モーニングクエスト�U

「しかし奴は神出鬼没、どこに現れるかわからん・・・そこでだ」
男はテーブルに手をつき、オーノを見た。
「ジョ、ジョニーさん・・・まさか・・・」（ボスの名前はジョニーというようだ）
オーノは顔をこわばらせる。
「その通り、お前に囮になってもらう・・・」ジョニーがそう言った時、
頭を抱えるオーノの背後の窓ガラスが砕け散った。
「！！！」一同が一斉に銃を構える。
―――しかしそこにいたのは一羽のカラスだった。
「まあ、落ち着けよお前ら」
その声は後ろからだった。

一同が慌てて振り返ると、そこにはマコトが立っていた。
「ボスはお前か・・・？」ジョニーに向かって言うと
「そうだが。」ジョニーが答える。
「その３人を・・・」そう言うとマコトは、オーノ・ショウ・ニノを指差した。
「悪いが・・・・・断わる。」
ジョニーの言葉を聞き、マコトの顔が険しくなった。
「どうしてもか？」
「どうしてもだ。」
マコトは一度下を向き、すぐに顔を上げて言った。
「なら、お前達にも死んでもらう。」
それを聞くと、ジョニーはニヤリと笑い、「実は・・・俺たちもお前を探しててな・・・」
そう言うと周りの男たちに目で合図した。
次の瞬間、それらの銃が一斉に火を吹いた。
窓ガラスは砕け散り、空いていた椅子も粉々になっていく。
そしてマコトも無数の銃弾を受け、仰向けに倒れた。
銃声が止むと、部屋は一気に静まり返る。
舞い上がった埃がおさまってくると一人の男が言った。「あれ？・・・いねーぞ！？」
それを聞いた一同はざわめき始める。
そんな中、テーブルの下を覗き込んだショウは突然引っ張り込まれた。
「うわぁっ！！？」皆が一斉にそちらを向く。
テーブルの下で何かが折れる鈍い音がした。

マシンガンを持つ数人がテーブルの下を撃つ・・・皆の意識は下に集中していた。
ドンッ！上から聞こえた新しい銃声で、オーノの横にいた男の頭が吹き飛んだ。「ひぃぃっ！！」
テーブルの上のマコトは両手に拳銃を持ち、立て続けに引き金を引いた。
「ぎゃぁ！」「うぐっ・・・！！」「！！！」
胸や頭に銃弾を受け、さらに３人が倒れる。
「くそがぁぁぁぁぁぁ！！！！！」「うぉぉぉぉぉぉぉ！！！！！」
男たちは我を失い、ひたすら撃ちまくった。
中には味方の銃弾に倒れる者もいたが、もう誰も自分の事しか考えていない。
その銃弾の嵐の中、一人ずつ確実に殺していく。
ある者は首を折られ、ある者は脳天に風穴が開いた。
５分もしないうちに辺りは再び静まり返った。
テーブルの周りには９つの死体が転がっている。
「・・・・・！！」
部屋の隅で一人、うずくまって震えているのはオーノだった。
「残ったのはお前だけだ・・・」
マコトは銃を捨て、オーノに歩み寄る。
「ひ、ひぃぃ！・・・助けてくれ・・・」
半泣きですがりつくオーノの胸座を掴み、窓の前まで歩く。
外にはサイレンを鳴らし、数台のパトカーが集まってきている。
「これで・・・やっと・・・・・」
そう言って上を向き、目を閉じるマコトの身体は少し震えていた。
「アイの所へ逝ける・・・」
再び目をあけると、オーノを窓から投げ捨てた。
「あああぁぁぁ・・・・・！！」オーノは頭から地面に激突し、息絶えた。
その周りでは警官達が騒いでいる。
間もなく部屋のドアが開き、大勢の警察官がなだれ込んできた。
「うごくな！！」指揮をとるのはマリリン刑事だ。
「・・・・・」マコトは黙って手を上げる―
――が、警察の一瞬の隙を突いて後ろの窓に走った。
「動くなと・・・！！」
慌てて発砲する警察官たちだったが、すでにマコトは窓から飛び降りていた。
「ちきしょう！追え！追えぇっ!!」

地上に待機していた警官達がマコトに向けて発砲する。その後ろでは私服姿のナッティ警部が
心配そうに様子を窺っていたが、走り去るマコトを見ると、自分の車へ急いだ。
何発かの銃弾を受けながら、マコトは精一杯走った。
警官達もパトカーで後を追う。
裏通りへ続く細い路地をぬけた所に、一台の車がドアを空けて待っていた。
「おい！こっちだ！！」
運転席から身を乗り出して叫ぶのは、謹慎中のナッティ警部だった。
マコトが乗り込むとナッティは直ぐに車を走らせた。
車の中、ナッティがマコトに話し掛ける。
「あんた、もしかして・・・一年前に殺されたマコトってやつか・・・？」
マコトは黙ったままだ。
「あの事件な・・・犯人の目星はついてたんだ・・・俺の中ではな・・・。」
それを聞き、マコトはようやく口を開いた。
「・・・なぜ・・・放って置く？」
「証拠がないんだよ・・・目撃者もいない・・・。」
町の外れまで来るとナッティは車を停め、煙草に火をつけた。
「上の人間も消極的でな・・・俺の意見なんて聞いちゃくれない・・・。」
二人は車の外へ出て話を続けた。
「上は頼りにならないってんで、俺一人で捜査を始めたら・・・このザマさ。」
少し嘘が入った。
ナッティは煙を吐くと、手帳から一枚の写真を出してマコトに見せた。
そこには若い頃のナッティと１５〜６歳くらいの女の子が映っていた。
「・・・これは？」マコトが訊く。
「妹だ・・・俺とは腹違いでな、歳は２０も離れていた・・・妹と言うより、娘って感じだった。」
ナッティは懐かしそうに話した。

「・・・なぜ・・・過去形なんだ・・・？」マコトは更に訊いた。
「・・・殺されたんだよ。あいつらに・・・あんたらのようにね・・・。」
ナッティは煙草を捨て、火を消した。
「６年前の夜、妹から”彼氏の家に泊まる”と連絡があった。今思えばあの時、許さずに迎えに行って
れば・・・てね。次の朝通報を受けて駆けつけたら・・・」
そこまで言うとナッティは下を向いて首を振った。
その時、直ぐ近くで銃声がした。
「！！？」２人がそちらを向くと、そこには銃を持ったジョニーが立っていた。
その足元には傷付いたカラスが落ちている。
「クックック・・・やってくれたなぁ・・・カラス男が・・・」
ジョニーは傷ついたカラスを見ながら言う。
「・・・おまえの力の元はこいつだろ？こいつさえいなくなれば・・・おまえはタダの死人だ・・・
違うか?」
マコトは黙ったままだ。（実はマコトもそれを知らなかった。）
「死人はさっさと・・・墓に戻れ！！」そう叫び、ジョニーは引き金を引いた。
「！！！！！」
マコトの目の前で、ナッティがゆっくりと崩れ落ちる。
「チッ！」ジョニーが再び引き金を引こうとした時、すでにマコトは動いていた。
宙返りでジョニーの背後に回ると、銃を叩き落し、側頭部めがけ回し蹴りを放った。
「グッ！！」うめき声とともに倒れるジョニー。
マコトは素早く銃を拾い、ジョニーの後頭部めがけ全弾撃ち込んだ。
ジョニーの頭部にすでに原型はなく、首から上は肉片になっていた。

ナッティを抱き起こすマコト。「・・・なぜ庇った・・・？」
口から血を吐き、ナッティは苦しそうに答える。
「・・・仇を討てる奴がいなくなっちまうだろ・・・」
銃声を聞きつけたパトカーのサイレンが聞こえ始める。
「・・・仇は討てた・・・ありがとよ・・・・・これで妹の所にいけるよ・・・・・。」
そう言って、ナッティは目を閉じた。
マコトは無言で立ち上がると、傷ついたカラスを拾い上げ、その場を後にする。
「ナッティ警部！！警部！！！・・・おい！救急車を早く！！！」
遠くでマリリン刑事の声が聞こえていた。

深夜の墓地――マコトは自分の墓石にもたれかかり、目を閉じていた。
ふと、辺りが明るくなったように感じた。目をあけると、光の中やさしく微笑むアイの姿がある。
「・・・アイ・・・」
アイは手を伸ばし、マコトを優しく包み込む。その胸に顔を埋めるマコトの顔は、とても安らかだった。

そのまま光の中に消えていく二人―――
その向こうではゆっくりと、朝陽が登りはじめていた。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　完