり来るのはようないで、結核病棟やからな、とウチの頭をぽんぽんと叩く。
はっと見上げると、いつもの優しいおにいちゃんが笑っていた。
ウチがボーっとしていると、ふわりと白衣の裾が揺れる。
おにいちゃんは頼もしげな大きな背中をウチらに見せながら、病室を出て行った。

「あ、おにいちゃん……」
おにいちゃんは、ウチが声をかけようとする間もなく、視界から消えてしまった。
小さく肩を落として振り返ると、ののがため息をついた。

「やっぱり、おにいちゃんっていいものれすね……」
そう言って、赤い髪飾りをみつめる。
「でも、のののおにいちゃんじゃないんれすよね……」
ののはもう一度ため息をつく。

ウチはその寂しげな表情をみて、一瞬嫉妬を感じた自分が恥ずかしく思えた。
そう、ウチはのののおにいちゃんになってくれと、ウチのおにいちゃんに頼んだ。
それをウチのおにいちゃんは約束どおり守ってくれとる。
なんで、そんなことを感じたんやろう。
ののは寂しいねん。そして病気で苦しんでるねん。
ウチが、ののを支えたらないかんねん。

「いや、のののおにいちゃんと思ってくれてええねんで」
ウチはそう言って、笑ってみせた。

するとののは、
「べつにいいれすよ。おにいちゃんじゃなくて」
と、笑った。
192名無し娘。:02/08/07 11:39 ID:hy0SrEAA
「えっ?」
ウチは訳がわからんかった。おもわず少し大きな声を出してしまう。
「しーっ。病室れすよ」
「あ、ああ。そうやったな」
ウチが不思議そうな顔をしていると、ののは、
「おにいちゃんじゃないほうが、いいときもあるのれすよ」
と、呟いた。
「な、なんやねん、それ?」
と、ウチが尋ねると、ののは、
「なんれもないれすよ」
と恥ずかしそうに、はぐらかす。

ウチは少しだけ不機嫌そうな表情を見せてみる。
するとののは、少し悲しげな顔をして、
「ののの立場はわかってるれすよ」
と、言った。

「立場?全然分かれへん。何言ってねん、のの。ちょっと変やで」
ウチはののの言っている意味が分からんかった。
そして、急に悲しげな表情になったののに少し驚いた。
193名無し娘。:02/08/07 11:40 ID:hy0SrEAA

「あいぼん……、でも少しぐらい夢見てもいいれすよね……」
ののは、小さく呟いてうつむく。その表情が切なくて、
ウチはわけもわからないまま、ええんとちゃうか、と答えた。

ののは、表情をぱっと変えると、
「そういえば、あんまりあいぼんは、ここに来たらいけないみたいれすね」
と、言った。
「あ、なんかそうらしいな。結核はうつるからやろ」
「そうれすよね。少し寂しいけど、しょうがないれす」
そう言って、ののは寂しげな微笑をみせる。
「あ、まあちょっとぐらいならええやろ。またこっそり来るわ」
「おにいちゃんに怒られないようにしてくださいね」
「うん」

ウチはそう答えると、病室を後にして、廊下に出る。

看護婦さんたちが、点滴を持ってあわただしそうに走りすぎていく。
詰所にはおにいちゃんたちが真剣な表情で、カルテを見ながら話し合っている。
緊迫した雰囲気が流れていることは、ウチにも分かった。

ここは、おにいちゃんの仕事場。そして、ののが治療を受ける場所。
生命が交錯し、闘う所。あるものは助かり、あるものは散ってしまう戦場。
ウチの来るところではないのは分かっていた。

あまり来てはいけないと、おにいちゃんに言われたこと。
結局分からなかった、ののの想い。
そして、入り込めない、おにいちゃんとののとの関係。
ウチは、もやもやとしたキモチのまま家路につく。

少し冷たい空気がウチを包む。そして目の前に広がった空をみて驚く。
薄暗い病院の中とはうってかわって、別世界のような綺麗な夕焼け。
そして、須磨の山々の間に広がる西の空と、神戸の海は橙色に染まっていた。