92 :
一:
ニダーナが取り出したのは指輪だった。不恰好に大きな水晶
玉がついている。
「これは魔力を測る玉なんだ。これを二人につけてほしい。それ
で終わりだよ」
「さあ、そういうことだから、二人ともいいね」
副校長が指輪に視線を向けたまま言った。
「はい」
カライが素直に答えたので、ノゾミは口を開けたまま彼を見た。
「ちょっと、カライ!」
「それじゃあ、ノゾミ君からつけてみようか」
「え、あたしからですか。カライ君からで……わ、わ、ちょっとまっ
てください」
指輪をつけるというだけのことであるが、この世には呪いという
ものもある。しかし、校長たちを突き飛ばすまでの勇気はなかっ
た。指輪がはめられた。部屋にいる五人の視線が彼女の指に集
まった。彼女自身には何の変化もない。が、やがて、水晶玉の中
心に砂粒ほどの大きさの真っ赤な光が現れた。
「何これ?」
93 :
一:02/07/13 13:03 ID:iTsXMkKJ
ノゾミはその美しさに見とれた。ところが、しばらくすると光はより大きく強くなり、
一瞬として目を開けていられないくらいのまぶしさになった。暗かった校長室の全
体が赤く照らし出された。ノゾミは悲鳴を上げていた。すると、ニダーナが彼女の
手を握り、そっと指輪を外した。
「す、すごい力だ。マリッペ様のおっしゃったとおりだ」
ニダーナが苦しそうにつぶやいた。ノゾミは椅子からずり落ちるような姿勢のまま
動かなかった。
「ニダーナ先生、これは」
校長は赤ら顔をさらに赤くしながら、ニダーナの顔を覗き込んだ。
「ええ、これは火の力です」
「火」
「火?」
副校長に続いて、ノゾミが繰り返した。
「つまり、ノゾミ君は火の属性だということです」
「火の属性……」
副校長は興奮のあまり人の言葉を繰り返すことしか出来なくなっているらしい。
しかし、副校長が言葉を発した後、校長もニダーナもカライの指を見つめていて会
話を止めてしまった。
ニダーナはもどかしそうにカライの指に指輪をはめた。カライの指輪からは青白
い光が放たれた。ノゾミよりは少し弱い光だった。