ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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92鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第11話 辻と加護

「なぁなぁ、じぶん名前おしえて」

「・・・つぃのぞみれす」

「辻さんかぁ。
 なんかなぁ、このオーディションで中1ってウチらだけみたいやで」

「まじれすか」

「なんか、ミンナ凄そうなひとばっかりやなぁ」

「・・・」

「メッチャ不安やなぁ、辻さん練習とかは一緒にしような」

「ホンマぁ? やろやろ」

「あはは、関西弁マネせんでもええって。
 ウチな、加護亜依っていうんや。ヨロシクな」

「へぃ! 加護さんれすね!」


・・・・・・・。


(なんで)

 加護は瓦礫の山に半身埋もれながらも、視線の先にある辻の伏せている頭を
しっかりと捉えていた。

(なんでこんな時に昔のこと思い出すんや)
93鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:03 ID:nsQY2zvT

 辻の背後には、基材に燃え移った炎がゆらゆら揺れている。
 辻も、辻までもが―――。
 だが次の瞬間、加護はわが耳を疑った。

「ううう・・・あああ・・・!」

 周囲の轟音に混じり聞こえてくる、あどけないうめき声。
 その声の主の上半身が、ごく僅かながら震えている。

 辻が生きている!

 加護は残された気力を振り絞り、腕の力だけでその先を突き進んだ。
 周囲には、爆破の衝撃でちぎれて先が刃物のように尖っている鉄パイプが無
造作に飛び出している。床には、粉々に砕けたスポットライトのガラス片など
が無数に散りばめられている。
 しかし今の加護にとっては、目の前で苦しんでもがいているパートナーの姿
しか見えない。やわらかい手のひらも、真っ白なはずの腕も、辻との距離が縮
まるごとに赤黒く染まってゆく。
 立って歩くのも難しいこの足場を加護はほふく前進だけで、倒れ込んでいる
仲間に手が届く―――5メートル弱先まで突き進んだ。必死だった。

「のの!」

「あ・・・あいぼん・・・?」

 辻は、産まれたて赤ん坊のように重い自分の首を起こした。
 顔はススで黒くうす汚れていたが、奇跡的にもカスリ傷ひとつ負っていない。

「しっかりせぇな! 立てるか?」

 加護は自分が歩けないことなどすっかり棚に上げて、辻の身を案じた。
 だが次の瞬間、加護は信じられない光景を目にする。
94鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:04 ID:nsQY2zvT

 辻のうつろな表情の背後に見える、彼女の足があるはずの部分にボロ雑巾の
様に床に散らばっている布。
 それはまぎれもなく、辻の衣装だったものの残骸だ。
 ピンク色のキラキラのラメの入った衣装だったはずが、今は黒と赤がグチャ
グチャに混じりあった無惨な布きれ。それが、かろうじて辻の腰から下にまと
わりついているようにしか見えない。
 そしてその布には、今なお赤色の液体が次々と染み込んでいるようだった。

 あの爆発で辻の脚は、完全に吹き飛ばされていた。

 なんで―――。
 私たちが何をしたっていうの―――。
 加護が絶望に打ちひしがれたその時だった。

「あ・・い、ぼん・・・」

「!?」

 信じられないことに辻は笑って、加護の血まみれの手を握りしめてきた。
 あれだけ泣き虫だったはずの、辻が。
 もちろん意識が朦朧としているのが、その表情からも読みとれる。

「つ、つぃは・・・あいぼんに・・・あやまらなきゃ・・・」

「のの、喋べんな! もうすぐしたら誰か助けにきてくれるから!」

「なあ、あいぼん・・・こなぁいだ、ひどいこといって・・・ごめんら・・・」

「アホぉ! こんな時に何ゆうとんのや!」

「ゆるして・・・くれる?」

「あたりまえやろぉ!
 何を・・・何を・・・あれは・・・あれはウチが・・・」

「れへへ・・・よかったぁ・・・」

 加護の小さな瞳から、堤防が決壊したかのように涙が溢れ出てきた。
 なんてつまらないことに意地を張ってきたのだろう。
95鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/29 07:05 ID:nsQY2zvT

 徐々に辻の息づかいが荒くなる。

「あいぼん・・・これからも・・・ずっと・・・いっしょに」

「ああ! 一緒や! ずっと一緒に歌っていこうなぁ!
 だから・・・だから・・・」

「つぃは・・・つぃは・・・あいぼんと・・・むすめをやれて・・・」

 か細い声でテヘヘ、と辻は笑った。

「たのしかっ・たよぉ」

 加護は握りしめている手がすう、と弱まっていくのを感じた。
 辻はまるで眠るかのように、加護の手に静かに頬を寄せて目を閉じた。

 そして、その言葉を最期に辻希美が目覚めることはなかった。

「ののぉぉ!!」

 加護な何度も何度も、のの、のの、と叫んだ。

「ずっと一緒やゆうたやないかぁ、のの・・・そんなぁ・・・のの・・・先に
 死ぬやつがおるかいなアホぉ、のののアホぉぉ!!」

 あとは、ただ辻の額によりかかり泣き崩れるだけだった。
 加護の記憶はそこで途切れている。


 辻を更衣室の前で振り切ったあのあと、加護はロッカーの中に頭を押し込ん
で声を殺して泣いた。
 ステージ上でモーニング娘。ラストソングを歌いながら、辻と共に歩んだこ
の数年の道のりを思い出して泣いた。
 そして目の前で見届けた、最後の最後まで自分を想っていてくれていた親友
の死に―――。

 こんなに涙を流した日はなかった。


【11-辻と加護】END
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