もう24時間テレビの季節なわけだが

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70ルー
とりあえず、お金があったので、ご飯を食べて、その後飯田のマンションへ向かった。
飯田は都内のマンションで一人暮らしをしている。6時半には飯田の家に着き、5人で松浦を待った。
全員が床に座ると、待っていたかのように思い空気が立ち込めた。
5人はその空気を針でつつくように、どうでもいい話をちょっとしてはまた沈黙に戻る、と言う循環を何度か繰り返した。

その中で高橋は思い出していた。
最初、高橋と吉澤はほとんど喋らず、必要な会話しかしなかった。ほかの先輩達が優しくしてくれても、吉澤だけはあまり近づこうとはしてくれなかった。
もしかしたら自分は嫌われているんじゃないか、そう思い始めた頃の出来事だった。

偶然、2人ともひまわりの花が大好きだと言うことがわかって意気投合した。そこから、昔の思い出話に広がり、時間がたつのを忘れて喋った。
その日を境に吉澤は5期メンバーともよく喋るようになり、学校の友達なんかよりずっと大切な人になっていた。
だから、なんとしても吉澤さんを戻したかった。また前のように喋りたかった。
71ルー:02/07/11 19:19 ID:qIvHOP7r
7時40分。何の前触れも無くチャイムが鳴った。全員はっとなって玄関を見る。飯田が立ち上がって玄関まで行き、声をかける
「どちらさまですか?」相手はわかっていたが、いつものとおり言ってみた。

「松浦です。」当たり前の返事が返ってくる。
ドアを開け、松浦を招き入れる。松浦は、部屋の中の沈んだ雰囲気が気になったのかそわそわしている。

「あのさ、いきなり本題なんだけど、圭織の間違いかもしれないけどさ、松浦が未来から来たってホントなの?」
突然、松浦の顔色が変わった。
「なんでそれを知っている・・・」

松浦はいとも簡単に認めてみせた。
「別に私達はあなたの本性を知ったからどうしようと言うわけじゃなくて、1つだけ協力して欲しいことかあるの。」
「何を頼まれるかは知らないけど断る。面倒はごめんだ。それに、悪いけど私はこの世の中で、私以外の人間は信じないことにしているんだ。」

あまりの豹変振りに紺野も高橋も泣き出してしまった。
「まってよ。話だけでも聞いてよ。」そう言って飯田は今まで体験した出来事を全て松浦に伝えた。
72ルー:02/07/11 19:22 ID:qIvHOP7r
「そうか。目的はわかった。」
松浦はそういうと、右手でフッと空を切った。すると小さなビンが松浦の手から現れる。
「これを飲めば直るよ。」
いきなりの言葉に、しばらく5人ともリアクションできなかった。

「え、じゃあ・・・」
「まってよ。ただで上げるとは言ってないでしょ」
松浦はそう言って病的なきみの悪い笑みを浮かべた。
「どういうことよ」

「わたしが元いた時代はすごかった。ロボットが何でもやってくれて、金さえあればベットに寝たままだって生きていけたよ。食事、洗濯、掃除、教育・・・。
今みたいに人と人がかかわることがほとんど無かった。人は平気で人を裏切り、隣の災難なんか少しも気にしない。そんな環境で生きてきたから、私は人を信じることができない。
・・・なあ、石川。あんた吉澤のこと好きなんだよな。」
「はい・・・。」

突然の自分への質問に戸惑いながらも、石川ははっきりと答えを口にした。それを聞いて満足そうに松浦は微笑み、何かを石川に投げて渡した。
「なら、そのナイフで自分の腹、刺してくれよ。それで信じてやる。」
「な、ち、ちょっと何いってんのよ!」
「そうですよ!石川先輩、こんな奴の言うこと聞かないで下さいよ!」

矢口と紺野が叫んだ。それを見て、松浦は笑っている。
「ごめん、みんな・・・」
「え?」
石川は手の中のナイフを見ながら呟いた。綺麗な涙が頬を伝っている。

「私、よっすぃーを助けたいの・・・。」
「やめてよ梨華ちゃん!!」
「そんな!だめですよ!」

高橋も紺野も矢口も泣き叫んでいる。石川はそれを無視して、深呼吸を1つした。しかし・・・
「あっ!」
石川の隙を突いて、飯田がナイフを奪った。

「飯田さん!」
高橋は安心の声を上げた。
「飯田さん!何で邪魔するんですか!返して!じゃないとよっすぃーが・・」
すでに石川はパニックになっていた。そんな石川に向けて飯田は呟いた。
「・・・ごめんね・・・。」
73ルー:02/07/11 19:23 ID:qIvHOP7r
石川は意味がわからず飯田を見返した。すると飯田は、ナイフを振り上げ、力をこめて、祈りを込めてその刃を自分の腹につきたてた。
しかし、悲鳴をあげたのは松浦のほうだった。腹を抱えてうずくまった。

「な、なんで・・・」
5人は意味がわからずただ呆然とするだけだった。しかし実際、飯田が自分の腹につきたてたはずのナイフは、飯田の手の中から松浦の腹に移動していた。
「ふっ・・・、わ、私の負けだ。」
松浦の腹から水漏れしたホースのように血が流れ出している。けれど松浦は言葉を続けた。

「これは、私の賭けだったんだ・・・。もしあんた達が自分の命を惜しんでたら私は全員殺してたよ・・・。けれど、最後にこんな素晴らしいものが見れて良かった・・・。
やっぱり、人間はすごいな。なんか、長いこと探してたものをようやく見つけた、そんな気分だよ・・・。
飯田、お前の手の中に薬がある。それで吉澤を戻してやれ・・・」
飯田はただ泣きながら頷くしかできなかった。そして、まるで砂が落ちていくように、松浦の体は消えていった。
74ルー:02/07/11 19:23 ID:qIvHOP7r
5人は、それから急いで例の洞窟に戻り、薬を吉澤に飲ませた。吉澤の記憶は完全に戻った。
そして、洞窟の入り口まで戻って来た。
75ルー:02/07/11 19:24 ID:qIvHOP7r
「ここをでたら、今までのこと忘れちゃうんだよね・・・。」石川はいつにもまして悲しそうに呟く。
「まあね。いろいろあったもんね。」矢口は元気そうだ。
「私せっかく思い出したのにまたすぐ忘れちゃうんだよね。」吉澤は少しおどけてみせた。

「でも、いろんなこと学んだよ・・・」飯田は頷きながら言った。
「でもやっぱり忘れたくないな・・・」高橋も寂しそうだ。
「でも、大事なことは、忘れない気がする。」紺野は前を見ててった。

「大事なこと?」矢口はわけがわからず聞いた。
「いや、なんか人を信じることとか、愛することって大切なんだなって。
そういうことは、絶対、今回のことで心に染み付いた気がします。」
「そだね・・・」矢口は、聞いてるだけでも恥ずかしい台詞を真顔で言う紺野に少しだけ感心しながら前を見る。


「さあ・・・、行こうか。」飯田がみんなを見わたして言った。
5人は、いっせいに歩き出した。



【探し物】 完