ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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69鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第7話 安倍と辻

「ののォ、まだあいぼんと喧嘩しているの?」

 うつむいている辻希美に、心配そうに話かける。

「ん〜」

 イエスともノーとも取れる返事を貰い、表情から確かめようと安倍なつみは
下からのぞき込んだが辻はすぐに目を逸らす。
 答えは「イエス」だったようだ。

 ここは日本武道館。
 モーニング娘。ファイナルコンサート会場。
 そのモーニング娘。のふたつある控え室のうちのひとつ。

 そしてこの日はモーニング娘。解散の日。
 観客席を埋め尽くした会場では、今まさにタンポポが数々のヒット曲をファ
ンに最後のお披露目。

 このあと、プッチモニ、ミニモニ。と続くのなか辻もその準備に追われてい
たが、ユニット参加の無い安倍は比較的余裕があるので、目がうつろな辻を心
配し話しかけてきたのだった。

「あいぼんもね、悪気があってあんなこと言ったわけじゃあないと思うよ」

「・・・・・・」

「今日でもう最後なんだよ? ここで仲直りしなかったらこれからずーっと、
 ずぅぅーっと、あいぼんのこと嫌いなまま毎日を過ごさなきゃなんなくなる
 よ? それでもいいの?」

「・・・・・・」

目にいっぱいの涙をためて、辻は下唇を噛んでいる。
70鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:06 ID:/r2QJuw/

 辻と加護が、楽屋の廊下でつかみ合いの喧嘩をしているのを見かけたのは3
週間前。
 モーニング娘。はファイナルコンサートツアーで、全国のアリーナクラスの
会場を行脚していた。そのうちのひとつ、博多公演での出来事だった。
 安倍が発見したときは、すでに後藤と保田が間に入って二人を引きはがそう
としていた。

「何ゆうとんのやオチコボレのくせしてボケがぁ!」

「うっせぇ、デブデブ言うんじゃねぇよ!」

「音程外しとってエライ歌いにくかったわアホ!」

 安倍が聞いたときは、すでにそういった罵倒合戦になったので喧嘩の原因は
よくわからなかった。
 あとで保田から聞いた話によれば、きっかけは些細なことだったらしい。

「ののはええなぁ、ユニット少ないしヒマやろ」

 そう加護が漏らしたことから、辻の中に長年累積していたコンプレックスが
爆発したらしい。

 確かに加護は、娘。本体のソロパートでも4期メンバーの中では特権的地位
が与えられていた。
 それに加えてユニットであるタンポポ、ミニモニ。でも新規ファンの獲得に
大きく貢献していた。
 シャッフルユニットである三人祭ではセンターを努め、歌唱力という点では
同期メンバーの中でもつんくは大きな信頼を得ていることが、傍目からも明か
であった。
 また、バラエティという面でも最年少(加入当時)ながらもサービス精神の
カタマリのような加護は、モノマネなどで常にクリーンヒット飛ばし、無邪気
で面白い娘というキャラを確立していった。
 その加護とワンセットで扱われることの多かった辻は、待遇の差に戸惑いを
感じていた。
71鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:07 ID:/r2QJuw/

 予期しない言動で周囲をハラハラさせたり、甘え上手のようなところは辻の
十八番であり、それはグループの中で見事にキャラ立ちしていた。しかし辻本
人にとっては、モーニング娘。という世界が解体されたら、そのキャラは通用
しなくなるのではないかといった焦りがあった。
 あくまでも辻のキャラは周囲に年上のメンバーやしっかり者の矢口などがい
て、初めて活きてくるものであり、シンガーとして認知されていない現状で芸
能界で一人でやっていけるのだろうか・・・? そういったことを(意識はし
ていなかったとしても)本能的に感じとっていたのである。

 加護も辻も解散後は芸能界に残ることが決定していた。
 ソロデビューが決定してその準備に着々ととりかかっていた加護。
 それに対して、あまり勉強も好きではなく高校にも進学しなかった辻にとっ
ては、モーニング娘。時代の知名度に頼りつつ、これから生き延びるしかない。
 解散の日が近づき、不安と焦りは限界に達していた中での加護の発言。

「ののはええなぁ、ヒマやろ」
72鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/25 07:08 ID:/r2QJuw/

 安倍は静かに語りかける。

「なっちもねぇ、中学校のころ仲良かった友達が、片思いだった男の人とつき
 合いだしたときなんかはシットしてねぇ、その友達が嫌いになりかけたこと
 もあったよ。でもやっぱり嫌いになれなかったなぁ。最後まで。
 だって友達が幸せそうだと、やっぱ自分もうれしいし」

「あべさん・・・」

「ごっちんが加入してきたときも、なっちと比較とかされて落ち込んだときも
 あったけど、色んなトコロで活躍しているごっちん見るのはヤッパリうれし
 かった。
 だって今日で解散しちゃうけど、私たちみんなこれからもずっと」

 安倍は辻の頭を包み込むように撫でた。

「仲間じゃない」


【07-安倍と辻】END
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