1 :
名無し募集中。。。:
(ё)私をコネと呼ぶな。
2 :
2:02/05/17 16:44 ID:ZtVmNARc
2get
よっ!24世紀の美少女!
4 :
大江:02/05/17 16:52 ID:V1GAj8KH
さがったら小説書くから保全しといて
5 :
:02/05/17 17:16 ID:/dSCqvsE
(ё)シィィィィィーーザァァァーーーーーー!!!
(ё)今も我が心に・・・
保全しとくから小説きぼんです。
7 :
森:02/05/19 20:23 ID:jMP5YAJ8
横浜12連敗
誰か止めてくれ
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*・゜゚・*:.。. .・
ニンゲンッテ( ^▽^ )タノシイネ
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*・゜゚・*:.。. .。.:
10 :
乳:02/05/20 04:48 ID:xKCwOFK2
11 :
乳:02/05/21 01:46 ID:o0XQ6ztO
さがったらオナニーするから保全しといて
一三ミュージック
↓
マジに小説やっていいですか?
14 :
大江:02/05/21 20:14 ID:vZubgdEv
>>13 正直、そう言われんのを待ってた気もする。
頑張ってくれ!
>>14や他のかた
んじゃ、書かせてもらいます
といっても初めてなんであまり期待なさらずに…
― たこやき物語 ―
ここは とある公園。
その公園の片隅に、小さな出店が建っている。
その出店の のれんにはこう書かれている。
『たこやき』と。
「あ〜、今日も全然売れへん…」
言っても仕方ないことだが、ついつい言葉に出してしまうほど売上は悪かった。
朝にいつもここを散歩している人が買っていってからは、全然売れていない。
「ウチにはたこやき屋はむいてないんやろか…」
私の名前は平家みちよ。本業は歌手だ。
でも仕事が少なくて暇なので、こうしてたこやき屋などをやっている
「でもこれやったら、暇なのにはかわりないやん…。はぁ…」
「たこやき一つ くださ〜い」
「…あっ、はーい」
どうやらぼーっとしていたらしい。気がつくと夕方になっていた。
「500円になります…」
と、たこやきを差し出したがそこに相手はいない。
「?」
私は首をひねってあたりを見渡した。
するとたこやきを焼く鉄板の間から、ちょこんとお団子頭が見えた。
首を伸ばして見れば、
そこにはポケットの中から小銭を探している女の子が立っている。
(ちっちゃい子やな〜)
その子はポケットの中からやっとのことで100円玉を五枚見つけ出し、
私のほうにさしだした。
「はい、500円」
「まいどー。お嬢ちゃん、あっついから気をつけてな」
その女の子はこくんとうなづいて、たこやきを受け取り、駆け出した。
(そんなに速く走って、あぶないやん…)
と私が思うや否や、その子はすってんころりんと、転んだ。
たこやきはパックに入っていたので大丈夫だったが、
女の子のほうは痛かったらしく、その場で泣き始めた。
(あちゃ〜)
私は放っておくわけにもいかず、その子のほうへ駆け寄った。
「だいじょうぶ?」
と女の子に話しかけるが、女の子はそれに答えず、泣きじゃくっている。
…見たところ少しひざがすりむけているくらいで、
たいしたけがはしていないようだ。
(う〜ん、困ったなあ…。ほっとくわけにもいかんし…)
とりあえず、私は女の子を立たせるとほこりをほろってあげた。
(さて、どうしよ…)
私は少し考えた。
そして、けがもたいしたことはないようなので、このまま家に帰そうと決めた。
「一人でお家に帰れる?」
そう聞くと、女の子は首を横に振る。
女の子の言うことには、お母さんといっしょにここまで来たらしい。
「…んじゃ、いっしょにお母さんのところまで行こうか?」
女の子はその質問には首を縦に振った。
女の子と手をつないで歩いていると、急に横から近づいてくる人影が見えた。
その人は私のそばまで来ると、女の子を引っ張ってこう言った。
「うちの子をどこに連れてく気なの!」
どうやら私を誘拐犯だとまちがえたらしい。
「い、いや、あの…」
とっさに答えられず、まごまごしていると、
その母親らしき人はヒステリックに叫びだした。
「うちの子が誘拐されちゃう! だれかきて〜!」
私はその声を聞くとその場から逃げ出した。
冷静に考えれば、こちらは悪いことは何もしていない。
だから、その場で誤解を解けばよかったのだが、
まったく予期していなかった状況に我を忘れてしまった。
「はぁ…。なにやってんやろ…」
私はぜいぜいと肩で息をしながら、一人ため息をついた。
あたりは太陽が沈み、暗くなり始めていた…
…とまあこんな感じです
ゆるゆると更新していくつもりなのであまり期待なさらずに…
23 :
名無し新垣:02/05/23 17:22 ID:H1CRYj2l
平家がたこ焼き屋のバイト…リアルだねw
でと落ちしないくらいの更新で頑張ってください。
>>23 >でと落ちしないくらいの更新で頑張ってください。
そうですねぇ… でも今の圧縮ペースだと二日放っておくと危ないですよね…
となると更新は一日おきにしないと… うわー、そうなったら全然ゆるゆるじゃない(w
…っていうかリアル工房の私には無理っぽい…
更新します
「ったく、昨日はえらい目にあったなぁ…」
言っても仕方のないことだが、
ついつい言葉に出してしまうほど昨日はついていなかった。
誘拐犯に間違えられた後、落ちていたガムは踏んづけるわ、
いきなり犬にほえられて車道に飛び出し、あぶなくひかれそうになるわと、
とにかくさんざんだった。
「しかも、今日も客は来ないし…。やっぱ不況の影響かなぁ…」
自分の曲が売れないのも…とも考えたが、悲しくなるのでやめた。
「すいませ〜ん、たこやきください」
「あっ、すいません」
いつのまにか呆けていたらしい。もう日は真上まで昇り、さんさんと照っていた。
「500円になります…」
とたこやきを差し出して、相手の顔を見た瞬間、私はあっと驚いた。
「昨日はすいません。転んだ娘といっしょに私を捜してくれてたんですね。
てっきり娘が誘拐されそうになって泣いているんだと思ってしまって…」
その人は昨日の女性だった。
「いえいえ。娘さんが見知らぬ人に連れられて泣いていたら、
親としては心配しますよ…」
私は本当に申し訳なさそうにしている女性にそう声をかけた。
「もう、子供のことになると心配で心配で…。本当にすいませんでした」
そういう女性の表情は切実だった。
「はぁ…。大変なんですね、子育てって」
「そうなんですよ…。しかも最近、娘の様子がちょっとおかしくて、
いったいどうしたのかと…って、こんな話あなたにしても迷惑よね…。ごめんなさい」
…どうやら、私はいろんなことに首を突っ込みたがる性格らしい。
「いいえ、私でよければそのお話聞かせてください」
と、身を乗り出した。
…女性の話によるとこういうことのようだ。
昨日たこやきを買いに来た子供、亜依ちゃんは、いつもは元気いっぱいらしい。
しかし、一ヶ月ほど前から、学校から帰るとすぐ部屋に閉じこもるようになり、
ご飯も食べる量が減ってきているのだという。
「…それは心配ですよねぇ…」
私は自分も親だったら同じ気分だろうと思った。
「そうでしょ…。でも直接娘に聞くのは気が引けて…。どうにかならないかしら…」
「原因がわからないとどうしようもありませんよねぇ…。
なにか心当たりはありませんか?」
私は聞く。
「う〜ん…心当たりねぇ…。
そういえばこの頃学校に行くときため息をついてるような…」
その言葉を聞いて、私の脳裏に嫌な考えがよぎった。
「もしかして亜依ちゃん、学校でいじめられてるんじゃ…」
その言葉を聞いて、女性は顔色を変えた。
「そ、そんな…! うちの子に限って…。
第一、そうだったらきっと私に相談しますよ」
「でも、いじめっていうのはなにから起こるかわかりませんし、
それにいじめられてる子はそれを知られたくなくて、
なかなか相談できないっていいますし…」
そこまで言って私は言い過ぎたと感じた。
「あっ、でもあくまでその可能性もないわけではない、ってだけですよ…」
「そうはいっても心配だわ…。ああどうしましょう…」
私と女性はしばし黙り込んだ。そして私はこう言った。
「とりあえず、亜依ちゃんの服や持ち物が破れてたり、
なくなってたりしないか調べてみたらどうです?
異状がなければ多分いじめではないでしょうし、
異状があれば、学校などに相談するべきだと思います」
「そうね…。そうしてみるわ…。
…なんかごめんなさいね。見知らぬ人のために…」
女性は申し訳なさそうに言った。
「いえいえ。ここであったもなにかの縁ですよ。お気になさらずに」
私はそう言って微笑んだ。
「あっ、いけない、買い物の途中だったんだわ! それじゃ、またいつか」
そう言って女性は去っていった。
今日は昼からはなぜか店が繁盛し、てんてこまいの忙しさになった。
だが、私はたこやきのタネを鉄板に流し込みながらも、
あの親子のことを考えていた。
(なんにもなければいいなぁ…。でもそうやったら、
なんで亜依ちゃん急に元気がなくなったんやろ?)
星が瞬くころになると、客足は途切れてきた。
私はそろそろ閉店の時間かな、と思うと、手早く店の後片付けをし、
閉店のふだを掛ける。
夜の寒さがきびしくなろうとする町の中、私は家路についた。
ところで
>>23さんのレスで思ったんですけど、『dat』ってなんて読むんでしょう?
私はずっと『だっと』だと思ってたんですけど…
一日ぐらいしたら、保全がわりに誰か教えてくれませんかねぇ…
30 :
23:02/05/24 19:38 ID:tZ8Kv4FA
ごめん、実は知らない。
意味は伝わるだろうと思って適当に言ってしまいました。
ゆるゆるじゃない更新マンセーです。
眠い…
更新します
…今日は昨日の忙しさからくる疲れも手伝って、
いつもより遅めに店に向かった。
少しの繁盛でも次の日は肩が重く、腕には力が入らない。
このことは日頃いかにそこの筋肉を使ってないか、
つまり日頃いかに客が入っていないかを物語っていた。
…ハァ…
店に着くと、そこには見慣れた人影があった。
「あっ、おはようございます」
それはあの女性だった。
「昨日、それとなく亜依の持ち物や服を調べてみたのよ。
でも別になくなってたり、いたずらされてたりする物はなかったわ。
だから多分うちの子に元気が無くなったのはいじめが原因じゃないのよ!」
その表情は、娘がいじめにあってなくてよかった、という安堵と、
では何が原因なんだろう? という困惑が半々だった。
「う〜ん、そうなると急に亜依ちゃんの元気が無くなった原因は
一体何なんでしょう…?
学校に行くときため息をつくんですよねぇ…。
もしかして勉強がわからなくなったとか?」
「それはないわ。だってあの子は今でも90点とかのテストを見せてくるもの」
「じゃあ体育で逆上がりができなくてからかわれたり、
歌が音痴で笑われたりとかは?」
「自慢じゃないけど亜依はそういうことは一通りできるし、
第一そんなことを気にする子でもないわ」
「そうですか…。こうなると私にはお手上げですかね…。
…なんか役に立てないですいません」
思いつくことは一通り挙げた私は、どれもありえないことを知ると、
がっくりと肩を落とし、うなだれた。
「そんな風に気を落とさないで。私からすれば、
あなたに相談できただけで随分と楽になりましたもの。
…今日、亜依に直接聞いてみます。
本人の口からは言いづらいことかもしれませんけど、
悩みは誰かに話した方が楽になるって今わかりましたから。
たこやき屋で忙しい中、私たちのために本当にありがとね」
そう言うと、女性はにこやかに立ち去っていった。
昼過ぎになると公園は子供たちでにぎわい始める。
私は、昨日とは打って変って閑古鳥の鳴いている店の中から、
ぼんやりとその無邪気に遊ぶ子供たちを見ていた。
と、その子供の中に私の目を引きつける子がいた。
(…あれ、亜依ちゃんかな?)
一昨日から話題の中心になっている本人がそこにいた。
亜依ちゃんは他の子達と一緒になって楽しそうに遊んでいた。
胸についている名札が一緒のことから、同じ学校の仲間なのだろう。
その様子からは亜依ちゃんがいじめられている、などということは読み取れず、
むしろ亜依ちゃんがグループを引っ張っているような感じさえ受けた。
(やっぱり、原因はいじめや友人関係やないんやなぁ…)
私は先ほどの会話を思い出し、ぼーっとそんなことを思った。
日が暮れてくると、子供たちはぽつぽつと帰り始めた。
「ごはんよー」などという母らしきの声を聞いて、仲間にあいさつをして去る子やら、
時計を見て「塾だから…」などと言う子やら、人それぞれである。
私はふと亜依ちゃんの方に目を向けた。するとそこにはある光景が広がっていた。
亜依ちゃんが寂しそうな目で仲間が帰っていくのを見ている。
その視線の先には、息子の手を引いて歩いている父親がいた。
その子が、「ばいば〜い!」と手を振ると、
亜依ちゃんは「ばいばい…」と元気なく手を振り返した。
多分、この事は亜依ちゃんの元気が無くなった原因と関係があるのだろう。
でも私には亜依ちゃんのお母さんに連絡をとる方法は無い。
あの人は、今夜亜依ちゃんに悩みごとはないか直接聞く、と言っていた。
私には亜依ちゃんがお母さんに悩みを素直に打ち明けること、
そしてお母さんと一緒にそれを解決し、
もとの元気のいい亜依ちゃんになってくれることを願うしかなかった。
36 :
通りすがり:02/05/26 07:04 ID:Kbui/Lpg
亜依ちゃんど〜なっちゃうんだろぅ・・・
37 :
:02/05/26 22:55 ID:fBJu4d24
>>36 こんなスレでも通り過ぎてくれる人がいるんですねぇ…
うれしいことです
更新します
今日の目覚めもあまりいいものではなかった。
昨日はあの家族のことを考えていてあまり眠れなかったからだ。
私は寝惚けまなこで身支度を済ませると、店のある公園へと向かった。
公園に着くと一人の女性がベンチでうなだれていた。
…亜依ちゃんのお母さんである。
私はどうしたのかと、そのベンチに駆け寄った。
女性は近づいてくるのが私だと気付くと顔をあげる。
その顔には、昨日の顔にはない疲れがありありと見て取れた。
「昨日、亜依と話をしようと部屋に入ろうとしたら
ものすごい勢いで『入らないで!』って言われたの。
『お母さん、亜依と話がしたいの、入れてちょうだい』って言っても、
『いいから入らないで!』の一点張りで…。
しかも今日の朝になったらこんな手紙が…」
その手にはノートの切れ端が握られていた。そこにはこう書かれている。
『学校に行きます。
朝ごはんはいりません。
亜依 』
「学校には電話したんだけど、
亜依はちゃんと来てて特に変わった様子もない、って言われて。
仕事で忙しい夫に余計な心配は掛けられないし… 本当にどうしたら…」
その話を聞きながら、私は昨日の光景を思い出していた。
「…今の話から、なんとなく
亜依ちゃんの元気が無くなった原因がわかった気がします」
「えっ!? 本当ですか?」
女性の表情からは驚きや期待、不安などの様々な思いが読み取れた。
「その前にちょっと立ち入ったことを聞くかもしれませんが
今、旦那さんは家を空けていらっしゃるんじゃないでしょうか?」
「あ、はい、仕事で単身赴任していて… でもどうしてそれを?」
その言葉を聞いて、私は考えが一つにまとまった。
「旦那さんが単身赴任なさったのは一ヶ月ぐらい前じゃないですか?」
「ええ、そうですけど… それってもしかして…」
女性も私の言わんとすることがうすうすわかったようだった。
「多分、亜依ちゃんの元気が無くなった原因は父親が家にいないことだと思います」
私はそう言った。
「で、でも夫は仕事熱心だから、
いつも朝早くに出勤して夜遅くまで仕事をしてて…
亜依にとっては夫が単身赴任してても、そう変わらない気が…」
「そうだったんですか…。
じゃあ亜依ちゃんはずっと寂しかったんじゃないでしょうか?
でもその頃は直接顔をあわせることは無くとも、
一緒の空間で暮らしていたんですよね?
灰皿に残っている灰とか、充電中の電気かみそりとか…
そんなところから父親の存在は感じられたんじゃないでしょうか。
でも、単身赴任してからは、そんな微かな父の存在感も無くなって…。
…旦那さん、亜依ちゃんと電話でお話とかしてますか?」
「いえ…。むこうも仕事で忙しいらしく、電話がかかってくるのは夜遅くで…」
「やっぱり子供が元気に育つには両親の存在が必要なんだと思います。
世の中には仕事よりも大切なことがあるんじゃないでしょうか?」
そこまで言って、私は女性が涙を流しているのに気がついた。
「…仕方が無かったの…。
うちはもとからあまり裕福とはいえない家庭だったのよ。
だから亜依が生まれた時に、
夫は亜依に不自由な思いをさせないように仕事をがんばろう、
私は夫の分も亜依を大切に育てよう、って約束して…」
…私は何も知らないで偉そうなことを言ったのを後悔した。
子供の幸せを願わない親はいない。
この二人だって亜依ちゃんを幸せにしようと頑張っていたのだ。
そんな人を私は知った風なことを言って傷つけてしまった。
「でも、あなたの言うことももっともだわ…。
子供にとって一番必要なのは物に不自由しない暮らしじゃなくて、
両親の存在なのかも知れないわね…」
私は相談にのっているつもりで、自己満足していただけかもしれない。
亜依ちゃんの両親は二人とも亜依ちゃんをとても愛している。
今は少しそれが噛み合っていなかっただけで、
それは時間とともに解決していたんじゃないだろうか。
でも私が余計なちょっかいを出したから、
昨日、亜依ちゃんとお母さんの間でいさかいが起こってしまった。
もしそれで亜依ちゃんと両親の関係が崩れてしまったら、
それは明らかに私の責任だろう。
「すいません…。私が首を突っ込んだばっかりに、
ますます問題を複雑にしてしまって…」
私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「いいえ。話を持ちかけたのは私ですもの。
それに亜依に元気が無い理由を直接聞いてみようと決めたのも私ですし…。
…これからどうするかは夫と電話で話し合ってみます。
すぐには無理かもしれませんけど、
亜依にとって一番いいことが何なのか、その答えを見つけようと思います」
私は「そうですか…」としか言えなかった。
女性は帰りぎわにたこやきを注文した。
亜依ちゃんはこのたこやきを食べていたとき、
とても幸せそうな表情をしていたという。
私は一つ一つのたこやきを丁寧に焼くと
女性に手渡した。
今日は午後からは雷雨になった。
こんな中わざわざたこやきを買いに来る人もいなかろうと、
私は少し早めに店を閉める。
雨がやむまで帰るのは待とうかとも思ったが、
当分雨はやみそうに無いので、私はかさを取り出し帰路についた。
…家に着くと、知らない間に雨はあがっていた。
レス数も600に近づき、
私にはdat落ちが恐ろしく感じられてきた今日この頃、
皆さんはいかがお過ごしでございましょうか?
更新します
あの女性と最後に会ってから一週間近くがたつ。
相変わらず店は繁盛しておらず、人の入りはまばらだった。
そんなわけで今日も私は暇を持て余している。
そんな私はただただ青い空を見、
草木がそよそよとおしゃべりをしているのを聞いていた。
「すいませ〜ん。」
その声に私は聞き覚えがあった。
声がした方を見ると、
そこには最後に会った時とは別人のような顔のあの女性と、
もう一人、見知らぬ男性が立っていた。
「私がいない間、妻の相談相手になってくれていたそうで。
本当にありがとうございました」
「いえ、私はお礼をされるような立場じゃないです。
私は余計なことを言って、かえって迷惑をかけてしまっただけですから…」
私は女性の旦那らしき人物に偽らざる本心を語った。
「いや、あなたには感謝してますよ。
おかげで亜依は笑顔を取り戻したんですから」
私はその言葉を聞いて、ぱっと心の霧が晴れた感じがした
「亜依ちゃん、元気になったんですか!」
「ええ、この人が帰ってきてから急に。
…この前たこやきを買ってから、この人に電話で全部打ち明けたんです。
そうしたらこの人がすぐさま飛んできて…。本当にびっくりしました」
「なんというか、その話を聞いたときは足元をすくわれたようでした。
亜依のために仕事をしているはずが、
いつのまにか仕事のために仕事をしていたのに気付いて、
そんな自分に唖然となって…。
気がついたら仕事そっちのけで家にむかってましたよ」
「ちょうど夫が帰ったとき亜依も帰ってきたんです。
そしたら亜依が『お父さんおかえり!』って笑顔で言うんですよ。
その言葉を聞いてなぜか目頭は熱くなって…。
そのあとここのたこやきを三人で食べたんです。
亜依は『今日はうれしいこといっぱい!』なんて言ってよろこんで食べて。
たいしたものがなくとも、子供の笑顔は見れるんだと改めて思いました」
私は一連の話を聞いてうれしくなった。
…自分のたこやきがたいしたことない、と言われたことを除いて。
「あっ、でも仕事の方は? ほっといて戻ってきたんですよね…?」
「いや〜後始末は大変でしたよ。でも私がいない間も仲間や部下がそれを
カバーしてくれたみたいで、深刻な事態にはなりませんでした。
どうやらそんな人望も認められたようで、こっちでの昇進が決定したんです」
亜依ちゃんのお父さんは照れくさそうに言った。
「これからは人に任せられることは他の人にも任せて、
家にも早く帰れるようにしたいと思います」
私はもうこの家族に心配はいらないな、と思った。
まわりを思いやれる人のまわりには、自然とそのような人が集まるらしい。
きっと亜依ちゃんもそんな思いやりのもてる子になるんだろう。
帰りに二人はたこやきを注文した。
今日、昇進祝いのささやかなパーティーを開くのだという。
私はその場に自分の作ったたこやきがあるのを光栄に思った。
心をこめて焼いたたこやきを、ちょっとだけ立派な箱に詰める。
少しだけおまけもしておいた。
二人はそれを受け取ると、最後にまたお礼を言って、
もうじき開かれるであろうパーティーの会場、三人の住む家へとむかっていった。
(家族かぁ…。ウチが今こうしていられるのも親のおかげやなぁ…)
私は三重の両親を思い出した。と同時になぜかモーニング娘。のことも思い出された。
(もしかしてあの人気は今の社会が家族の存在を求めてるから生まれたんかなぁ…)
様々な年齢の入り混じった13人にも及ぶグループ。
それはもしかしたら時代の求めた形なのかもしれない。
(…ってそれやったら男も入れなあかんなぁ…)
私はそんなとりとめのないことを考えながら、今日の日を過ごした。
…このときの私は知らない。亜衣ちゃんの元気がなかった本当の理由を。
それは数日の後に明らかになることだった。
一応次回でこのお話はおしまいの予定です
明日書ければいいんですが、
もし更新が無くて、続きが読みたければ
保全がわりに意見や感想をカキコしてもらえるとうれしいです
眠い…そろそろ寝よ…
ラストの更新します
あいかわらずその日も客の姿はほとんどなかった。
そして私はいつものように夕方までぼーっとしていた。
と、そのときふいに声が聞こえた。
「たこやき一つくださ〜い」
見るとそこには一人の男の子と背の小さい女の子…亜依ちゃんがいた。
二人はとても仲がよさそうで、手なんかつないでたりしていた。
ふと目をやると二人の首にはおそろいの首飾りがしてあった。
どうやら二人は生意気にも恋人同士らしい。
「お二人さん、お似合いのカップルやで」
そう言うと、二人は照れくさそうにお互いを見て、笑った。
そして亜依ちゃんは告白した日までのことを教えてくれた。
前から亜依ちゃんはこの子のことが気になっていたこと。
一ヶ月くらい前から、
いつでもこの子のことが思い出されてご飯もあまりのどを通らなかったこと。
そして思い切ってラブレターとプレゼントの首飾りを作り始めたこと。
出来上がりそうなときに、お母さんに見つかりそうになってすごくあせったこと。
そして次の日朝早く学校に行って、ラブレターとプレゼントを下駄箱にいれたこと。
…そして告白が見事に成功して、幸せな気分で家に戻ったこと。
私はやっと自分がとんでもない勘違いをしていたのに気がついた。
どうやら私の心配は完全に思い過ごしだったらしい。
亜依ちゃんの元気がなかったのはこの子への恋が原因だったのだ…。
二人はたこやきを受け取ると、楽しそうに駆け出していった。
「子供の気持ちはわからんわぁ…」
私は思わずつぶやいた。
そして同時に亜依ちゃんの両親のことも思い出された。
「二人にこのことを教えようかな…いや、やっぱやめとこ」
わざわざ無駄な心配だったということを知らせる必要は無いし、
それにこういうことは直接本人から聞いたほうがいい。
そのとき両親はどんな顔をするんだろう?
その時、私はとんでもないミスを犯していたことに気がついた。
「さっきの二人からたこやきのお代もらってないやん!」
夕暮れの空にはカラスが飛んでおり、私を見下すかのように鳴いていた。
たこやき物語 第一話
『紅しょうがは突然に』 おしまい
とまあ一応終わりました
皆さんの暇つぶしくらいにはなったでしょうか?
感想などありましたらカキコしてもらえるとうれしいです
.てすと
test
たこ焼き屋みっちゃんが(・∀・)イイ!
61 :
:02/06/08 12:18 ID:pCXGmr1r
て
test
64 :
大江:02/06/08 19:31 ID:7HRXCPqI
俺が言うのもなんだが、あったかい話ですね。
T.T
あんまり人(メンバ)が出てこないこういう話もいいね。
>>60 >>64 >>66 感想どうも。反応がなくてやめようかとも思ってたんで
第2話遅くなっちゃいました
第2話いきます
ここは とある公園。
その公園の片隅に、小さな出店が建っている。
その出店の のれんにはこう書かれている。
『たこやき』と。
「う〜、たまらんなぁ、この暑さは…」
言っても仕方ないことだが、ついつい言葉に出してしまうほど公園は暑かった。
昨夜降った雨と、これでもかと言わんばかりに照る太陽のおかげで、
じっとしているだけでも体が汗ばんでくる。
その上、自分の目の前にはたこやきを焼くために熱くなった鉄板があるのだ。
「ちょっと休憩しよかな…」
私は腕時計に目をやった。時計の針は11時55分を指している。
と、その時だった。
急に辺りが暗くなり、涼しい風が吹いてきたかと思うと、
目を開けていられないほどのまぶしい光が私の周囲をつつんだ。
「…ここ、どこや?」
目を開けると店から見える風景は一変していた。
そこには豊かな自然も見慣れたベンチもなく、
ただただ光の満ちている空間だけがあった。
私が困惑していると、突然目の前の地面(?)がせりあがってきた。
「!?」
私は『それ』が現れた時、我が目を疑った。
「驚かせちゃったかな…。突然こっちに連れてきてごめんね」
…『それ』はいつも私が見ているはずのものだったけど、
「怖がらなくていいよ。別にとって食おうとしてるわけじゃないから」
…普通『それ』はこんなに大きくなくて、
「ちょっと質問したいことがあるんだ。答えてくれるかな?」
…なによりしゃべったりしない。
だけど『それ』はどう見ても『タコ』としか言いようがないものだった。
「あ、自己紹介がまだだったね。
私はカオリっていう未開星人意思調査員。
いろんな星の住民がどのように考え、行動するかを調査するのが仕事なの」
「…宇宙人なん?」
話題についていけない私はかろうじてそれだけ聞けた。
「ま、そういうこと。あと、私のことは気軽にカオリンって呼んで。
他に質問はある? こっちだけが一方的に質問するのもなんだから」
他に質問はある、と言われても…。
こちらはこの状況を把握するだけで手一杯だ。
「無いようだったらこっちから質問するね。
…まず、名前教えてくれるかな?」
「あ、はい私は平家みちよっていいます。一応歌手です」
私はとりあえずこの未知の来訪者に失礼のないように返事をした。
「そんなにかたくならなくていいよ。勝手に呼んだのはこっちだし。
…そっちのことはみっちゃんって呼んでいいかな?」
私は首を縦に振った。
「じゃあ次の質問。さっきみっちゃんは歌手だって言ったけど、それってなに?」
「うーん、簡単に言うと歌を歌って生活する人のこと」
「歌? 歌ってなに? それがないとこの星の住民は生きていけないの?」
その質問に私は答えられなかった。
歌ってなんだろう?
そう言われればいままで考えてみたことがなかった。
歌がなければ生きていけないか、って聞かれればそうじゃないだろう。
だからって歌は全然いらないかっていうとそうじゃない気がする。
…言葉では上手く説明できないので、
私はとりあえず実際に歌ってみせた。
「…これが歌なのかぁ…。
うまく言葉では表せないけど…いいものだね。
この星の住民が歌を必要としているのもわかる気がする」
カオリンは歌を聞き終わるとそう言った。
しかしいい感じに下がってますね(w
このまま底のほうでひっそりとやっていきたいものです
小説総合スレッドで紹介してはどうでしょう?
75 :
test:02/06/13 01:26 ID:NfQf/UHf
a
test
今、一番下にいるよ。
624番目にいるよ。
記録しておこう。
滅多に一番下にはなれないから。
(ё)ノ イヨウ!
じゃ、僕もsageてみる
テスト
あれ?sageなのになぜスレが上がってるんだ?
ごめんなさい。
上でやってた小説もどき、勝手ながら放棄させていただきます。
自分の見通しが甘くて続きが書けなくなってしまいました。
その代わりといってはなんですが、違うもの書いてみたいと思ってます。
こちらは絶対に完結させます。ホントに身勝手ですいません…。
これは私たちの住む世界とは少し違う世界の物語。
「姉ちゃん、ホントに行く気なの?
そういうことは王国の討伐隊に任せておけばいいんだよ」
「その討伐隊が当てにならないから私が行くんでしょ」
狭い一軒家の中、一人の少女とその弟らしき少年が言い争いをしている。
「だからって… 危険すぎるよ! 魔物は一匹じゃないんだよ!
せめて何人か村の人をつれて行かなきゃ!」
「この村の人は争いを好まないよ。
大丈夫。私の剣の腕前はあんたが一番知ってるでしょ」
少女はそう言うと必死に止めようとする少年を無視して準備を始めた。
* * * * * * * * * * *
この村に魔物が現れるのは今に始まったことではない。
魔物は村に現れると畑の作物を奪い、森に帰っていく。
わけあって、ここの村人はそれに抵抗しようとはしなかった。
魔物が恐ろしかったのもその一つだが
一番の理由はこの魔物たちが村人との共存を願っていると思われていたからだ。
一般の魔物は人間から一方的に食料を奪う存在で
ひとたび現れるとあちこちを荒らしまわり、略奪し、
ひどい時にはその犠牲になる者まで出した。
だがこの村の魔物たちは違った。
この村の魔物たちはたしかに食料は奪ったが
それは魔物が生きていくのに最低限必要だと思われる量だけであり
決して必要以上に奪おうとはしなかった。
しかも被害にあった畑にはほとんど荒らされた形跡はなく
代わりに町で高価で売れる美しい宝石が残されているのであった。
直に会ってのコミュニケーションこそなかったが
村人と、この村の魔物たちは互いに助け合いの関係にあったのである。
その関係が怪しくなってきたのはつい最近のことであった。
魔物の様子は今までとはあきらかに変わっていった。
美しい宝石は日に日に残されなくなっていく。
その残された宝石の量に反比例して畑が荒らされ、
家畜が奪われ、ついには村人が襲われるようにまでなっていった。
ここにいたって村長は王国へ討伐隊の派遣を求めたが、
村人に犠牲者が出ていないのと他国の侵略を理由に、その派遣はのびのびになっていた。
「これ以上待ってられない。私が魔物を倒しに行く」
幾度となく開かれた村の評議会の中で
最年少の参加者、マキはこう宣言したのであった。
* * * * * * * * * * *
森の中は薄暗く、静寂がつつんでいた。
その静寂が草木の揺れる音で破られたかと思うと一人の少女が姿を現した。
評議会で魔物の討伐を宣言し、さきほどは弟と言い争いをしていたマキである。
(確かに相手は数も多いし強暴だけど… 誰かが犠牲になってからじゃ…)
マキは強張った表情で森の中を進む。
その体には動きの邪魔にならない程度の鎧と
あまり大きくない道具袋、使い古されたような剣があった。
(待ってるだけじゃだめなんだ。自分から動かなきゃ何も変わらない)
マキは一瞬腰の剣に視線を落とし、さらに森の奥へと歩を進めていった。
…しかしいくら歩いても一向に魔物が出てくる様子はなかった。
この村の魔物たちがどのようにして生活しているか知っている者は誰もいない。
村人は魔物を怒らせることを心配して森の中には入ろうとしなかったからだ。
(一旦引き返して違うところを探してみるかな…)
マキがそんなことを考えたときだった。マキの視界に魔物とその住処らしき洞窟が入ってきた。
マキは静かに剣を抜くと、神経を集中させてその様子をうかがった。
外にいる魔物はあくびなどしながら同じところをうろうろしている。
その後ろにある魔物の住処らしき洞窟は暗くて中の様子をうかがうことはできない。
(あの魔物は多分見張り… ってことは中の魔物は休んでいて油断しているはず。
気付かれないうちに見張りを倒せばあいつらの不意をつける!)
マキは一回大きく深呼吸をした。
評議会では自分が魔物を倒すなどと言っていたが、実は実戦はこれが初めてだ。
いくら剣の腕には自信があるといっても、緊張は隠せない。
(落ち着いてやればできる…)
マキは自分に言い聞かせて周囲を見回した。
…見張りをしていた魔物は何かが草むらの中を動いたのに気付いた。
侵入者かと思いながら、ゆっくり気付かれないようにそちらのほうへ近づいていく。
問題の草むらに近づいてくると魔物はいつ攻撃が来てもいいように身構えた。
果たして攻撃は来た。ただし前の草むらからではなく後ろから。
魔物は頭だけ後ろを向かせ、侵入者を確認すると断末魔の叫びをあげた。
(失敗した…)
マキは見張りの魔物にとどめを刺すと舌打ちをした。
石を投げて魔物の注意をむけ、後ろから攻撃するところまではよかったが、
最後に叫び声を出されてしまった。
おそらく中にいる魔物は今の叫びで異常を察知しただろう。
(こうなったら自分の剣を信じるしかない!)
マキはそう気持ちを切り替えると洞窟から出てきた魔物たちに切りかかっていった。
* * * * * * * * * * *
…どれくらい戦っただろうか。マキの剣と鎧は血で真っ赤になっていた。
それはなにも魔物の返り血だけではない。
(このままじゃ… 負ける…)
マキの誤算はなんといっても魔物の数だった。
畑の被害や村人の目撃談から、魔物の数はせいぜい五、六匹だと考えていた。
だから見張りを倒し、うろたえながら出てきた二匹の魔物を簡単に倒すことに成功した時、
(これならいける)と、確信した。
しかし魔物はその後も次から次へと洞窟から湧いてきたのであった。
魔物の動きは鈍いがその攻撃は強烈で、剣では受け流すので精一杯だ。
囲まれれば魔物の集中攻撃をかわしきれないと判断し
囲まれないように常に移動しながら戦っているおかげか、
まだ致命傷は負っていない。その代わりに体力と精神は激しく消耗している。
一方の魔物は十近い仲間を失い、
半数ほどになっても一向に戦意が衰える気配はなかった。
「ぐっ…」
受け流し損ねた魔物の一撃を体に受け、マキは吹っ飛ばされて尻餅をついた。
幸い鎧に当たったので大して出血はしていないが
転んだ拍子に足首をひねったらしく、立とうとすると右足首に激痛が走る。
(これまでなの?)
口の中に血の味が広がっていくのと同時に、心の中であきらめが広がっていく。
しかしマキはすぐさまその気持ちを振り払う。
(まだ終わったわけじゃない!)
気力だけで、その鎧と同様に傷だらけの体を無理矢理立たせる。
だが足は悲鳴をあげ、剣を握る手にも力は入らない。
そんなマキを見て、魔物たちはさらに息巻いて突進してくる。
マキはもうその攻撃を受け流そうとは思っていなかった。
(相手の勢いを利用して反撃する!)
リスクの大きい戦法だが
もうほとんど力の残っていないマキが魔物を倒すとしたらこれしかなかった。
マキは一瞬のチャンスをものにしようと精神を集中する。
その集中は魔物が近づいてくるにつれ高まり、
魔物が耳障りな金切り声とともにその腕を振り上げたところでピークに達した。
(私は負けない!)
マキは剣先を魔物に向け、勢いよく地面を蹴った。だが蹴る右足に力が入りきらず、
一瞬魔物の攻撃の方が早くマキの体を捉える!
…かに見えた。
魔物と一体になって倒れこんだマキは
その魔物が息をしていないのを確認すると、重い体をあげ、残りの魔物に注意を払った。
息巻いていた魔物たちは一転して浮き足立ち、戸惑いを見せている。
(倒れてるところを攻撃されたら危なかった…。残りは六匹。
でももうこの攻撃は通じないだろうな。きっと慎重にくるに違いない…)
そう思考をめぐらせたときだった。魔物の一匹が急にその場に倒れた。
かと思うとその近くにいた魔物も同じように倒れる。
遅れて倒れた魔物の体から血が流れ出す。
マキも魔物も一瞬何が起こったかわからないでいた。
「まさか魔法の素質まであるなんてね…」
その声に振り返ると、いつの間にかマキと同じような格好の
―しかし血はほとんど浴びていない― 女性が立っていた。
「あなた…誰?』
その顔に見覚えはなかった。
「説明はこの魔物を片付けてからにするよ」
女性はそう言うと魔物の方へ向かっていった。
魔物たちは反撃を試みるがその攻撃はことごとく空を切り、
女性に傷一つ負わせられず全滅した。
「さて、魔物も片付けたし、さっきの質問にも答えようかな。
…その前にあなたのお名前聞かせてくれる?」
「マキ… マキ=ゴトーです」
マキの口から自然に言葉がこぼれた。
「私の名前はサヤカ=イチイ。これでもチャーミー王国の遊撃隊長なんだ」
サヤカはそうさわやかな声で言った。
よく見ればその鎧には美の神チャーミーの彫刻が施されている。
「信じられない…」
遊撃隊長といえば討伐隊等を率いる、チャーミー王国の軍事二本柱の一人である。
マキはそんな人物がこんな辺境の地に来たことに驚き、
思わず声を出した。それが聞こえたのか、
「あんたの方が信じられないよ。これだけの魔物に一人で立ち向かって行くんだからね。」
と、サヤカは苦笑いを浮かべながら言った。その声には無茶に対する非難の響きが含まれている。
だが考えてみると、討伐隊が来ればマキは魔物を退治しようなどとは考えなかったはずである。
「討伐隊が来ないから、私がこんな無茶をする羽目になったんじゃないか…」
マキはサヤカに不満をぶつけた。それにはサヤカは真顔で答える。
「ただでさえ戦力が少ないチャーミー王国がナカザワ王国の侵略をうけているんだ。
兵は一人でも無駄にするわけにはいかなくてね。」
サヤカはそう言うと暗くなり始めた空に視線をやった。
* * * * * * * * * * *
「しかしまさかこのような小さな村のために遊撃隊長殿がじきじきにいらっしゃるとは。
なんとお礼を申したらよいものか…」
村の最年長である村長は
白いひげが蓄えられている口元を微かに揺らして感謝の言葉を述べた。
ここは村長の家の一室で、この場にいるのは村長とサヤカだけである。
サヤカはその言葉を聞くと自嘲気味に微笑み、軽く首を振って答える。
「実は魔物の討伐のためにここに来たわけじゃないんだ。
それに魔物を倒したのはほとんどあのゴトーって子だしね」
そのマキは今この場にはおらず、
サヤカに遅れて到着した救護班のところで手当てをうけている。
「…さきほど魔物の討伐に来たわけではない、とおっしゃいましたが
それではなんのためにこの辺境の村へ?」
村長のしわだらけになった顔にさらにしわがよった。
立派な眉毛によって窺い知ることはできないが、
その目には困惑の色が浮かんでいるのだろう。
「その前に今のこの国の状況について説明しておこうか。
行き届いていない情報もあるだろうしね」
サヤカはそう言うと今のこの国の置かれている状況について説明し始めた。
* * * * * * * * * * *
『モーニング』と呼ばれる陸の孤島にチャーミー王国はある。
モーニングはその東西南北を天まで届くほどのそりたった岩山、
通称『ハロプロ』で囲まれておりその外の世界を知る方法はない。
伝説では、人間の争いを憂えた三人の神が
当時平和であったモーニングにまで戦渦が及ぶのを避けたいがために
モーニングの周囲を岩山で囲ったとされている。
チャーミー王国はそのモーニング南東に位置する
美の神チャーミーを信仰する国である。
その歴史は古く、モーニングが陸の孤島となったときから王国は存在していたと言われている。
チャーミー王国の特徴と言えるのが国王の選出方法で、
前国王が自分の美しさが失われたと感じたとき、
新しい国王を国民の中から指名するという方法がとられている。
これは美の神チャーミーへの信仰より生まれた制度とされている。
あやふやな制度にもかかわらず、この制度が成り立っていたのは
やはり選ばれた国王の心が美しかったからなのだろうか。
その国王は国を運営していくというよりはむしろ国のシンボルであった。
政治は実際は国王の任命する大臣を中心として、
国民に選ばれた議会によって行われている。
その国家方針には非侵略無同盟が掲げられており、
南と西をハロプロに、東を険しい山と川に囲まれていることもあって、
たびたび起こる戦争にもほとんど巻き込まれることなく発展を遂げてきた。
その雲行きが怪しくなってきたのは二月程前からだった。
隣国のナカザワ王国がチャーミー王国の国境付近に砦を築き、兵を集め出したのである。
ナカザワ王国は十年前に起こった新しい国である。
十年前、モーニングの北東一帯を治めていたツンク帝国が突然の魔物の来襲で崩壊した。
その魔物たちを討伐し、その元凶を断ったとされる五人の勇者のリーダー格の一人が
ナカザワ王国の国王ナカザワである。
ツンク帝国の崩壊後、モーニング北東部にはナカザワ王国の他にも無数の新興国家が起こった。
その中でもナカザワ王国はナカザワの強力なリーダーシップのもと、急激に力をつけていった。
まだ東北部に残っていた魔物の残党に苦慮していた他の新興国は
そんなナカザワ王国の庇護を求めて次々と併合を申し入れていった。
こうしてナカザワ王国の領土が旧ツンク帝国と同じ規模になろうとしたとき
今回の事態が引き起こされたのである
チャーミー王国はナカザワ王国が不穏な動きを察知すると事情を聞くために使者を送った。
それに対するナカザワ王国の返事は
『これらの兵は魔物の討伐のためである』というものだった。
しかしそれにしては集められた兵の数はあまりに多く、
チャーミー王国の国境付近の村からは被害の知らせがないのも妙だった。
チャーミー王国は『国境付近での問題なのでこちらからも兵を出す』
と宣言し、万が一ナカザワ王国が侵攻してくることに備えた。
そしてついに一月前にナカザワ王国の侵攻が開始されたのである。
両軍はチャーミー王国の中心からやや北西に位置する首都『ピース』と
ナカザワ王国が侵攻した国境のほぼ中間点にあるある『パスタ平原』で衝突した。
ナカザワ王国軍の氾濫した川のような激しい攻撃にチャーミー王国軍は統制の取れた防御で
かろうじて持ちこたえた、というのがパスタ平原での戦いの結果だった。
ナカザワ王国軍は、チャーミー王国軍が平和ボケしておらず意外と戦えることに気付き、
無理はせずにパスタ平原からやや引いたところで本国からの援軍を待った。
そしてナカザワ本国からの援軍の出発が、チャーミー王国に確認されたのが一週間前だった。
* * * * * * * * * * *
「なんと! 事態はそこまで悪くなっていたのですか!」
村長は自分の国が存亡の危機にあることにいまさらながらに気付いた。
討伐隊がなかなか派遣されなかったのもこの戦争のせいなのだろう。
「しかし、ますますわからなくなりました。
なぜそのような大切な時に遊撃隊長殿がこのような戦場から放れた場所へ?」
この名もない村は主戦場であるパスタ平原からずっと東に行った森の中にある。
この村にあるものといったら自然と近頃はめっきり少なくなった魔物の運んでくる宝石、
そして村人が食べていくのに必要な分だけの食料だけである。
「まさか我々から食料をとりあげるために…」
村長の顔は真っ青になった。今の季節は春。まだまだ収穫までは時間がある。
この時期に食料を持っていかれたら、到底秋まで持つとは思えない。
「そういうわけじゃないんだ。ただ、場合によっては同じようなことが起こるかもしれない」
そう言うサヤカの顔は真剣だった。
「ナカザワ王国の援軍の別働隊がこちらに向かっているとの情報を察知してね。
おそらく別働隊はこの森を抜けてパスタ平原にいるこちらの主力の背後を突くつもりなんだと思う。
それを阻止しようにも正規軍の方はパスタ平原で敵の主力と睨み合って身動きが取れないから
私が遊撃隊より兵を割いてここまで来たんだ」
チャーミー王国軍は大きく二つに分かれている。
主に王国の防衛、治安維持を任される正規軍と、魔物の討伐を主任務とする遊撃隊である。
規模が大きい代わりに議会の承認なしにはほとんど自分から行動ができない正規軍に対し、
遊撃隊は迅速な対応が必要との理由にある程度の行動の自由が約束されている。
「おそらく敵がここを通るのは明日。
この村も戦闘に巻き込まれるかもしれないから村人の避難をお願い。
…話しておかなくちゃいけないのはこんなところかな。
用がなければこれで私は失礼するよ。」
サヤカはそう伝えると村長に背を向けた。
「…私たちは争いを好みません。
ですがこの村、この国を愛しております。どうか皆様にチャーミーの御加護があらんことを」
サヤカは村長の言葉に振り返って軽く礼を言い、部屋を後にした。
保全
* * * * * * * * * * *
マキは夢を見ていた。小さい頃の自分が母親に泣きついている夢を。
「なんでお父さんは帰ってこないの?マキがいい子にしてなかったから?」
小さいマキは泣いてくしゃくしゃになった顔で母に聞く。
「そうじゃないのよ。お父さんは…
お父さんは遠いとおーいところに行っちゃったんだよ…」
マキの母はまるで自分に言い聞かせているかのようにつぶやく。
その視線は母に泣きつく幼いマキにも、つられて泣いているマキの弟のユウキにも向けられず、
ただただ虚空をさまよっているだけだった。
「お母さんのうそつき! いい子にしてたらお父さん戻ってきてくれるって言ったじゃない!」
その言葉にマキの母は返す言葉がなく、ただ「ごめんね」としか言うことができなかった。
そしてずっと泣き続けていた幼いマキはいつしか泣き疲れて寝てしまった。
気がつくとマキの目線の先には白い天井があった。
「ここは?」
その声に返事はない。マキはだるい体を動かしてあたりの様子を探った。
自分はベットに寝かされており、周りには包帯やはさみ、薬草などがきれいに整理されている。
そのどれもがマキには見覚えがない。
マキは今日の記憶を呼び起こしていった。
たしか魔物の討伐に出て、魔物の棲家を発見し、苦戦して、
サヤカという人に助けてもらい、そして…
「…そのまま寝ちゃったのか」
どうやら魔物を倒した安心感とそれまでの疲労が重なって眠ってしまったらしい。
おそらくサヤカという人がここまで運んできてくれたのだろう。
「あ、サヤカ隊長。お戻りになられましたか。ご苦労様です」
ここからは見えないが、外の方で兵士らしき声が聞こえた。
「まあね。明日は忙しくなるから、あんたも今のうちに疲れをとっておきなよ。
…ところであの子は?」
「ええ、傷の方は大丈夫です。数は多かったのですがどれも比較的浅いものだったので。
ただ身体の方はかなり疲労していたみたいですね。
治療のために起こそうとしたんですが、決して起きようとしないんですから」
兵士らしき声には軽いあきれの色が聞き取れた。
「ふふ。大物だこと。今も寝てるの?」
「あ、はい。起きたら避難するよう伝えますか?」
避難… マキはその言葉に疑問を持った。魔物は全滅したのではないのだろうか?
やや遅れてサヤカらしき人物は返答した。
「…そうだね。ここが戦場になったら救護班のところも安全じゃなくなるからね。
起きたら村人が避難した場所教えてあげて」
ここが戦場になる… その言葉を聞いたマキは外に出た。
「ここが戦場になるって、どういうこと?」
いきなり後ろから浴びせられた言葉に、
サヤカと話をしていた兵士は驚いてその場に尻餅をついてしまった。
「あ、起きてたの。その言葉どおりだよ。おそらく明日この村は戦場になる」
もちろんこのサヤカの言葉だけでだけでマキが納得するはずがない。
マキはさらなる説明を求める。
「さっき村長にした話をまたするのも面倒だから、あんたが教えてあげて」
サヤカは地面にへたりこんでいた兵士にナカザワ王国の兵が向かっていることを説明させた。
そして村人が避難を始めていることも。
「そういうわけだから君も早く避難するんだな」
そう言って兵士は話を結んだ。
「…私も戦う」
「は? なんだって?」
マキの言葉に兵士は目を丸くした。そして何かを言おうとしたが、それをサヤカが手でとめた。
「さっきの魔物退治のようにピンチになっても助けられないかもよ? それでも?」
「覚悟はあるよ。そして遊撃隊に遅れをとらない自信も」
マキの至極当然といったふうな言葉にサヤカは表情を崩した。。
「ははっ! たいした自信だ。それじゃ明日の戦いに参加してもらおうかな」
「た、隊長!?」
兵士はサヤカに信じられないという表情を向けた。
声には出さないが、その顔はなぜこんな馬の骨とも知らない小娘を戦闘に加えるのか、と訴えている。
「言い忘れてたけど森にいた魔物はほとんどこいつが倒したんだよ。
その数およそ十匹。そんな手練が遊撃隊に何人いる?
ただでさえ戦力が足りない私たちにとっては心強い味方じゃないか」
兵士は反論できなかった。
たしかに一人で魔物を十匹も倒せるのは遊撃隊ではサヤカぐらいのものだ。
それにチャーミー王国の兵力はいくらあっても足りないほどに不足している。
ただ、遊撃隊としての誇りが小娘とともに戦場に立つということを拒否していた。
「隊長さん、私にはマキ=ゴトーっていう立派な名前があるんだけど」
マキはそんな兵士の葛藤を無視してサヤカにこいつ呼ばわりされたことに不満をあらわす。
「それは失礼。今度からはゴトーって呼ばせてもらうよ。
もう遅いから今日はここで疲れをとりな。
戦いの細かい打ち合わせは明日の朝の軍議でする。ゴトーも出席してもらうよ」
軍議といえばある程度の隊を任せられている兵で行われるものである
そちろん新兵が顔を出すところではない。
その場にいた兵士は半ばあきれて、
サヤカとマキがそれぞれのねぐらに帰っていくのを見送るしかなかった。
* * * * * * * * * * *
会議に参加するために仮設の会議室に集まってきた兵士たちは皆その場にいる少女に疑問を持ってた。
腕組みをして静かに目を閉じている少女は昨日までの会議ではこの席にはいなかったはずだ。
戦地で昇進が行われることはないから新しく隊を任されたものではないはず。
だが少女が座っている席は、どう見ても会議に参加する兵の使う席なのである。
しかし座っている少女の態度には堂々たるものがあり、
あえて確認しようとするものはいなかった。
まもなく隊長のサヤカが会議室に姿をあらわし、会議が始まった。
「さて、今日の作戦の説明の前にもう一度状況を確認しておこうか。
まず、チャーミー軍とナカザワ軍の主力はパスタ平原で対峙している。
そして膠着を打開するためにナカザワ王国が援軍を出発させたのが一週間前。
今私たちが戦おうとしている別働隊はそれに遅れること数日で
ナカザワ王国の首都『クロウワイフ』を密かに出発した」
サヤカは淡々と事実を述べる。
「これらから推測されるのは、おそらくパスタ平原に向かった方の援軍は
そちらに私たちの目を向けさせるためのもの。
敵のねらいはむしろ今から戦う方の援軍に主力の背後を突かせて、一気に勝敗をつける事だろう」
会議に出席している兵士は神妙そうにサヤカの言葉に頷いている。
つまらなそうに話を聞いているマキを除いて。
「裏を返せばここでこの援軍を叩くことで敵のねらいは失敗するわけだ。
パスタ平原にいる主力も少なからず動揺するに違いない」
そうサヤカが言うと部下のものがこの村周辺の地図を壁に貼り付けた。
その地図の中心には村があり、村の北と西には街道がつながっている。
その他はすべて森を表す緑色に塗られていた。
「敵は北の街道を南下し、この村を通って西へ抜けるルートをとっている。
そこを私たちは村の前で待ち伏せして奇襲する。
斥候の報告では、幸運にも敵はこちらの存在に気付いていないみたいだ。
ここで敵を散々に打ち破って意気揚々とパスタ平原に戻ることにしよう」
サヤカの言葉に兵士たちはおおー! という威勢のいい掛け声で答えた。
中には手柄を競い合う約束を交わすものなどもいる。
「ただ、忘れちゃならないのは、数は敵の方が多いということ。
それにナカザワ軍の攻撃がどれほどすさまじいかは一度戦ったみんなはわかっているはず。
だから各自が自分の仕事をきっちり果たしてもらわないと
奇襲に失敗して逆にこちらが手ひどい損害をうけるかもしれない」
サヤカはそう釘を刺した。初めから敵を恐れていては戦いに勝てるはずもないが、
今回は武勇をたのんで単独行動に走られても困るのだ。
万一奇襲が失敗すれば敵の半分ほどの戦力しかない遊撃隊は窮地に陥る。
「それじゃ、各部隊の配置を決めようか。
配置は部隊を六つに分けて街道の両脇にそれぞれ三部隊づつ、ってことで」
会議に参加している兵にそれぞれの持ち場が割り当てられていく。
マキは地図で言うと街道の西側の、村に一番近い持ち場に割り当てられた。
「こいつは自分から遊撃隊に加わりたいって言ってきたゴトーっていう子。
無愛想だけど剣の腕は私が保証する」
そう言ってサヤカはマキを兵たちに紹介した。会議場にどよめきが起こる。
新しく入ってきた兵士が会議に参加しているだけでも異例であるのに、
その少女はサヤカが剣の腕を認めているというのだ。
「…私は村を守るために戦うだけで、遊撃隊に加わりたいだなんて言ってないんだけど」
「これは失言だったかな。でも村を守るためにはこの作戦に従ってもらうよ」
マキの、会議場の雰囲気を気にもとめない発言はいっそう会議室のどよめきを大きくする。
兵士でないとはいえ、チャーミー王国の軍事の二本柱の一人に対する言葉づかいではない。
兵士たちのマキを見る目には不快の感情がうかがえる。
「みんなの不満はゴトーの戦いを見てもらってから聞こうかな。
ゴトーの戦い振りを見ればみんなの不満はなくなるはずだからね。
奇襲開始の合図は私の部隊が敵に突撃すること。それまで他の部隊は物音を立てずに待機。
何か質問はある?」
兵士たちの表情には晴れないものがあったが、
隊長がそう言うのなら、といった感じでしだいにざわつきは収まっていった。
「質問がなければ各自隊に戻って準備ができ次第それぞれの持ち場に移動すること。
それじゃ解散」
サヤカの一声で会議は終了した。
兵たちは若干の不満を残したまま会議室を退出していった。
「少しは愛想よくしたら? 前だけじゃなくて後ろにも敵が欲しいの?」
兵が全員出て行くとサヤカはマキのところに寄っていった。
サヤカの表情を見る限りではそれは非難の気持ちからではなく、面白がってのことのようだ。
「遊撃隊は魔物の次に嫌いなものだから、兵士と仲良くする気はない」
マキは剣と鎧の点検の傍らそっけない返事をする。
「嫌われたものだねぇ…。まあ、魔物の討伐が遅くなったのは事実だからしかたないか」
「…そういう意味じゃないんだけどね…」
マキのつぶやきにサヤカは何か言ったかと聞き返したが、
マキがそれ以上しゃべる意思がないことを知り、自分も出発の準備をしようと会議室を出た。
全部隊がそれぞれの持ち場についたのはそれから一時間ほど後のことだった。
* * * * * * * * * * *
「…おい、あのゴトーって奴寝てるぞ…」
昼も過ぎ、太陽も傾いてきた頃、兵士の一人が近くにいる兵士にささやいた。
見るとマキは目をつぶって木にもたれかかっている。
耳を澄ませばすぅー、すぅー、という規則正しい呼吸音も聞こえてくる。
「まったく、隊長の命令とはいえ
なんで俺たちがこんな小娘のおもりをしなきゃいけないんだろうな」
正規の訓練も受けていない者が
幾度となく魔物との戦いを経験してきた遊撃隊の者より優れているはずがない、
というのがサヤカの話を聞いて兵士たちが思ったことであった。
事実、剣の腕では正規軍より遊撃隊のほうが一枚上手だ。
いきなり隊長に剣の腕は保障するといわれても信じろというほうが無理である。
兵士たちが話をしていると鎧がこすれる金属音と足音が聞こえてきた。
「敵が来たみたいだね」
兵士が振り返ると寝ていたはずのマキはいつの間にか起きていた。
その目は敵の来た方角をじっと見つめている。敵兵は斥候の報告ではおよそ千人。
それに対してこちらは六百ほどの兵が街道の脇に潜んでいる。
兵士は今にも飛び出していきそうなマキに声をかける。
「隊長に上手く取り入ったようだが、せいぜい怪我しないように後ろで戦ってるんだな」
「無駄口なら終わってから叩いて。敵に見つかる」
ゴトーのもっともな意見に兵士たちは口をつぐむしかなかった。
ナカザワ軍はそんなマキたちのやり取りにはまったく気付かずに街道を進んでいく。
長時間行軍をしてきたのだろうか、心なしか兵士たちの顔には疲れが見える。
(攻撃はまだ? 敵の先頭はもう村に入るのに…)
村を戦場にはしたくないと、マキが命令を無視して突撃を敢行しようと思った瞬間、
整然としていたナカザワ軍の隊列が乱れ始めた。
村から遠い位置にいたサヤカの隊がナカザワ軍の最後尾に奇襲を開始したのだ。
「敵襲! チャーミー軍の待ち伏せだ!」
その声があがったのと時を同じくして、
サヤカの隊以外の五箇所からも次々に遊撃隊が飛び出していった。
ナカザワ軍の混乱は見る見るうちに全部隊に波及していった。
* * * * * * * * * * *
マキは部隊の先頭で剣を振るっている。
その剣技は蝶が舞うように敵の攻撃を受け流し、
隙を見ては稲妻のような速さで切りかかるという、鮮やかなものだった。
(こいつ、本当に強い…)
マキと一緒の隊に配属された兵士は皆その剣技に舌を巻いた。
マキの活躍のおかげでこの隊は他の隊よりはるかにナカザワ軍を押し込んでいる。
もっともサヤカの隊に奇襲された所にいたナカザワ兵は
すでにほうほうの体で退却を始めていたが。
「退却! 退却!」
ナカザワ軍の指揮官らしき男がついに全体に退却の命令を出した。
奇襲を受けたにもかかわらず、すぐさま総崩れにならなかったのはさすがにナカザワ軍、
といったところだが、いかんせん混乱した隊を立て直すにはこの街道は狭すぎた。
退却の命令を受けたナカザワ軍は
比較的被害の少なかった兵が中心となって、退路を切り開こうと最後の突撃を行う。
突撃を受ける形になったサヤカの隊は正面から当たろうとしないで横に展開し、
突撃してそのまま通り過ぎていく敵兵を脇から攻撃して、その数を確実に減らしていった。
「よし、このまま追撃に移行する!」
ナカザワ軍の突撃の勢いが鈍ると遊撃隊はサヤカの隊を中心に追撃を開始した。
どんな兵士にも後ろに目はついていない。また立ち止まればすぐさま周りを囲まれてしまう。
遊撃隊はさらに戦果を拡大していった。
* * * * * * * * * * *
「うわっ!?」
遊撃隊の後方からその声が聞こえたのは追撃を開始してまもなくの頃だった。
何事かと振り返った兵は思わぬものを見ることになる。
後ろでは二十は下らない数の魔物との戦闘が繰り広げられていた。
その報告を受けたサヤカは追撃を中止して、魔物と戦っている兵士への加勢を指示した。
本当はここで少しでもナカザワ軍の数を減らしておきたいところだったが、
後ろに敵を抱えて十分な追撃が望めるはずもない。
サヤカは自らも数人の兵士を引き連れ、一体づつ確実に魔物に対処していった。
(そういえば後ろの隊にはゴトーがいたな…)
何体かの魔物を倒し、魔物との戦闘が下火になってくるとサヤカはふとマキのことを考えた。
そのマキのいた後方の部隊はいきなりの魔物の来襲に数名の死傷者を出してしまった。
来襲してきた魔物は昨日マキが戦った種族とは明らかに異なっている。
マキが戦った魔物が人間より一回り大きい二足歩行する豚、という感じのものだったのに対し、
この魔物はガリガリで手が異様に長い人と同じくらいの大きさのサル、とでも表現すればいいのだろうか。
そのすばやい動きに兵士たちは最初はついていけなかった。
しかしそこは魔物退治を主任務とする部隊、
すぐさま何人かでまとまって一体の魔物を取り囲み、そのすばやさを発揮させない戦い方に切り替える。
傷ついた兵は戦闘を離脱し、代わりに無傷の兵がその兵の分の穴を埋めていく。
後方でも魔物が優位に戦闘を進められていたのは最初だけであった。
その中でもマキの活躍は群を抜いていた。何人かの兵がマキの援護しようとしたが、
マキのスピードは魔物に負けておらず、他の兵は魔物が逃げ出さないようにするだけで十分だった。
(魔物はあと何匹?)
すでに四体の魔物を片付けているマキは五体目を倒すと周りを見わたした。
魔物はあらかた片付けられていて、兵士たちにも余裕が見える。
そのときマキの視界に見慣れた人影が入ってきた。
「ユウキ!?」
思わずマキは声に出してしまう。
しかし本当にマキを驚かせたのは魔物の一匹がそちらに向かっていったことだった。
マキはすぐさまユウキの方へ駆け出した。
だが魔物に追いつくには少し距離があった。魔物はみるみるユウキに近づいていく。
「ユウキ!!」
マキはもう一度声に出した。
ユウキはその声で魔物の接近に気付くも、すでに魔物はユウキの目と鼻の先に迫っていた。
魔物は地面を蹴り、ユウキに躍り懸かる。
ユウキはその場から動けず、両手で頭をかばうことしかできなかった。
「ユウキ!!」
叫んでも無駄だとはわかっていたが、叫ばずにはいられなかった。
父を失ってすぐに母も無くしたマキにとって、今やユウキはただ一人の肉親だ。
いつも自分の後ろをついて歩く弟。近所の子に泣かされてマキに助けを求めてきた弟。
いつもおろおろしてて泣き虫で、そんなユウキに腹が立ってつい怒鳴ったこともある。
でも…
(ユウキを守りたい!)
マキのその思いは形となった。魔物の手がユウキを捉える瞬間、突然魔物の目の前で爆発が起こった。
爆風に吹き飛ばされたユウキは地面にへたり込み、事の成り行きに唖然としている。
爆発をもろに受けた魔物は顔をおさえて、もだえ苦しんでいる。
マキはやっとのことで魔物に追いつくとすぐさま魔物にとどめを刺した。
「バカ! なんでこんなとこに出てきたんだ! 避難してろって言われてただろう!」
「だって姉ちゃん昨日帰って来なかっただろ…。心配して捜しにきたんだよ」
ユウキは恐怖で震えながらもそうはっきりと告げた。
「バカ…私の心配をするよりも自分の心配をしなよ…」
マキはユウキを抱きしめた。いつもマキに守られていたユウキが
危険を冒してまで自分を捜しに来てくれたことが危なっかしくもあり、うれしくもあった。
気がつけばマキの頬を汗でも返り血でもない液体が流れていった。
二人はしばらくそのままでいた。マキの感情が静まるまで。
「魔法にさらに磨きがかかったようだね」
マキがユウキと離れると、サヤカが声をかけてきた。
サヤカは戦況を確認しようと自分の部隊を離れて後方まで来ていた。
「魔法? 私が?」
「そう、魔法。昨日の魔物との戦いでも使ってたけどね。
あの時は目くらまし位にしかなってなかったけど、
一日でここまで成長するなんてゴトーは魔法の才能があるのかもね」
「私が魔法を…」
マキは信じられなかった。魔法を使えるのは修行を重ねた人間だけだといわれている。
自分はそんな特別なことはしていない。だがあの爆発はどう考えても自然現象ではないだろう。
「…魔物はこれで最後みたいだね。ゴトー、他の村の人にも戻ってくるよう伝えて来て」
サヤカはそう言い残すと各部隊に戦闘終了の指示を与えていった。
マキはユウキに村人を呼びに行かせ、自分はその場にたたずんでいた。
「魔法…」
マキはもう一度その言葉をつぶやく。そのつぶやきはいつまでもマキの周りの空気を揺らしていた。
* * * * * * * * * * *
ナカザワ軍への奇襲から始まった一連の戦闘は、マキが最後の魔物を倒したことで終了した。
この戦闘で遊撃隊のうち二十名ほどがこの世を去り、その二倍近い兵が負傷した。
ナカザワ軍の別働隊はそれをはるかに上回る被害をうけ、
パスタ平原に向けて大きく迂回するルートを取って退却した。
遊撃隊は周囲に魔物が残っていないことを確認すると、
敵味方の区別なく戦死者を手厚く埋葬し、村に戻っていった。
サヤカは村に戻ってくると明日の朝に会議を開くとだけ連絡して、
全部隊に十分休養をとるよう伝えた。
ナカザワ軍の迂回作戦は阻止したが、
まだパスタ平原には敵の主力が健在である。まもなくナカザワ本国からの援軍も到着するだろう。
明日からはまた苦しい戦いが始まる。この勝利に浸れるのも今日だけなのだ。
だからこそ兵士たちはささやかな勝利を十分に堪能した。
夜になっても兵士の寝床には明かりが煌々とついており、兵士は酒のつまみに己の武勇を語り合っていた。
そこから少し離れた小さい家にも明かりが灯っていた。
マキとユウキが住んでいる家である。
(いくら魔物が凶暴とは言っても自分から危険に飛び込んでくるなんて聞いたことがない)
マキは自分の部屋で今日の戦闘を思い出していた。
ナカザワ軍が退却し始めると遊撃隊の追撃を阻止するかのように現われた魔物。
これが意味することは…
(もしナカザワ王国が魔物を操っているのなら…)
マキは自分の中で一つの答えを出し、部屋の明かりを消した。
マキには闇がいつもより深いように思えた。
* * * * * * * * * * *
仮設の会議室は活気であふれていた。
昨日の勝利のおかげで兵士たちの表情は明るく、時に笑い声も聞こえる。
昨日の軍議と戦闘とに参加した少女の姿がないことなど誰も気付かなかった。
それでもサヤカが入ってくると、兵士たちは私語をやめ、おのおのの席へと戻っていった。
「まず、昨日の勝利を導き出したみんなの働きに感謝する。
みんなのおかげでナカザワ軍には目に物見せてやれたよ」
兵士たちから歓声が上がる。
「ただ、みんなもわかっているように戦いはこれで終わりじゃない。
まだパスタ平原には敵の主力が残っているからね」
サヤカの言うとおり、昨日の戦いに勝ったとはいえ
チャーミー軍とナカザワ軍の戦力差はほとんど縮まっていない。
ツンク帝国の崩壊後の混乱の中から誕生し、
建国時から魔物の討伐が国政の最優先事項になっていたナカザワ王国に対して
戦乱に巻き込まれることがほとんどなかったチャーミー王国の戦力が少ないのは当然といえよう。
「それに昨日の戦闘で気になったこともある」
「魔物……ですか?」
兵士の一人から声があがる。サヤカの表情には心なしか暗いものが見える。
「そう。何度も魔物と戦ったことのあるみんなは当然知っていることだけど
魔物は危険だと感じたところにはほとんど近づかない。
それが昨日の戦闘では自ら望んだように魔物が現われた。
もしかしたらナカザワ王国は魔物をも支配下においているのかもしれない」
兵士たちもうすうすは感じていたが、
いざサヤカの口から聞くと改めて事態の深刻さが思いやられる。
ただでさえナカザワ軍とは戦力差があるのに、魔物の戦力まで加わるかもしれないのだ。
魔物がどれだけの脅威かは魔物の討伐を専門にする遊撃隊が一番知っていた。
「だけど、ナカザワ王国が魔物を使ってこの国を征服しようとしてるなら
なおさら負けられない。そんな国が人を幸せにできるとは思えないからね」
そう言うサヤカの瞳には静かな闘志がみなぎっていた。
その闘志は兵士の間にも広がっていく。
「私たちはこれからパスタ平原の主力と合流して再度ナカザワ軍と決戦を行う。
敵には援軍が来るだろうし、魔物の加勢もあるかもしれない。おそらく苦しい戦いになるだろう。
だけど私たちに勝ち目がないわけじゃない。
私たちにはこの国を守るという大義がある。守るべき人がいる。
チャーミーがそんな私たちを見放すわけがない。みんなの活躍に期待している!」
* * * * * * * * * * *
(チャーミーがそんな私たちを見放すわけがない、か……)
サヤカは軍議が終わり、兵士がいなくなった会議室で先ほどの自分の言葉に苦笑していた。
いるのかいないのかわからない神よりも
気の置けない仲間の方が信じるに足る、というのがサヤカの持論である。
だが向こうの兵士は英雄と呼ばれるナカザワを信じ、絶対の自信で戦場に立っているのだ。
今、チャーミー王国でナカザワと同じほど兵士の意思を高められる存在は
国民のほとんどが信じている美の神チャーミーしかいない。
(心にもないことを平気で言える私は美しさからは程遠いのかもしれない。
でも私はこの国を守りたい。それがかつてあこがれていた英雄の侵略からであってもね)
会議室に伝令の兵士がやって来た。どうやら出発の準備はできたらしい。
サヤカはわかったと告げ、静かに立ち上がった。
保全
111 :
:02/06/30 09:36 ID:8r3k+muo
.,,-=⌒″ ^'-,,
_ノ'″ \
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,i″ /| / / |\ ヽ
,ノ _,vノ'| / | ./| /| | | ヽ
ノ ..,r''''─レ─-l/,レ"|ノ |∧ .|
| ,, ─-、 r'′ -ーl'~'''ァ‐′ ノ __リ_│ l .l
| /r'¨ゝ〃 | o'''┴-" _,,,_ ^ソ.. ノ ソ
│ {(,r ゙| | _( ゙ソ!| ノ|ノ
ヽ, ヽヾソ | l | ヽ`'゙。 |ノノ|丿
ヽ、゙\,| | l | u ´,ィ′ .|
ヽ、 | │ u ..___ l l i ・・・やっと・・・
`l | l ~`ー-ソ 。゚ノ ・・・111が取れました・・・
(三|. | ,/
( ノ.| | _/
/'゙ヾ...| l _ .-v、,,,__,,ノ'′
,| ソ ⌒''¬v、,,,__ |、
._vi《,,,_ ` ⌒^'^ト
* * * * * * * * * * *
マキは目が覚めると自分がベットの下に寝ているのに気が付いた。
どうやら寝ている間に落っこちてしまったらしい。
「あ、姉ちゃん、おはよう」
すでに朝食を食べ終わっていたユウキは、マキが自分の部屋から出てくると
朝食の準備をしようと炊事場に向かった。
「……今、何時?」
マキは昨日の残りのスープを温めようとしているユウキに聞く。
遅くまで起きていたことと昨日の疲労のせいか、まだ意識は朦朧としている。
「もう昼になるよ。姉ちゃん、朝と昼の飯はいっしょでいい?」
マキはその言葉を聞きながらもぼーっと窓の外を見ていた。
太陽はすでに高い位置まで上り、村にはいつもののんびりした風景が広がっている。
(あれ?)
何か昨日までの村の雰囲気と違う。
昨日まであったはずのものがなくなっているような……。
寝惚けた頭で考えているうちにあることに思い当たった。
「遊撃隊の兵たちは? どこ行ったの?」
マキは完全に覚醒した頭でユウキに尋ねた。
「ああ、さっき出発していったよ」
「しまった…… 寝過ごした……」
マキはすぐさま自分の部屋から鎧と剣を引っ張り出す。
そして素早くそれらを身に付け、旅に必要と思われるものを次々と道具袋に入れていく。
「姉ちゃん、何する気?」
ユウキはいつに無く焦っている姉の姿に、調理の手を止めて様子をうかがう。
「ちょっとナカザワ王国と戦ってくる。すぐに戻ってくるよ」
マキはそう言うが早いか、家の戸を勢いよく空けて外に飛び出した。
「飯はどうするのさ!」
「帰ってきてから食べる」
ユウキの少しピントのずれた問いにマキは適当な返事を返す。
マキの姿は村の西にある街道の方へと消えていった。
「父ちゃんもこんなふうに勝手な人だったのかなあ……」
マキの姿が見えなくなって、ユウキはふとそんなことをつぶやいた。
ユウキの記憶にある母はきわめて常識的な人物だった。
なのでマキのこの性格は父親譲りなのだろうと思ったのだ。
(無理だけはしないでくれよ、姉ちゃん……)
ユウキは魔物から人々を守ろうとして命を落としたと父のことを思い出し、
マキの無事を祈らずにはいられなかった。
* * * * * * * * * * *
走り続けていたマキは少し走るスピードを緩めた。
(遊撃隊はどれぐらい先を進んでるの?)
しばらく走ったが遊撃隊の姿が見える気配は全然無い。
ユウキに遊撃隊が出発した正確な時間を聞いておけばよかった、
と思ったがもう後の祭りである。
(向こうにこちらのことを知らせられれば追いつけるんだろうけど……)
そう考えたマキに、あるアイディアが浮かんだ。
マキはそれを実行した。
* * * * * * * * * * *
いきなり遊撃隊の後方の上空で爆発が起こった。
その音に驚いてか、森の鳥たちは一斉に飛び立った。
(この爆発は…… 魔法?)
隊の最後尾を進んでいたサヤカは思わず後ろを振り返った。
一瞬、敵の奇襲かとも思ったが、それならばわざわざ自分の位置を知らせるようなまねはしないだろう
と思い直し、兵士たちに落ち着くよう呼びかける。
だが放っておくわけにもいかず、数人の兵士に後方の様子を探るよう命じ、
他の兵にもしばらく待機するよう伝えた。
様子を探るよう命じた兵が戻ってくると、その人数が一人増えていた。
サヤカを始め、この場にいる多くの兵士がその人物に見覚えがある。マキである。
「こんな所まで追ってきたんだね。挨拶もしないで出発して悪かったよ。
手助けしてくれたお礼もしたいところだけど、あいにく持ち合わせも無いから
これからの戦いに勝ってから何かお礼をするよ」
サヤカはそう言って他の兵に行軍を再開するよう指示を与える。
マキはそんなサヤカに近づいて言った。
「ナカザワ軍との戦い、私も参加できるかな?」
「なんで?」
マキは昨日の戦いに参加したのは村を守るためだと自分で言っていた。
それに遊撃隊は嫌いだとも言っている。
サヤカはマキがどのような理由でそう言いだしたのか聞いてみたかった。
「ナカザワ王国が魔物を戦いに使っているのか確かめたいんだ」
「確かめてどうするの?」
「もし使っていないんだったら村に帰る。国と国との勢力争いには興味が無いからね。
使っているのだったらナカザワ王国と戦う。魔物が人を傷つけるのは許せない」
口調は変わらないがマキの目はその決意の程を示していた。
サヤカにはマキの申し出を断る理由が無かった。
「そういうことか。私は歓迎するよ。……どうやら他のみんなも文句は無いみたいだね」
サヤカは周りに目をやる。
マキの活躍を知っている周囲の兵士は皆、心強い味方を得たというような顔をしている。
「それじゃしばらくお世話になるよ、イチーチャン」
隊長を敬称もなしに呼んだマキに兵士たちは一瞬嫌な顔をしたが、
サヤカに不満そうな表情が無いので口には出そうとはしなかった。
新しくマキを加えて行軍は再開された。
遊撃隊は森に囲まれた街道を抜け、パスタ平原へと近づいていく。
それにつれて決戦の時も徐々に近づいて来るのであった。
七夕
120 :
名無し:02/07/13 16:56 ID:SHLU7Zxu
仮面ライダーシザース
保全
ほぜん
123 :
白烏:02/07/16 22:14 ID:sPRVeT03
* * * * * * * * * *
――パスタ平原のやや南にチャーミー軍は陣を敷いている。
ほとんどの兵にとっては一ヶ月前の戦闘が初めての本格的な戦闘だった。
その上、戦闘終了後も長期の対陣となり、兵士たちの士気の低下が
心配されていた。にもかかわらず兵士たちの士気が衰えていないのは、
将軍ケイ=ヤスダの統率力のたまものと言えるだろう。
司令部の白い帳の周りでは数人の兵達があわただしく動き回っていた。
司令部の中に入ると長方形のテーブルを中心に、数人の隊長格らしき
人物が深刻そうな面持ちで座っているのが見られる。その中でもひときわ
渋い顔をして一番奥に座っているのがチャーミー軍の将軍ケイである。
栗色の髪は、鮮やかな装飾を施された青い鎧の肩の部分まで伸びており、
その顔にはやや疲れが見えていた。
「サヤカ隊長が帰還なされました!」
司令部に伝令の兵が報告に来た。ケイはご苦労様と言い、さっそく
司令部に通すよう指示する。高圧的ではないその声の調子は、ケイが兵に
慕われている要因の一つでもあった。伝令は了解の旨を告げると司令部を
退出した。
伝令が司令部を出てまもなくして、二人の人物が司令部に入ってきた。
「とりあえず別働隊の方は撃退したよ。あまり損害は与えられなかった
けどね。だけどこれで少なくともいきなり後ろから敵に襲われることは
無くなったよ」
口を開いたのは遊撃隊の隊長、サヤカである。
124 :
白烏:02/07/16 22:14 ID:sPRVeT03
「ご苦労様。これで後方の心配もなく、目の前の敵に専念できるわね」
ケイの表情が微かにほころぶ。これほどの大規模な戦闘と長期の対陣、
そして負ければ国が滅ぶかもしれないというプレッシャーのために、
心身ともに参ってはいたが、それでも今のサヤカの報告でケイは少しは
気持ちが楽になった。
「それでこちらからのナカザワ軍への攻撃は議会に承認されたの?」
「だめね。議会は、こちらからの攻撃は危険が大きすぎる、と言って
聴かないわ。このままだと向こうに援軍が到着して、ますます勝てる確率が
下がる、って言うのにね」
そう言うケイに怒りの感情は見て取れない。平和を愛する議会、ひいては
国民が、自ら戦いを挑むという決断を下せないのもわかるからだ。ただ、
状況が悪くなっていくのを黙って見過ごすしかないのが歯がゆかった。
「自国の平和ばかり考えていた代償かな。いざ自国が戦乱に巻き込まれる
と、どうすればいいのかわからない……。で、ケイちゃんはどうするの?」
「このまま様子見だね。議会の意見は無視できない」
「それじゃあこの戦い、勝てないよ?」
「でも、議会の意見を無視すれば、この戦いには勝っても国民の動揺や
議会の反発を招く。そうやって国が混乱している時に再度ナカザワ王国が
侵略してきたら防げるとは思えない。それに今のうちに攻撃を仕掛けても
勝てる確率は五分五分を上回らないしね」
国が一つにならなければこの危機を乗り越えることはできない。
そのことはサヤカもわかってはいたが、なにかやるせない気持ちで
いっぱいだった。
「別働隊を撃破して士気が高まっているうちに敵に当たりたかったんだ
けどなぁ」
「ごめんねサヤカ。とりあえず今日のところはゆっくり休んで。……ところで
後ろにいるのは誰?」
125 :
白烏:02/07/16 22:15 ID:sPRVeT03
会話が一段落すると、ケイはサヤカの後ろで興味なさそうに話を聞いて
いた少女に目をやった。ケイもすべての兵士の顔を覚えているわけでは
ないが、司令部に顔を出す者くらいは一通り覚えている。しかしその
少女には明らかに見覚えが無かった。
「ああ、紹介するよ。この子はナカザワ軍の別働隊と戦った時に加勢して
くれたゴトーっていう子。ちょっと無愛想だけど、剣の腕はなかなかのもの
だよ。その上魔法まで使えるんだ」
ケイはマキをまじまじと見つめた。マキの表情はうつむいていてよく
わからないが、微かに唇がほころんでいるのが見えた。
「チャーミー王国一の剣士、サヤカが剣の腕を認めるなんね。心強い
味方が増えたわけだ」
心強い味方、という言葉にサヤカは先の戦いのことを思い出した。
「そうだ、他にもケイちゃんに報告しておかなきゃいけないことがあったんだ」
サヤカはナカザワ軍との戦闘での、あまりにタイミングがよい魔物の出現に
ついて話した。
126 :
白烏:02/07/16 22:16 ID:sPRVeT03
「偶然じゃないの? 魔物が人の命令を聞けるほど賢いとは思えないん
だけど…」
ケイはサヤカの話に半信半疑の様にして言葉を返す。
「まあ、そう言われればそうなんだけど……。一応報告しておこうと思ってね」
サヤカはケイの表情を見てあっさりと自分の主張を取り下げた。
「……サヤカも戦いを前にして少しナーバスになってるのかもね。
今夜、二人でちょっと息抜きでもしない?」
サヤカがケイの言葉にうなずいたことで遊撃隊の帰還の報告は終わった。
集められていた各部隊の隊長は、それぞれの持ち場に戻っていく。
サヤカも遊撃隊に指示を与えようと、マキを連れてその場を離れる。
ケイは一人になると、鎧の重さが倍にでもなったかのように肩を落とし、
大きく一つのため息をついた。
帆蝉
128 :
白烏:02/07/18 22:32 ID:V+Z6GV4j
* * * * * * * * * *
「ナカザワ王国が魔物を従えてるってのは確かなの?」
夜の帳が空を覆う中、ケイは訪ねてきたサヤカにそう切り出した。昼間は
他の兵に余計な心配をかけぬよう聞き流した話題だが、そのままにして
おくには重大すぎる問題だった。
「報告のとおりだよ。確かなことはわからない。ただ、状況から考えるとその
可能性は高いね」
ケイはサヤカに飲み物はいらないかと尋ねる。サヤカは紅茶を頼んだ。
「そう…。魔物の軍勢のことも考えないといけないわね…」
コーヒーと紅茶を持ってきたケイはテーブルにそれらを置く。ケイが口に
したコーヒーは苦かった。二人はしばらくそうしてそれぞれの飲み物を
味わった。
「……魔物対策に遊撃隊の一部を派遣してくれないかしら。」
ケイはコーヒーを飲み終えると提案した。
「いいよ。正規軍は魔物との戦い方を知らなすぎるもんね」
魔物は総じて人間よりはるかに強い力を持っており、また様々な能力を
持つものもいる。よって魔物にはケイが叩き込んできた対人用の戦い方
での対処は難しい。ここはそのスペシャリストたる遊撃隊に対処を任せるのが
妥当なところだった。
「本当なら、遊撃隊にはその名のとおり遊撃を任せたいところなんだけど…」
「大丈夫だよ。人数が少なくとも遊撃の役割は果たせる。むしろ統率の
手間が省けて動きやすくなるかもね」
サヤカの言葉に嘘はない。ケイはサヤカが気休めを言うような性格でないのを
知ってはいるが、倍近い軍勢に加え魔物までも相手にしなければならないと
思うと不安は尽きなかった。
129 :
白烏:02/07/18 22:32 ID:V+Z6GV4j
「……決戦の日は近いね。」
サヤカは、カップの中の残り少なくなった紅茶を見てつぶやいた。
「そうね。斥候の報告だとナカザワ軍の援軍は明後日には到着するらしいわ」
すでにコーヒーを飲み終えたケイは手持ち無沙汰のまま返事をする。
「となると、三日後になるかな」
「……多分ね。その戦いの結果しだいで、モーニング最古の王国の存亡が
決まるわ」
首都ピースは守りやすい所とはいえない。防衛用の塀や堀は効果的に
機能しているとは言えず、城も装飾の方に力が注がれている。
このパスタ平原の戦いに負ければ、その勢いのままピースも攻略されて
しまうだろう。
「……この戦い、勝てると思う?」
「勝てないね」
「……随分はっきり言うわね」
「事実だよ。でも勝てなくとも負けないことはできる」
サヤカはケイを諭すように言う。
「この戦力差をひっくり返してナカザワ軍を打ち破るのは無理。でも向こうの
攻勢を受けきることは不可能じゃないと思う。連携という点では向こうより
こちらの方が上だからね。隊列さえ崩されなければ十分に戦える」
サヤカの自信に満ちた説明にケイはため息をつく。
「……サヤカの方が将軍に向いているね。戦略眼があって、カリスマも十分。
それに比べて私は……」
「そんなことない。戦闘を経験してなかった兵がナカザワ軍と互角に戦えたのも
ケイちゃんへの信頼があってこそだよ。ケイちゃんは自分を過小評価しすぎ」
サヤカがケイの言葉をさえぎる。その目はじっとケイを見つめていた。
「……ありがと。私がこんなに弱気だったら兵に示しがつかないわね」
ケイはそう言って部屋を出て行った。間もなくして戻ってくると、その手には
ワインが一本とグラスが二つあった。
「……戦いに勝つまで飲むまいと思ってたけど、今日空けちゃうわ。付き合って
くれる?」
サヤカは静かに微笑んでうなずき、グラスを受け取った。
夜が明けるまでにはまだまだ時間がある。
保全パスタ
チャーミー保全
132 :
白烏:02/07/22 22:38 ID:QAbP8nHr
* * * * * * * * * *
空は雲ひとつない晴天だった。早朝ということもあって日差しはそれほど
強くはなく、そよ風も吹いている。
だが、チャーミー軍の兵士達にとって、その場は少しでも長居をしたくない
場所だった。なぜなら彼らの目の前では、八千以上のナカザワ軍兵士が
突撃の指示を今か今かと待っているからだ。
チャーミー軍の兵は五千に届こうか、というところ。倍近い兵力差がある。
それでもチャーミー軍の兵士は自分達の国を守るために、恐怖をこらえて
戦場に立っていた。
その本隊の後方に布陣する遊撃隊は正規軍よりも落ち着いていた。直接
敵と対峙していないのもあるが、個々の腕ではナカザワ軍に引けを取らない
という自負があるからだ。遊撃隊は全員が乗馬しており、先頭にはサヤカと
マキの姿がある。
「まったく、ゴトーは多才だね。なんで二日で馬を乗りこなせるようになるかな」
サヤカの側に馬を止めているゴトーは、その言葉に反応を見せない。
「今回の戦いは前のとは規模が違う。周りの状況に気を配らないと取り返しが
つかない事態になる」
サヤカはそんなマキに向かって言った。マキの剣の腕は認めているが、
同時にマキがそれを頼んで孤立するのを恐れていた。マキはわかったと告げ、
いくぶんか表情を引き締める。
それが合図になったわけではなかろうが、ナカザワ軍の攻撃が開始された。
133 :
白烏:02/07/22 22:38 ID:QAbP8nHr
* * * * * * * * * *
戦いは初戦と同じように個々の力を頼むナカザワ軍に、チャーミー軍が
統率力で対抗するという形になった。違うのはナカザワ軍の数。
程なくしてチャーミー軍の左翼が崩れようとしていた。
「いくよ! これから敵の右翼に突撃する!」
サヤカの命令に遊撃隊は「おおー」と叫ぶ。チャーミー軍の左翼がすっと引き、
本隊がやや右に寄って間に空間が開いた。と同時にサヤカがその空間めがけて
一直線に馬を走らせる。寸分遅れずマキや他の兵も続く。
「立ち止まるな! 一気に駆け抜けるよ!」
遊撃隊はナカザワ軍右翼に向かって右から突撃、そのまま斜め左に
突っ切っていった。ナカザワ軍右翼は勢いを減じ、逆に引いて隊列を整えた
チャーミー軍左翼が盛り返す。戦況は一進一退になる。
「何人欠けた?」
敵陣を駆け抜け、その後の戦況を見届けるとサヤカは被害を確認した。
幸い大きな被害はない。速やかに隊を整えると、今度は右翼が崩れかかって
いる。遊撃隊はすぐさまそちらに向かい、ナカザワ軍を押し返す。
遊撃隊の活躍で、チャーミー軍は崩れそうで崩れない。
134 :
白烏:02/07/22 22:38 ID:QAbP8nHr
* * * * * * * * * *
マキは前方に密集している敵兵に向かって神経を集中した。瞬間、強烈な
熱気が敵兵をつつみ、はじけた。敵兵を無力化するには至らないが、明らかに
敵兵は動揺している。そこをマキが駆け抜け、遊撃隊も続く。
敵陣を突破し、マキが方向転換しようとすると、一瞬目の前の風景がぼやける。
マキは頭を振った。
「魔法の使いすぎだよ」
いつの間にかサヤカがマキの隣にいた。
「少し休みな。精神力を消耗し過ぎてる。それじゃ足手まといだ」
言葉はきびしいが、マキの身を案じた言葉であることが見て取れた。
マキは負傷した兵とともに一旦前線を離れる。
その間にも、チャーミー軍はナカザワ軍の猛攻にじりじりと押されている。
135 :
白烏:
「まったく、休む暇もない……」
遊撃隊が四度目の突撃を行おうという時、急に隊が乱れた。サヤカが状況を
確認しようとすると兵の一人が駆け寄って来る。
「魔物です!」
その言葉とほぼ同時に、真横から鋭い爪がサヤカを襲った。サヤカは背中を
そらせてそれをかわす。サヤカの頬に赤い線が引かれた。飛び掛ってきた
魔物は、サヤカを仕留め損なったのを見ると奇声をあげながらもう一度
突進してきた。
素早い魔物の動きに翻弄されながらも、やっとのことで魔物を切り倒す。
見れば他の兵士たちもいくつかの黒い影に向かって剣を振り下ろしている。
「まずい!」
サヤカの口から思わず言葉が漏れた。この程度の数の魔物で遊撃隊は
やられはしない。だが完全にナカザワ軍への突撃の機を逸してしまった。
戦場はチャーミー軍が突き崩され、乱戦になってしまっている。こうなると
数も個々の技量も勝るナカザワ軍のほうが断然有利だ。
「魔物にはかまわなくていい! 本隊を援護するよ!」
すでに手遅れに近いが、この場に留まっていても意味がない。サヤカは
乱戦となった戦場に馬を走らせた。