モーニングクエスト�U

「ちょっと、大丈夫ですかー？」
ナツミとイイダも心配そうな表情で駆け寄って来てナカザワの顔を覗き込む
ナツミが何かを感じ取れたその目からは、何も感じることが出来ない

ヤグチとナツミは、顔を見合わせおどおどするばかり
イイダも何をしたら良いのか、解らなかったが、とりあえず
「もしもーし」声を掛けながらナカザワの頬を『パチパチ』と叩いた

（・・！？）
ナカザワの目からキラキラ光る宝石のような物が落ちるのが見えた
（なんだろう？）その宝石のような物を拾ってみると、それはコンタクトレンズだった

しかし、その色は青く輝いていた
「うわ〜きれい〜！」しばらくそのコンタクトに見とれていると
「それはな、魅惑のコンタクトや！」
どこからともなく声が聞こえてくる

「だれ！」と振り向くとそこには見知らぬ人物がたっていた
とっさに構えを取る３人に、両手を上げて敵対する意思が無いとアピールすると
「ちょっとまち〜や！あぶないやんか！」といいながら
振り上げた両手を前に出し、落ち着いて下さいと言わんばかりに手首を左右にふる

「あなたはだれ！」構えたままイイダが問いかける
「あれ〜、みっちゃん」
そう答えたのはナカザワだった

２週間ほど前ナカザワは、お茶を買いに隣町まで来ていた

店に立ち寄り
「おばちゃんお茶葉ちょうだい」
「あらユウちゃんいらっしゃい、ごめんね今きらしてるの
最近またモンスターが出だしてね、物資が手に入りにくくなったのよ
城下町なら有ると思うのだけど・・・」

『モンスター』その言葉を聞いた時、（こわ！とっとと帰ろ）と思ったが
おばちゃん曰く、真夜中に雑魚モンスターが出る程度だそうだ


（ちょっと遠いけど・・・行ってみようかな、都会に行くのも久しぶりやし）

（へーやっぱ都会には男前が多いな、目の保養になるわ〜）
目的のお茶も購入し、ちょっとした観光気分で町をうろつくと
最近新しくオープンしたらしい酒場を見つけた

（へーこんなん出来たんや）と思い、ちょっと覗いてみると
そこにはナカザワ好みの、ちょっといかした青年が働いていた

（うわーめっちゃ男前やな・・・ヤグチ待たせとるけど、ちょっとくらい
バチあたらんやろ）
（それにしても男前やな〜、お近づきになられへんかな〜）
など考えながらその店に入っていった

「いらっしゃいませ！」
店内に威勢の良い声が響く

「お嬢様いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか」
その男前がオーダーを取りにきて、ニコッと白い歯を見せる
（お、お、お嬢様やて〜、キャーそんなん言われたん何年ぶりやろ）
年がいにもなく頬を赤らめていた

「おビールを・・」
少しでも上品に見えるようにハンカチを持って、口元を隠すように言うナカザワ
「かしこまりました」
男前は、かるく会釈をしてカウンターのほうへ歩いていった

（この店ちょくちょく通わなあかんなー、そしたらあの人が
声を掛けてきて、あんな事やこんな事にならんかなー）

ヤグチの事などすっかり忘れて、妄想にふけるナカザワ
外はすっかり夕暮れ、西にかたむいた太陽が入道雲をオレンジ色に染めていた

そんな時店内に、血相をかえてあわだだしく戦士らしき人が走り込んできた
テーブルに置かれているコップに水挿しから水を注ぎ
その水を一気に飲み干すと

「大変だ！！モンスターが攻めてきた！！」
「！！」
店内が騒々しくなる

「この町には自衛団がいるので、雑魚モンスター程度では何も心配することはない」
店の店主がみんなを落ち着かそうとしている

ナカザワも落ち着こうとビールをいっきに煽り深呼吸をする
ふと男前の事が気になり、そちらに視線を送ると
店の片隅で膝をかかえ「ママー・・・」とつぶやきながら『ガクガク』と
震えていた

（・・・・なんやマザコンかいな、しかも根性なしか）
さきほどまでの自分の妄想を思いうかべて、ブルっと身震いをした

「おっちゃん　ピールおかわり！あとすなずり」
上品そうな姿はどこへやら・・・・そこには酒豪ナカザワユウコの姿があった


モンスター襲撃の危機も、待ち人ヤグチの事もおかまいなく
失恋したナカザワさんは飲まずにはいられなかった