682 :
:02/09/10 06:16 ID:Q1xqcxpP
昨日会社でむしゃくしゃしてこのスレみつけますた。
自主的に半休をとりますた(w。今まで読んだ中で一番面白いかも。
でも作者さん余命1ヶ月の人間でも楽しめるようにしてください、おながいします。
【T・E・N】 第66話 吉澤と石川
薄暗い地下のワイン庫。
裏口から入って左に行くと厨房、右へ行き階段を降りるとこのワイン庫だ。
当然一年中一定に温度・室温が保たれている。壁一面に並ぶワインの棚、その
ワインをケース単位で地下から1階、2階へ運ぶことが出来る小型エレベータ
ー。長期的に肉や魚を保管できる冷凍室などがある。
石川と吉澤は今、二人きりで裸電球に照らされたこの部屋にいる。
吉澤はすっかりそのワインの数に圧倒されて、そこらじゅうを丹念に調べ回っ
ている。逆に石川はこの部屋にほとんど足を踏み入れたことはない。冷蔵庫は
厨房にある一般家庭用のもので十分足りているし、加護も石川もお酒にはほと
んど興味がないのであった。
「梨華ちゃん、ほんとにつんくさんここのワイン好きなの飲んでいいって?」
「うん」
「・・・ウソだって。多分。このガラス張りになってるワインあるじゃん」
「えーっと、ロ・ロマニー・・・何て書いてあるの?コレ」
「ロマネ・コンティ。幻の赤ワインって言って40万ぐらいするよ」
「よんぢゅ・・・!」
「よし、今夜これにしよう」
「や、やめよーよ、よっすぃー・・・そんな・・・」
「ハハハ、冗談だヨ。サスガに」
つんくさんは私を試しているのかも、と吉澤は思った。
夜の世界にもレヴェルがあって、ホンモノの客を相手にする場合にはごまか
しなど通用しない。吉澤は必死に自分の店レヴェルを上げるために勉強した。
その成果が今こうして役に立っているわけだが、もし知識が無ければ、何の気
兼ねもなくこの超高級ワインを口にしていたかもしれないのだ。
「おお〜いいねぇ。ジュヴレ・シャンベルタン。コレにしよっ」
「スゴイスゴ〜イ! なんでそんなにお酒に詳しいの、よっすぃ〜!!」
「え・・・何故って・・・水商売もー長いし・・・」
「?〜」
石川は悲しそうな顔で首をかしげる。
吉澤は事情を話した。自分の経営しているバーが普通のバーではないこと、
そこで得たもの、失ったもの、そして今はその生き方をまったく後悔していな
いこと・・・。
何故か吉澤が「ウチの店は男子禁制だから、女のお客さんしかいない」と言っ
た部分で、石川はホッとしたような表情を見せる。
「あッ、でも今日のディナーはニク? 魚?」
「サーモンです」
「じゃあ白のほうがいいかなぁ」
そして再びズラっと並んだ棚の中から、自分の知っているワインを探す吉澤。
しびれを切らして石川が後ろの回した手をモジモジさせながら言う。
「ねぇ・・・用事って何なの?」
「うーん・・・さっきまでオレ裏庭にいたんだけどね・・・」
「裏庭って・・・噴水のある?」
「うん・・・梨華ちゃんが、ののを見たっていうトコロ」
「はぁ・・・」
吉澤はそう言いながらも、目線はワインのラベルをなぞっている。
「いた? ののが」
「ううん、いなかった」
「ねぇ、ウチら見たの本当にののだったのかなぁ・・・」
「わかんね。それに5年前にこの屋敷で起こったことも気になるし・・・」
小川や新垣が遭遇したという「幽霊」の話と、コミュニケーションノートの
中で後藤が書いていた「あんなことがあったのでブルー」な話は多分同じなん
だろう。この屋敷でかつで何か普通じゃないことが起こったことは間違いない
のだが・・・。それが、どう繋がっているか分からない。
「ジャブリでいいっかぁ」
どうやら吉澤は辻のことより、いつの間にか並べられたワインに関心が移行
しつつあるようだ。
「もう、よっすぃーったら・・・」
「あと、梨華ちゃん」
「え? 何」
「ますます可愛くなったよなぁ」
ワインを片手で掲げて石川の方へ振り向き、クールな笑みを浮かべる吉澤。
石川は耳まで真っ赤になった。
【66-吉澤と石川】END
NEXT 【67-高橋と加護】
>さしみさん
更新乙です
久々のリアルタイムに感動。
ところでゴキブリの死骸どうなったんだろ〜?
よっすぃ〜にやっつけてもらったのかな?
688 :
671:02/09/10 10:37 ID:r77T55s2
見事に引っ張られましたね…
でもそれがこの小説のイイ所(w
もう十分、泣・笑・驚です!
余命一年でも、墓場より蘇り(略
66話はあまりにもヒドいのでそのうち書き直しますよ。
「温度・室温」って何よ(w
やはり朝はよくない。精進します。
レスありがとうございます。
ホゼム
さしみがんがれ
がんがるよ。
じっと待っている人、ごめんにゅ。
693 :
sage:02/09/12 20:37 ID:nGMqjxp7
さしみ 年内に完結させろやゴルァ
100話逝きそうな悪寒
>>693 sageってのは、メール欄に書くんだよ。
さしみ、マターリ更新でいいからさ、絶対に途中で投げ出さないでね。。。
そんなことになったら、不眠症で氏ぬヤシが大量に・・・
>>693 年末に「保田の卒業までには完結したい」とか言っているかもな
>>694 第一部(解散後のメンバー編)で70話以上消費するからな。
第二部(事件編)も含めると100話いくよ。だめっすか。
>>695 すまん。今週は忙しかったんだ。連載当初はヒマだったのだが
あれよあれよというウチに会社で重要なプロジェクトを任されるように
なってしまった次第。今度の3連休は小説書こうと思う。プチこもりで。
あー言い訳カコワルイ。
タマちゃんでも見てなごめ。つーか、てめぇら動物園いけ。
まあ、全く気にするなとはいわんけど、放置だけはカンベンネ。
楽しみにしてる読者もかなりの数だし。
てゆうか、いまだに9月23日に何もおこらないことを祈ってる・・・
俺は娘。が解散するまでに完結すりゃいいぐらいに思ってる。
完結さえしてくれればそれぐらいでも待つよ。
なんてすぐだったりして.....!
100話行こうが150話行こうが構わないのだが、
年末までにはなんとか完結しておくれ。
人の心は移ろいやすいのだ〜…
【T・E・N】 第67話 高橋と加護
「どもっ!」
「愛ちゃん・・・」
「こんちゃんは?」
「矢口さんに誘拐されちゃいました。夕食の準備は順調?」
そう加護に訊かれて一瞬、高橋は言葉に詰まってしまった。
「う・ん〜チョット遅れ気味だけど・・・豪華な夕食になりそーだよ。
いま休憩時間を石川さんに貰ったんです」
「へ〜、ねぇここに座ってっ」
加護は、そばにある一番大きな三人掛けのソファーをポンポン叩いた。
指示されるままにそこに腰を沈める高橋。
加護と高橋は微妙な関係だ。モーニング娘。に加入したのは加護が先だが、
年齢は高橋のほうが上。
高橋が5期メンバーとして娘。の一員となったときには、すでに加護はファ
ンの間ではカリスマ的な人気を誇っていた。バラエティ番組に出演するときな
どは、5期メンバーに絡むことに消極的なベテラン組にかわって、笑い・ネタ
関係でも大きな評価を得ていた加護がイニシアチブを握り、いまだ垢抜けない
高橋たちを引っ張っていくことも多々あった。特にシャッフルユニットなどで
は、事前にネタ合わせをしたりと芸人魂をたたき込むことに余念がなかった。
結局それでも加入してから1年半ほどの間、高橋は自分のタレント性の無さ
を痛感することがしばしばあった。加護らがテレビに順応しすぎていただけに
なおさら。
だが、プライベートで二人きりになるとその加護の態度が一変する。姉に甘
える妹のように手を繋いできたり、買ったクレープを「ひとくちチョーダイ」
とじゃれてくる彼女に触れ、当初高橋は嬉しい半面、ひどく戸惑ったりもした。
(もしかしたら、このコは羨ましかったのかもしれない)
モーニング娘。加入一年程が経過したころ、ようやく高橋はその行動原理に
ついて自分なりに整理することができた。
一緒に行動することが多かった辻が、人目をはばからずに先輩やスタッフに
甘え、そして愛情をたっぷり注がれている姿を常にクールな視線で加護は見て
いた。嬉しい時には満面の笑みを浮かべ、悲しくなったときには目も当てられ
ないほど落ち込む、裏表のない辻の無邪気な表現に加護は憧れていたのだ。
複雑な家庭環境に育ち、周囲の顔色を窺いつつ幼い頃から打算的に生きてい
た加護とはシメトリーと形成していた。姿形はとかく似ていると言われ続けて
いた二人だったが、その内面はまったく別でありワンセットに扱われることに
対して一時期、加護はかなり複雑な想いがあったようだ。
あるいは遥々奈良から上京し、寂しがりやの加護にとって、親元で暮らして
いる辻が仕事の中でも甘えているのを見て、どこか腹立たしい気分になってい
た、という見方もできる。
とにもかくにも加護の中にそんな複雑な感情が渦巻いていたときに、高橋ら
5期メンバーが加入してきたのだ。
だから加護が当時求めていて、その願望にスッポリはまった「後輩だけど、
年上の娘メンバー」である、高橋に意外なほど甘えるようになったのはむしろ
必然だったのかもしれない。
しかし、あの武道館の事件が二人の仲を引き裂いた。
そして再会。高橋は自分の夢を追いかけるのに夢中で、ほとんど連絡もしな
かった加護に今さらどうやって接したらいいのか見当がつかない。
「この家ってゴキブリが多いの?」
もう滞在して一週間にはなる加護に尋ねる。紺野を連れ去ったという矢口の
名前を聞いて、居間でコミュニケーションノートを読んでいたときの悲鳴を思
い出したのだ。
「ゴキ? ううん、私一回も見たことないんだけど・・・。さっき矢口さんが
叫んでいたアレ?」
「ううん、さっきも食堂にゴキブリがおってぇ(居て)、吉澤さんに片づけて
もらったんよ」
「ふーん、梨華ちゃんは大丈夫だった?」
「いやぁ。スゴい慌ててた。ギャーギャーって」
加護は、その食堂での話を聞いて含み笑い。
食堂で見かけた、無惨に潰された虫の死骸。パニックになる石川と高橋。そ
こへひょっこり現れた吉澤。彼女(彼?)は渋々になりながらも処理してくれ
たあとに、石川の耳元で何かささやいた。
石川の表情が、なんとなく曇り空。
しばらく考えた後「愛ちゃん休憩っ!10分!」とだけ告げて、吉澤と二人
で地下のワイン庫へと消えていった。
一人厨房に取り残された形となった高橋は火元を確認し、紺野と加護のいる
はずの居間へ。だがそこにいるのは加護ひとりだけだった・・・。
「なんか石川さんは変わってませんよね。スッゴイ女の子らしくって。うん。
男だったらあーゆーコを彼女にしたいって思うやろなぁ」
「へへへ、守ってあげたいってヤツ!?
実際、梨華ちゃんったら私がイナイと何にも出来ないんだから」
「え?」
加護の言葉を聞いて一瞬目を丸くする高橋。
(それって逆じゃあ・・・)
しかし加護の口調からは冗談を言っている雰囲気は読みとれず、むしろ自信
に満ち溢れている。
「梨華ちゃん、変な様子とかなかった?」
「いえ、別に・・・」
「うん、晩餐会に向けて気合い入っているもんね」
「あの・・・? 石川さんが何か・・・?」
加護は安心したような、それでいてもの悲しい目で、ソファに座っているか
つての仲間をじっと見つめる。時間にしてみれば5〜6秒だったかもしれない
が、それは高橋にとってえらく長く感じた。
「あのね、梨華ちゃんはね“やじろべえ”なの」
「??」
「すごく、スゴク狭い範囲でしか生きられないの。
“やじろべえ”の足場みたいに」
よく分からなかった。
少し考えれば、その「スゴク狭い範囲」というのが「男のいない世界」だと
いうことに高橋は気が付いたかも知れない。が、加護の突飛な比喩にあっけに
とられて、石川のコンプレックスである男性恐怖症のことに言及しようとして
いるなんて、そこまで考えが及ばなかったのだ。
「でね、その狭い足場の上でも・・・あっちに傾いたり・・・こっちに傾いて
倒れそうになったりで・・・だれかが側にいてやらないと危なっかしくって
しょうがないの、梨華ちゃんは」
加護はそう言いながら両腕を左右にぴんと伸ばして上半身をゆっくりと傾け
た。どうやら“やじろべえ”のポーズを真似ているらしい。
微妙なニュアンスだったが、ようやく石川が精神的に不安定なことを遠回し
にこのコは言っているのだな、と少しづつ高橋は理解しはじめた。
「やじろべえっすか・・・」
今日、ここに集まるメンバーのほとんどが何らかのコンプレックスを抱えて
生きている。
歌が売れない、仕事がない、人前に出れない、歩けない、聞こえない―――。
あまりにも大きすぎた「モーニング娘。」という存在。その重圧に耐えなが
らも、高橋は歌い続けるということで正面から立ち向かっていった。結果は決
して成功とはいえないが―――まだ発散する場が与えられただけ、ほかのメン
バーに比べればマシだったのかもしれない。
歌いたくても歌えない娘。踊りたくても踊れない娘。
(“やじろべえ”ねぇ・・・)
もしかしたら、そんなメンバーは石川だけじゃないのかもしれない。高橋は
そう思うとやるせない気持ちになる。
加護を見つめる。彼女の視線は、いつのまにか居間2階の壁から泰然と二人
を見おろしている飯田画伯作の絵に張り付いていた。そういえば、と高橋は屋
敷に来る途中の山道で、絵の作者本人から聞いた「あること」を思い出した。
「ああ、加護ちゃん知っとる? この絵には秘密があるって」
「ヒミツ?」
「うんっ、なんか来るときの車ン中で飯田さんゆうとってんけどぉ、ちょっと
した謎解きがあるんやって」
「え〜この絵に?」
「うん」
「何?ナニ〜? 教えて?」
「いや、私もわからんですよ。
飯田さん、もったいぶって教えてくれんかったし」
改めて高橋もその絵を見つめる。
タイトル「未来の扉」。飯田圭織作。油絵。
縦長のキャンパス。黒バックの中央には光輝く扉と、そこへ続く階段。
その周囲を飛び交う二等身で描かれている13人のメンバー。
背中には天使の羽。一番上にはリーダーの飯田がメンバー全員を見守るよう
に浮遊している。そこから時計回りに、矢口、紺野、高橋、保田、後藤、一番
下には手を繋いでいる加護と辻。吉澤、新垣、石川、小川、安倍。そこでよう
やくキャンパスを一周する。
(何か並び方に法則性でもあるのだろうか)
高橋はどうもこういったクイズというか、頭の体操のようなものは苦手だ。
「う〜ん加護ちゃん分かる?」
「私も一週間ずっと暇なときボーっと見ていたけど・・・別に気になるところ
は・・・」
「あっ! 分かった分かった!」
いきなり高橋が右手を上げる。
「ええっ! 分かったの!」
「うん。この絵のヒミツはね『プッチモニメンバーは全員右手を上げている』
よ!」
「・・・」
「でしょ? 加護ちゃん」
「あのー、愛ちゃん。
お言葉ですけど・・・小川ちゃんも右手を上げているよ・・・」
「あ、ホントだ」
「・・・・」
「・・・・」
高橋がションボリ口を尖らせた表情が加護には妙におかしかった。そんな謎
が分かったところで特に誇れることでもないと思うのだが、負けず嫌いの彼女
は何としてでもその謎を解きあかすんだ、という気概に満ち溢れている。
「あ!」
そこで再び高橋が声を張り上げる。
「分かった!分かった! 『タンポポメンバーは天使の羽が重なっていない』
だっっ!」
「・・・」
「・・・あ。こんちゃんと新垣ちゃんもそうだ・・・」
高橋が自分で突っ込んでくれたおかげで、加護は何も言うことはなかった。
【67-高橋と加護】END
NEXT 【68-安倍】
更新おつかれさまっす
飯田画伯の「未来の扉」見たいのれす…
>>697 放置はしない。小説が更新できなかったら
ネタを書いて消費する。ってそんなことやっているから残り容量が・・・
(512KBが限界だっけ?)このスレで第一部完結は無理か・・・
なお9月23日には後藤が横アリで卒業します。
>>698 あんまりマターリしていると、現実世界が小説を超越してしまうしなぁ。
一ヶ月ぐらい前の8月上旬、小説スレが「シラ〜」となったのを覚えている。
がんがるよ。
>>699 うむっ。そんなわけでなるべく更新ペースを上げていきたい次第。
まあ150話までいくと、毎日更新しても物理的に年内完結は
無理なわけだが。どうも1話あたりの話が長くなってイケマセン。
>>710 私には絵心がないので、だれかがAAで再現してくれることを
密かに願っている(w
つーか、自分。
3連休の初日、しかも夜なのにヒマなのか・・・!?
713 :
。:02/09/14 20:33 ID:B3g+orFv
うぉ〜更新されとる!
これからもがんがってくらさい。
PS。シメトリーて…
思わず笑ってしまったーヨ
symmetry=対称
カタカナで書くと変だ。
>>714 それってシンメトリーだと思ってますた。
>>715 素で恥ずかしい作者なわけだが。
吉澤英語ではシメトリーなんだよ!(強引)
作者は中学の時まで「有頂天」をウテンチョーと読んでいた経歴アリ。
なので見なかったことに。
>>716 落ち込むなさしみ!
自分も「雰囲気」をずっと「ふいんき」と発音してたYO!
おれも「ふるさと」を「ふとるさ」と・・・
いやすまん。
漏れも「新陳代謝」を「ち(r」と・・・。スマソ
俺も「地元の駅」を「藤本の駅」...と。
【T・E・N】 第68話 安倍
カーテンはすべて閉めきってあるし、室内灯の類も一切点いていない。夕暮
れどきということもあり、薄暗いを通り越してこの山奥では真っ暗闇といって
いい部屋。
明かりをつけていないのは、そこが本来誰もいないはずの部屋だからだ。
唯一の光源であるパソコンのディスプレイは、部屋の隅にあり左右を壁一面
のディスクラックに挟まれているため、カーテン越しに光が外に漏れるという
ことはまずないだろう。
この部屋だけホテルだった頃の面影を残している他の客室とは違い、新品同
様の明るめのチークのフローリングや、うすピンクの壁紙等にこの部屋の主で
ある者の今風のセンスがうかがえる。パイプベッド、ガラステーブル、フェン
ダーテレキャスター、背の高い観葉植物―――。この部屋だけ見れば都心の高
級マンションの一室。
だがこの暗い部屋で一人、パソコンチェアに腰掛けディスプレイに向き合っ
ているのは、その部屋の主―――つんく♂―――ではない。
その女は、パソコンに映し出されている文字列をじっくりと凝視する。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
愛という字を辞書で引いたぞ
ねぇ笑って
叱られたってかまわない 体重計乗って
もっと下さい愛を下さい 「じゃない!」
ホイッ!
本当の気持ちはきっと伝わるはず でも笑顔は大切にしたい
どんなに不景気だって 「ほんまかいな〜」
涙止まらないかも
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
モーニング娘。や、そのユニットの歌詞の一部を羅列しただけの、テキスト
ファイル。
そのファイルの名前は「20030709」。女はひと目で、その文字列が
「暗号」だと確信した。
自分が求めている、例の「あれ」のありかを示す・・・。
(もちろん私も、モーニング娘。メンバーだった。
この中には私のパートもある。だからこそわかる。
これはもしかして・・・)
それぞれの歌声を思い出す。
汗だくに歌っている時のメンバーの顔が、次々と頭の中に浮かんでは消える。
後藤・市井・保田・飯田・安倍・辻―――。
「!」
「あ・・・いっ・・・!」
その女が「暗号」をついに解読してその内容に愕然とするのと、背後に人の
気配を感じたのがほぼ同時だった。
振り向くと、安倍が口を半開きにしてドアの隙間から立ち尽くしているのが
薄暗いながらも確認できた。そして彼女は自分の名前を呼ぼうとしている。
(シーッ!!)
女は慌てて、口の前に人差し指を立てて「静かにして」と伝える。
お互い驚くのも無理はない。なにせ誰もいないはず、誰も来ないはずの部屋
に他のメンバーの姿を見つけたのだから。
このドア、廊下を隔てた向こう側の居間ではメンバーが何も知らないでくつ
ろいでいるはず。ちょっと大声を出してしまっただけで、声が漏れてしまう恐
れもある。
それはこの女の立てている計画が破綻することを意味する。
安倍は胸に手をあててゆっくり深呼吸をしてから、暗い部屋に入ってきた。
(さすがに女優になって落ちついてきたのかな)
以前の安倍なら「ナニやってんのぉ〜! こんな暗いところでコソコソとぉ
〜!!」と大声を張り上げてドカドカと大股で近づいてきたかもしれないが。
釘を刺す意味も込めて、ディスプレイに急いで文字を打ち込む。もちろん例
の「暗号」の書いてあるテキストファイルは速攻で閉じた。
安倍は女の隣りにまで、ゆっくりと近寄る。
“静かにして”
それを見て、安倍はゆっくりうなずいた。
なぜ鍵がないと入れないこの西棟1階に安倍が入ってこれたのか。
(もしかして、私と同じ方法で・・・?)
安倍はパソコンデスクに半分だけ腰掛けるような形で向き合う。
“どうやってこの部屋に入ってきたの”
画面上に新たに打ち込んだその質問に、小声で安倍は返答する。
「・・・私この屋敷に来たの、実は初めてじゃないんだ。裏口の合い鍵の隠し
場所も、実は・・・知ってるの」
(・・・!!)
「ねぇ、あなただから先に相談するよ・・・。
実は私、あることをメンバーみんなに告白するつもりで今日ココに来たんだ」
安倍がこの状況で・・・割と落ちついて話しかけてきているのが気になる。
もし逆の立場だったら、メンバーに隠れてこんな暗い部屋で何を企んでいるだ
この女は(実際その女は企んでいるわけだが)と、疑いの目を向けるのが普通
だろうに。
「ねぇ、聞いてくれる?」
沈痛な面持ちで語りかけてくる安倍。その表情から、今から話そうとする内
容が軽い相談レベルではないことがヒシヒシと伝わってくる。
(なぜ私に・・・? よっぽど思い詰めているの・・・?)
その女にとって、この一瞬でいろんなことが起こりすぎた。暗号を発見し、
それを解読してまた新たな謎にぶつかった。そして、誰も入ってこないはずの
つんく♂の部屋に安倍が突然姿をあらわし、相談を持ちかけてきた。安倍はこ
の部屋に何の用事があったのだろう? それも知りたい。しかし、あと30〜
40分もすればもう夕食が始まってしまうだろう。悠長なことは言っていられ
ない。ここに長居すればするほど、計画の破綻するリスクを背負うことになる。
しかし安倍の真剣な眼差しから、今から彼女が話そうとすることがこの同窓
会に大きな意味をもたらすことになるかもしれないと、女は敏感に感じとった。
その好奇心がリスクにまさった。
“どんな話?”
「あのね、もう思い出したくもないけど・・・あの5年前の武道館、解散コン
サートの時の話」
【68-安倍】END
NEXT 【69-小川】
引きこもりっぷりを証明するかのごとく、この時間帯に更新。
微妙な表現続出の第68話なわけなんですけれども、例の「暗号」は
飯田の絵画と違って、ちゃんとノーヒントで解けるようになっているので
興味のある人は頑張ってね。まあモーヲタなら楽勝でしょう。
分かったところで今後の小説の展開にはあまり関係ないので安心だヨ★(キモ)
でもネタバレは勘弁。
暗号わかんない…漏れモーヲタ失格?。・゚・(ノД`)・゚・。
>>728-729 わかんなくても特に影響ないっすよ。気にせずに次いってみよう。
オイッスー!!
>>730 そっかぁ。あと1話ぐらいこのスレでイケると思ったんだけどね。
ちょうど70話分になるし。