ゴマキ新曲ジャケットに履いてるのはルーズ?

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62鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk

【T・E・N】 第6話 石川

 吉澤に声をかけたあと、石川は屋敷裏の噴水庭園へと出向いた。
 昼食のあと、無言で外に出ていった加護を探すためである。
 ここにきて一週間。加護は一人になりたい時や石川が家事などで相手にでき
ない時などは、いつもここの庭木に水をやったり、虫を捕まえて遊んだりして
いる。
 整然とした石畳と広い通路は、車椅子でも移動しやすく加護のお気に入りの
場所となっていた。

 加護の心の中はまだ5年前のまま時計が止まっているんじゃないか、と石川
は思うことがある。
 年齢的にはもちろん成人を迎えている加護だが、石川がいままで知っている
どの大人よりも幼かった。車椅子に常に座っているゆえに、背の高さが分から
ないこともあるのかもしれない。
 初めて二人が出会ったあの最終オーディションが行われた寺院。はるばる奈
良から上京してきた加護。周囲が年上ばかりでビクビクオドオド周囲を窺って
いた加護。この人里離れた山奥で二人きりで暮らすようになって数日だが、こ
のところ石川はその当時のことばかり思い出すようになった。

「何処なの・・・? 加護ぉ・・・オトコマエのよっすぃーが来たよ・・・」
63鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:36 ID:ZaeKfFd8

 裏庭に咲き乱れる色とりどりの様々な植物。
 チョコレートコスモス。アストランティス。ショウメイギク。ルリダマアザ
ミ。
 こげ茶色。白。ピンク。うす紫。
 そこにヒラヒラのカチューシャをなびかせながら、水色のメイド服、派手な
フリルのついたエプロン姿の石川があたふたと駆け抜ける。
 その姿はさながら、実写版「不思議の国のアリス」を連想させる。

 花壇の中にはひまわりなどもあり、背の高い植物の陰は加護にとって隠れる
のにもってこいだった。
 昨日も、彼女を探して庭をキョロキョロしている石川を後ろから「わっ!」
と驚かしたりした。

(ほんとに、加護ったらイタズラ好きなところだけは昔から変わらないんだか
 ら・・・)

 しかし、今日はどこを探してもその姿を見つけることができない。

(ここじゃないのかしら・・・でも遠くには出たことないし、屋敷の中にいつ
 のまにか戻ったのかな?)

 屋敷の領地の外は、初秋とはいえまだ青々とした針葉樹が山肌を埋め尽くし、
雑草も深々と生い茂っている。とても車椅子でしか移動できない加護がいるは
ずがない。
64鮪乃さしみ ◆vDQxEgzk :02/05/24 05:38 ID:ZaeKfFd8

 と、歩みを屋敷の裏口に向けた石川が、ふと視線だけを裏山に移動させたそ
の瞬間。

 山の斜面にひとりの少女が立っていた。
 深緑色の木々の中で、ひときわ輝く白いワンピースに艶やかな漆黒のロング
ヘアー。
 背筋をぴんと伸ばし腕をだらしなくぶら下げて、いまにもにも泣きだしそう
な目でじっと石川を見据えている。
 なぜかその時の石川の脳裏をよぎったのは、ヨーロッパから届いた絵はがき
で見た大聖堂の壁画。深い森の中に一筋の光が差し込んで、白い衣に身を包ん
だ天使が羽を広げて今まさに飛び出そうとしている絵。

 だが当然そこに立ち尽くしているのは天使でも妖精でもなく、石川がよく知っ
ている、だけど絶対そこにいるはずのないあの娘。

「のの・・・?」

 辻希美が、そこにいた。


【06-石川】END
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